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第二章-第三幕- ライゼリーネ・タウン防衛戦





ライゼリーネ・タウンに迫るスプレッダー幼生体の目の前に、
勇者軍はほどなく到着した。後ろに控えるもう一体が気になるが、
速やかに駆逐しなければ話は始まらない。
下手をすれば二体とも突破され、町に多大な被害がもたらされる。
最低限、一体だけでも最優先で撃破しなければならなかった。

(もう一人……せめてもう一人いれば……!)
シエルの焦燥が、露骨にジルベルトに伝わる。
しかし一度撃破した経験からか、ジルベルトは充分に落ち着いていた。
(大丈夫)
ジルベルトが頭を撫でてやる。
(勝てる。僕等は勇者軍だから)
(分かってる。やるわ)
シエルはすぐに落ち着きを取り戻し、呪文の詠唱に入る。
真っ先に動き出したのはジークだった。
ソニアに代わって、シエルのディフェンスとして盾となるのである。
「うむ、一宿一飯の恩義という感じが程よい!」
いちいち大仰に恩を売ってみせるジークに、
ようやく、らしさを取り戻したシエルが檄を飛ばす。
「そう思うんならきっちり守ってね! 呪文の詠唱も大変だから!」
「任せてもらおう!」
そして、ソニアは走り出す。スプレッダー幼生体へ向けて。
「はああああああッ!!」
凄まじい気迫と共にソニアが一直線に戦場を駆ける。
「ぎきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スプレッダーの幼生体は吠えながらも
何故か川の上で動きを止めた。怪しい。
ユイナ姫がいつでも動けるよう、
愛馬チトセを待機状態のままにしておく。
ジルベルトもソニアの傍に付くために動き出した。

「スプレッダー幼生体、覚悟!!」
ソニアが跳躍する。スプレッダー幼生体の多脚がソニアを襲うが、
ソニアは手甲一つで、それを弾き、
または受け流し、さらにはそれを掴み、
アクロバティックに身体を動かし、
その顔面に一発拳を叩き込もうとする。
「もらったわよ!」
しかしスプレッダー幼生体も諦めが悪い。
爪を大きく振り下ろし、ソニアを切り裂きにかかる。
がつっ!
ずさささッ!!
大きく打ち払われ、ソニアはよろけるも、
見事に後ずさりつつ着地する。
「やるわね!」
ソニアは牽制のために呪文を即座に詠唱する。
「グランドバスター!」
地の属性を持つ魔力弾をもって、多脚を牽制しようとしたのだ。
しかし、目論見が甘かった。
「ぎゃぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁ!」
突如、スプレッダー幼生体の口から、
圧倒的な水圧の砲撃とも呼ぶべき
多量の水が放出され、ソニアを直撃した。
「がばっ!?」
ソニアに回避の余地は無かった。
そのまま彼女は大きく転倒し、流血を始めた。
「負……っけるもんですかぁッ!」
気丈にも彼女は起き上がるが、すぐにふらつく。
しかし、ユイナ姫に馬上から抱え上げられた事で、
無駄に血気を煽ってしまった。
「放して! あいつに一撃かましてやらないと!」
「そうはいきません、属性的に不利みたいですから、治療を!」
「くっ……!」
ソニアが歯噛みする。しかしそれとは関係なく
シエルは詠唱していた呪文を解放する。
「ヒールバスター!!」
こういう時は詠唱呪文が短くて連打できる呪文の方がいい。
そういうシエルの判断であった。

一方でスプレッダー幼生体の水圧砲攻撃は続いていた。
どうやら川の水を吸収して吐き出しているようで、
その射程は決して長くはないものの、威力は侮れないものである。
一人前線に残るジルベルトは危機に晒されていた。
どうやらスプレッダーは、その環境に応じて技が変異するらしい。
この事実は貴重な情報で、全世界に
提示しなくてはならないものであるが、
とりあえず自分達が生還出来なければそれどころではないのだ。
(よくもソニアさんを……! いけない、冷静にならなくては)
怒りに心が曇りそうになるが、彼女は無事なのだ。
自分が冷静さを失えば、討伐に時間がかかってしまう。
それは許されないのだ。
「ぎきゃぁぁぁぁ!」
油断していると、また水圧砲が飛んでくる。
(くっ、このままでは……!)
ジルベルトが水圧砲の連打に苦戦していると、ふいに後ろから
人影が現れた。見たことのない男である。
背も高い。誰なのか。
そんな疑問を抱いていると、無造作に男は
スプレッダー幼生体に近寄る。
(危ない!? 逃げて!)
ジルベルトが男をかばおうとしたが、男はそれよりも素早かった。

がきゃっ!

