183 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:34:53.07 ID:u2R7PrQ0
どんだけ☆エモーション(その7)
「…で、マックに来たわけだが」 立ち話もなんだし、というサトシの提案によって俺とサトシはちょっと足を伸ばして 最寄の駅前のマックに来ている。 俺はバニラシェイク、サトシはコーヒーを頼むと窓際の適当な場所に座る。 「いきなり誘ってゴメンね。」 サトシは俺にシェイクを手渡し、向かい合わせの位置で椅子に座る。 「いえ、別に大丈夫ですからっ。」 何が大丈夫なのか良く分からないがとりあえず何事も無いように振舞う俺。 それにしても。
―「…実はさ、気になってたんだ。ミヒロさんのこと」 (サトシ君の言葉、気になりますねっ) さっきからマルさんのドキドキ、ワクワクしている気持ちが俺に伝わってくる。 何と言いますか、マルさんってかなり乙女全開な女の子なんですね。 マルさんにつられているかどうかはともかく、俺もマックまでの道程の間ずっと 胸がドキドキしっぱなし、さらに緊張しまくってサトシとの会話の内容が 良く憶えて無いほどだった。 ―マルさん、俺とサトシは昔からの親友であってそれ以外の何者でも無いですよ? 何を期待しているのですか? 心の中で俺はマルさんに話しかける。 (あら、何を言ってるんです?前はともかく、今のミヒロさんとサトシ君は異性の関係なんですよ? これを期待せずして何を期待するんですか?) ―だからって、俺とサトシはそうならないって。 (ミヒロさんはともかく、サトシ君はそうでは無いかも知れませんよ。それに) ―それに? (以前は親友同士だった関係からの発展、何か萌えるシュチュエーションですよねww) ―ボーイズ・ラブかよっ!? 全く女って奴は…って、俺もか? 「えーと…、ミヒロさん、どうしました?」 怪訝な顔をしているサトシ。 いけねっ、またこれだ。 俺とマルさんのやりとりは傍から見れば一人百面相をしているようにしか見えない。 怒ったり、しかめっ面をしたかと思えばニヤついたり涙目になったり忙しい限りである。 「いえいえっ、ちょっと色々思い出しちゃって思わず顔に出ちゃったのかも知れません。 ごめんねっ、変な女の子で…」 その場を取り繕うように笑って誤魔化す俺。 「いや、何だか安心したよ。ミヒロさんと会った時、あまり顔に表情を出してくれてなかったから 俺もどうしたらいいか分からなかったけど今のミヒロさんはいいよね。 やっぱり女の子は表情豊かな方が素敵だし、そのほうがとっても可愛いよ。」
184 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:36:08.09 ID:u2R7PrQ0
「!?」 (!?) 俺とマルさんは二人して固まった。 か、可愛いっですとっ!! (やだ~もぉ~、サトシ君ったらwwww) マルさんはサトシのセリフにときめいてしまったようで、本気でドキドキしている。 おいおいっ、あんたがサトシに惚れてどうすんですか…。 とはいえ、俺も「可愛い」というフレーズが頭の中でグルグルして回ってドキドキしている。 何だろ? この感情は? しかし、サトシが女の子に対して何処かに誘ったり、可愛いなんてセリフを言ってくるなんて あの堅物にしては意外といえば意外だ。 俺の知らないサトシ。これはこれで妙に寂しい感情が浮んでくるのも事実であった。 「…で、いいかな?」 「え? あ、ハイ」 サトシの声で現実に引き戻される俺。 いけねっ、またまた自分の世界に入ってしまっていたようです…。 「実は聞きたいことがあってミヒロさんを誘ったんだけどね。」 コーヒーを口にするサトシ。 あれ? 確か俺の事が気になって誘ったってサトシは言ってたよな? なんだか自分が期待している展開と異なる方向に進んでいるような予感がする。 所詮、社交辞令みたいなもんですか。ちぇっ。
…あれ、期待なんかしているわけないですよね?
