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失踪する思春期のパラベラム『ブリリアント・カタルシス』

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   ――――Piece6◇無響(不器用)――――




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「つーか、あいつどこ行ったの?」

開口一番。
飯島が立ち去って数分、壁にもたれかかり座り込んでいた須藤凛に、一刀両断は話しかけていた。
依然として、銀丘白影は遠くで見張りを続けているし、加藤清正璃神妹花は彼らの近くで仮眠をとっている。
無論飯島遥光の姿はそこにはない――一刀両断の言う「あいつ」が飯島遥光なのだから。
須藤凛は、座り込んだまま、力なき声色で一刀両断の疑問に返事を添える。

「……さあね。このチームを抜けたいって言うから、抜け出してどっか行っちまったよ」

実際須藤凛が、これからの飯島遥光の動向について知っていることはこの程度のものしかない。
とはいえ予想できなくもない。
どっかに隠れて、彼女は須藤らの大躍進を待っているのかもしれない。
それに、走って追いかけたら、路地裏にでも入ってない限り、追いつくことは容易だろう。

しかし彼にはそれが出来なかった。
追いついたところで、何を話せばいいか分からないから。
話したところで、またしても突放されたらどうしようもないし、なにより飯島がいっていたように彼、須藤はこのチームのリーダーだ。
彼の勝手で動いちゃいけないのも、また道理。
確かに、このチームに対し、信頼関係がきっちりと深く成立していたら、多少の我儘もよかったのかもしれない。
だが生憎、このチームに信頼関係は希薄だ。もとよりそれが須藤の頭を悩ませる要因の一つとなっていたのだから、身をもって重々承知していた。
下手に手を加えれば、解(ほつ)れた糸のように、余計にバラバラと崩れていくかもしれない。
――少なくとも、須藤はこのチームの存在が確固たるものだとは、信じていなかった。

「ふーん」

今まで同様に、自ら聞いておいて癖して、さほど興味もわいていなかったのか、その返事も生返事だ。
温度の変化を感じられない、どうでもよさのビンビン伝わる声色に、須藤は僅かに反応した。

「……なんで、一刀両断さんはそんな呑気なんですか。仲間が抜けたんですよ? もうちょっと反応があってもいいじゃないですか」

覇気のない声とはいえ、口調は真剣そのものだ。
見上げる形で、須藤の瞳は一刀両断の瞳を射抜く。その様は、憎々しげ。
ギリ、と噛み込める僅かな苛立ちを、惜しげもなく晒す。

「べーつにねえな。あたしにとっちゃどうでもいいっちゃどうでもいいしな」

須藤からひしひしと伝わる気持ちに気付きながらも、態度を変えるわけでもなく、
我が道を往く堂々さで、須藤の神経を逆撫でする言葉を発す。
――須藤も、それを聞いて静かに黙っていられるほど、生憎心中は穏やかではない。

「……何でですか。今まで一緒にいた人でしょう!? 少しぐらいは……少しでもいいから思うことはないんですか!!」
「なにムキになってんだよお前は。一番最初にもいったかも知んねえけど、あたしが大事なのは紆余だけだ。ぶっちゃけそのほかは殺したって構わないぐらいだぜ」

突如剥き出しになる殺意。
思わず須藤は尻込みしてしまう。
――実際、一刀両断とはそういう人間なのだ。加えて言うなら文字なのだ。

既にこの世に《一刀両断と言う存在は死んでいる》。
勿論ながらそれは一刀両断の価値観によって定まった事だし、一刀両断は生きていると言えば生きている。
ただ、彼女という死にぞこないは、紆余を護るという一点に置いて、せめてもの生き甲斐――死に甲斐を感じているのだ。

故に他者へ刃を向けることに容赦はしない。
それは、絶対的に揺るぎはしない、第一条件だ。

と――言いはしたものの、彼女の今のパーティは須藤を含むこの面子。
近くに紆余の姿は見当たらない。彼女のすることも、紆余を護る以外にも半強制的に広げなければならない。

「ま、別に今はいいけどな。あたしだって、飯島に離れられちゃ困るのはおなじだよ。――なにせ約束が守れない」

『まだあたしは貴方達を頼りにしてますよ』と遠回しな示唆。
将来的には打倒すべき人物らであろうとも、今は背中を預ける仲である。
ある程度の信頼は置かせておくのは、定石であろう。取り戻しがつかないほどにつき放す言動はない。
それいう打算を抜きにしたところで、須藤の言う通り、先ほどまで一緒に行動していたものが易々と死なれたりもしたら、寝覚めが悪いのも確か。
それも約束までされた“護る”べき相手ともなると、意味合いに一重も二重も重みは増すというものだ。

