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第二十七章-第三幕- スパルタンスピリッツ





魔王城に滞在し、束の間の休息を満喫する勇者軍だったが、
突如少数にて乗り込んできたイグジスター五滅将最後の一人、
エッセ=ギーゼンを元にしたエッセ・イグジスターの登場により、
決め手を繰り出す暇をもらえず、
勇者軍との戦闘は膠着状態に陥っていた。
「ふははははは! 手が出せまい……!
 イグジスターの体力は無尽蔵だ。
 このまま粘り勝ちしてくれるわ!」
「ちいッ!」
他のメンバーもそうだが、ロバートもまた剣を抜く暇をもらえず、
怨霊を薙ぎ払い、迎撃するのに精一杯となっていた。
これで死者が出た日には、更に怨霊が増えることになってしまう。
そうすれば更に火力が増大し、追い込まれるのは必定だった。
敵の技『カース・プレデター』に対抗する最善の策は、
とにかく彼女の周りに浮遊する怨霊を増やさないことのみである。
大規模呪術で事前準備も必要なのは人間の時の話。
総合火力で劣るとはいえ、イグジスターになってからは
そういうリスクも無視して放ってきているので、始末が悪い。

「やむを得ん、少々の犠牲は覚悟の上で、切り込むか……!?」
マリーが判断に悩みつつ、怨霊を打ち払う。
「悩め、惑えぃ! その隙こそ我が利点となるのみ!」
エッセ・イグジスターは調子に乗って供給する魔力を増やした。
怨霊の動きが更に活発になり、より始末に負えなくなる。
「やむを得ん! 切り込むぞ、ロブ!」
「分かって……何だ?」
エリックの意思に頷こうとしたロバートが何かを発見した。
「きゃんっ」
何やら子犬のようなものが
エッセ・イグジスターに静かに近寄り……
がぶりッ!
物凄い勢いで盛大に噛みつき、捻り、抉り切る。
「おがぁあああああああッ!?」
そして集中を切らし、一気に呪術を解除され、
無様に転倒するエッセ・イグジスター。

「お見事ね、クロ」
そう言ってパラシュートと共に現れたのは、
イノ=ヘレティックとレオナ=タブーフィールダー。
共に魔神軍メインメンバーの二人である。
「イノ! レオナもかよ!」
「お久しぶりっス、ロバート隊長!」
驚愕の声をあげるロバート、反逆したとはいえ、
五体満足での再会に喜ぶレオナに一瞥もくれず、犬を撫でるイノ。
「後でおやつをあげるからね」
「わふっ」
黒い毛色のポメラニアンの子犬を優しく撫でるイノ。
どうやらこの子犬、遺伝子調整動物らしい。
「エッセ=ギーゼン。死んでなお
 イグジスターに成り下がってまで、
 私の行く先に偶然とはいえ、現れるのね……今度こそ、潰す」
イノはその宿命にまったく動じる事もなく、全てを受け入れて、
砲斧アックスボンバーを構えて
真っ直ぐエッセ・イグジスターを攻撃する。
「ぐぐっ……小娘めが!」
「あなたは所詮イグジスター。
 あの時の熾烈な激闘を知る由も無い。
 だから、あの時のあの戦いの再現を、
 その身と、その死をもって見せる」
イノは至極冷静に言い放つと、レオナに指示を出す。
「レオナ。ナノ・マシンを。もう一部の隙もやらない」
「はいッスー!」
レオナが久しぶりにナノ・マシンを展開すると、
エッセ・イグジスターや他の敵の五感が撹乱され、
それが勇者軍やその友軍の勢いを助長する事になり、
一時的に止まっていたイグジスターの駆逐を加速させる。

「勇者軍。魔神軍リーダーの権限において要請する。
 あの時の再現だというなら、あなた達の力は欠かせない。
 是も非も無いでしょう、手を貸しなさい」
「誰に向かってほざいてやがる! だが乗ってやるぁ!」
ロバートはマリーの封印解除を待ち、エネミーイーターを抜き放つ。
(ただしその際にまた自分の愛剣をブン殴っているが)
「一回死んでも諦めねぇなら! 二回地獄に落とすまで!
 二回落として諦めねぇなら! 諦めるまでブン殴る!!
 再現反逆ストレンジャー!! もう一度地獄を見て来やがれ!」
ロバートはエネミーイーターを振りかぶり、
エッセ・イグジスターに斬りかかる。
その力を受け、エッセ・イグジスターの手足が食いちぎられる。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃ!」
「……消えて」
そう言い放つと、斧で脳天から切り裂き、続けて横薙ぎに一撃、
更にもう一度構え直して再度脳天から斧を叩き込んだ後、
斜めにX字への斬撃。一切の躊躇無く、砲撃モードに移行し、
またも口の部分へ砲撃を一斉射。たちまち頭蓋から消し飛び、
イグジスターとしての生命維持の限界を向かえ、飛び散り、
すぐに消え去ってしまったエッセ・イグジスター。
「…………終了よ」
それだけ言い放つと、一瞥だにせず振り返るイノ。
そんなシリアスなシーンだというのに、
エナは空気を一切読まず、愛猫を頑張って呼ぶ。
「ポメちゃん、どこですかー!?」
すると、愛猫ポメと、ポメラニアンのクロが一斉に寄ってくる。
「にゃんにゃん!」
「わん、わん!!」
「え、えっ!?」
戸惑うエナを見て、レオナが苦笑する。
「クロ、そっちじゃなくて、こっちスよ!」
すると『クロ』アシネコのポメと、ポメラニアンのクロが
一斉にレオナの方に駆け寄ってくる(ポメはレオナの知己なのだ)。
「ああもう、紛らわしいッスね!
 ポメ、あんたはあっち!
 クロ、あんたはこっちッスよ!」
レオナはポメをエナの方にぽいっと投げてやる。
「お前なんであんな紛らわしい名前
 付けやがったよ!? 変えろ、すぐ!」
「そっちの方が紛らわしいだけ。変えるならそっちよ」
イノはロバートの猛抗議にも一切妥協しない。
こういう頑固なところは、まったくロバート譲りの反逆精神である。