「ミヒロさんってつい最近あの家に来たの?」 「あ、ハイそうですけど。」 「ふーん、ヒロアキってもう海外の方に行っちゃったの?」 「え? おr、じゃなかった、ヒロアキ君ですか? 行ったといえば行ったような…」 「ような?」 「いえ、今朝の早いうちです。出かけてしまったのは。」 「ひょっとして昨日買い物していたのは準備の為だったのかな?」 「えーと、まぁ、そうですね…」 なんだか会話の内容がミヒロとは関係の無い話になっているんですが。
…でも、成程。サトシが俺(ミヒロ)を誘った理由が分かった。 今日の朝、母さんとの話に納得いかないサトシはヒロアキの家に住む事になったミヒロに 事実を確認しようとしているわけなんですか。 (え~、いい展開になるとおもったのに~! ミヒロさん、冷静に分析してないで サトシ君に積極的にアプローチしましょうよー) …いいですから、話を蒸し返さないで下さい。
185 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:37:58.40 ID:u2R7PrQ0
「サトシさん、今朝家に来てましたよね? かあs…、晴子さんの話に 納得いかない事でもあったんですか?」 「いや、そういう訳では無いけど、話が唐突すぎてさ。 だって、昨日奴と一緒に学校から帰って直ぐにだよ? あの時俺と居た時はそんな話全然無かった。 あの後 奴の携帯にも何度も電話したけど繋がらなかった。不自然だし、おかしいと思わないかい?」 「たしかにそうですね…」 声が小さくなる俺。母さんの話はともかく、サトシの電話に出なかった当事者なので気分的に 後ろめたい気持ちになります。 「今朝の晴子さんの話も何だか話が出来過ぎているような気がするし、 何か隠しているような気がしてならない」 「はあ…」 鋭い奴と思いつつも顔には出さない。 「で、ミヒロさんに実際のところヒロアキがどうなっているのか聞きたいんだ。」 「えーと、実際もなにも晴子さんのいう通りでして、それ以外私には何も答えようが無いです」 …これ以上何を言えというのか。 俺の動向については正直なところ追求して欲しくない話題ではある。 今後俺自身どうなるか分からないので適当な事も言えないし、出来る事ならサトシには あまり俺に関わらないで欲しいのが本音である。 サトシには悪いがとにかく無理矢理にでも納得させてこの話を終わらせないとな。 「じゃあ、ヒロアキは本当に海外に行っちゃったのかい!?」 「はい」 「本当に?」 「何度言われましてもそう答えるしかありません」 「そう…なんだ……」 「…」 しばし沈黙。 さすがにサトシも何も言えず黙り込む。 俺は俺でどうしたらいいのか分からず黙ってサトシの様子を伺う事しか出来なかった。 (サトシ君、黙り込んでしまいましたね。) ―多分この状況だと皆黙り込むしかないのかも知れませんが。 俺はすることも無くぼんやりと店内を眺める。 店内は落ち着いていてお客はおしゃべりに興じたり本を読んだりとのんびりとした雰囲気だ。
186 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:38:52.82 ID:u2R7PrQ0
「…で」 サトシが口を開く。 「え?」 「なんでかな…。何でヒロアキは俺に何も言ってくれなかったのかな…」 「え…」 俺はハッとしてサトシの顔を見る。 何だか寂しそうなサトシの顔。 「俺とヒロアキは昔からの親友でさ、ずっとつるんで行動していたもんでお互いの事なんか 良く分かっていたし、これまで隠し事とか全然無かったんだけど…どうしちゃったのかな。」 「それは…」 親友だと思ってた人間が何も言わず急に何処かへ行ってしまった。 それに対しての切ない思いがポツリと口から出てしまったサトシ。 俺はサトシのそんな姿を見た瞬間、急に申し訳の無い想いにとらわれた。
