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終章-第三幕- 晴天帰路





世界の復興の流れとは一切関係無く動く者達がいくらか残っていた。
それは最大の功労者である勇者軍筆頭ロバート=ストレンジャーと、
その相棒エナ=ギャラガー、及びロバートの家族達。
また、そこには先輩格であるエリック=ルストと
合流した愛妻フォルテシア、子供のゼブリーズとジュスティヌもいる。
彼等は、エリックの長男の墓参りに来ていたのだ。
エリック自らの約定通り、きちんと妖精の森の中に建てられている。

「グロフィス、俺達はやってやったぞ。
 たとえ、お前がそれを見ていなくてもいい。
 たとえ、お前が弟と妹を見守ってくれていなくてもいい。
 あんな不幸な出来事なんて、俺達は忘れなくてもお前は忘れて、
 輪廻転生の輪の中に入れ。そして穏やかに生まれ変われ」
エリックはぼそりと呟き、涙を拭う。
妻フォルテシアも同じ心境だと言わんばかりに、
泣き出そうとする残り二人の子供を懸命にあやしていた。
その神妙な態度に当てられ、ロバートもエナもネイも、
静かにただ、黙祷をするのだった。

グロフィス=ルスト。
ルスト家の新当主になり得たかもしれない赤子は
物心さえ付く事無く、戦死してしまうことになってしまった。
その迂闊さをエリック夫妻は生涯忘れる事はないだろう。

「さあ、帰るぞ。お前達も一度ぐらいは家に帰れ」
くるりと振り向くと、エリックはもう泣いてはいなかった。
先輩格として締めるところは締める。それが大人の仕事である。
「ああ、そうだな」
すっくと立ち上がろうとして、ロバートは痛みに唸る。
あと、ついでにエナも同じように唸る。
「ううう……」
「だ、大丈夫ですか?」
フォルテシアが心配そうに二人に声をかける。
二人の利き腕である右腕は、何故か同じように
ギプスで固定され、包帯ぐるぐる巻きになっていた。
「……なんでお前まで包帯ぐるぐる巻きなんだ、おい」
イグジスター戦争が終わってしばらく会っていなかったのに、
なんでいきなりそんな事になっているのか、
事情をちゃんと理解していないエリックは違う意味で唸った。
「それが聞いてよ、エリック」
ネイは困ったように首を捻りながら言う。
「この子ったら喝を入れるためにロブをぶん殴って、
 それで骨を折っちゃったんだよぉ」
ネイが言っているのはエナの事である。
「そうじゃない。俺が言ってるのはお前の息子だ、ネイ」
「あら、そっち? ロブはロブでアルファを憑依させたら
 彼の動きに身体がついてこれずに、利き腕だけ折れちゃってて」
「いや、それならなんであの時負傷を訴えなかった?」
エリックがぼやく。
「いや、忘れたのかおっさん。俺あの時失神してたろ。
 すぐ病院に担ぎ込まれて、調べたら骨折してやがったんだ。
 あの野郎、再生させずに帰って行きやがって……!」
エナもエナで手だけでなく、腕からも骨折していたらしく、
師弟揃って二人仲良く右腕を押さえて苦しむ羽目になってしまった。
「……何をやってるんだろうね、この子達は」
半ば呆れ顔で愛猫ジャンボを撫でるネイ。
その上にはやはり籠が据えつけられており、
彼女の次男坊であり、ロバートの弟ジョゼフがすやすや眠っていた。
最近、ハイハイを覚えかけの状態らしい。成長が早い。

「あーあ、なんか腹減ってきたなぁ。美味いの食いてぇわ」
ロバートが昼飯時だからなのか、帰路でぼやき始める。
「ですよねー」
エナも同意して、若干元気が無さそうな顔をする。
ぐぅぅ。
「あ」
間抜けな腹の音を二人同時に立ててしまう。
「……仲良いですねぇ」
フォルテシアが半ばツッコミたげな顔で冷やかす。
どこかばつの悪そうな顔で、二人共顔を逸らした。
「…………もうお前等、素直に付き合ったらどうなんだ」
これも半ば呆れ顔で、エリックが冷やかす。
「……そうですね」
「へ!?」
「え!?」
エナがいきなり同意するので、ロバートは素で驚く。
何故かついでにネイも驚く。
「あの、ロバートさん!?」
「はい!?」
いつもの調子も忘れて、ロバートが何故か敬語で喋る。
「あのあのあのあの、私が……いや、いえ、えーと。
 ず、ずっと私の師匠でいて下さい!」
それがエナの精一杯の勇気だったりした。
気弱な彼女にしては随分と大胆なプロポーズである。
「……いや、俺、そのうち貴様の師匠やめるし」
「えー!?」
愕然としてエナが左手に握り拳を作る。
「待て! 貴様のパンチは思ったより痛い! 殴るな!
 てか最後まで俺の話を聞けよ!!」
「へ?」
「俺、そのうち師匠やめて旦那になるわ。嫌か?」
「い、嫌じゃないです、嫌じゃないです! 嫌じゃないです!!」
大事なことなので三回言うエナであった。
「こ、こっ恥ずかしいー!!」
自分の事は完全に棚上げして顔を伏せるネイ。
「……お前が言うのか」
エリックがサラリとツッコむ。実の親父との間に何があったのか、
聞くのが嫌だったので、ロバートはその辺の流れは無視する。

「エナ」
「は、はい!」
さっきからまったく落ち着きの無いエナに、諭すように話すロバート。
「貴様はずっと孤独の中で戦ってきた女だ。
 俺より強い資質がどこかにあるのかもしれん。
 あるいは貴様の方が反逆の二つ名を冠するに相応しいかもしれん」
「はい」
「そんな貴様と絶対反逆の俺が一緒になるんだ。
 恋愛やら結婚やら、という言葉は出来るだけ使うな」
「え、ええっ? じゃあ一体何て言うんですか?」
無茶な物言いに振り回されるエナ。
「寂しさへの反逆、孤独への反逆、何でもいい。
 とにかく既成概念への反逆を続けろ!
 それが俺の、俺達のこれからの反逆だ!」
「は、はい! じゃあこれから一緒に反逆します!!」
「おうよ!」
マントの中で隠れるように抱擁する二人。
「便利ですね、アレ。しかし人前でよくやりますねー」
比較的冷静にツッコんでくるフォルテシア。
「若さってのは振り向かないことで、
 愛ってのは躊躇わないことだからな」
「まあそうですけど、若いっていいですねー」
と、子供二人をやっぱりあやしつつフォルテシアが発言する。
もう見てられない、という感じでネイもジャンボに飛び乗った。

「にゃうー」
ネイに同意でもするかのように、
愛猫ポメは一足先にジャンボの上に乗ってジョゼフの面倒を見ていた。
その様子が無駄に微笑ましく、ネイも苦笑するしかなかった。
ずずーん、ずずーん。
そのジャンボの巨大な足音が何故か平穏を感じさせる。
そんな晴天の帰路が、次代を刻む音となるのであった。



<断章-第一幕- へ続く>
最終更新:2017年11月12日 00:45