「で、お前達は一体何なのだ?」
戦闘が終わり、潜水艦に潜伏したイグジスターがいない事を
確認し終えた魔王サタンが、イノに話しかける。
「私達は勇者軍のカウンターとなる組織として設立された、
 元魔神王教団信者を中心とした新設の私設軍『魔神軍』。
 アルファに対する魔神王のようなものだと思ってくれていい」
「勇者軍の丸パクリをすることで、
 すっごくスムーズに設立されたッス!
 色々機密情報を持ち逃げしたあたしの尽力の賜物ッスね!」
「いや、偉そうに言われても困りますけども」
ウォルフ王子が困りまくった顔で言う。
「ロバート。あなた達と、ウチの部隊が何度か衝突していると、
 ノーラから聞いている。それは本当だと認識していいの?」
「なんだ、お前の差し金じゃねぇのかよ?
 まあ、意見の相違だってのは間違いねぇが」
「そう……概ねみんな指示通りに動いてくれていたようね。
 けれど、この状況、もういつまでもいがみあってはいられない。
 そんな生温いことをやっていられる状況でもないようだから」
クロを抱き上げ、撫でながらイノは言い放つ。
「って、やっぱりお前の差し金かい!」
ローザがツッコむが、やはりイノは聞いていない。
「ロバート、竜王ヴァジェス。そして魔王サタン。
 魔神軍は、これより全面的に協力体制に入らせてもらう。
 意見を否定する要素があるなら、黙って手を挙げて」
「……無ぇよ」
ロバートもそうだが、特に誰も手を挙げなかった。
当然である。勇者軍並みに使える人材達が
こぞっていがみ合いをやめ、協力しようと言っているのだ。
否定する材料は無い。まったく無い。
「そう。じゃあ会議室へ案内して。ウォルフ王子も来て欲しい。
 政治的な折衝とかは、ロバートには不向きなのは知ってるから」
「あ、はい!」
ヴァジェス、ウォルフ王子、魔王サタン、そしてイノ等は
すぐに会議室へと向かって歩き出した。

「なんか、元々愛想のいい方じゃなかったとは思うが、
 ますます無愛想になってやがるな。
 前は可愛げもあったと思うが」
ロバートはいささか、扱いの雑さに不機嫌になりつつ、ぼやく。
「いんや、そうでもないと思うッスよ。
 こうやって動物を飼い始めようとしたのもイノちゃんだし、
 スパルタンな感じなのは、
 重圧に耐えるためのポーズだと思うッス」
「ふん、レオナか……お前がそう言うならそうなんだろう。
 この数ヶ月、随分としんどい戦いを強いられたようだしな」
「へへ。でも勇者軍と同じように上手くやるッスよ。
 元勇者軍だってんで、色眼鏡でいる人も多いッスけどね。
 そういう分からず屋には、実力で示すだけッスから」
レオナの相変わらずさに、ロバートはふと、苦笑する。
「流石だな。イノも、貴様もな」
「へへー」
どや顔をするレオナ。
元気が有り余っていそうなその様子に、
気苦労をしているのではないかと
心配していたエナなどは露骨に安心した。

勇者軍、魔神軍、そしてその他のナインサークルの連合軍。
これら全てが総力を結集し、ほんのかすかな戦力で
億を超える兵力を誇り、しかも随時補充されるという反則集団の
イグジスターに対する、虚しい抵抗が始まろうとしていた。
こんな局地戦での辛勝など、大局に何の影響も及ぼさない。
その現実を知っていながら、誰一人として諦める様子は見せていない。
そして、戦いは激化の一途を辿り始める。



<第二十八章-第一幕- へ続く>
最終更新:2013年08月29日 23:18