「約束ですか」

一応は弁えている一刀両断に対し。
疲弊した声色を隠そうともせず。
むしろ嫌味を含めた声で一刀両断の言を反復する。
須藤にとって、飯島とはその程度の間柄でなかった――冷酷な事実に正直落胆を覚えずには居られなかった。

「約束だろうが。お前から持ちかけてきたあの約束」
「……そうでしたね」
「お前は何に対して拗ねてんだよ……ったく」

心底呆れた様子で両者共々、たがいに対し若干の軽視の念を抱く。
須藤もさることながら、一刀両断も八つ当たりの感情が入り混じっている。
パーティメンバーの銀丘白影に対することは前提として、時間の割にあまり行軍が進んでいない件に関して、苛立ちや焦りが募りはじめていたからだ。
よもや今の須藤や加藤、ひいては璃神の状況からして、さらに進軍が遅れるのは目に見える。――この状況は、彼女にとってあまりにも手痛い。

今の状況、紆余曲折がどのような状況下に置かれているかわからない。
もしかしたら彼女の知る切磋琢磨のような心強い人物が傍らにいるかもしれないが、しかし逆の可能性を拭うにはあまりに情報が足りない。
詰まるところ、不安なのだ。
こうしている間にも、紆余曲折の生死が。
――須藤たちとの約束とは違う、命にかけても守らなければいけない大切な約束。それを守り通すために。
盾として――そして、刃として。


このままグズグズしてはいられない――――。


それが最終的に一刀両断の下した結論である。
このままグズグズしていたら紆余曲折の生死抜きにしても、一刀両断の精神衛生上良いとは思えない。悪く思う。

「なあ、須藤」
「なんですか」

地面に向けられた光なき瞳を、一刀両断に向ける。
飯島を止められなかった自責感や無力感の全てが、淀んだ瞳に詰まっていた。
一刀両断は一瞬眉をひそめるが、おどけた調子に直ぐ様戻り、一言、須藤に伝える。


「あたし、一回ここ抜けるわ」
「……は」


お前は何を言っている、と声を大にして荒げたかったが、どうにもその気力がわいてこない。
しかしそれでも、その言葉をみすみすと看過する訳にもいかないのも節理。
――大前提として、彼女が抜けたりなんかしてしまったら、最低限。
今の彼に置ける最低限の目標――早急なる主催、及び危険人物の対処の難易度が猛烈なる勢いで急上昇してしまう。
飯島遥光が、自らの感情を抑えて契られることとなった『約束』すらも守れない。


「だからさ、あたしは一回この集団から抜け出すっつってんだ。あー安心しろよ。お前との約束は守ってやる」


的外れな訳注を入れると、間もなく一刀両断の足が動く。
ポニーテールが須藤の前を躍り出る。
不規則な動きをしたまま、根元となる頭が動き、一刀両断が一歩踏み出した瞬間。
須藤は思い出したように気力を無理やりにでも引きずり出し、声を荒げ、引きとめる


「おい、あんた!」


――いや、それは引きとめる、というよりかは


「あんたはどうしてそんなに毎回毎回自分勝手なんだよ! あんたは少しぐらい協調性とか知らねえのかよ!
 遥光ちゃんがいたときだって、俺や清正さんの気持ちも知らず、隙あれば隙あれば白影さんと喧嘩ばっかりしやがって!
 挙句の果てに、勝手にどっか行くだとか身勝手にも程があんだろうが!! 大体あんたが抜けたらこのパーティの戦力が大幅に下がるってのに……。
 遥光ちゃんに俺は、俺たちは主催を倒してくれって頼まれたのに! それなのにあんたって奴は――――!」


積もり積もった愚痴や不満の解消でしかなかった。
引きとめる口実よりも、ただ単に今まで蓄積していた精神的疲労を放出しただけに過ぎない。

今もこうして、頻繁に休息する時間はとれている訳ではあるが、その度に須藤はなにかしら役を負うこととなり、実質休憩と言えるほど休憩を果たしていない。
心の整理は、実のところあまりついていなかった。
飯島が抜ける前――もっと言えば飯島に対する保護欲が増幅するよりも前に感じていた、一刀両断らに対する不平も解消しきれていない。
その不平は、飯島の理不尽な離脱劇によって痛めつけられた心には、あまりにも劇薬。
毒々しいより禍々しい。
混沌とする荒んだ気持ちは劇薬に対し強烈な反応を見せる。

