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第三章-第一幕- 君と僕との関係性





妖精の森。
それはナインサークルと呼ばれた
新たなる惑星アースの生態系の一つ、
妖精族の最大勢力の住まう土地の俗称である。

ナインサークル。それは惑星アースの生態系の秩序である。
自らが力尽きる時、最後の力を振り絞って生態系を作り上げた
『魔神王』と呼ばれる存在を一つの種族として扱い、
惑星アースの先住霊質生命体同士である『神族』と『魔族』。
魔神王に作られた、独特の外観と
生態、能力を持つ奇怪な生物『怪物族』。
爬虫類をベースにして作られた巨大生物『竜族』。
自然環境が生命として具現化した『精霊族』。
人間をベースとして創造された半人生命体『亜人族』。
更には自然の代弁者として生きる『妖精族』がいる。
そして惑星アース固有の自然から生まれた生命体、人間を含む
『自然生命族』こそがこの惑星アースの最大勢力であった。

そのナインサークルの妖精族の住まう地、それが妖精の森。
水と大地を愛した生命達の住処である。
現在の惑星アースでもっとも、
水と空気の清浄な土地の一つでもある。

ライナス=ジーニアスを新たに加えた主力部隊は、
そこへ向かって一直線に突き進んでいた。
その中にいる隊長、ジルベルト=ストレンジャーの頭の上やら
肩の上やらには、愛猫の『大福』『きなこ』
『みたらし』『黒ごま』が乗っていたりして
なかなかに微笑ましかったりする。
ソニアはかねてより考えていた事を実行に移してみる。

ひょい。

「みゃーん」
大福を奪われ、ジルベルトが振り向いた。
(何するの?)
ジルベルトが心配そうに見つめる中、ソニアは構わず、
自らのポーチの中から小さな服のようなものを取り出した。
大福に着せてみようというのである。
「みゃーっ! みゃーっ!」
大福は何やら嫌がっているが、ソニアはお構いなしだ。
たちまち服を着せられ、きなこと交代させられる。
「にぎゃー!」
「可愛いでしょ? 動物用の服」
ソニアがにっこり微笑むと、ユイナ姫辺りも同意してくる。
「わあ、可愛いですねー。なんでこんなの持ってるんですか?」
「前に家にいたペットのお下がりなのよ」
と、自慢げにソニア。
とりあえずライナスとジークは特に興味も無さそうである。
「やめて。仔猫が嫌がってる」
と、シエル。
「お兄ちゃんがそう訴えてるわ」
ソニアが見ると、ジルベルトは悲しそうな目で訴えていた。
ただの一言も発さずに。
(やめてあげて。この子達が嫌がってるから)
「うっ」
同時にたじろぐソニアとユイナ姫。
小動物と一緒に純真無垢な目で訴えかけてくるその攻撃に、
抗する術など、二人には無かったのだった。
「ごっ、ごめん。服って動物は嫌がるのね」
ソニアは慌ててみたらしに着せようとした服を引っ込め、
次いで、大福ときなこの服も脱がせてあげた。
(人間と違って動物は自分では服を脱げないから
 苦痛なだけなんだって。分かってくれると、僕も嬉しい)
そう言わんばかりのプレッシャーが特に主犯のソニアを襲う。
「ごめん、ごめんてば! 謝ってるじゃない、もう!」
「ジル君、許して。お願い!」
調子に乗ったユイナ姫も同罪である。
珍しくジルベルトも、シエルも憤慨していた。
ストレンジャー家は何の因果か、
代々かつ筋金入りの猫好きである。ユイナ姫はともかく、
ソニアは若干逆切れ気味なのでいまいち誠意が足りない。
(もうしない?)
本気で悲しそうな目で訴えてくるジルベルト。
「しないわよ! そんなにこの子達が嫌がるなら!」
「そうそう、もうしませんから! ね?」
「うにゃー」
黒ごまが一声鳴く。
「悪気が無いから許してあげるって、黒ごまが」
と、シエル。

どうやら猫は猫なりに気を遣ってくれるらしい。
そんな光景を見ながら、ライナスとジークは
『やれやれ』と言わんばかりに、互いに肩をすくめてみせる。

そしてようやく許してもらってから、ソニアはライナスに
相談してみる事にした。
「ねえ、ライナスさん。やっぱ猫に服って駄目かしら?
 私は……可愛いと思うんだけどなぁ」
「うーん、どうかな。僕もあんまり賛成できないかも。
 話を聞くと彼はテレパスらしいじゃないか。
 猫の心の声だってダイレクトに伝わると思う。
 飼い主としてはそれが悲しいんじゃないかな」
「妹のシエルだってそうよ。確かに悪い事したかしら……」
本格的にしょげ始めるソニアに対し、ライナスは
的確にアドバイスをしてやる。
「でも飼い猫だし、首輪の一つも無いとマズいよねぇ。
 どっかで野良猫と誤認されて捕獲されでもしたら、
 流石にジルベルト君も悲しむと思うよ」
「そっか、流石はライナスさん、的確っ!」
びっ! と指差して絶賛するソニア。
「こらこら、指を差すのはやめた方がいいと思う。
 首輪も嫌がるかもしれないけど、こればっかりは
 飼い主の義務と思って諦めてもらわないと、ね?」
「分かった、ジルベルト君とシエルに相談してみる!」
立ち直りの早いソニアであった。

