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第四章-第一幕- 美貌のローザ





ヴェール・シティへようやく到着した一行は、
大規模な通信施設を使い、ようやくアーム城にある
作戦本部との連絡を取る事に成功した。
現在の状況で集められる人手を集めるためである。
これで何名集まるかは分からないが、
少なくともこの付近にいる、とされる
ローザと呼ばれる女性だけでも最優先で合流するつもりなのだった。
しかし、真っ先に通信への返答をよこしてきたのは、
カイトと呼ばれた男性であり、この間ウォルフと通信をした男だ。
「呼びましたか、ウォルフ王子?」
「カイトさんですか。すぐにヴェール・シティへ来て下さい。
 出来れば海路を取って移動したいですので」
「こないだ政権が変わったっていう旧シャンゼリー王国領へですね。
 分かりました。そうなると、それはウチが適任でしょう。
 ブルー・ワイズマンMk-Ⅰをそちらへ回します」
「では、後ほど」
通信が切れた。ブルー・ワイズマンはワイズマン・ファミリーの
強襲揚陸潜水艦である。海上を主な領域としていた
これまでのワイズマン・ファミリーとは違い、
これからは海中もサポート可能になった、という
意思表示の現れのようなものでもある。

ともあれ、これで移動路は確保されたに等しい。
すると、続けざまに別の人間からの返信が届く。
差出人は、件のローザである。
『市街地でテナントトラックを借りてバイトをしているところだ。
 悪いが、市街地東端側の空き地まで来て欲しい。
 ドネルケバブを焼いているので、すぐ分かるだろう』
とのことなので、勇者軍一同は行ってみることにした。
(ドネルケバブ……? お肉が好きなのかしら?)
内心、エナはそう思ったのだが、敢えて口には出さなかった。

そして、指定された空き地へ一同が行くと、
確かにドネルケバブ用のテナントトラックが用意されていた。
そこで大胆にデカい肉を丸焼きにしているのは
緑髪も艶やかなる、人目を惹きつける美人だった。
その美貌のせいなのか、ドネルケバブが飛ぶように売れる。
あっという間に串一本分のケバブが売り切れていた。
「おう、ローザ! 元気だったか!!」
ロバートが真っ先に声をかける。
「よう、ロバートじゃねぇか! ウォルフ王子と一緒とは
 なんか気持ち悪ぃな。なんかいい事でもあったのか!?」
物凄く綺麗な声で凄まじく口の悪い喋り方である。
アンバランス極まりないローザであった。
そのあまりのギャップに、ぽかーんと口を開けている
エナとレオナの背中を、ローザがバシバシと叩いて笑う。
「おう、新入りか! 俺はローザ=カレンだ!
 俺はちょっとばかり厳しいかもしれんが、よろしくな!」
歌姫でもやってた方が良さそうな声だが、喋り方のせいで
やはり豪快な印象が植え付けられてしまう。
「ほれ、お近付きの印だ、食え!」
と、取り出したのは先程のドネルケバブである。
「って串ごとッスか! そんなに食えないですって!」
「おっと悪ぃ悪ぃ。流石にそれは女には無茶か」
ドネルケバブを削り出すローザ。
かぶりつくと、非常に美味である。

「美味い……」
「え?」
「美味いッスぅぅぅぅぅぅーーーーーッ!」
「れ、レオナさんそんなキャラでしたっけ!?」
あまりのリアクションにドン引きのエナ。
もっともその割には、しっかり完食しているのだが。
もちろんクロカゲは速攻で食い終わっている。

「で、新入りは置いといて、ロブに、ウォルフ王子に、
 マリーにエリックのおっさんと、そして俺か。
 メインメンバー五人集合とは、何がありやがった?」
自らも丸焼き肉をかじりながら喋るローザ。
「ロブがやらかした事が原因で敵が出来た。
 もっともあの様子では、ロブが何もしなくても
 遠からず衝突はしていただろう相手だけどね」
ウォルフ王子が丁寧に解説する。
それを聞きながら、近寄ってきたポメに
こっそり焼いていた丸焼き魚を提供するローザ。
魚をもらうや否や、さっそく懐き始めるポメに、
顔をほころばせて撫で始めるローザ。
正直その絵面だけ見ている分には、
動物好きの深窓の令嬢に見えなくもない。