いつの間に移動しているのかジルベルトにも識別出来なかった。
男は、スプレッダー幼生体の頭部を剣で一突きしている。
「ぎぎゃぅ、ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃぁぁぁぁぁッ!!」
痛覚にスプレッダー幼生体が身をよじる。
と、男はそこでようやくジルベルトに言葉を投げかける。
「ご苦労様。苦戦してるみたいだね?」
その殺伐とした戦場にあまりに似合わない柔和な声。
(一体、誰?)
ジルベルトの疑問が首をかしげる形となって現れる?
「おっと、自己紹介もしてなかったか。誰かは知らないけど、
 俺はライナス=ジーニアスって言うんだ。協力させてもらうよ」
(ジーニアス?)
もちろんジルベルトはその姓に聞き覚えがあった。
勇者軍メインメンバー、ジーニアス家のことであろう。
となれば、まぎれもなく、
初対面かどうかすらも関係無く……仲間なのだ。
そんな間にもスプレッダーはひたすら暴れる。
「疾風剣!」
超音速の斬撃が、何度斬ったかもよく分からないほどに
スプレッダー幼生体を滅多斬りにしてしまう。
恐らく、もう水圧砲など使い物になるまい。
(速い……速すぎてよく分からない……)
「で? 俺は何をすればいいのかな?」
ものの数秒で数十撃を叩き込んでからあっさりとのたまう金髪の男。
これだけ圧倒しておいて、この物言い。
頼もしいという言葉が相応しくないなら、
もう惑星アースに該当する言葉は無い。
水圧砲の使えないスプレッダー幼生体など怖くも何ともない。
だとすれば、彼にはもっと大事な役割を負ってもらおう。
そう思ったジルベルトは、かなり遠くに見えるもう一体の
スプレッダー幼生体をただ、指差した。
(あっち)
しかし、ジルベルトが指を指し終える前に金髪の男は動いていた。
察しが良いというべきか、言動にいちいち意味が無いというべきか。
そこにジーク、そしてユイナ姫が援護に駆けつけた。

「ジル君、今の誰!?」
(味方)
ジルベルトの真意は、しかしあまり伝わらなかった。
首を振っただけなのでしょうがないかもしれない。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
スプレッダー幼生体はなおもしつこく暴れ回る。
水圧砲を使うための口を破壊され、怒り心頭だ。
もはや前進に躊躇は無いのだろう。
「とどめだ、隊長、行くぞ!!」
(うん)
誰にも聞こえないほどの小声ながらも、ジルベルトは詠唱を始める。
(ライトキャノン)
そしてやはり小声での呪文解放。しかし親譲りの
かなり高い魔力によって、スプレッダーへ大ダメージとなった。
「ジーク=ルーンヴィッツァー、参る!!」
そしてジークの一撃が光る。

ざしゅっ!

コアとも呼ぶべき部分にヒットしたのだろうか、スプレッダー幼生体は
それきり動かなくなった。
「ユイナ姫、もう一匹はどうだ!?」
ジークの言葉に、周囲を見回すユイナ姫。
すると……
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ……!」
遠くの方からスプレッダー幼生体の断末魔。
どうやらライナスが一人でとどめまで刺したらしい、と分かると、
ジルベルトは安心する、その後ろから、治療行為を終えた
シエルとソニアも合流してきた。
(彼がやってくれたみたい)
(彼?)
ジルベルトの思いをすぐさまキャッチするシエル。
(ライナスって名乗ってくれた。ジーニアス家の人みたい)
(本当!? ならとっても助かるわね!)
シエルの表情に歓喜が生まれる。
「みんな聞いて。スプレッダー幼生体、2体目も駆逐されたわ。
 やったのは、私達の仲間……勇者軍メインメンバーみたいよ。
 名前は、ライナス=ジーニアスだってお兄ちゃんが」
「ほう!? 一人でか、やるもんだな!」
ジークがまず驚愕する。ソニアやユイナ姫も頷く。

