断章-第一幕- 正なる義の魔神軍
イグジスター戦争からしばらく経過した後、ようやく
魔神軍も
事後処理から解放され、生き残ったメンツで通常任務を再開した。
といってもその本質を
勇者軍と同じくするだけに、
通常の任務は情報収集、調練、自由行動の三択に大体限られるが。
そんな中、たまたま一緒に昼食を摂り終えた二人、
レイビー=ショルダーズと
ゲイル=ウィッシュは
人だかりが出来ているのが気になり、近くに寄ってみた。
「うわあああああああああ!」
そこには泣き叫んでいる女性が一人。子供連れだ。
よく見ればそこには顔を伏せられた遺体が見える。
「どうしたのでござるか?」
ゲイルは近くにいた野次馬Aに説明を求める。
「いや俺はよく知らないんだけど、目撃者がいるらしいぜ」
「誰だ?」
レイビーも乗り出して質問する。
「ほれ、あいつだ。どうやら被害者の遺族とも知り合いらしいが」
目撃者とやらも悔しさのあまり震えているらしい。
「もしもし? 話をいいか?」
「何だよ……警察には言うべき事は言ったぞ」
「我々は警察ではない。魔神軍と言えば、分かるか?」
すると、周囲が一斉に振り返る。
皆、一様に知っているのだ。
イグジスター戦役でいずれの勢力も多数の犠牲者を出した中、
勇者軍と並び、主要メンバーに
ただ一人の犠牲も出さなかった組織の名を。
嗚呼天よ、地よ人よ、虐げられし者への情義在らば
彼の者の名を呼ぶがいい。
其は魔神軍、正なる義を行使する、秩序と束縛の集団。
「分かった! 話す! 全部話す!!」
目撃者どころか、本来無関係なはずの者達まで
我よ我よと、情報収集に協力してくれる形となった。
曰く、彼等目撃者及び被害者の遺族の情報によれば、
この
ザン共和王国領内の
オドネル・タウンにおいて、
とあるマフィアが幅を利かせているらしい。
みかじめ料の要求や麻薬の栽培、販売などは可愛いもので、
地上げ、高利貸し、無用な抗争の果てに殺人、
挙句の果てには口止めをして
地域住民全域を人質に取るようなやり口。
聞いてくるだけで反吐が出てくるような話であった。
先程見た遺体の者も地上げを真っ向から拒否したところ、
その翌日に殺された、と見られるらしい。
正直目撃者は被害者の協力者でもあったのだが、
目の前で盟友が殺されるところを目撃してしまい、
恐怖のあまり、出てこられなかった、というのが真相のようである。
それはすなわち現行犯を目撃したのと同意であった。
「証拠の隠滅も奴等は巧みだ。警察も動けやしねぇ……
俺達が立ち向かった事もあったが、このザマだ……」
「なんと……むごい事をするでござるな……!」
ゲイルはひたすらに唸る他無い。
よく見ればあちこちに包帯まみれの怪我人がゴロゴロしている。
彼等は、彼等なりにマフィア追放運動でもしていたのだろう。
むしろよく殺されずに済んだものだと、
ある意味感心するレイビーだった。
「奴等、歴史ある
ガトー・マフィアの流れを汲むんだって自慢してた。
なんか有名なのか知らんけど、腕利きも結構な数がいやがる……!
ううっ、勝てねぇ、勝てねぇよぉ……!!」
男泣きに泣く市民達。皆、愛する者のために戦ったのだろう。
遥かに力及ばなかったとして、誰がそれを責められようか。
「法の名の元に警察も何も動けないのなら、
ここからは私達の出番よ」
「ッスね!」
そこに現れたのは、彼等魔神軍の筆頭、
イノ=ヘレティックだ。
最大の相棒たる
レオナ=タブーフィールダーも一緒である。
「おお、あんた等も行ってくれるのか!?」
「我が魔神軍の名の元に、無辜の民を
傷付ける愚物は、粛清する」
ヘレティックガンホークを構えて、イノは宣言する。
「いつ行くんだ? 出来るだけ逃がしたくないが」
レイビーは時期を上手く見積もりたいらしい。
「それなら俺達の方で調べてあるZE!」
「明後日の夜、どうやら総会というか、集会みたいなのがあるそうです。
狙うなら、そこがチャンスですね。逃がさず、一網打尽に出来ます」
「ラケル、ノーラ!」
ゲイルが見慣れた仲間の名を呼ぶ。彼等も現れたのだ。
これで魔神軍
メインメンバーが出揃ったことになる。
「
サブメンバーは動かすのか?」
レイビーはレオナに質問する。
「その必要は無いッス。包囲だけは予備役隊員にやらせて、
あたし達六人だけで全部片付けてやるッスよ」
「だろうな」
レイビーも同意する。
「なんでそう言えるんだYO?」
「確かガトー・マフィアってのは
二千年前の勇者軍の内部組織の合法マフィアの名前ッスけど、
一代限りで解散したって聞かされたッス。
その流れに反発した一部の馬鹿野郎達が
勝手に暖簾分けを自称して流れを汲む、って事にして
有名無実化した集団だって調べたッスね」
ラケルの質問にすらすら答えるレオナ。
流石は元勇者軍だけあって、それに関わる情報所有量は随一だ。
「有名無実の馬鹿だとか、暖簾分けを自称とか
そんな事はどうだっていい。証拠も必要無い」
冷酷さと激情を兼ね備えた目でイノはぼつりと呟く。
「私の目の届くところで、力だけで人を威圧し、
支配出来ると思っている愚物は、
勇者軍なんかが手を出すまでもなく、私達が潰す」
「無茶だよ、たった六人じゃ! 俺達も行くよ!!」
見るに見かねて慌てる市民達。兵力差を心配しているのだ。
それを鑑みて、レイビーが例の如く思いつきだけで発言する。
「諸君、盲目、難聴、手足も不自由な人間百人と、
完全武装で殺す気満々の人間一人と、どちらが強いと思う?」
「え? あ、そりゃあ完全武装の一人……」
「そう。前者が兵力で、後者が戦力だ。
分かるな? その馬鹿共が兵力で、我々は戦力だ」
「あ、はい……」
言いたい事が理解できたのか、市民は大人しくなる。
「スポンサーの
グリーン・クロスからも対処要請が来ている。
これはもう立派な仕事だと見ていいだろうな。報酬も要求するか」
レイビーは淡々と事後処理の準備にさえかかっている。
「レイビー! そんなのは後にしてくれYO!
