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第二十七章-第二幕- 悪意、再び





勇者軍は、魔王城を擁する無人島群に到着した。
久しぶりにじっくり休んで、しっかり体調を整える事が出来た勇者軍は、
そこに集まっている多種多様な生物の群れに改めて見入っていた。
こうして見ると、魔神王の作り出した
ナインサークルというものは壮観である。
「えっほ、えっほ、えっほ」
金属部品らしきものを元気一杯に運んでいるドワーフ達。
何やら愛嬌もあるが、荘厳な雰囲気も思わせる。職人魂というものか。
「おーらよ!」
「おし、もうちょい右だー!」
その横ではジャイアントやサイクロプスといった巨人の仲間が、
人間が乗り込むために作る
ライディング・アーマーを組み立てたりしている。
サイズ的に、まさにちょうどいい割り振りと言っていいだろう。
「あはははははは」
「そーれっ」
その横では、水の精霊や風の精霊達が大地に恵みを与えて、
食料品のサイクルを早めていたりする。
たまにぴょこっと姿を見せる大地の精霊も礼を述べたりする。

そのまた横では人間が兵舎を組み立てたりしていてせわしない。
ストレスなどを魔族が、連携による
高揚感などを神族がツマミ食いしつつ、
竜族や竜王であるヴァジェスなどと協議を交わしていたりする。
怪物族も作業に参加しており、主に建造物の建築に当たっていた。
サバイバビリティが高いだけに、まさしく適任である。
「うーむ、カオスな」
その異様な光景にウォルフ王子が唸るも、
ロバートやカイトは意にも介さない。
「何がカオスか。この程度の事は
 過去の歴史で幾度となく繰り返された。
 ……まあ正直、ここまで大規模な連携だと
 前例が少ないかもしれんが」
「だね」
ローザはローザで料理を振る舞っていたりして
しっかり手伝ってしているし、
マリーは教官代わりに、他の種族に戦闘技能を叩き込んでいる。
ウォルフ王子も先程までは協議に参加していた身だが、
特に変わった技能も持たないロバートとエナ、そしてエリックが
置いてけぼりを食らっている感じがあった。
「ううむ、正直退屈になってきたところだ」
「ですよねー」
エナはポメをそっと地面に降ろしてやる。
「ほら、妖精族のみんなと遊んでくるといいですよ」
「にゃうー」
同じく暇を持て余している妖精族の子供達に向かってポメを放つエナ。
ごろごろじゃれて、どうやら楽しそうなので、それはそれで良い。

「しかしこうやって険阻の地で耐えるというのもしんどいわな、おっさん」
「待つのも仕事だ、という場合があろうからな」
「ですねー」
エナも同意し、三人はせめて食料調達に貢献でもしようと、
慣れない釣竿を垂らしてくっちゃべっているのであった。
「お、釣れたか」
ざばっ!
豪快にエリックが釣り上げたのは
あんまりおいしそうには見えない青い魚。
こういう島ならよくいるだろう熱帯魚だと思われる。
「これ、食えんのか?」
「知らん」
そう言いつつ、エリックはクーラーボックスに魚を放り込む。
「お、俺もかかったか」
「わぁー、みんな早いですねー。私も頑張らないと」
ざばんっ!
これまた派手にロバートが釣り上げたのは機雷だった。
「ってオイ!」
ずばごん!
「くっ!?」
接触信管が反応し、爆発する機雷。
正直距離があるとはいえ、
なびきマントでとっさに二人を庇わなければ、
ロバート共々、軽傷ぐらいは負っていたかもしれない。
「なんでこんなモンがあるんだよ!?
 魔王達が仕掛けたのか!?」
「いえ、ちょっと待って下さい!」
怒鳴り込もうと意気込むロバートを制止するエナ。
異様に巨大な黒い影が水中に見えたからだ。
それは次第にしぶきをあげて浮上する。

ざっばぁぁぁぁぁぁぁあん!

