終章-第二幕- 復興の中で
イノやレオナが新たなる人類の系譜として
存在を認められた中、他の人員はそれぞれに帰郷したり、
復興に貢献したり、調査に忙しかったりしていた。
それぞれの復興の中で、皆、懸命に生きるのであった。
ローザは、ヴァジェスを見送りに行く関係から
竜宮城まで足を運んでいた。
そこでは久方ぶりに
ドラグーン化した竜族が、
極めて器用に木材を運んだりして、急激な出撃によって
損壊した建造物などを慌しく修理していたりする。
有翼である事を覗けば、その光景は人間と変わりない。
「おい、茶ぐらい飲んでかないのか。
あのシオンだってここに踏み入ったことはねぇんだ。
こんな機会、二度と無いと思っとけよ、ローザ」
「おうよ。そんじゃあちょっくらお邪魔すンぜ!」
と、竜王ヴァジェスの上に乗っかって笑うローザ。
さらりと出された先祖の名は特に意識しない彼女であった。
「おっ邪魔しまーっす」
軽い調子で中に入り、給仕の竜族から出された茶をすする。
「ふえー、広いなここは」
元が竜族、それもドラグーン化していない竜族のための
建造物である。サイズが人間のそれと違って破格であった。
まして城塞ともなれば尚更なのは当然である。
「本当にお疲れ様でした、
ローザ=カレン」
ドラグーン化した女性が話しかけてくる。
「おうよ……あんたは?」
「同じ戦場にいたはずですよ、ローザ。
私は
イシュタリア=リヴァイアサン。
ヴァジェスの妻です。初めまして」
「あ、そりゃどうも。失礼しちまいました」
ヴァジェスとはまた質の違うプレッシャーに押されるローザ。
「いえいえ。皆様
勇者軍のおかげで、またしても
夫は無事に生き残る事が出来まして……」
「奥さん、初対面でアレだが、そりゃ逆だわ。
ヴァジェスがいなかったら、俺は二回は死んでるぞ。
礼を言うなら俺の方が筋ってモンだろうがよ」
「まったくだ、感謝しやがれ」
ヴァジェスが正装し、ドラグーン化して戻ってきた。
「あんまり似合わねぇな」
「言ってろ。正装なんだよ」
その憎まれ口の叩き合いを見て、イシターはこっそり笑う。
「それで、あんたはこれからどうするよ、ヴァジェス」
「戦乱は一通り終わったようだからな。しばらくは内政に専念だ。
分かりきってる事だろうが、会う事もほとんど無くなるだろう。
ま、お前が結婚するようなことがあれば、顔ぐらいは出すが」
「ま、そうだろうな。
守護竜っつーのはそういう事だろ」
「お前はどうするよ、ローザ」
「今までと変わらんね。またテナントトラックでも借りて、
しばらく
ドネルケバブ売りでもして
バイトするさ」
「そうか……まあ、達者でな」
「おうよ。イベント以外で出会わない事を願ってる……
ってのも変な話だな。笑って別れるって難しいよな」
「干渉が過ぎるから道を踏み外しそうになる
カレン家の者もいた。
俺の立ち位置はこれでいいんだよ。竜王の仕事もあるしな」
「そか。ま、いつかまた会うとしようかね。茶、ごっそさん」
それだけ言うと、ローザはさっと立ち上がる。
「おうよ。まあ身体に気を付けて生きろや」
ヴァジェスもニッと笑い、笑って見送った。
その数日後、テナントトラックをレンタルして、
またドネルケバブ売りを始めたローザの前に、
ラケルとノーラがひょっこり顔を出した。
「ノーラ、アレ買い食いしようZE」
「駄目ですよ、ごはん食べられなくなりますよ?」
「おう、そこの! 買ってってくれよ!」
威勢良く声をかけ、そして驚くローザ。
「お前等か! 変な偶然があるもんだな?」
「HO! こいつはGOODなサプライズ! COOL!!」
と言いつつ、ドネルケバブ二人分を注文するラケル。
「あいよ、60ゲル」
「あ、はい。どーぞ」
何故か支払いはノーラに任されてしまった。
「まいど!」
偶然はともかく、料理をしている時のローザは
やはり生き生きとしていた。
これもまた、彼女の復興への貢献の形なのだろう。
「城下街のメインストリートが渋滞!?
概ね予想されていた事でしょう、地元民は脇道に分散させて、
土地勘の無い者を優先させなさい!