「で、相手の目的とか所属とかそういうのは?」
引き続きのローザの問いにはエリックが答える。
「白虹(びゃっこう)騎士団だと言っていた。
 人間ではないようだが、正体は未だに不明だが、
 一方的にこちらを敵視してくれているようだ。
 目的達成のために、我々がどうも邪魔らしい。
 もっとも、目的も不明だが、ね」
「で、人手が要るって事か。まあいいだろ。
 それで? 他の奴等には声かけてんのか?」
「カイトが合流してくれるらしいな。
 だが、シャンゼリー王国崩壊のゴタゴタで、
 スターリィフィールド家の女の子が
 未だに消息不明になっている。
 万全を期すなら、その子も探し出すのが吉だろう」
「やれやれ、難儀な事になってるな」
頭をばりばりと掻くローザ。下品である。
「ちょっとここで待ってろ。テナントトラックを返して
 売上金を渡してバイト代もらってから合流する。
 ついでに武器も持ってこないと駄目みたいだからな」
「気を付けろ。奴等は隙あらば狙ってくるぞ」
「心配ありがとよ、マリー」
ローザはマリーに礼を言って、トラックで去っていく。

……彼女が去ってから、ぽつりとエナが呟く。
「綺麗な人でしたねー……」
マリーも頷いた。同性が認める美人だという事である。
「あの声で、蜥蜴食うかや、不如帰」
「それ、何ですか?」
「彼女の事を端的に示すことわざだな。
 彼女はああいう奴だ。見かけによらず
 新兵訓練教官も担当しており、かなりのスパルタだ。
 落伍者も少なくないが、それ以上に人望がある。
 不如帰のように綺麗な声で、凄まじく野生的だが、な」
マリーの簡潔な説明に、ローザを知っている者達が頷く。
「だが……一人……今……危ない……!」
クロカゲが一人で行かせたことを警告する。
白虹騎士団が攻めて来た場合、苦戦は免れないだろう。
だが、一旦行かせてしまった以上、徒歩での追跡は無理な上、
下手に動けば、かえって遠のいてしまう恐れがある。
「ちっ……せめて私が行くべきだったか!」
マリーの舌打ちが露骨に響く。
自分達の迂闊さを呪いながら、彼女の無事を祈るしかなかった。

その頃、テナントトラックと売り上げ金を渡し終えた彼女は、
徒歩でロバート達の待つ空き地へと向かっていた。
「バイト代……うお、思ったより入ってる、やったぜ!」
自らの端末に振り込まれた金額を見ながら小躍りするローザ。
声は美しいのに、振る舞いは凄まじく品が無い。
手に持った武器(ハンマー)を振り回しそうだったが、
市街地だったので必死にこらえていたりする。
「…………!」
だが、刹那の殺気を感じ、ローザは飛び退く。
攻撃こそ飛んでこなかったものの、完全武装の
水色の騎士が、鎌を持ってじりじりと詰め寄ってくる。
「参ったな……冗談抜きで隙のある所に来るとはな」
ローザがボヤき、周囲の市民が逃げまくる。
二人の間に張り詰めた異常な殺気を感じ取ったのだ。
「何者だ、お前は」
「白虹騎士団……シアンナイト」
無機質な声で、水色の騎士、シアンナイトが答える。
「それだけ聞けば充分だ。お前は敵だって事だからな」
ローザもハンマーを構えて、臨戦態勢を取った。
(合流を優先させるか、戦闘を続けるか……どうする、俺!?)
冷や汗を垂らしつつ、ローザは決断を迫られていたのだった。




<第四章-第二幕-へ続く>
最終更新:2011年12月11日 01:59