第十一章-第三幕- 仄暗き闇の中へ
ロバートは、
魔神王教団のイノとゲイリーに猛然と抵抗したが、
その結末としてはあえなく捕縛され、しかも拘束された挙句、
ご丁寧なことに全身麻酔までかけられて、
ザン共和王国領土内の隅っこにある
魔神王教団本部施設へと、
見事に拉致されてしまったのであった。
「起きろっ、おらッ!」
ごすッ!
拘束服の上から蹴られ、ロバートは目覚めた。
蹴飛ばしたのはゲイリーである。
ちょうど麻酔も切れた頃合なので、ごく自然の事であった。
「蹴りやがったのは手前ぇかオラぁッ!」
どごむ!
「うぎゃっ!?」
覗き込んだのをいい事に、猛然と頭突きを見舞うロバート。
拘束服まで着せられてなお、この抵抗振りである。
むしろイノは頭が下がるような思いであった。
その往生際の悪さは戦士の資質として欠くべからざるものだからだ。
ロバートの強さの秘密を、一つ垣間見たような気がした。
だが、流石のロバートも過剰にぐるぐる巻きにされた上に
拘束服まで着せられてはそれ以上の事は出来なかった。
「まずは部下の非礼を詫びようか? ロバート君」
エッセ教皇がロバートに呼びかける。
「誰だ、手前ぇは! 俺をこんな所に連れて来させたのは貴様か!」
「そうとも。まあいきり立たずに聞きたまえ。
ここは魔神王教団の本部施設内だ。
そして私は教皇
エッセ=ギーゼン。覚えておくといい」
「魔神王教団? 宗教関係者って事か。要は犯罪者のたまり場か」
「それも魔神王様が復活するまでのこと。魔神王様が
我等の手によって復活した後は、この組織は解体される」
「我等の手、だと? アレが人の手で
どうにかなるモンじゃない事ぐらい、
いくらバカでも分かる話だろうが。貴様は本当のバカか?」
「黙れ」
サキが鎌をロバートの首に突きつけてくる。
ターレットが自分と同じ以上の目に遭うのではないかと
戦慄しながら見ているが、サキは特に気にしていない。
「説明途中だ。まだ手は出すな、サキ」
エッセの制止に、サキは鎌を黙って鎌を引く。
「大地のエネルギーを大きく循環させ、生態系を活性化させる。
さしあたって食物連鎖の頂点の一つに達し、無駄に数だけは多い
人類を埋めて大地を豊潤にするのが近道だという結論なのだ。
つまり、私の後ろに見える墓の山の意味は、分かるな?」
「……人殺し共が!」
「ロバート君。それは違う。君は少なくともシドミード国王を殺し、
そして
シドミード王国を滅ぼしたはずだ。君も同類だよ」
「どうせ放っておいてもいずれは復活する魔神王を
急いで復活させるためだけに人を殺す貴様と、一緒にすんな!」
「最終目標は
惑星アースの平穏だよ? 君と何が違う?」
「ざけんな! 誰が手前ぇ等に平穏にしてもらいたいっつった!
俺が歩むのは反逆の人生だ、俺の人生にレールを敷くな!
本当に世界を平和にするつもりがあるんだったら、
イグジスターの一つや二つ、ぶっ潰して見せてからほざけ!」
その台詞を聞いて、ソルがピンと来た顔をする。
(この男もイグジスターと敵対しているのか。ならば利用可能かもな)
そしてソルは、エッセに耳打ちする。
「教皇。この男。イグジスターへの番犬代わりに使えませんか?
ただ殺したり人質にしたりするだけでは、芸がありますまい」
「なるほどな。それには一理ある、交渉はしてみようではないか」
ソルは内心、その一言に安堵した。
自らの手駒として使える兵が増える分には大歓迎なのだ。
まして相手は、人類史上最強の私設軍筆頭である
勇者軍の
リーダーだ。使えるなら使うに越したことは無い。
エッセはソルの意を受け、諭すようにロバートに語りかける。
「さて、では君に要求を伝えよう。聞いてもらえるかね?
聞いてもらえない場合は、黙ってこのまま人質になってもらうか、
あるいは他の者と同じく、大地の養分となってもらうかだが」
「言えよ、聞いてやらなくもねぇぜ」
「君をこの魔神王教団において、対イグジスター隊長として
迎えるため、幹部候補生になってもらいたい。
君のその力を、君が言うようにイグジスター相手に振るおう」
「それが本音かよ。流石に馬鹿じゃなかったようだな。
アレを放置すれば危険な事ぐらいは知ってやがったか」
「正しくは最近理解した、というべきだね。
魔神王様を迎え入れるための惑星アースに、
あのような不浄物は残しておけぬ。言う事を聞きたまえ。
むざむざその若さで死ぬ事を選ぶ事もあるまい」
すると、ニヤリとロバートは笑う。
「いいぜ。乗った。あのクソ野郎共は心底気に入らねぇ。
アレと戦えるんだったら場所の是非は問わねぇ。
ただ、剣は貸してはくれねぇのか?」
「あまりに調子に乗らない事だ、認めたとしても
君はまだ候補生に過ぎない。ここにいるイノやゲイリー、
ソルにサキ、ターレットなどより格下なのを理解したまえ」
「ちっ……分かったよ」
実は内心彼の心臓はバクバクいっていた。
心中を表現するならこんなところである。
(こんなザル演技だ……頼むからこの中に
エスパーはいねぇでくれ。
俺の心中を読まないでくれ……バレたら流石にマズいんだよな……)
自分が大根役者だという自覚はあるらしい。
ともあれ、懸命の演技の甲斐あって、ようやく拘束を解かれ、
施設内の案内を、自らを攻撃したイノから受けるロバート。
「とまあ、大体そういうところ。分かった?」
「分かった」
「あと……」
「どうした?」
珍しく歯切れの悪いイノの態度を訝るロバート。
「近接砲撃なんか浴びせてごめんなさい。痛かったでしょう?」
「おう。効いたぜ、だが負ける経験も大事なモンだ。
自分より強い相手がいると自覚するのは悪いこっちゃねぇ」
「別にそういうわけじゃない。あなたが本調子じゃないから。
きっと、あなたが本気を出せたなら、互角だったはず」
「……そうか? まあいいや。よろしく頼むぜ、ヘレティック」
「イノでいい」
人を殺さずに済んだ安堵感からか、落ち着いて応じるイノ。
こうしてロバートは魔神王教団幹部候補生として
魔神王教団に形だけは入信という形となった。
それがどういう結果をもたらすかは、誰も知らないままに。
最終更新:2012年03月19日 20:52