「なにっ、潜水艦!?」
そう、結構なサイズの潜水艦が水中から静かに接近していたのだ。
ビーッ!
そして手持ちのイグジスター識別装置に反応がある。
それはすなわち、この潜水艦が今イグジスターに襲われているか、
あるいは既に全滅して、完全に乗っ取られているかだ。
レア・ケースだと言っていいだろう。まったく想定外だ。
しかも脱出封じとばかりに機雷をばら撒いたのはこの潜水艦らしい。
「ハッチが開くぞ!」
エリックが警告する頃には、ローザもマリーもみんな来ていた。
魔王だけは本陣死守という事で控えてもらっているが、
イグジスターが来るなら全力応戦しなければならない。
「ぎぎぃぃぃぃッ!」
ハッチが開くと同時に、多数の擬態、原型問わず、
イグジスターが出てきた。かなりの数だが、
数万という凶悪な単位ではない。せいぜいが千というところだ。
やはり潜水艦という乗り物に乗る数としてはそれが限界なのだろう。
ウォルフ王子はまず万一のための脱出ルート確保を急ぐ。
「すみませんが、マーメイド、ウンディーネ、
 その他水を得意とする方々は水中に潜り、
 周辺に張り巡らされた機雷の全除去をお願いします!」
その指示に精霊族や亜人族が一斉に動き出す。
「ちいっ、イシターがいれば……!」
ヴァジェスは今ここにはいない妻の名を呼び、そして嘆く。
彼女は水竜。竜形態でいさえすれば、水中は彼女の領域だった。
「一人たりとも犠牲者を出すな! エリミノイド、出撃!」
兵器工場から出来立てのエリミノイドが多数リリースされる。
「よし、続けてオートタレット、設置開始!」
自動設置砲台が大地の妖精などの手によって設置される。
このオートタレットはイグジスター識別装置を内蔵しており、
高精度のオートガトリングガンとして、
周囲のイグジスターを薙ぎ散らす。
乗り物にはダメージを与えたくなかったので、
戦車を持ち出すよりは適切だろう。
「ようし、竜族、亜人族、続けぃ!!」
ヴァジェスの指揮で巨大さを活かした、
丸呑みなど許しもしない戦術で
イグジスターは少しずつではあるが、叩き潰され始めた。
「神族、魔族を予備戦力として温存、続けて怪物族、続け!」
ロバートの指揮によって、空中戦を得意とするグリフォンなどが続く、
「よし、俺達も出るぞ!」
エリックの指示でエナやマリー、ローザなども動き出す。
たちまち、多数のイグジスターが叩きのめされ、藻屑と消える。
「まだ切り札は残ってる……ガンシップ、リリース!」
カイトの指示によって、兵器工場から
自動飛行攻撃船、ガンシップが放たれた。
こちらも識別装置を積んでおり、イグジスターのみを攻撃する。
元はエリミノイドと同じく、禁断の非人道兵器だったものであるが、
こうして味方に付けば、恐ろしく有能な遺産であった。

ナインサークルの技術と理論、実力と知恵が総結集され、
天の時、地の利、人の和さえも内包した
難攻不落の要塞と化した魔王城に、
わずか千いくらで乗り込んでくるなど、愚の骨頂であった。
だが、そんな中、イグジスターの片隅に女性の姿が見えた。
「大した粋がりようだ。下位種の分際でな」
「手前ェ、エッセ=ギーゼンか!? なんで生きている!」
そう、姿形はまさしく魔神王教団教皇エッセ=ギーゼンそのものだ。
だが彼女は死んだはずだ。以前の激戦によって。
「そうか、君達がこのボディの持ち主を始末したのか。
 だが遺体を埋葬しなかったのは迂闊だったな。
 これほどのボディ、そう得られるものでもない。幸運だった。
 では、イグジスター五滅将が最後の一人、
 エッセ・イグジスター、今後の禍根を
 絶たせてもらいに、参る!」
エッセ=ギーゼンはイグジスターに遺体を丸呑みにされていたのだ。
「力を解放する。カース・プレデター!」
呪文を使い、周囲に漂う討たれた擬態イグジスターの
元の身体の持ち主、その怨霊を味方に付けるエッセ・イグジスター。
まさしくやり口が以前と同じ、悪夢の再来である。
「本当にイグジスターに成り下がってやがったか、畜生め!」
モノが霊的攻撃だけに、亜人族や妖精族、怪物族の多くが
手に負えず、たちまち多数の兵士が攻撃を受けて倒れ伏す。
その勢いに乗り、イグジスターもサイズ的にちょうど良さげな
人間達を呑もうと、隙を伺っては狙ってくるため、
勇者軍一同はそちらの処理に忙殺されてしまっている。

「ふははははは! 無様な醜態を晒しおる、
 手が少々足りぬぐらいでそのうろたえよう、無様な!」
「黙りやがれ! 手前ェ、今度こそ粉微塵に消し飛ばしてやる!」
ロバートは凶暴性を剥き出しにし、
一直線にエッセ・イグジスターに向かう。
「体術もこなせる、甘く見ないことだ……!
 手をこまねいたまま、自軍が消耗するさまだけ見ていれば良い!」
この悪趣味さ、流石はエッセをベースにしているだけの事はある。
性格までそっくりで本当に反吐が出る、とロバートは考える。
だが追い込まれているのは事実で、決定打を出す機会が見えない。

戦況を打開するだけの何かを待望しつつ、
ロバート達はエッセ・イグジスターの卓越した技量と戦術一つに、
思いがけず翻弄されつつあった……



<第二十七章-第三幕- へ続く>
最終更新:2012年07月02日 21:23