「…ごめんね。ミヒロさんには全然関係無い話だったよね。折角誘っておいて こんな話しかしないで全然楽しくないよね、つき合わせちゃってホントごめん。」 申し訳無さそうにミヒロ(俺)に謝るサトシ。 「そんな…」 口ごもる俺。 いや、悪いのは俺だ。これだけ俺の事を心配しているにも関わらず 俺は自分の事しか考えてないばかりかサトシを自分から遠ざけようとしていたのだから。
こうなって初めて知る、親友の存在。 ホント、サトシは俺には勿体無い位のダチだよな…。 今の俺はこんな姿なのでヒロアキとして接する事は出来ないし、 今さらミヒロがヒロアキだと言うのも難しいところだ。 だけど今の俺でも何とか奴の気持ちを和らげる事くらいは出来るはず。
「いいえ、そんなこと無いです。…その」 「ん?」 「サトシ…さん、ホントにヒロアキ君の事 親友として気にしているんですね。 羨ましいです、ヒロアキ君にこんなにいい友達がいるなんて。」 「そうかな? でも奴は今回の事について俺には全然話をしてくれなかったんだよ。 俺はともかく、あいつにとって俺はそんな程度の友人でしか見てないのかも知れないよ。」 やや自嘲気味にサトシが呟く。
187 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:40:01.96 ID:u2R7PrQ0
「…!!」 俺はサトシの言葉に反応する。 確かに連絡とか相談とかしなかったのは俺が悪いにかも知れない、だけど。 「そんな程度」って、サトシお前は何て事いうんだよ! 俺がお前に対してそんな訳ないだろうが! といいたいのを俺は必死に我慢する。…くそっ。 そう思った瞬間、俺は腹が立って涙が溢れてくる。 … あー、もう駄目だ。我慢できないっ! 「そんな事ないっ!」 「…え、ミヒロさん?」 俺の突然の口調に驚いた様子のサトシ。 「どうしてそんな冷めた事いうんだよ、そんな程度の友人だなんて。 サトシは今までヒロアキと接して来たんだろ? ホントにヒロアキがお前をそんな程度でしか 見てないような奴だったのかよ?」 「それは…」 「お前は知っているはずだ、ヒロアキがどんな奴だったかを。 怪我のせいでサッカー部を退部する事になったヒロアキが自分の事よりも 一緒に退部をしようとしたお前の事を心配していた事や、お前が病気で学校を 1週間休んだ時も毎日家まで様子を見に来ていた事とか、ヒロアキがお前の事を そんな程度の友人でしか見ていない奴だったらそこまでするのか?」 「…」 「自分のダチならダチの事を信用してやれよ。ヒロアキにはお前に言えない事情が あるんじゃないのか?」 「…」 サトシは黙って俺の話を聞いている。 「きっと有ると思うぞ、サトシと連絡がとることの出来ない理由が。 だってこれだけ自分の事を心配してくれる友達だぞ? 連絡を拒否するなんて 有り得ないだろうが。」 「確かに…そうかも知れない。」 そう言ったサトシの表情は何となく和らいだように見えた。 「そうそうっ、ヒロアキはサトシに心配させまいとする何らかの理由があると思うぜ。 こんな自分の事考えてくれるダチを無視するなんて許せない話だよっ」 俺はそう言うとサトシの肩口に手をかけ、Vサインをしてサトシに( ̄ー ̄)ニヤリッ、と笑いかける。 「…! あ、うん、そうだよな。」 サトシは一瞬、驚いた表情を浮かべた。だがすぐに笑顔で返してくれた。 「今は連絡が取れないから話すことも会うことも出来ないかも知れない。 だけどお前の相手を思う気持ち、…その気持ちは必ず相手に伝わると思うぜ。」 「…そうかな?」 「絶対だ。俺が言うんだから絶対だよっ」 だって俺がそのヒロアキ本人だもんな。
188 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:41:16.03 ID:u2R7PrQ0