一度放出したら、栓をするのは難しい。
もうこれ以上は言わなくていい、と自責をしようとも舌は勝手に動く。
須藤は立ち上がり、感情のままに吐き捨てる。拳を強く握って、腹から、目一杯に大きな声を放つ。



――――チャキン。
ふとして、そんな金属音が響いた。

臨、と。
突如、一刀両断は再び踵を返す勢いのまま抜刀し、須藤の首に炯々たる刃を寄せる。
瞬間の出来事に須藤の反応はあからさまに遅れ、気付いた時には声も出なかった。

凛、と。
須藤の知るなかでは、一番冷たく。
背中に氷水を流されたかのように、背筋には冷たき悪寒が走り、心臓が飛び跳ねる。

かつて見せていた殺人者としての顔をのぞかせる。
笑みはない。おちゃらけた様子もない。
――あるのは、おぞましき剣幕。


「とりあえず黙れ、そして落ち着け。見苦しいのは不愉快だ」


あまりに静かな声に、須藤は息を飲む。
蛇に睨まれた蛙のように、動けない――――。

この立場関係が、圧倒的な実力差、或いは能力差の表れなのだ。
形だけはリーダーと言う役を背負っていたとしても、いざとなったら何も口出しできない。
まとめ上げるにした所で、必要以上な口出しは……怒りを買うこととなったら、己の命の危機とも直結する――と言っても決して過言ではない状況。
故に避けていた。
己の命は惜しいものだ、と半ば諦めて、道中においては最低限の注意しかしてこなかった。
結果として、それがストレスとなり、須藤の感情を爆破させ。
同時に――一刀両断の尾に触れることとなってしまったのだから、その判断も選択ミスだったのかもしれない。
今更思い至ったところでどうしようもないし、刀を突きつけられているという事実は揺るがない。
――――何もかもがうまくかみ合わない現実に内心で毒づいて、小さく溜息を洩らすと、ふと一刀両断が語りだす。

「お前ってさ、生きてることって何だと思う?」

柄にもなく急にどうした、と須藤は感じたが胸に秘めておく。
そんな須藤を知ってか知らずか、一刀両断は尋ねる形こそ取っていたが、口を閉ざす様子はない。
――かつて紆余曲折に話したのと似たことを胸を張って言う。

「あたしはな、生きてるってのは肉体的に生きているのなんて正直二の次だと思っている。
 心臓が動いている時然り、鼻や口で呼吸したりすること然り。脳が動いている時然り、な」
「俺はそうは思いませんけどね。人は死んだら生きられないんです。当たり前のことでしょう」
「ははっ、さてはお前幽霊も信じねえタイプだな」

久しく見せていなかった、笑みを浮かべると、刀を須藤の首から遠ざけて地面に刺す。
固い地面も、一刀両断の《ルール能力》によって容易く穿たれ、刀は屹立する。
須藤は敵意から解き放たれて、無意識だが見て分かるほど大きく安堵の意を示す。
一刀両断は微かに頬を歪ますと、話をつづきを述べていく。

「だけどな、須藤。人は死んでも何かしらで《生きていくんだよ》。否応がなしに、生きていたなら、肉体的に死のうが《生き続ける》」
「……どういう意味ですか」
「意味なんて簡単だよ。――人は誰かの心の中で《生き続ける》。死のうが、死ななかろうが」

あたしにとっての、猪突猛進みて―にな。
と須藤には聞こえないほど小さく、彼女は呟く。
臭い台詞を聞いて、須藤は「えーと……」と小さく唸るように言いながら、この台詞に対して、どう言うべきかと思考する。
一刀両断自身、その言葉が臭いことを察しているのか、話題を変えるようにとっとと話を進めていく。

「ま、別に死生観に付いて強要させようだなんて独善的なことはあたしもしねーさ。そこまで空気の読めない女じゃない」
「説得力が欠けますよ」
「言ってくれるじゃねーの。でだな、須藤。話が脇道にそれちまったが、そろそろ言うぜ」
「……」

須藤も空気が読めないわけではない。
毒づく訳でも、疲弊をのぞかせるわけでもなく、黙りこむ。
朗らかに笑みを浮かべていた一刀両断は一転し、そんな構える須藤に向けて、紆余曲折に投げかけた言葉を返す。

「人が生きているってのは、誇りを持っている時のことだ。生きる為に必要なのが誇り――誇りは、生きたいと願う理由のことさ」
「つまりは、あんなことしたいから生きたいって思う何かがあれば、人は生き続けるってことですか」
「そういうことだよ」

紆余曲折はこの言に対して、何よりもまず不思議に思った。
状況が特殊だったとはいえども、彼女が自分自身の事を《死んで》いるといったことに向かい、ただ単純に首を傾げた。

