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第二十章-第五幕- 勝利という儚い幻






ジルベルト達勇者軍主力部隊が全力で戦っている頃、
アーム城では最終決戦が開始されたと聞いて、
ユイナ姫がそわそわしていた。落ち着かない様子だ。
もうここまで事態が進行してしまえば援護さえ間に合わない。
「せめてこの城の改修工事が済んでさえいれば、
 遠慮無く私だって行けるのに……!!」
とはいえ、幻杖レプリアーツを
自分が持ったままにしなかったのは正解だった。
あれがどれだけ父親の助けになる事か。
「お父様、お母様、チトセ、ジル君、
 ソニアさん、バスク君、皆さん……!
 何とか生き残って……って、なんでバスク君の名前が出たの?」
自分でもよく分からないままに首をかしげるユイナ姫であった。

周囲で勇者軍一同やOB・OG部隊、
更には特務戦技教導隊のメンツまでもが
戦いに参加している中、ジルベルトは
二重覚醒の極みに入った『矛盾』を
アズール・アーマーに変形させ、装着して空を舞っていた。
「やはり隠し玉があったか、ジルベルト!」
むしろどこか嬉しそうにマキナがレーザー・ブレスの構えを取る。
「ジルベルト、逃げろ! いくらそのアーマーが強固でも
 レーザー・ブレスまで防げる保証なんて無いぞ!!」
さっき、そのパワーをそれこそ死ぬ程味わってきたテディが言う。
だがジルベルトは冷静に対処する。
「奥技・精霊防護壁!!」
魔力による結界を張る封神封魔流の『防の奥技』を展開させ、
その上でアースシールドを外し、手に持って防御する。
「受けよ!」
レーザー・ブレスがジルベルト一人にめがけて叩き込まれる。
「!!」

ガカッ!!

凄まじい閃光がジルベルトを飲み込む。
しかし、閃光が止まった後もジルベルト、
そしてアズール・アーマー、
共にほぼ無傷、まったくもって健在そのものであった。
「……!!」
自らの最大奥技がまったく通用しない事にマキナは驚愕する。
ジルベルト自身も忘れそうになっていたが、
封神封魔流はそれ単一でも文明そのものを破壊し得る
破壊力と防御力を持っているのだ。
以前は砲剣ストレンジバスターのあまりの火力に圧倒され、
自らの技の方を持て余し気味になっていたジルベルトだが、
今度は完全に性能と噛み合った使い方が出来ていた。
戦いを以て、明らかにジルベルト自身が成長しているのだ。
ジルベルトは防御を終えたと見るや、
軽くなった『矛盾』で攻撃を仕掛ける。
「……!!」
ジルベルトの剣と砲撃の連携が、多数の鱗を傷付け、剥がす。
だがやはり相手があまりにも巨大過ぎた。致命傷には程遠い。
「防御能力が増しただけでは話にならないの!?」
ルシアが困惑する。
「決め手に欠けるか……だが遠慮はしない!」
マキナは爪と牙による攻撃を執拗にジルベルトに向ける。
同時に移動も行い、それそのものによって
勇者軍一同が傷だらけになる。
(くっ……!)

ジルベルトも歯噛みしていたが、ふと、アズール・アーマーの
腹と、背中の部分に明らかに不自然な突起があるのに気付いた。
まるで何かを接続するためにあるような部品。
(まさか……!?)
ジルベルトは腹のジョイントに砲剣ストレンジバスターを接続。
更に苦労しながらも背中にアースシールドを接続した。
するとジルベルトの意思に反して、鎧が硬直する。
「!?」
そのまま自由落下するかと思いきや、
ジルベルトの意思を無視したままアズール・アーマーは
変形を始めた。両手両足を勝手に折りたたみ、
まるで戦闘機のようなフォルムへと仕上がった。
小柄な上に、身体が柔らかいジルベルトでなければ
到底成しえない、人体としてはかなり無理のある体勢だった。
更に兜がわずかな通気孔のみを残し、スリットを閉じる。
同時に一瞬何も見えなくなるが、外の景色が脳裏に映る。
詳細な原理は不明なのであるが、
刃の部分を中心として、視覚化する仕掛けになっている。
砲剣ストレンジバスターの砲門部分のみがパージされて、
逆方向を向くような仕掛けまでついでに発動している。
もはやジルベルト本人にもまったく理解不能であった。
しかし使い方はそう変わったわけでもない。
というのも弾丸ベルトリンクは念じれば出てくるし、
今まで通りの制御方法でブースターも使える。
ただ腕が自由にならないのでこれでは突撃しか使えない。
むしろそのためにあるのだろう、とジルベルトは察した。
「!」
ジルベルトは一つ策を浮かべ、その突撃形態のまま、
ヴァジェスの元へと飛来する。

