アットウィキロゴ

第二十章-第四幕- 対たる蒼紅の鎧






「う……んん……?」
キョウカ王妃の胸に優しく抱かれたメイベルが意識を取り戻した。
アルヘイ島から大きく離れ、既に大陸へと戻っている。
「キョウカ様……戦況は!?」
キョウカ王妃は黙って顔で方向を示す。アルヘイ島の方向だ。
「あれは……!?」
メイベルも気が付いた。
あまりに巨大な竜が……否、龍がそこにいる。
「太古の昔にはあのような形の龍が多く版図を広げたと聞きます。
 太古龍……エンシェント・ドラゴンというところでしょうか。
 それにネイチャー・ファンダメンタルが
 遺伝子調整を加えたのでしょう」
「大変……行かないと!」
「お待ち下さい、メイベルさん! スカーレット・アーマーも
 アースシールドも無いというのに、無茶はいけません!!」
「止めないで下さい、キョウカ様!
 兄様が! みんなが……!!」
涙をぼろぼろとこぼしながら、
承諾を得るために説得するメイベル。
「キョウカ王妃の言う通りだ、メイベル、無理をしてはいけない」
「その声は……」
突如二人の前に姿を現した声の持ち主は――

「疾風剣! 烈風剣! 疾風剣!! 烈風剣!!」
もはやなりふり構わず、
ライナスは突貫をかけて身体をひたすら切り裂く。
鱗が剥がれ、血は吹き出し、たちまち傷だらけになるマキナ。
だがあまりの巨体に、少々のダメージ程度にしかならないようだった。
しかも呪鞘カオスリキッドの力を借りてこの始末である。
それでも痛いのは痛いのか、マキナは時折怯み、
トップクラスのダメージソースを叩き出すライナスを狙う。
「させんぞ、マキナ!!」
そこへヴァジェスが割って入り、
大口径のレーザー・ブレスを放つ。
彼自身の必殺奥技でもあったが、流石にマキナは冷静に対処。
「レーザー・ブレス!!」
二人のレーザー・ブレスが同時に放たれ、
正面からぶつかり合うが、ヴァジェスのブレスがパワー負けし、
ヴァジェスは寸前の所で上空に退避して
難を逃れるのが精一杯であった。
「化け物か、こいつは!?」
「ふ、皮肉なものだな。普段化け物呼ばわりされ続けている
 勇者軍に似つかわしくない台詞だ。言い慣れまい?」
「この期に及んでブラックジョークは
 無しにしてほしいんだけど!?」
レイリアがとにかくありったけの火器を叩き込むが、
やはりライナス同様に、少々のダメージ程度が精一杯だった。
「どれ、少しは動くか」
マキナはロクに身体を動かしていなかったが、
派手に地面をはいずり始める。鱗も逆立ち、
文字通り逆鱗となって刃と化す。そのまま移動する事で、
勇者軍のかなりのメンバーが
砕けた破片によって傷まみれになる。
唯一無事なのは飛行している
ヴァジェスとフローベールぐらいであった。
「動くだけで災害級の攻撃とはね……!」
リュミエルが愚痴りながらも攻撃の手は緩めない。
「もう手段は選べねぇ!!
 親父、聞こえてるか! また出番だぞ!!」
『分かっています、コンラッド。
 しかし到着に少し時間がかかります。
 引き潮が終わっていないので
 移動可能区域が限られているのです』
「……なるべく早くでいい、頼むぜ!!」
コンラッドが通信を切る。もはや猫の手も借りたかった。