まずはその
ゲボラ・マフィアってのを潰しに行こうZE!」
情報収集で名前も住所も完璧に割れている。
下手に地域に食い込んだ組織の弱点でもあった。
「ラケルの言う通りよ、レイビー。
ゲボラ・マフィア。一人たりとも生かしては帰さない」
イノは決意を秘めて、一人すたすたと歩き出す。
それを見て、慌てて追う一同であった。
「頑張れー!」
「負けるなー!」
「死ぬなよー!」
好き勝手に応援する市民達の声もイノは聞いていない。
「イノさん、手を振ってあげなくていいんですか?」
「ノーラ、そういうのをあなたに任せる……私は必要としていない。
いかなる賞賛も、憧憬も、報酬も私の心には響かない。
ただ、私がそうしたいから命令しただけよ。それでは嫌?」
「ううん、嫌じゃないです」
「私の心を突き動かすのは散った戦友達の願いだけ……
そしてあなた達にその中の一人にはならないで欲しい、という
私自身の願いだけよ。勿論、私自身も含まれる」
「はい!」
そのノーラとのやり取りを見て、ラケルとレオナは
顔を見合わせて、ニヤリと笑うのだった。
彼女の義が、また一つ大きくなったようにも見えたからだ。
明後日の夜、ゲボラ・マフィア本部に
あらゆる構成員が集結していた。
「…………おお、おお。凄い数が集まって来やがったZE」
近所の宿泊施設に分散して宿泊しているラケルが呟く。
巨大アフロにダンススーツという身なりの彼ではあるが、
何故か周囲の風景に溶け込むのは上手く、近所の陽気な
ラテン兄ちゃん、という雰囲気を出している。
音楽プレイヤーでも持って踊っていればまさにそんな感じだ。
正直ゲイルよりよほど偵察向きかもしれない、とイノは思った。
ゲイルは
サムライサムライした格好が目立ち過ぎである。
本人のファッションのこだわりらしいが、はっきり言って邪魔だ。
それはともかくにしても、兵力が予想外だ。
当初、予想していた数の十倍近くの人数がいる。
せいぜい二百人程度ぐらいかと思っていたのだが、
二千人近くという結構な人数が集まってきている。
どうやら、地下に大規模施設で根を張っているらしい。
大した利益も出さないくせに
やたらと繁殖力だけはある杉のようだった。
だが、概ね集まり終えたようで、
見張りを残して室内に引っ込んで行く。
いよいよゲボラ・マフィア強襲殲滅作戦の開始だ。
「
チーム・アルファ、裏手に回るッス」
レオナの指示で予備役隊員が裏手を封鎖する。
予備役とはいえ、魔神軍の構成員である。
人を逃がすほど愚かではない。
「
チーム・ブラボー、三時方向を封鎖、
チーム・チャーリー、九時方向を封鎖、静かにッスよ!?」
更にレオナの指示で更に予備役隊員達が逃げ場を完全に塞ぐ。
「よし、チーム・デルタ、進撃用意でござる……!」
ゲイルの指示で、全員、武器を持って物陰で構える。
チーム・デルタは主力部隊。
すなわちイノ達六名のメインメンバーと、
後詰め兼退路封鎖要員の予備役隊員達である。
「チーム・アルファ、裏手に回れました、いつでも」
「チーム・ブラボー。完全封鎖完了」
「チーム・チャーリー。あと十五秒で完全封鎖いけます」
チーム・チャーリーの要請に従い、約十秒ほど待つイノ達。
「チーム・チャーリー。待たせてすみませんでした」
「上出来よ」
イノは軽くフォローしてから、自らも武器を手に取る。
「イノ殿、いつでもどうぞでござる」
ゲイルの言葉に頷くイノ。
「五、四、三、二……」
通信機を手にカウントを取る。
「GO!」
イノの小さな叫びと共に、一同が静かに飛び出す。
「無影追走脚!」
見張りは二人。だが反撃はおろか味方を呼ぶ暇すらやらない。
ゲイルは矢を放ち、一人を奇襲で射殺。
かと思えばその矢を追い越し、剣でもう一人を斬り倒していた。
「予備役隊員はここで入り口を封鎖、他は突貫!」
「了解!」
はっきりと、しかし静かに奇襲の準備は整った。
「魔神軍、突撃!」
イノの号令と共に、ゲボラ・マフィアの壊滅の福音が鳴る。
ただしそれは、イノ本人が思っていたよりは困難な任務であった。
最終更新:2012年07月03日 20:42