「……は、はは」

須藤凛はどうなんだろうか。
今まで、ここに至るまで沢山の出来事と巡りあってきた。
変哲もない中学生を変革させるほどに、インパクトのあるイベントに遭遇して、彼はどう思うのだろう。
《死》よりも死の縁に立ち会ってきた彼の答えは――。

「立派な考え方だと思いますよ。本当、綺麗な考え方だ。羨ましいぐらいに」

一拍置く。
僅かに須藤が息を吸う音が二人の間に流れる。
そんなことを一刀両断が知覚した瞬間、須藤の口は再び開かれた。

「だけど、それじゃあダメなんですよ」

理解しないものを拒絶。
同意しないものを排他。
首肯しないものを弾劾する。――それが正しさだと言わんばかりに。
きっぱりと否定の念を押す。

「結局誇りなんてなくても人は生きるんです。生き続けなきゃいけないんです。重荷は背負わなきゃ、ダメなんです」
「……お前はそんな人生を生きたいと思うのか?」
「いいえ、生きたくないですね。今の俺は死にたい気分ですよ」

その言は、須藤に誇りが欠けている――ということを意味する。
実際誇りは――つい先ほど、飯島が削いでいったばっかりであった。

「ですが、今の俺は誇りを抱くことさえ許されないんですよ。だけど俺には生きる使命がある」
「へえ、生きる使命だなんて一丁前にそんなもんがあるんだ。言ってみろよ」
「俺は遥光ちゃんに頼まれたんですよ。――必ず主催を倒すって。だから俺は遥光ちゃんを護るって誇りを捨ててでも、生きなきゃいけないんですよ」

飯島は須藤の誇りを削いだ――その代わりに、未来を託した。
それがたとえ独善的でも、他人任せでも、不名誉な重荷を抱えながらも――飯島は、須藤を『信頼』したのだ。

「ふーん」

興味なさげな一刀両断の返答に、再度苛立ちを募らせながらも、
踏みとどまって、されど八つ当たりでもするかのように、問うた。

「そういうあなたこそどういう目的をもって生きてるんですか」
「ったく勝手に話し始めておいてその言い草はねえだろうよ。まあいい。元々言うつもりだったけど――須藤、お前に一つ、言いたいことがある」
「言いたいことですか」

不服のありそうな視線を一刀両断にぶつけながら、言葉を吟味するように繰り返す。
されど意味がわかるわけでもなく、結局一刀両断の言葉を待つ羽目となった。
そんな一刀両断は、何ら感情が含まれない声で、返歌となる言葉を述べる。

「お前がどう捉えるかは分かんねえけど、あたしの言い分で言うなら――あたしはもう《死んでる》よ。もう修復なんて出来ないぐらいに。
 殺した相手は紆余曲折。とはいってもあたしが殺意全開で襲いかかって、まあいろんな要素が噛みあったとしても、しょうがないことだったんだけどな。あいつにとっては」
「……じゃあ、あなたは今……今まで何をしてここにいるんですか」

尤もな質問。
一刀両断は迷うことなく、質問に刃を入れる。

「あたしは紆余に利用されるものだ。あいつの盾として、刀として、あたしはここにいるだけだ。
 あいつが望めばあたしは死ぬし、あいつが望まなくともあたしはあいつを生き残らせたい。それ以上もそれ以下もない」
「……」

沈黙。
意味がわからない、と一蹴すると同義であった。
意に介すことはしない。
それは無駄であるから。
彼女の生きざまは、死にざまは、彼女(《紆余曲折》)のものであるからだ。
理解を得ようだなんて、一刀両断とて思っていないし、同情を買われるのはむしろ大きなお世話とも言えよう。


「まあ、あたしとお前はちょっとは似てたんだよ。――まあ、ちょっと似てただけだけどな」
「……」
「あたしは《死んだ》。だけど、お前はまだ《生きてる》んだろ? あたしとは違う。
 ちったぁ、誇りをもてよ。須藤。今のお前には、正直《生きる》価値なんてあたしにはちっとも見えねえさ」
「……」
「鬱陶しいのは嫌いだが、夢をもって前に進む奴は嫌いじゃねえぜ」
「……」

ただ沈黙を通す彼に向けて。
決して真剣ではなさそうだけれど、それでもふざけているようには見えない。
一刀両断と冠するには、不似合いな曖昧さを含んだ表情で、言葉を吐いた。

「《死んだ》あたしでも、なにかの為に頑張ってるんだ。
 《生きている》おまえがくたばってどうするよ。
 せめてそういうのは『死に物狂い』で頑張ってから、弱音を吐くんだな――お前の頑張りなんて、まだまだだ」

