第十三章-第二幕- 波状攻勢
が、差し掛かってはいたものの、未だ踏み込むには躊躇があった。
先の敵の奇襲も林道を利用したものであった事もあり、
戦闘能力皆無のキョウカ王妃の事を考えれば
若干慎重にならざるを得ない。
「しかし、あのデウス=エクス=マキナ……
とんでもない奴だったわね。遺伝子工学ってのは
あんな事も出来るの、バスク?」
ルシアの問いかけにバスクが応じる。
「俺には出来ないですけど、出来る人には出来るんでしょう。
ただ、
亜人族をベースに作り変えたからと言って、
ああまで巨大に
なるとは到底思えないんですけど……
小動物を
ジャンボ化させるのとはワケが違うんですから」
すると、ジルベルトは大福を抱き寄せてバスクに近寄ってきた。
『猫も大きくなる?』
と、(あくまでメールで)訊いているのだ。
「なりますよ、ある程度ならね。竜よりデカく、というと
ちょっと厳しい事になるかもしれませんが……」
『そっかー』
納得したようで、大福を降ろしてやる。
「……なんか話が逸れましたが、
恐らく
自然生命族や亜人族を巨大化したものではない、
という結論になるでしょう。
妖精族や
精霊族も無理。
そもそもアレは霊的生命体ではないので
神族でも魔族でもなさそうです。だとすると、
怪物族か、竜族か……どっちにしろ厄介そうですね」
と、バスクが一通り話をまとめる。
「アレがあれば良かったのにねぇ、ジルベルト君」
『そだねー』
「あれ?」
ソニアとジルベルトの会話内容を不審に思ってか、
フローベールが質問してくる。
「
ストレンジャーソードから出来た『
砲剣ストレンジバスター』。
スプレッダーをわずか数撃で仕留めうる最強の武器よ」
「そういうのがあったら
いい勝負ぐらいは出来たかもですよねー。
でも、もう
ストレンジャー・タウンに
取りに行く時間ありませんよ?」
『通信網も完全回復したわけじゃないから、
届くかどうか分からないけど、
一応、
惑星マーズでお仕事中の
母上に取りに行かせようと思うのー』
「まあ、エリシャ様に?」
キョウカが驚いたように言う。
『あの剣は
ストレンジャー家の血をある程度強く引いてないと
握る事さえ出来ないのー。あるいはシエルなら持てるかもだけど、
母上に持たせる方が確実に持てるのー』
「なるほどね……まあ、やるだけやってみなさい。
打てる手は全て打ってこその勇者軍でしょうからね」
と、ソニアも条件付きで賛成した。
やらないよりマシ的な意味だが。
大体、惑星マーズから急いで来ても間に合うかは分からない。
どれほど戦いが長引くかも分からないのだから当たり前だが。
「黙」
と、いきなりゼクウが論議を止めた。
黙れ、という意味だろう。
理由はすぐに分かった。予想通り敵の気配だ。
敵は林道の左右から飛び出して一撃加えては逃げるという、
徹底的なヒット&アウェイ戦法に出たようだ。
しかも、立て続けに波状攻撃で来るものだから、
ロクな対処が取れない。上手いやり方だった。
びすっ!
「ったく、面倒臭い戦法を取ってくれるわね」
ようやく敵兵一人ほどを狙撃で射落としたルシアがぼやく。
「つくづく砲剣ストレンジバスターが無いのが悔やまれるわね!
直接当てなくたって、敵は思い切り吹っ飛ばせるのに!」
すると、敵兵の中にサラリとさっき襲撃してきた
ジーネが混じっているのが見えた。指揮をしているのは彼である。
「追」
ばしゅっ! ごがっ!!
ゼクウはそれを一瞬で見極め、
跳躍すると一足飛びにジーネを目指し、
その顔面に強烈極まる蹴りを叩き込んだ。
「ぬぬぅッ!」
……つもりだったが、ジーネは顔面を庇ってガードしていた。
それでも吹き飛んだのは同じであるが、
余程自慢の顔を傷付けられたくないようだ。
「ちっ、見抜かれましたか、総員、撤退!」
ジーネはまたも速やかに退いていく。
「なん……なんでしょうか?」
メイベルが明らかに不安を隠さない。
やはりどう見ても撤退が早過ぎる。
敵の何らかの意図が、そこにはありありと見え隠れしていた。
アルボ森林は広い。とても一時間、二時間で突破できる森ではない。
……その広い広いアルボ森林を勇者軍は強行軍で突き進む。
前回の襲撃から更に三十分後、更にその三十分後。
もう一つおまけに一時間後、そして更にその三十分後、
その一時間後、という具合に、勇者軍はジーネ部隊からの
奇襲という奇襲を延々と受け続けるという苦行を強いられた。
「もうやだぁ!」
パニックを起こしかけるフローベールを、ルシアが嗜める。
「これは異常な事態ね。こうもしつこいとは思わなかったわ。
アルボ森林を抜けるまで
こうやって奇襲の連続という事になったら、
私達もだけど、キョウカ王妃が疲弊してまずい事になるわ」
そう言うが速いか、もう何度目かも分からない奇襲が
真っ先にゼクウを襲い始める。
現状最大級の脅威と認識されたのだろう。
「絶!」
絶対にやらせん、という事なのだろう。
ゼクウは上から襲ってくる五人の敵を迎え撃つ。
「波!!」
恐らく
ウィンドウェイブをアレンジしたのだろう。
風の衝撃波がモロに敵兵を凪ぎ散らす。
奇襲を受け続けたことは決して無駄ではなかった。
ゼクウを筆頭に、勇者軍メンバー達は
敵の動きのパターンをほぼ見切り、
以前より遥かに多い敵兵を叩き落すようになっていたのである。
その様子に、流石にジーネも焦り始めた。
「くっ……このままではまずい、総員散開して退却!
作戦を練り直しますよ! いいですね!?」
ジーネの指示で、もっとも捕まえにくい陣形で逃げ出す敵兵。
どうやら勇者軍が物凄く地味な
粘り勝ちの展開を迎えつつあるようだった。
アルボ森林の突破まであと三時間というところだろうか。
思わぬ長旅となっているが、
フロックハート・タウンへと
到達するためには、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
「へっ、敵の焦った顔が見ものだったな。
俺達が思ったよりしぶといんで、慌ててたぞ」
と、多少息を上げながらもバスクが粋がる。
「溜」
多少溜飲が下がったのか、やや激していたゼクウも
完全に落ち着きを取り戻した。
「キョウカ様、大丈夫ですか……?」
「あ、はい。何とか頑張ってますわ」
キョウカも何とか気を失ったりへたり込んだりせずに
ついてきているようだ。これ以上歩行が続くようなら
馬の一頭も調達した方がいいかもしれない、とジルベルトは思った。
『ユイナママ、馬とか調達した方がいい?』
「そうですね……出来ればその方がありがたいかもしれません。
私は虚弱ですけど、乗馬の心得だけは
かろうじてありますから……
その方が皆さんの迷惑にならないかもしれませんね……」
やはり疲れているのか、若干元気が足りない。
退けたとはいえ、敵は引き続き波状攻撃を仕掛けてくるだろう。
そして疲労状態のキョウカとそれを守るため、
ロクに動けない猫とメイベル。その上、
新しい陣形で奇襲を仕掛けてくるであろうジーネ。
何よりアルボ森林突破まで、まだいくらかの距離がある。
しかも頼みの切り札、砲剣ストレンジバスターは自宅の中。
まさに四面楚歌という状況だが、
勇者軍は誰一人諦めていなかった――
最終更新:2011年03月05日 22:25