突然何故か変形したジルベルトが飛んできたので、
当のヴァジェスも驚いていた。
「うお、こっちに来た! どうした!?」
「これでマキナの急所を貫くの。どこ?」
「あのタイプの竜族なら、身体のド真ん中だ!
 心臓を狙いたけりゃあ、そこをぶち抜けばいい!
 バスク、脈動している位置を解析出来るか!?」
ヴァジェスが大声で地上のバスクを呼ぶ。
「聞こえてますしもうやっています!
 ヴァジェスさんの言う通り、もっとも大きく
 脈動している部位があります。俺のイメージを読んで!」
ジルベルトはバスクの心中とヴァジェスの心中を読み、
該当部位と思しき場所を特定した。
「行ってくるの!」
ジルベルトは突撃形態のまま急加速。
ブースターを吹かしてその地点へ目がけて飛ぶ。

「……そこ!」
ずどんずどんずどん!!
ジルベルトは逆方向を向いた砲門から砲撃を開始する。
それがブースターで得た加速を助長し、更に急加速していく。
長い長いベルトリンクが犬のリードのごとく、その後に連なる。
その意図に気付いたテディが慌てて
聖杯ライブチャージャーをかざす。
「きっとアレが最後の一撃だ!
 ライブチャージャーよ、力を!」
魔力が大きくジルベルトへ流れ、一気にフル回復するジルベルト。
「それで決めてね、ジルベルト君!!」
ソニアも気付き、攻撃をやめて退避する。
「ぬうううううううううう!」
あまりの速度だ。マキナもジルベルトを捕捉出来ない。
この巨体ではもとより回避能力は望むべくもない。
「封神封魔流無手勝秘剣!」
ジルベルトはベルトリンクに残った弾丸の分の砲撃を
とにかく全部加速だけに使用する。
「惑星貫通剣!」

ずばっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!

ジルベルトは、マッハ2もの速度でマキナの身体へ突入。
マキナの急所を正確無比に撃ち貫く。
刺さるどころか、その空圧に鱗や体組織、
そして急所までもが一瞬にして破裂。
ほぼ抵抗を受ける事もなく、そのままジルベルトは貫通し、
変形プロセスを逆回ししたかのように人型形態へと戻る。
あまりの速度に慌ててブースターと砲撃でブレーキをかける。
それでも巡航速度まで戻るのに数十秒を要した。
まったくもって砲剣ストレンジバスター以上に
乱暴な運用法である。
「あ……ああああ……おおおおおおおおお……!」

ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんん……!!