一方で、エイリアやギースなど近接攻撃ばかりが得意で、
かつスピードとテクニックに特化したメンバーは
更なる苦戦を強いられた。
もはや回避に専念するより他無い、というほどの状況悪化ぶりだ。
かろうじてダメージソースとなっているのはエイリアだけで、
フローベールも、バスクも、ゼクウも手を出しあぐねていた。
「爆!」
ゼクウは早くもありったけの爆薬を叩き込むが、
それは辛うじてダメージソースとなった。
しかしそれだけで終わってしまう。
そして爆薬はもちろん無限ではない。
「例のスチールボールボム、とかいう兵器だったか。
 あれの使い所を間違ったと見える。
 友軍救出などという任務なら己の独力でこなせただろうに、
 あのような兵器に頼ったのは……勇者軍よ、
 明らかに君達の怠慢の結果と言えるだろう!」
「仲間を救出するために全力を尽くしただけの事なのよ!」
フローベールがマキナの爪を回避しつつも抗弁する。
「そうだ! ソニアさんが死んだりしていれば隊長が泣いた!
 キョウカ王妃が死んでいればイスティーム王や皆が泣いた!
 俺やフローベールが死ねば親父もお袋もきっと泣いたさ!!
 みんなの親父やお袋、親兄弟がみんな泣くんだ!
 本当は来たかったはずのメンバーも、ユイナ姫だって泣く!
 マキナ! お前にはそれが分からないのか!?」
「バスク……」
その剣幕にフローベールは驚いた。
これだけの事を言ってのける胆力が備わっている程に
自らの弟が成長を見せているとは思いもしなかったのだ。
「分かりたくても理解しようがあるまい! 我に親兄弟はおらぬ!
 心を通わせた友も、今自らこの手でその命を絶ったのだからな!
 その道義を押し通す気ならば、我が命を絶ってそれを成せ!」
「もはやそうするしかあるまいな、マキナ」
と、ギースも同意する。
「それにスチールボールボムなど無くても俺達は勝つ!」
「是」
ギースにつられてゼクウも同意する。
「見るがいい!
 僕達の後方より現れるは人類史上最強の私設軍筆頭!
 勇気と、技と、機智との象徴にして、地上最強の勇者!!
 その名もジルベルト=ストレンジャーだ!
 慄け天よ、震え地よ! 人よ命よ、始まりを見ろ!
 我等が隊長殿のお通りだ!! 道を開けろぉッ!!」
これ以上無いほどの確信を持ってサイモンが呼ばわると、
後方からいよいよジルベルトが砲剣自身の推進力で飛翔し、
マキナの眼前へと躍り出る。
「ぬぅぅぅぅぅあああああああああ!」
マキナが最大出力でのレーザー・ブレスを放つが、
巧みに軌道を変え、ジルベルトは回避。
バキン!
魔力により生み出した魔力弾のベルトリンクを全てパージする。
それをマキナの背に叩き込み、即座に射撃態勢に移った。
「終焉来撃砲!!」
間髪入れず即座に全力砲撃。魔力弾も全て破裂し、
凄まじい爆発力と爆風を生む。
イスティーム王以下全ての人間が
大きく身じろぐわ、吹き飛ぶわ、転げ回るわの阿鼻叫喚だ。
「やったのか!?」
テディがその遠くまで見渡す視力で周囲を見回すが、
大量に出血こそしているものの、マキナは未だ健在だった。
それに比べ、ジルベルトは
その魔力のほとんどを使い果たした。
「いかん、聖杯ライブチャージャーよ、力を!」
温存していた力を供給し、何とかジルベルトを通常の状態に戻す。
「くっ、だがこんな調子ではすぐに力が底を尽くぞ!」
テディまでもが遂に愚痴をこぼし始める。

「兄様ーッ!!」
するとそこに、何故かスカーレット・アーマーを着た
メイベルが飛び込んでくる。壊されたはずなのだが。
「メイベル!?」
あまりにびっくりしてソニアもつい名を呼ぶ。
「アフターバーナータックルっ!!」
どごんッ!
赤き鋼鉄の塊と化したメイベルが体当たりをかける。
だが、速度はともかく、質量があまりに小さすぎた。
相手は8000トンクラスのエンシェント・ドラゴンなのだ。
それに比べて、メイベルは鎧を含めても200キロを下回る。
これではいくら速度が速かろうが、
人間に砂糖で攻撃するようなものだ。
「あーうぅ~……」
よろよろふらふらと着地し、何とか態勢を整えるメイベル。
一方、ジルベルトはこの隙に離脱を終えていた。
もっとも彼自身もメイベルが復帰した謎は理解できていないが。

「勇者軍サブメンバー、推参!!」
すると、引き潮だった地続きの道から勇者軍らしき人物が現れた。
先陣を切っているのはジルベルトの叔父、ケヴィンである。
「ケヴィン、どうしてここに!?」
ヴァジェスも流石に驚く。
「一筋縄ではいかない相手のようだからな。
 無条件に信じて去っていったド天然姉貴の代理をしに来た。
 俺はそこまでオプチミスト(楽観主義者)でもなくてね。
 ……まあ性分だ。気にしなくていい」
「悪いが、この老骨も参加させてもらうぞ」
後ろにはその祖父、グスタフもいる。
いや、しかもそれだけではない。
エリシャの部下達となっていた者達どころか、
ジルベルトの祖父、エドウィンの部下だった者達まで、
いるわいるわ、総勢数十名規模の(勇者軍的な)大隊規模である。

