169 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:36:15.82 ID:Ic1cst60
どんだけ☆エモーション(その6)
「え? 居ないんですか?」 サトシの顔が驚きに変わる。 「そうなのよ~、ゴメンね~サトシちゃん」 サトシは登校前、俺を迎えに来ていた。試験期間中なので部活も今は中止していて 久々に朝錬の無いサトシは俺の家まで来ていたのだ。 「晴子さん、今は学校の試験期間中ですよ? こんな時期に学校に来れないなんて」 「ふふっ、大丈夫よ~☆ 学校の先生には事情を話しておいたから~」 「でも、試験期間なんてせいぜい一週間位じゃないですか。それが終わってからでも…」 腑に落ちないサトシは母さんに食い下がる。 普通ならば試験期間中に学校に行かない生徒など有り得ない話であり、 サトシが納得いかないのも理解できる。 「そうなのよね~私も困っているのよね~。うちのお父さんったら、なんでこんな時期に ヒロちゃんを連れていかなければならないのか理解に苦しむわ~」 いまいち真実味に欠ける母さんの口調ではあるがこんな感じの人だから仕方が無い。 とりあえず話の内容としてはこうだ。 父さんが海外友好都市の交流のため、俺を連れて海外に行く事になる。 元々、父さんは某議員の秘書なのでこういった都市のイベントに参加する事は別に 珍しい事では無い。それで交換留学生の名目で急遽俺を連れて行くことにしたというのが 今回の話の内容だ。こうすれば俺の学校においても試験を休むいい口実になるし、 これはこれである意味授業の一環として評価されることになる。実に合理的な展開と言える。 …当然ながらこの話は嘘なんですが。 「…そうですか。それなら仕方ないですね。分かりました、とりあえずヒロアキが 戻ったら俺に連絡頂けますか?」 あまり納得していないサトシではあるが母さんにこれ以上聞いても埒が明かないのは サトシ自身が理解しているところであり、この場は引くことにしたようだ。 「うん、わざわざ来てくれたのにごめんねぇ~」 あまり悪びれる様子の無い母さん。…まあ、こんな人だから助かっているんだけどね。
170 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:37:37.37 ID:Ic1cst60
俺は部屋の窓から学校に向かい始めるサトシの様子を眺めていた。 サトシは一瞬、チラっと俺の部屋の窓を見る。 カーテン越しではあるが俺はそのサトシの様子にドキっとする。 …見えてないよね。 (そんなに気になるならサトシ君に自分の事を話して理解してもらったらどうですか?) 俺の頭の中からもう一つの思考が浮ぶ。通常ならば違和感有りまくりなのだが、 自分の中で自問自答している感覚なので自然といえば自然で自分で思ったような錯覚さえ感じる。 …それにしても。 「あの~、マルさん。俺の事に関してあまり構わないで欲しいんだけど。」 (あら? でも、私とあなたは一心同体ですよ? 干渉するなと言われても無理な話ですよ) いかにも興味津々な感情が俺の中に浮ぶ。くそっ、人の気を知らないで。 …あれ、と言う事は? 「…ひょっとして、俺の心の中って読まれている?」 (ミヒロさんの深層部分までは分かりませんが、でも浮んでくる感情とかで大体の事は 分かっちゃいますね) 「う~」 俺の顔がどんどん赤くなっていく。どんだけ俺の心境を知ってんの?
たった一日の付き合いでしかないが、俺と○×◎☆▽さん(以下、マルさんと呼ぶ)は すっかり馴染んでしまったようでお互いの意識を共有し合っている。 あれだけ俺が(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルしたのが嘘のようだ。 昨日、あの状態に陥っていた自分自身の姿を思い起こしてみると恥ずかしいやら 何やらであるのだが、母さん、実由、マルさんともに分かってくれているので 今日は何事も無く振舞っていられる。 初めあれだけ堅苦しい感じだったマルさんの口調(思考)もすっかり砕けた感じに変わっている。 …正直あの小難しい思考が俺の頭の中にぐるぐると出てこられるとキツイので良かったかな。
「ミヒロちゃ~ん、朝ご飯できてるから来なさい~」 「はーい」 それにしても、学校に行く予定が無くなってしまったので本日は休日のようになってしまった。 でもまぁ、編入試験の勉強をしなければならないんだけどね。 「おはよう、母さん、実由。」 (お母様、実由ちゃん、おはようございます。) 「おはよ~☆ミヒロちゃん、マルちゃん」 「お姉ちゃん、マル姉ちゃん、おはようっ♪」 この人達もすっかり馴染んでいるようですね。普通なら…いや、何も言うまい。 (ミヒロさんも私の存在にあまり驚かなかったようですのでお互い様では無いですか?) …マルさんが言うな。
171 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:38:52.42 ID:Ic1cst60
とりあえず3人(プラス1)はテーブルを囲んで朝食をとる。 例のごとく父さんは仕事で朝早く出かけてしまうのでいつもこんな感じである。 …ここ最近、父さんの姿を見ていないのは俺の気のせい?