弱々しい声をあげ、
体長700メートル、重量8000トンもの巨体が
力なく、しかし轟音をあげて倒れ伏した。もはや動く力も無い。
しかしそれでも流石はエンシェント・ドラゴンである。
かろうじて話すだけの力は残っていたようであった。
「見事だ……ジルベルト=ストレンジャー……話がしたい。
 面倒だろうが、ここまで来ては……くれまいか?
 他の者も同じだ。皆、我に声の届く距離まで来て欲しい」
そう言われたので、まずはジルベルトが、
そして残りの者が近寄る。
「まずは……随分と迷惑をかけてしまったな。
 自分の志は貫き通したいが、
 さして無為に死にたくもなかった。
 ただの我侭と笑うかもしれないが、
 分かってはくれまいか……?」
「……おかしくはないわ。それは人間だって同じだもの」
と、ドルカス。
「最後に言う事がそれか! 他に言いたい事は無いのか、おい!」
ヴァジェスも宿敵を讃えるように言う。
「……我が友ジモンの願いは既に叶えた。我はこの身をもって
 警鐘と化し、今諸君等に敗れて、こうして地に伏して死を待つ。
 それで良かったのだろう。もはや悔いる事もほぼ無い。
 唯一心残りがあるとするのならば……」
あまりの切ない声にジルベルトは既に泣きそうだった。
彼が一番本心から戦いを望んでいなかったからだ。
「私の死により、警鐘や危機感という概念は残るだろうが、
 形になる物として何かを残せないのは……至極、無念だ。
 我はこの巨体故に子も残せなければ、作品という形で
 何かを残す事も、文化を残す事も、何も出来ぬ……
 我が死ぬ事によって、世界環境に変化が訪れる事も……無い」
「そんな事はありません……」
と、キョウカ王妃がチトセに乗ったまま近寄る。
「あなたの肉体はそうやって死を待ち、朽ちるのを待つばかり。
 しかしあなたの朽ちた肉体から出る養分によって、
 きっとこの島の大地が潤い、新たに植物も生えてきますわ。
 そして動植物があなたを中心に発展を始め、
 少なくともこの島だけはあなたがもっとも望んだ
 生命の楽園になっていく事と、推測されますわ。
 それこそ、あなたが生きた時間より長い時間をかけて……」
(無駄じゃないのー! 無駄なんかじゃないのー!)
ジルベルトの意思はもはや言葉にはならない。
だが、マキナには何故かそれがはっきりと聞こえた。
そして勇者軍メンバーにも確かにそれは聞こえていた。
「隊長の声……!?」
フローベールが呟く。心を読むだけではなく、
思った事を相手に送り込む能力が覚醒しつつあった。
こうなるともはやエスパーではなく、サイキッカー予備軍だ。
哀れみと悲しみが、ジルベルトに更なる成長を促していた。
「そうか……我が命が新たな……命の土壌となり得るのか……
 それに……勇者の力としても……役に立ててくれるのか……
 ならば……もう……良い……それで……良い……
 これで世は……全て……事も……無し……
 ジモン……今……私も行く……ぞ……」
そしてマキナは静かに目を閉じる。

「勝利と呼ぶには……ちょっと悲し過ぎるわね……」
リュミエルがぼつりと呟く。
「勝利なんてのはいつだって儚い幻に過ぎない。
 俺はそれを前の戦いで味わってきたし、
 敗北した側のドルカスは尚更だ」
「私を引き合いに出さないでよ」
むくれてドルカスがテディを睨む。
「ユイナ姫とか隊長の妹とかシルヴィア主任とか、
 ここにいなくて良かったッスね、隊長?」
「うん……」
バスクの問いに、ジルベルトは涙を拭きながら答える。
「泣くのは現場にいる者だけで充分ですからね……
 俺は、大事な人達が一人でも多く泣かずに済んだだけで、
 とりあえず納得しておくしかないですよ」
「うん……」
「元気出して、ジルベルト君」
「兄様っ、ファイトですっ」
必死に泣きまくるジルベルトを励ますソニアとメイベル。

「遂」
ゼクウはそれだけ言うと、ただ一人で佇んでいた。
そこへコンラッドが近寄る。
「お前は相変わらずだな。他に感想は無いのか?」
「哀」
「……ゼクウ?」
「忘」
自分とて同じクローンから出来た生命である。
一旦哀悼の意思を示して、
しかし似つかわしくないと思ったのか、
忘れてくれ、とでも言いたかったのだろう。
「……実はお前、俺達の中でも情緒豊かな方なんじゃね?」
「……無」
ノーコメント、という事なのだろうか。
これはこれで実に彼らしくはあった。

レイリアとエイリアは沈痛な面持ちであった。
「あたし達ってそんなに憎まれないといけないのかな……」
「そんなのは勝手な言い分だ! 私達は、今、生きている!」
「エイリアの言う通りだ」
サイモンが割って入った。
「君達も、僕もセシリアも、ブルーノもマーカスも、
 皆、今、生きている。それがたった一つの真実だ。
 僕達は力いっぱい生きて、力いっぱい死んでいけばいい。
 マキナがそうしてみせたように、僕達もそうあろう」
「お兄……」
「兄さん……」
「帰ろう、セシリア達が待っている」
サイモンは哀愁を漂わせつつ、自ら先頭を切って歩き出す。

