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第十三章-第三幕- そして毒は、猛毒へと化す





エリックがイグジスター擬態嫌疑のある長男、グロフィスを連れて
アーム城に駆け込んできた事によって、
アーム城内は一気に緊張感を高める。
急遽特注で車輪の付いた出来る檻付きの隔離用荷台を用意し、
未だあどけなさを残すグロフィスを完全隔離するに至った。

もしこれがまともな人間なら人道的に問題があるし、
本人にもトラウマになるかもしれない。だがイグジスターは
そんな生温い事を言っていては
もっと多くの人間を殺傷する危険がある。
その嫌疑がかかっているのに、
むざむざと外に出すわけにはいかなかった。
「ごめんな、ロフ。もうちょっと我慢してろよ。
 お前は、今外に出ると危ないから、ここで我慢するんだ」
「?」
理解していないような顔ではあるが、父親を信頼しているのか、
納得したような顔で、しかしつまらなそうに同意する。
遊び盛りだ、無理も無かろう。
ただし、まともな生き物であればの話だが。
流石にこの扱いにはたまりかねて、エリックも陳情する。
「王子、ロフの扱いはどうにかならんか?
 俺達はいいが、他所の連中に見つかると
 要らんバッシングを受けるぞ」
「言いたい人達には言わせておけばいいのです。
 それともあなたは、むざむざ私の部下や自分の部下を
 危険に晒しておけと? これは最大限の譲歩です」
「分かっている……分かっているが……!」
「落ち着いてください、エリックさん。
 そのような調子では、彼がもしイグジスターだった場合、
 自らの手で討ち取る事など出来ませんよ?」
「俺に直接……手を下せと、敢えて言うのか?」
「親ならそうありたいと望むものではないのですか?
 そう決心したからこそ、危険を顧みず、
 自らの胸に抱いてここまで連れてきたのでしょう?」
「……それはそうだ……が……!」
苛立つエリックに、エナはたまらずオロオロする。
「分かっている。俺より王子の方がよほど冷静だ。従おう」
「流石の自制心ですが、情に流されすぎないよう、お願いします。
 人目につく時は、場所を移しておくしかないでしょう」
「ああ……!」
二人の間で話がまとまったので、ようやくほっとしたエナ。

ピピピピピピピ!

するとそのタイミングで、甲高い電子音が聞こえる。
ホットラインが稼動しているのだ。
国賓級の相手から通信がかかってきた事になる。
ウォルフ王子がストレスに疲れた顔のまま、応じた。
「こちらアーム城のウォルフです。どちらで?」
『わらわじゃ! アンリなのじゃ! 王子、無事か!?』
溌剌とした少女の声が聞こえる。
元シャンゼリー王国王女、アンリエッタ=スターリィフィールド姫。
勇者軍メインメンバーであり、頼りになるメカニックでもある。
「おお、アンリ姫! 元気そうで何よりです。
 私やエナ、エリックさんは無事ですが……エリックさんの子は……」
『……残念な話なのじゃ。それにロブは……』
「ええ、捕らわれています。エリックさんの子に比べれば、
 クロカゲさんも捜索に動いてくれていますし、
 様々な状況から、まだ楽観的な状態だと見ています。
 なので、そちらはロバート本人の決断に任せます」
『ウォルフ王子、大変なのじゃな。声が疲れておるぞ』
「ええ、流石に少し……エリックさん?」
「俺に応対させてくれ! エナ、映像も出せ!」
「は、はい!」
慣れない手付きで映像も出力させる。
互いのモニタにお互いの姿が映る。
アンリ姫の後ろにはメゴ=アイゼンカグラ副官の姿もあった。
『どうしたのじゃ、エリック殿』
すると、モニタの前に土下座するエリック。
「すまない、アンリ姫。我が生涯最大の頼みになりかねん!
 重責とは思うが、俺の頼みを……どうか聞いてくれ!」
『……申してみよ』
「アンリ姫からもイグジスター識別装置の開発を頼む!
 アンリ姫の技量や技術を見込んでの頼みだ、
 そして俺に、グロフィスに引導を渡すかどうかの
 決断を後押しする手伝いを、その腕で手伝ってくれ!
 頼む! どうか頼む! この通りだ……ッ!!」
ガンガンと床に頭を打ち付けて懇願する。
『エリック殿……』
見ていられない、という面持ちだったが、
自分も仇敵を討つのに助けてもらった経緯もある。
決断は即座に近いものであった。
『分かったのじゃ、エリック殿!
 我が技術が今役に立つのならやってみようではないか!
 ツレの覚悟が分かった以上、わらわも覚悟を決めるのじゃ!
 だがもし、自らの手で子を討つのが辛ければ、
 わらわに頼っても良いのじゃぞ、エリック殿?』
「もしその時はそれには及ばん!
 自らの覚悟は自らで責任を取るまでの事!
 我が妻もそれを承知しておる故に!」
『よく言ったのじゃ! それでこそわらわのツレなのじゃ!』
むしろ快活とした表情でアンリ姫は言う。
「もういいですか、エリックさん?」
「あ、ああ。王子、すまない」
エリックは受け入れてもらえた事に満足し、素直に退く。

