第十一章-第一幕- 焦燥
勇者
ロバート=ストレンジャーは船を降り、
アーム城城下街にある
エナ=ギャラガーの家族の住まう
新宅へと急ぎ足で向かっていた。
随分長いこと、珍しく自宅に留まっていたが、
弟の顔も充分に眺め、ついでに母親の説教も受け続けた。
また放浪の日々が始まってもいいだろうと思っていたのだ。
そんな矢先に、例の黒いゲル状の物体がまた降ってきただの、
イグジスターと名付けただの、村が三つ四つ滅んでいるだのと
物騒な事を言われては、ロバートならずとも落ち着けるはずもなかった。
何よりエナの性格を考えれば放置しておくのは心配であった。
何かと気の弱い彼女の事だ、一人では恐慌をきたすかもしれない。
ウォルフ王子の事を信頼していないわけではなかったが、
やはり自分の手元で確実に守りたい気持ちが強かった。
……ふと、彼は足を止め、自分の荷物をチェックした。
手甲良し、銃良し……しかし、剣が無い。切り札なのに。
何故そうなったかを彼は歩きながら思い出していた。
そしてすぐに思い出した。親子喧嘩をまたやらかしたのだ。
その勢いでまた飛び出したため、剣を持って出なかった。
己の迂闊さを悔いつつも、急ぐのを優先に決めた。
合流さえすれば、剣などいつでも取りに帰れる。
何だったら、そこらの店で調達してもいいだろう。
量産品でも数回の戦闘になら耐え得るはずだし、
次期総帥権限というもので後払いも可能なはずだった。
それでなくても馴染みの武器屋もいるのだから、と、
意外に理性的に考えてロバートはまた急ぎ足になる。
すると、
オートタクシーと呼ばれる無人車両が通りがかった。
大人数だと使えないが、一人なら便利なツールだ。
「ヘイ、タクシー!」
お決まりの文句で呼び止めると、ロバートは飛び乗った。
「お客様、どちらまで?」
機械音声が対応する。
「アーム城まで頼む。交通法に抵触しない程度に急いで、な」
「承りました」
わざわざ歩いていくよりこちらの方が断然速い。
領収証を後で発行してもらおう、と思いつつも
オートタクシーは交通法ギリギリの速度をキープしつつ、
アーム城へ一気に向かうのであった。
「ナビゲータシステム。到着予定時刻は?」
「あと、七時間ほどです」
「そうか」
それ以上特に訊く事もなく、ロバートは押し黙る。
七時間は決して短い時間ではないが、
旅する時間としては決して長い方ではない。
仮眠でもとっておくのが良かろうかと、
ロバートはうつらうつらし始めた。
ずどがん!
その瞬間、地響きと爆風によってロバートは叩き起こされた。
「ちいっ、何だ!?」
「不明。大量の熱エネルギーを検知」
ナビゲータシステムは無機質な声のまま応じる。
ずどごぉぉん!
車体に直撃弾である。どうやら砲撃が行われていたようだ。
黒煙をあげ、機能を完全停止したオートタクシーを捨てて、
ロバートは銃を構えて応戦態勢を取る。
「甘いんだよ、小僧!」
すると後ろから襲撃。
魔神王教団の
ゲイリー=ダーンだ。
「甘いのはどっちだ、馬鹿が!」
銃で殴るのをやめ、拳で殴りかかるロバートだが、
ゲイリーは距離を取り、弓で射撃してくる。
「何だ、その変てこな武装は!?」
ゲイリーが持っているのは、弓に槍を取り付けた武装であった。
「弭槍(はずやり)ってんだ、珍しいだろうが」
「そんな見た目だけの武装が何の役に立つってんだクソ野郎が!」
「うおッ!?」
ずどん、ずどん、ずどん!
一気に距離を詰めて、拳打を叩き込んだロバートに、
牽制砲撃が叩き込まれる。かなりの精度で何発かは
本気で狙いに来ていると見て良かった。
「あの砲撃は違う奴……二対一かッ!」
一度距離を置いたゲイリーに代わり、
同じく、魔神王教団の
イノ=ヘレティックが斧を持って現れた。
「勝負よ、ストレンジャー」
「……何モンだ、手前ェ等は!
今の俺ぁ急いでンだ、邪魔するんならブン殴るぞ!」
思わぬ襲撃に苛立つロバートだったが、
イノは一対一の構えを取り、斧をロバートに向けた。
いずれは世を揺るがす両雄の、これが最初の出会いであった。
最終更新:2012年03月06日 16:19