フローベールとベアトリスは、
ドラグーン状態に戻ったヴァジェスの近くへ寄って来た。
「ヴァジェスさんはどうされるんですか?
 もうみんな帰り支度を始めてますけど……」
「マキナはこの巨体だから、埋葬は出来ないし
 本人がそれを望んでいない。だからせめて、
 輪廻転生の輪の中に入れるよう、供養はしてやる。
 俺はそれが済んでから行くつもりだ」
「……バスクの事も気になるんです。私が知らない間に
 急成長したりしてるし、いつか私より強くなって、
 私の手元を離れて私なんて忘れてしまうんじゃないかって……
 証拠に、最近ユイナ姫の事をしきりに気にかけていますし」
ぽん、と軽く頭を叩いてやるヴァジェス。
「弟の成長を恐れなくてもいい。それは誰もが通過する道だ。
 お前は若干早くその道を通過しているに過ぎない。
 それにそう肉親の情が断ち切れるものでもないと俺は信じる。
 お前は、バスクにこだわらず、自分の行きたい道を探してみろ」
「……はい……! お世話になりました!」
「ひひんばー」
フローベールとベアトリスは天空へと舞う。
それだけが今、自分が成せる事であるかのように。

ギースとルシア、それにライナスは
もっとも手痛くダメージを受けており、
その応急処置に大忙しの状態であった。
なんだかんだで防御がもっとも疎かになりがちである。
「普段化け物呼ばわりされてる身分だけに、
 ああいう相手とやり合ったのは貴重な経験だったわね?」
「あいたたた……出来ればもう勘弁ですがね。
 隊長がいなかったら流石にまともに勝てる気がしない」
「……確かにね。ギース君の言う通りかも」
呪鞘カオスリキッドは周囲の悲しみと、三人の悔しさを吸収し、
あたかもご満悦、というように軽く光り続けていた。
「……まったく危ない武器よね」
「だが、使いこなしてみせなければね。
 せっかくストレンジャーソードに匹敵する武器を得たんだ。
 使えるものは何だって使って、戦うしかないよ」
多少諦念を込めて、ライナスは剣を鞘に収める。
「それにこいつ、思ったより悪い奴じゃないみたいだ、見てくれ」
にこにこ微笑んで、ライナスが呪鞘カオスリキッドをかかげる。
楽しそうな正の感情を読み取ったのか、剣を吐き出して
うねうねと本体をゆらして嫌がる呪鞘カオスリキッド。
「拗ねてるんだ。可愛いだろう?」
「……同意は出来かねます」
ギースは微妙な表情でそう呟いたのだった。

キョウカ王妃はイスティーム王の下へ近寄る。
そこではケヴィン以下、指揮下の部隊が
撤収作業を完了しつつあった。
「ケヴィン。もう帰るのですか?」
「親睦会という雰囲気でもあるまい。俺達は帰るぞ」
「あ、いや。その前に幻杖レプリアーツに
 技をストックしていってくれたら、
 後々助かるんですけど……もう余力無いですか?」
「……貸せ。皆にやってもらってくる。時間がかかるから、
 後で使いをやってアーム城に届けさせればいいんだな?」
ケヴィンはイスティーム王から幻杖レプリアーツを受け取ると、
撤収作業中の各員に、幻杖レプリアーツの
ストック作業を並行させ始めた。
「元帥閣下……」
「キョウカ。よく無事でいてくれましたね」
「はい。この子が……チトセがよく頑張ってくれました。
 流石にユイナの愛馬だけの事はあります」
「君にとっても実戦は初めてだっただろうし、
 辛い思いもさせました。これは私の未熟さと
 油断が招いた結果かもしれません……」
「そんな……! 元帥閣下に非はございません……」
「そう言ってくれると助かる。私には、君とユイナが大事です。
 こんな私で良ければ、これからもついてきてくれますか?」
「……はい……この命続く限り、どこまでもあなたと共に。
 それがキョウカ=カザミネの身命を賭すべき戦いですわ」
「では、共に帰りましょう。私達の愛娘の待つ城へ――」
「はい……!」
イスティーム王もチトセに跨り、タンデムで移動を始める。
自分の腰に回されたキョウカ王妃の細腕が、
とても暖かく、何故か頼もしく感じるイスティーム王だった。

こうして、勇者軍の歴史に名を刻んだ
ネイチャー・ファンダメンタルと、
デウス=エクス=マキナに関わる一連の戦いである、
『マキナ戦役』が静かに幕を閉じたのであった――



<第2部終章-第一幕-へと続く>
最終更新:2011年05月28日 20:26