ま、後はお前が勝手に考えろ。
と足を飯島が去った方向へくるり背を向ける。
言いたいことを言って、ある程度満足したのだろうか。
背中は何時の間にか遠く離れていて、彼女もまた、このパーティから脱した事を如実に表している。

「…………」

礼を言うわけでもなく。
反感を述べるわけでもなく。
ただ静かに、呆然と立ち尽くしていた。

一秒と経ち。
一刀両断が駆け始めた。
二秒と経ち。
髪の尾が豪快に揺れる姿を最後に見た。
三秒と経ち。
一刀両断は路地裏へと消えた。
何もできずに、棒立ちとなり何時までも一刀両断の消えていった路地を見つめる。
その行為によって、なにかが起こるわけでは無かった。

そうして数瞬を越し、須藤は拳を握り一刀両断との会話を振り返る。
一刀両断の言葉が、須藤にどのような影響を加えたのか。
明瞭だった。
未来、あったかもしれない未来で、正義の少女が感じたように、彼もまた――こう思う。

「なんであなたの言葉は――そんなに軽いんですか」

響かない。
想像を絶するほど、なにも響かない。
具体的には、彼女が《死んでいる》と言ったその辺りから、
彼女の言葉は、須藤の心に、突き刺さらなかった――彼女の銘に反するかのように断たれることがなかった。
だから須藤は怒れなかった。
響かない言葉に、激昂は出来ない。

彼女が最後に残して行った「正しいであろう言葉」に、何ら揺さぶられない。
よほど飯島の放った、詭弁に類す言動の方が、須藤には響いていただろう。

「……」

得体のしれない、不満足。
これが《死人》の言葉だとすれば――成程、言い得て妙である。
胸に残る、もやもやとした不明瞭なしこり。
だけど気持ち悪さを感じさせないほど、無感動。

「……でも」

それでも。
彼女の言っていることは、恐らくは正しい。
傍目から見て、間違っていた訳ではないのだ。――それは理解できる。故になまじ恐ろしいのだが、とりあえず置いておくことにした。
飯島遥光は、須藤のこんな姿を見たいと思っている訳ではないのだろう。
もっと輝かしい姿を、期待しているはずなのだ。

「そうだよな……」

確かに。
その点を踏まえれば、彼女との会話は、何ら意味のないものではなかったらしい。
彼が頑張る意義を、再び示してくれるほどには、価値は存在した。


「俺は……頑張らなきゃ」


意気込む。
ただそれだけのこと。
それでも大事なことだから。

彼は、近くに転がっていた同田貫を拾い、力強く握りしめる。
それはつまり、意を決し直した契り。
自らを鼓舞すべく行った、変哲もない行為だったけれど、それでも鬱蒼とした心境は、僅かに晴れたようである。



 □ ■ □


一人の青年がやってきた。

手に銃器。
瞳に殺意。
衣服に付着した乾いた血糊。
誰が見たところで、一目で危険な人間だと察知できるだろう、容貌に似合わないほどの修羅然とす青年。


「……」


――青髪の青年、早野正昭。須藤らの前に、再び姿を現した。


「……」


無言。
先と打って変わって、あくまで冷血になりきろうとし、銃を構える。
的は、須藤凛。
銃口の延長線上に立つ須藤は、咄嗟に同田貫を構え直すが、それが意味を成さない事ぐらい知っている。
彼は剣で銃弾を弾く様な技はない。

思わず息を飲む。
変に動くのも賢くないが、だからと言って動かないのは愚の骨頂。
どうしたものか――。
と、須藤が悩んでいる間にも――早野は、覚悟を決めた。


「「……っ!!」」


早野と須藤の息の音が、閑静な住宅街に響く。
だけどそれも一瞬の事。

意を決した早野の瞳が、閉じられて。
連動するように、彼の指が動いた。




「――――シュゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウト!!!!」



――直後。
乱入者が、姿を現した。





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068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 加藤清正 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 璃神妹花 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 須藤凛 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 銀丘白影 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 小神さくら 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 丹羽雄二 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
068:疾走する思春期のパラベラム『デンジャラス・ラビット』 天王寺深雪 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
053:死逢わせ 浅倉翔 070失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
053:死逢わせ 稲垣葉月 070失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
010:正義の味方 狭山雪子 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
010:正義の味方 東奔西走 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
055:アンハッピーリフレイン(前編) 早野正昭 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』
053:死逢わせ 被験体01号 070:失踪する思春期のパラベラム『心的爆撃』

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最終更新:2012年12月18日 17:30