「お姉ちゃんは今日は学校休みかぁ。いいなぁ~」 「エヘヘ、羨ましいだろー。」 「ミヒロちゃんは今日は学校に行かないんだから私のお手伝いしようね~」 「え?」 硬直する俺。ウインナーをつまむ箸の手が止まる。 「ま、当然だよねっ♪」 味噌汁の残りをすする。実由。 「ま、仕方無いか…」 (私もお手伝いしますよ。) 意識体が何を手伝ってくれるんだかwwwwww
朝食後、実由は学校に出かけ、俺と母さんは家事を行なう。 家事といってもほとんどやり方の知らない俺なので母さんに色々教えてもらいながら 掃除、洗濯をこなしていく俺。 昨日のマルさんの話から俺が男に戻れる可能性は無くなってしまったので 「もう腹を決めて女の子修行しなきゃ駄目よ~」 などと母さんに言われ、渋々家事に取り組む俺。まぁ、仕方無い。 そうこうしているうちにすっかり時間がお昼時になってしまった。 今日のお昼は俺の作ったパスタ。 あさりときのこをソテーした後、ホワイトソースと混ぜ合わせ 茹で上がったパスタにからめる。 …うむ、いい味。料理の腕だけは着実に上がっているようです。 ポイントはあさりの下処理、これに尽きますね。 「ミヒロちゃん、美味しい~! お料理上手ね~」 「ホント? エヘッ、嬉しいなっ☆」 (ミヒロさん、仕草が段々女の子っぽくなってますね) …ギクッ。そ、そう? マルさんに指摘され思わず動揺する俺。身体だけでなく心まで女の子になってしまうのか? そんなのやだぁ~、きゃは☆ 「ミヒロちゃん~可愛い~」 (可愛いは正義ですね、わかります) 「…お願いだから心読まないでくれますかっ」 …もう、やだ。
172 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:40:30.95 ID:Ic1cst60
かくして賑やかに昼食が終わり、俺はキッチンで食器の後片付けをする。 「そうだ~、お昼ご飯を食べたら今度はお買い物行ってくれる~?」 「ほえ?」 お皿を洗う手が止まる。買い物ねぇ。 「こんなに上手なんだから晩御飯の準備、ミヒロちゃんにおまかせしちゃうわ~」 背後から俺に抱きついてにっこり微笑む母さん。 「まぁ、いいけど。何を買えばいいの?」 「何でもいいわよ~。ミヒロちゃんの食べたいもので~。」 …俺の食べたいものか。う~ん、どうしようかな。 「それじゃ~、お金渡しておくからお願いねぇ~」 母さんは俺にお金を渡すと庭の方に行ってしまった。母さんは趣味の庭いじりに興じるようだ。 (お買い物ですか。楽しそうですね。) どうなんだろうか? 楽しいかはともかく、今の俺の姿で外に出かけるのは流石に 躊躇われるのですが。 「…まぁ、いいや。」 とりあえず外出用に着ていく服を選ぶため、部屋に戻る俺であった。
173 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:41:24.44 ID:Ic1cst60
◇ 「うーん、どおしょうかなぁ…」」 クローゼット内の洋服たちとにらめっこを続ける俺。 どうせ近場のスーパーでの買い物だし、出かけるにしてもそんなに気合いの入った服装は 必要ないのだが、そもそも俺の現在所有する服がどれも女の子全開の可愛いものばっかりなので 派手で無く大人しめの無難なものを探すのが困難という問題に直面している。 (別にどれでもいいじゃないですか。どれも可愛くてセンスがいいですよ。) 「分かっちゃいるけどぉ…、恥ずかしいんだよぅ。」 女の子のファッションに慣れてないので自分が着込んだ姿を想像するだけで赤面しそうです。 (これはどうです?) マルさんは赤のスカートを選ぶ。ちょっとタイトな感じのミニ。 「派手だ…」 (そうでもないですよ? ミヒロさんはこの位が似合うと思います) 「でも~」 (それではコレなんてどうですか? 可愛らしいですが結構大人しめですよ) 次にマルさんはベージュのワンピースをチョイスする。成程、色も大人しめだな。 ところどころの白いフリルもそんなに派手で無いし。 …丈は相変らずミニに近いものがあるが。 (あとは上にこの赤いボレロなんて着込むといいですよねっ) 何だか洋服選びを楽しんでいるような気持ちが伝わってくる。 ワクワクしているというか、はしゃいでいるというか。 「マルさんはこの世界に来て日が浅いのにファッションとかに妙に詳しいですね…」 (そうですか? 実はミヒロさんのお母様や実由ちゃんから色々教わったんですよ、うふふ) …え? 何時の間に? 俺の知らないとこで何してるんですか、あなた達は? (ふふっ、いいですからコレに決めましょうよ?) 「う~ん、どうしようかなぁ~」 煮え切らない俺。そもそも乗り気でないというのもあるが。 この姿になったせいで元々出不精な俺自身にさらに拍車を掛けたような気がする。 (着慣れないのでしたら昨日着ていた実由ちゃんのワンピースを着ますか?) 「アレのほうが派手だよ…」 (ミヒロさんの言う派手でないものといえば見た限りではコレしか有りませんよ) 「そうなんだけど…」 (時間が無くなっちゃいますよ、急がないと。) 「…」 結局、マルさんの勧めた服を着る事になったのでした。
174 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:43:18.15 ID:Ic1cst60
◇
俺が向かうスーパーは自宅から歩いて10分程の距離にある。 その道のりを俺は歩いていた。 「やっぱ、スースーして落ち着かない…」 ワンピースの丈を気にしながら歩く俺。 (慣れたら気になりませんよ。こういうものだと割り切るのが一番です) 「そうは言ってもぉ…」 (服選びの時といい、ミヒロさん女々しいです。何だか男らしくないですよ?) えー!? ち、ちょっとぉ、マルさん!! 「お、女の子なんですけどっ!!」 もー!! 矛盾してるよおっ!!!