「ふう」
そこへライナスが戻ってきた。
「さて、俺以外にスプレッダー幼生体の相手をしようなんて、
 無茶な人達がいるなんて、ね。君達は何者かな?」
ライナスの言葉に、シエルが返す。
「彼はジルベルト=ストレンジャー。勇者軍筆頭よ。
 そして私達は勇者軍主力部隊。そしてあなたも今日から
 ここの一員、そうよね、ライナス=ジーニアスさん?」
すると、初めてライナスの顔に驚きが浮かぶ。
「そうか、君達がそうなのか。だとしたらこの事態は
 看過出来なくて当然だよね。じゃあ、改めまして、
 よろしく頼むよ、ジルベルト君?」
(うん)
ジルベルトはただ無言で握手する。
「そんで私が妹のシエル=ラネージュ。無口な兄の翻訳係かな」
「ユイナ=カザミネ=ザン=アーム王女です。
 あなたとは、親類ですかね」
「ソニア=メーベルヴァーゲン。新米だけどよろしくね」
「ジーク=ルーンヴィッツァーだ、同じく新米だが、よろしく頼むぞ」
それぞれに自己紹介する。
「これはなかなか賑やかな旅になりそうだね、こちらこそよろしく」
歓迎ムードの中、ユイナ姫は指示をも忘れない。
「ビーム・カーテン部隊、ただちにスプレッダー幼生体の死骸を
 除去して下さい……町に近い方からお願いします」
と、そこまで見回してみて不自然に感じた。
どうみてもいないのだ。二体目の死骸が。
「ライナスさん、確かに倒したんですよね? 二体目の幼生体を」
「うん、間違いない。なのに死骸が……無い?」
明らかに異常な事態だった。

一体目の除去作業もそのままに主力部隊は、
すぐに二体目の死亡地点へと向かった。
そこには残留物と思しき物体がいくらか残っていた。
血痕、甲殻の欠片などと、車両の轍である。
要は運搬の後、と言っても過言ではない。
「誰かがスプレッダーの幼生体を無断で持ち去った?」
シエルの疑問に、ジルベルトも頷く事で同意した。
「しかし、誰が!?」
ジークは当然の疑問を抱く。
「彼等ね」
ソニアはそう呟いた。
「アルマ・タウンで死骸の除去作業をしていた最中に
 妨害を企てたあの得体の知れない人間達じゃないかしら」
「そんな人達がいるのか」
ライナスも驚きを禁じ得なかった。
「という事は、俺達の敵はスプレッダーだけじゃないわけか」
「そうです、ライナスさん。私達の敵はスプレッダーを利用して
 何事かを引き起こそうとしている者達も含まれます。
 まずはその真意を確かめる必要がありますね」
ユイナ姫の言葉に、ライナスも、ジークも頷いた。

「で、これからどうするのだ、隊長?」
ジークの更なる疑問に、ジルベルトは手を休めない。
情報端末に飛び込んでくる情報をチェックしているのだ。
(少しずつ駆逐されているスプレッダー幼生体……でも、
 未だに多くの都市が危険に晒される可能性を秘めている)
そして、スプレッダー幼生体の反応がやたらと近い都市を見つけた。
いや、そもそも都市ではない。しかし重要拠点だ。
妖精の森と呼ばれる地点であり、その中には
妖精王ヴァルキリーの居城がある。
そこを襲撃されれば、勇者軍との協力関係に重大な影響が出る。
もちろん看過するわけなどいかない。急がなければならない。

「お兄ちゃんが思うには、次の目標は妖精の森よ」
ジルベルトの意見をシエルが介し、全員が頷く。
(行こう)
ジルベルトが黙ったまま歩き出すと、
誰ともなく付き従い始め、やがて列となって動き出す。
妖精の森へ向けて、主力部隊は歩き出した。



<第三章 へ続く>
最終更新:2011年02月18日 01:22