「そうか、メイベルのアーマーはケヴィンさんが……!」
ルシアもようやく事情を察したようであった。
そしてケヴィン一行の最後尾にはキョウカ王妃とチトセもいる。
どうやら戦況の変化が気になって戻ってきたようだった。
「突撃だ、野郎共! 現役の若造共に遅れを取るな!」
「おおおおーッ!」
多くの英傑達がめいめいに攻撃ターゲットを分散し、
任意に攻撃を開始した。マキナは少々うろたえたが……
「少々数が増えたぐらいでどうにかなるものか!」
とむしろ激昂し、地面へ潜る。
「なっ!?」
ソニアが驚愕する。あの巨体で地中へ潜るとは、
まさに常識の範囲外からの攻撃である。
ずどごぉぉぉぉん!!
そして地下から飛び出て牙を剥く。
「うううおおおおおおおッ!!」
「テディ!」
カリン=カレン。テディの母親の悲鳴が響く。
マキナの口にくわえ込まれ、今にも噛み砕かれようとしていた。
しかしテディはすんでのところで手と足で踏ん張る事で、
上下から迫る牙の脅威から、何とか逃れていた。
実はライブチャージャーの生命力を放出し続けて成せる技であり、
ここでも彼は家宝に助けられたと言って良かった。
ずどごん!!
「!!?」
突然遠距離からミサイルと砲弾が飛び込んでくる。
マキナは衝撃に耐えかね、大口を開けてしまった。
その隙にテディは難なく脱出に成功したようだった。
「とっておきですよ……四大精霊元素爆裂剣!!」
同時にそれをフォローするために、
イスティーム王の幻杖レプリアーツが、
ストックしておいた、総帥エリシャの使う必殺奥技を叩き込む。

「カーティスか! ナイスタイミングだ!」
ケヴィンが素直に同僚の力を賞賛する。
が、その時、ケヴィンがジルベルトの立ち回りを見て気付く。
色こそ違うが、スカーレット・アーマーのフレームに似た何かを
ジルベルトが振り回している。気にならないはずもない。
「まさか、あの形は……ジルベルト、すぐ来てくれ!」
その要請に応じて、ジルベルトは飛来する。
「?」
「ジルベルト、お前のその剣のフレームは……
 まさか、スカーレット・アーマーなのか?
 その剣を交えて進化したというのか?」
「……」
ただこくこくと頷くジルベルト。そわそわしている。
前方では味方が奮戦しているのだ、
時間はかけられないのだろう。
「この設計図はスカーレット・アーマーの没デザインだ。
 見てくれジルベルト。お前の砲剣とそっくりだろう?」
「!」
渡された図面を見ると、確かにそっくりだった。
「これは変形機構を備え、
 武器と一体化するプランだったものだ。
 ひょっとすると、お前の砲剣にその機能が備わっていないか?
 よく装飾やその他の部分を見直してみてくれ。
 あるいは、そこに活路があるかもしれん」
慌ててジルベルトは砲剣のあちこちを見渡す。
中折れ式フレーム。砲撃用砲門、剣の刃、そしてセレクター。
更に見れば明らかに今までに無い
撃鉄らしき稼動部が入っている。
(……これかな?)
ジルベルトがその撃鉄らしき部位を押し込むと、
絶壁砲剣『矛盾』を覆っていた
スカーレット・アーマーがパージされた。
ジルベルトの魔力に反応して砲剣自体も、
そしてジルベルト自身も浮く。
(何、何、何!?)
ジルベルトは内心慌てるが、もはや成り行きに任せるしかない。
すると装甲は鎧のような形となり、まず胴を包み、
腰を包み、両腕を、両足を、そして頭を包み込む。
それはさながら、スカーレット・アーマーの
再来のようであった。
「技術的難点から実現しなかったが、
 まさか完成をこの目で見れるとは。
 これはスカーレット・アーマーとは言い難いが、見事だ……
 まさに、真紅の鎧と双璧を成すべき逸品だろう」
ケヴィンは驚きつつも賞賛する。
スカーレット・アーマーを模した全身鎧。
ただ違いは青い色と、そしてフルフェイスに近い兜である。
Y字型のスリットにより、
目と、鼻と、口の行き場だけが確保されている。
「そうだな、アズール・アーマーと呼ぶべきところか。
 ジルベルト、その鎧がきっとお前を守ってくれる……
 そしてそのアースシールドと砲剣もお前の力となる。
 行って来い、そして必ず帰って来い!!」
「うん!」
ジルベルトはアズール・アーマーのブースターを吹かして飛翔。
青き空へ蒼き勇者が輝かしく飛び立ったのであった。
戦いは、いよいよ最終局面へと向かおうとしている。



<第二十章-第五幕-へと続く>
最終更新:2011年05月22日 21:28