説得する事十分。首輪の件は何とか承諾してもらい、
大福には青、きなこには白、みたらしには緑、黒ごまには赤の首輪が
それぞれ装備される事で何とか両者は和解するのであった。
「腹減ったー」
そうした前後の流れとまったく関係の無い事を
ジークはずっと呟いていたりするのだが、
それはまあどうでもいい話だったりする。

山を一つ越えつつあり、妖精の森の、妖精王居城へと
次第に近付きつつある勇者軍だったが、露払いを任されて
ずっと先頭を歩いていたジークに、突然異変が起こった。
山道を歩いていたはずのジークがいきなり転倒したのだ。
「あだっ!?」
その異変に気付いた時にはもう遅かった。
山道の端がいきなり崩れ出したのだ。
「ジーク!」
シエルの叫びも虚しく、坂道を滑り落ちていくジーク。
「うおぉぉぉぉぉッ!?」
ちゃぽん。
そして川へと一直線に滑り落ち、そのまま流されていく。
「ちょっ、どこ行くの、ジーク!? 戻って来なさい!!」
シエルの叫び声はジークに届いてはいた。
「も、戻りたいが……!
 川の流れが思ったより……がふっ、激しっ!」
「ちょっと、溺れ死んだりしないでしょうね!」
救助しに行こうにも、地盤が不安定過ぎてシエルの足では
不充分のようである。
「大丈夫だ! たかが水位の上がった川程度!
 立ち泳ぎで凌ぎ切る! シエル、みんな!
 下流で会おう、待っているぞおおおおぉぉぉぉ……!」
ジークが本当に立ち泳ぎしながら流されていくのを見て、
ある意味安心したユイナ姫は、状況を整理にかかる。
「ちょっと足場が不安定過ぎて、
 シエルさんも私も無理っぽいですね。
 誰か、そのまま川べりから追跡出来ないものでしょうか?」
(ワイヤーを使えば木を伝えなくはないけど、
 持久力的に僕も無理そう)
と、いう意図でジルベルトも首をふるふると振ってみる。
「けど、見失うのは得策じゃないわね。合流に時間がかかるわ」
と、ソニア。
「こういう状況なら自信があるもの。私が追ってみるわ」
ソニアは川の下流へと向かって、崖を一人で駆け下りる。
「で、俺はどうすればいい?」
ライナスも健脚に自信があるのだろう。そう言いながらも既に
ソニアの後を追って動き出した。言動は全く意味を成さないのだが。
これで事実上、戦力は真っ二つに分断される形となる。
期せずして、3:3の二小隊体制で動く事となってしまったのだ。

それから一時間後、ソニアは川べりで見事に気を失っている
ジークを発見した。どうやら頭を軽く打ったらしい。
「ちょっと、何気を失ってんの、しゃきっとしなさい!」
揺り起こそうと近寄ると、更にジークは流され始めた。
ジークが目を覚まそうと迂闊に動いたことで、
偶然服が引っ掛かっていた岩から、外れたらしい。
「む……おおお!?」
「ジークぅッ!」
ソニアの怒声も虚しく、不運なことに、
ジークは更に下流に流され行く。
ライナスもそこでソニアに追いついた。そう時間はかかっていないが、
流石に川に飛び込むだけの技術を持ち合わせていない。
いや、仮に持ち合わせていたとしても、増水した川に
自ら飛び込むのは愚行である。
「追おう。まだ追いつけるよ」
「分かってるわ!」
ライナスの指示で再度、二人は動き出した。
それにある意味そのまま立ち泳ぎで凌いでくれるなら問題はない。
この先に目的地点である、妖精の森中央部、
妖精王セリナ=ワルキューレ=ヴァルキリーの
居城があるはずだからだ。
結果的には目標地点にいち早く到達する事になる。
あとはジルベルト達を座して待っていればいいだけなのだ。
ライナスも、ソニアも、そう思っていた。

一方、ジルベルト達も川の地理を再確認し、
最終的に目的地点である妖精王居城区周辺に川の流れが
行き着く事を理解したため、すぐに行軍を再開した。
「しかしジークさんも運の無い人ですね……たまたま緩んだ地盤に
 足を踏み入れてしまうだなんて……」
ユイナ姫の独白に、いちいち大仰に頷くジルベルト。
「ドジなんだから、まったくもう」
シエルも半分怒ってはいるが、やはり内心心配である。
せめてソニアかライナスからの報告があれば良いのだが、
恐らく必死の追跡中ではそんな余裕さえないのだろう。

しかしそんな事をやっている間にも
妖精の森に不穏なる影が現れていた。
スプレッダーの幼生体と、勇者軍以外にそれを追跡する
謎の人影が……



<第三章-第二幕- へ続く>
最終更新:2011年02月18日 01:25