第十一章-第二幕- 屈服する反逆
「俺が急いでいる事は見ていれば分かっていたはずだ、
それを承知で止めるというなら、せめて名前ぐらい名乗りやがれ!」
「……魔神王教団、イノ=ヘレティック」
「魔神王教団、だと!? 何だ、そりゃ!?」
「知らなくて当然。知っている者はみんな死んでいくから」
「つまり殺す気だって事だろうが!」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
私が受けた命令は、あなたを連れて来いという事だけ」
「そんな理不尽な理屈が通ると思うなよ!」
ロバートは拳でイノに殴りかかる。
イノは斧の刃の部分を盾代わりにして受ける。
「動きに無駄が多い」
斧の刃を外して、盾として左腕のホルダーにかける。
ご丁寧に可動式の取っ手まで付いている。
柄から更にグリップを引き出し、まるで一つの砲身のようになった。
ずどどん!
さきほどの砲撃と同じような衝撃がロバートを襲う。
かろうじて回避したが、直撃していたら危なかった。
「さっき撃ってたのはやはり貴様か!
また妙な武器を使いやがって!」
「人がどんな武器を使おうと、私の勝手。
あなたも自信があるなら得意な武器を選べばいい」
「たまたま持ってねえんだよ!」
剣は自宅に置いたままだ。まだ代わりを購入してもいない。
「それもあなたの勝手。私はそこに付け入るだけ」
ずどん、ずどん!!
巧みな牽制射撃の中に、本気の一発を混ぜる厄介な手法。
ロバートは何度も被弾しそうになりつつ、
砲弾を殴り飛ばすという荒業で何とか凌いでいた。
「たまたま得意武器が無いと言ってそれだけの荒業。
……大した技量、大した胆力ね。
あなたの不幸は、そのたまたまが致命傷になる」
射撃を一気にやめて、斧を柄に戻す。
一気に接近戦で決着を着けようというのだ。
「ほざけ!」
今度はロバートが銃を抜き、応戦態勢に入る。
ずだだだん!
エイミング無しの五発乱射。ことごとく命中コースだが、
斧を盾代わりにして全て受け止めた。
こちらも凄まじい技量で、まったく遜色無い。
「くっ、やる!」
「あなたもね」
苦々しい顔のロバートに対し、どこか余裕のイノ。
やはり武装の習熟度にハンディがあると言って良かった。
(こうなったらゼロ距離射撃しかねぇ!)
だが、一気に距離を詰めにかかろうとしたロバートの横から、
負傷したはずのゲイリーが飛び出てきた。
「なんとぉぉーッ!?」
「誰が一対一だと言ったよ、小僧が!」
ゲイリーの弭槍の槍の部分が的確に肩へヒットした。
そこへ、イノの斧が脛に直撃する。
「がぁぁあッ!?」
人体急所を斬られ、勿論転倒、悶絶するロバート。
だが――
「捕まえろ、イノ!」
「分かってる」
「うがぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ロバートは残ったもう片方の腕で銃を乱射し、
大暴れでの抵抗を始める。その様はまさに傷付いた虎だ。
だが残念ながら銃弾はイノの斧で止められてしまった。
弾切れになるや否や銃を捨て、取り押さえようとした
ゲイリーを片腕だけで猛然と殴り倒す。
「のがッ!」
「ゲイリー!」
「つつ……俺の事はいい、そいつを何とかしやがれ!」
心配するイノを怒鳴りつけるゲイリー。
「大人しくして、これ以上傷付けたくない!」
「うぅぉぉぉああああああああ!」
しかし怒り狂ったロバートにはまったく届いていない。
勇気と同時に狂気と反逆を孕んだ彼の危険性への考慮が
まったく足りていなかったが故の失態だ。
片腕と片足だけで、コメツキムシのように跳ね回り、
隙も何も関係なく、とにかくゲイリーに殴りかかろうとする。
「うおおっ、何だコイツは!?」
ゲイリーが焦って防戦一方になる。だがそれでも殴られている。
「させない……!」
イノは殺す覚悟さえ決めて、再び砲撃モードに移行する。
ぼごん!
可能な限り接近し、ゲイリーを殴るのに夢中なロバートへ
近接砲撃を叩き込む。常人なら明らかに即死だ。
「がが……あぁ……!」
ようやく失神してくれたロバートに安堵しつつも、
その強力な力と、反逆精神に彼女は感服し、戦慄した。
「この力がもし味方になってくれるのなら……心強いけど……」
「いてて……そいつぁ無理な相談だぜ、イノ。
見ただろ、俺をボコる時のこいつの顔。
こいつは絶対、何者にも従わない性質のモンだ。
それぐらい、お前にも見て分かっただろ?」
「そう? 大人しくしていれば意外に愛嬌があると思う」
「お前、こういうのが趣味なのか? 理解出来ねぇ……」
「……こういうのが趣味って、何?
趣味って人探しの事を言うの?」
外の世界を知らないが故の微妙な疎さに、ゲイリーは困った。
「あー、いや、そういうのじゃあねぇんだが……
まあいい。イノ、こいつを応急手当てした後、
拘束して運ぶぞ。全身麻酔キットは壊れてないか?」
「大丈夫。殴られたのはあなただけだから」
「サラっと痛い事を言うなよ……」
こうして応急処置を受けた後、納豆巻きのように
ぐるぐる巻きにされて、ロバートは拉致された。
ザン共和王国内の隅っこにある、魔神王教団本部へと。
最終更新:2014年03月05日 00:10