無駄な渋滞よりマシです」
ウォルフ王子も
ザン共和王国の国内で、
先頭に立って陣頭指揮をしていたりする。
一斉に帰郷すると、一時的とはいえ交通バランスを著しく欠くので、
その調整に大わらわの状態であった。
事情が事情なので、カイトとマリーも駆り出され、
今は一時の休憩を挟んでいる最中であった。
「とはいえ、休んでいる暇は無いのだがな」
マリーはぼつり、と忙しさにげんなりして呟く。
「おや、君が弱音とは珍しいね、マリー君」
「これだけの人員リストの整理だ。検問を張って
きっちり生還者の確認をするだけでも人手が足らん。
予備役を駆り出してまだこれだけ時間がかかるのなら、
一時的に特務戦技教導隊にも来てもらいたいぐらいだ」
「あはは、確かに」
カイトはあっけらかんと笑う。事務処理はお手の物だ。
その戸籍確認のための検問で渋滞が起こっているのだが、
今後の復興のためにもこれは避けられない通過儀礼だ。
誰が死に、誰が生き残ったのかを各々に自覚させる必要もあった。
それが死んだ者に対する、唯一の手向けになるのだから。
「ふぅー、流石に疲れましたね」
汗を拭き拭き、ウォルフ王子も即席の休憩室に現れる。
「ご苦労な事だ。王子自ら陣頭指揮に出ずとも、
民政部の連中にでもやらせておけばいい。
日頃好き勝手に王政部を傀儡扱いしているのだからな」
つっけんどんな態度でマリーが嫌味を言ってくる。
「王子でも何でも使える人手は使え、って事ですよ。
事が落ち着くまでは、しばらく続くでしょうね」
ウォルフ王子はぐびぐびと水を飲み、そう答えた。
「カイトさん、人口の戻り具合は?」
「やはり避難民を全員戻しても三割前後というところかな……
この
イグジスター戦争、いくらなんでも人が死に過ぎた。
それに、どうやら全員が戻ってくるとは限らないらしい」
「どういう事だ?」
マリーは訝る。
「イグジスターの脅威に恐怖し、極度のトラウマを帯びたり、
短期間とはいえ、辺境や離島暮らしに馴染みきってしまった者が、
そこに定住するパターンがいくらか見られるみたいだ。
今後、数世代に渡って人口分布バランスが崩れる可能性がある。
まあ、数百年後には、ある程度元に戻ると思うけどね。
離島も人を欲しがってる所があるから、
それはそれでいいかもしれない」
「過疎化の救済としては、少々論法が乱暴ではありませんか?」
ウォルフ王子も困った顔をする。
「まあ、戸籍確認だけでもさせて
引越しの手続きは取ってもらうよ。
ただしここから先は民政部の仕事で、
こっちの出る幕じゃないよ」
そこまで言って、カイトは休憩終わり、とばかりに席を立つ。
「だな」
マリーはまた溜め息をつく。カイトはそれを一瞥せず、
さっさと立ち去っていった。仕事は山ほどある。
「やれやれ、あの馬鹿はこの作業にも参加せず、
どこで根無し草を気取っているのか……」
ロバートの事を想ったのだろう、
マリーは悪態をつきながら苦笑する。
「あなたの気持ちは知っています、マリー。
ロバートにあなたの好意を伝えなくて良かったのですか?」
「ふん、
ジーニアス家の誇り高き意思にあやつの不純物は要らぬ。
それに私は知っているぞ。初恋は概ね叶わず散るものだとな」
「
ストレンジャー家の当主に年上の相方が現れれば、
その者に寄せる他の好意は、全て犠牲になる、ですか。
嫌なジンクスがあったものですね、マリー?」
「私などと結ばれて喧嘩ばかり繰り返す日々を送るのなら、
エナと結ばれて仲睦まじく
暮らしてもらった方がよほど気が楽だ」
あくまでも意地を張り続けるマリー。眉間にしわが寄っている。
「ほらほら、そう意地にならなくてもいいでしょう。
笑えば可愛らしい顔立ちをしているというのに、勿体無い。
普通にしていれば、普通に男は引く手数多でしょうに」
「私は、私が何をすべきかも知っている。
また他に好ましい者がいれば、敢えて求めずとも結果は分かる。
それが人と人が結びつき、契りを交わすという事だ」
「はは……古式ゆかしい事で」
流石にこのレトロな物言いには、ウォルフ王子も苦笑する。
『可愛い』と言われてきっちり否定しない辺りに、
ウォルフ王子はマリーの本質を垣間見たような気もしたが、
まあそれはどうでもいい事であったりする。
復興に忙しい者がいる中で、
あくまで我が道を往く者達も、いた。
それが自分達の勝利の報酬であるかのように。
最終更新:2012年07月02日 22:06