…とか、やっているうちに目的のスーパーに到着。 まだ夕食の買出しの時間には程遠い時間なので店内は落ち着いている。 「さーて、何買おうかな~♪」 俺は本日の夕食を何にするか各売り場を回りながら考える。 (ミヒロさん楽しそう、何だか生き生きしてるww) 「そうかな?」 (ハイ) 「う~ん、言われてみればそうかも知れない。 自分の作った料理をみんなが美味しいって 言ってくれたんで頑張ってまた美味しいものを作ろうかなって、ね?」 (ウフフ、可愛いです) 「! いや、そのっ、可愛いなんてっ、止めてくれない? 恥ずかしいからっ!」 あまり人の居ない時間帯で良かった。 傍から見たら女の子が一人で慌てたり赤面したりしているのだ、挙動不審にも程があります。 「もぅ、マルさんったら…」 ブツブツ言いながら買い物を続ける俺。
程無くして買い物を済ませた俺は自宅に向けて歩き出す。 スーパーの近くに俺の通う高校があるのでさっきから制服を着た生徒とすれちがう。 「…」 試験期間中だもんな。こんな早い時間に学生が歩いていても不思議ではないか。 ぼんやりとその姿を見ながら俺は足取りを進める。 サトシも試験が終わって帰っているところかな?
175 :vqzqQCI0 :2008/08/19(火) 02:44:27.33 ID:Ic1cst60
「あれ? ミヒロさん…だっけ?」
「え?」 俺がそう思った矢先、俺の目の前に制服姿のサトシが立っていた。 サトシはすぐ近くのコンビニから出てきたばかりで手にはコンビニ袋を下げている。 「え、えっと、あなたは…」 一瞬頭の中が真っ白になり、思わず後ずさりしそうになる。 「えーっと…昨日会ったんだけど、忘れてしまったかな? ヒロアキのダチのサトシなんだけど…」 俺が思いっきり引いている様子を見て少々戸惑うサトシ。 今の俺にとって最も顔を合わせたくない人間だもんな、どう接すればいいのか分かんないよ。 「…あ、ハイ、分かります、サトシさんですよね…」 俺はこれ以上何を言えばいいのか分からず黙り込んでしまう。 「いや、その、そんなに引かれてしまうと俺も困っちゃうんだけど。いきなり声をかけて 気を悪くしてしまったのならゴメン。…迷惑なら俺もう行くね。」 サトシは俺の反応にちょっと落ち込んでしまったようでそそくさと帰ろうとする。 「…待って。」 「え?」 思わずサトシを呼び止める俺と意外な反応に立ち止まるサトシ。 「…別に迷惑じゃない。急に声を掛けられて驚いただけ、ゴメンなさい。」 「そうなんだ。偶然とはいえ会えて良かったよ。」 「会えて良かったって…どうしてですか?」 サトシを引き止めた事に若干の後悔をしつつもサトシの言葉が気になる俺。 「おれ、…じゃなかった、私とサトシさんが初めて会ったのは昨日の事ですよね?」 「まあ、そうなんだけどね。…実はさ、気になってたんだ。ミヒロさんのこと。」 「え?」 思わずサトシの顔を見る俺。サトシは俺を見てニッコリ笑っている。 …今、何て言った? サトシの奴? 思考が止まる俺。サトシは相変らず俺を見ている。 (いきなりの急展開ですか☆) … …(゚д゚)ポカーン …( ゚Д゚)ハッ! なんでそうなる!!