「…俺?」 怪訝な表情を浮かべるサトシ。 「あ、いやっ、わたし、私っ。アハハっ」 慌てて言い直す俺。ヤバイヤバイ、つい素が出てしまったよ。 「アハハ」 「ハハハ」 何となく俺とサトシは互いに笑い合った。 「…ミヒロちゃんってスゴイね。なんだか圧倒されてしまったよ。 最初の印象は大人しそうな娘だなって感じだったけど、実は結構熱い娘なんだね。」 「そ、そうなんだよね。皆に良く言われるんだ、見た目と中身のギャップが大きいって。」 今度はボロを出さないようにしなきゃ、と思いいつつもサトシも俺もすっかり打ち解けた雰囲気に なったので変な敬語が無くなり、自然な話し方になっている。 「うん、確かにギャップが大きいかな。さっきの変貌ぶりにミヒロちゃんの見る目が 全然変わってしまったよ。」 「アハハ、サトシ君私のこと幻滅した? こんな男っぽい女の子だから。」 「ううん、そんな事ない。むしろ前よりいいかも知れない。」 「え?」 サトシの返答に思わず考え込む俺。 前よりいい? おしとやかさを強調して(あくまで本人の主観)いた前のバージョンの俺より? 「何ていうんだろ。ミヒロちゃんの口調とか雰囲気とかは俺にとっては結構昔から 慣れ親しんでいるんだよね。だから不思議と安心できるというか、心許せるというか…」 昔から慣れ親しんでいる? それって… 「で、でも女の子がこんな感じって変だよねっ」 とりあえず否定的な返事を促す俺。確認の意味合いもあるのだが。 「そうかも知れないけど、俺はそうは思わないよ。昨日、初めてミヒロちゃんに会った時 俺は君に言った思うけど不思議と初対面な気がしないって言ったよね? その時は何故か分からなかったけど、今その理由が分かったような気がする。」 「…え」 「さっき俺に語っていた時のミヒロちゃん、まるでダチのヒロアキに雰囲気がそっくりなんだ。 姿形は違うんだけど、何だかそっくりなんだよな。」 「…」 思わず黙り込む俺。ひょっとして俺(ミヒロ)がヒロアキだと分かった? …でもなんだかサトシの雰囲気からしてそうでは無いようだが。 「で、改めてミヒロちゃんと会って分かったんだ。」 「な、何が?」 「ミヒロちゃんが良ければなんだけど、…また会ってくれないかな?」 「…」 「…え」 「…ええっ?」 顔がどんどん驚きの表情に変わっていく俺。
189 :vqzqQCI0 :2008/08/30(土) 02:43:17.62 ID:u2R7PrQ0
(サトシ君、いよいよ本題に突入ですねっ、私も待ち焦がれた甲斐がありますww) 嬉しそうなマルさんの思考が飛び込んでくる。 マルさんはこの展開を読んでいた? 期待していた? ―「…実はさ、気になってたんだ。ミヒロさんのこと」 あれってヒロアキの状況を聞きだす為にミヒロを誘った口実では無かったのか? 様々な疑問符が浮ぶ俺。
「…駄目かな?」 目を白黒させている俺を見てちょっと躊躇いがちに尋ねるサトシ。 そんな憂いの表情をされると…俺。 (ミヒロちゃんっ!! サトシ君が聞いてますよっ!! 早くOKして下さいっ!!) そ、そんな… (モタモタしないで下さい! 男らしくおkして!!) 男らしく!? ちょっとぉ、だって今は女のk (早くしろ~!!!!! ミヒロ~!!!!!) 「ひい、いいえっ! 全然OKですっ!」 「本当? ありがとう、嬉しいよ」 マルさんの心の叫びに思わずOKしてしまった俺。 …マルさん、恐すぎだよ~っ!! そんな事など知らぬサトシは嬉しそうに笑う。 …あ、でも悪くないかも。今のサトシの笑顔見たら胸が不思議にキュン!って、なったから。 何気に心地良い胸の鼓動。ひょっとして、これって…
(やったwwやったww うふふ、楽しみ~wwww) … …あれ? ひょっとしてこれって俺じゃなくって、マルさんの胸キュンですか?
(つづくww)
…あれ? つづくって…?