だが、話はそれで終わりではなかった。
「アイゼンカグラさん、いいですか?」
「はい」
仕事をやめて、アイゼンカグラは姿を前に出す。
「あなたの現在の仕事は?」
「知っているのに訊くのね、悪趣味な人。
 王族のくせに趣味が悪いとか、どうかと思う」
相変わらずの毒舌である。
「アンリ姫の護衛ですよね……確認したまでの事です。
 あなたは既にダイギン共和国の重臣ではありますが、
 アンリ姫と行動してもらうなら、勇者軍に参入する方が
 都合がいいかと思われます。この際なので、どうです?」
「何度も言わせないで。分かっている事を訊くな、と。
 姫がここにいる以上、是があっても非などあり得ない。
 それが私の忠よ。好きにしたらいいわ。このボンボン」
「は、はい。では、そのように……」
自分に向けられるとは思っていなかったその毒舌ぶりに
少々冷や汗をたらしつつ、なんとか笑顔で応じるウォルフ王子。

『おお、そう言えばエナはおるかの?』
と、ずずいと前に出てアイゼンカグラを押しのけるアンリ姫。
「あ、はい。ここに!」
慌てて前に出てくるエナ。
『ロブがおらぬでも気を落とすでないぞ?
 わらわが、そちの味方をしてやる故にな?』
「き、気落ちなどしていません!」
慌てて顔を真赤にして全否定するが、意味が無い。
『照れずとも良い。わらわに反逆の意思が芽生えたように、
 そちにも絶対反逆の魂が既に根付いておるのじゃ。
 そちはロブの愛弟子であろう? 自信を持たれよ!』
「反逆の魂……」
『わらわもそちも、ロバートの毒が感染したのじゃ。
 もしやと思うが、マリーはもっと早くそうかもしれぬし、
 捕らわれた先でも、誰かを毒にかけておるかもしれぬぞ?
 痛快な事ではなかろうか? のう、エナ?』
「はい……」
曇りがちだったエナの顔に生気がじわじわと戻る。
それを見て、飼い猫のポメもどことなく嬉しそうだ。
『どこの誰がわらわ達の隊長殿を連れ去ったのか知らぬが、
 人類史上最強の私設軍筆頭にして、
 勇気と、技と、機智との象徴、
 絶対勝利かつ絶対反逆の勇者である、
 ロブの反逆の意思が屈服するはずがないと、
 五臓六腑から臍下丹田に至るまで、
 まんべんなく思い知らせてやろうぞ! 壮絶にな!』
「ええ……壮絶なる反逆を、私達の手で!」
恐ろしく物騒な言葉を吐きながら結束を高めるエナとアンリ姫。
同じ人間に救われた境遇が、彼女達の信頼を高めていた。

ロバートの反逆と、エナの反逆。
二つの反逆が、少しずつ再び交わろうとしていた。
それはか細いながらも、実は恐ろしく強い蜘蛛の糸のようであった。



最終更新:2012年03月19日 21:01