「誰か……誰か……」

朝比奈覚は、負傷したのび太を呪力で抱え、必死で走っていた。
前を見たり、のび太の顔を見たりする。
眼鏡の少年の顔を見る回数が増えるたびに、彼の顔の青白さも比例していった。


「誰か……この子を助けてくれ!!」

別のマーダーに襲われる危険性も厭わず、叫び続ける。
このような状況になると、思ってしまう。
何故呪力で生き物を傷付ける方法はごまんとあるのに、人の傷を癒す方法は全然ないのかと。
呪力を一通り学んだ者でさえ、薬や包帯のような前時代的な治療法に頼らざるを得ない。
廃墟と化した東京で、肩をチスイナメクジに食われた時の自分がそうだったし、神栖66町に病院があるのも、それが理由だ。


何度か後ろを振り返る。
マリオの姿も、ダルボスの姿も見えない。
先程まで居た場所が火事になっており、濛々と黒い煙が上がっていた。


(すまない……ダルボス……すまない!!)
何度も何度も胸の内で、彼に謝罪の念を唱える。
まだ赤帽子の悪鬼の姿は見えないが、ダルボスはあの炎に飲まれて死んでしまっただろうと考える。
その思考は真っ当ではあるが、事実としては間違っている。



進行方向から見慣れないものに乗った二人組が、前方からやって来た。
あれは呪力を持たぬ者達が使っていた機械だろうか、とどうでもいいことを思ってしまった。


「おー――い!!止まってくれ!!」
覚は助けを求める。
あの二人組が殺し合いに乗っているか否かは分からないが、それでも賭けてみることにした。
幸いなことに、その賭けは成功した。


「おい!!あんたら大丈夫か?」
独特の髪型をした男は、乗り物を停めて覚の所へ走って来た。

「俺は大丈夫だ。けれどこの子が危ないんだ!!何か薬とか持ってないか?」
呪力でなおも目を覚まさないのび太を、男の前に動かす。


「任せてくれ……クレイジー・ダイヤモンド!!」
「ケアル!!」
後部座席に座っていた、金髪の女性ものび太を助けるのに協力する。
スタンドに白魔法という、彼の世界とは異なる力に聊か驚くも、のび太の傷が閉じていったことに安堵する。
呼吸も落ち着いたものになっていた。
だが、安心は出来ない。
傷は癒せても既にかなりの量の血を失ってしまっていたので、顔色は青白いままだ。


「ありがとう……。凄い力だな……。」
「礼には及ばねーっす。それより1つ聞きたいことがあるんだが……。」


男、東方仗助はどこか照れくさそうにするが、表情は強張ったままだった。
「のび太を助けてくれた礼だ。知りたいことがあるなら教えるよ。」
「その子を傷付けた奴は、赤帽子でヒゲの男じゃなかったか?」
「そうだが……知っているのか……うわ!!」


バイクのカゲからぬっと何者かが現れ、覚は驚く。
「やっぱり……マリオなのね……。」
かつてとある世界の街を滅ぼしたマモノの走狗だった彼、ビビアンは、そう呟いた。


「あんたたちは……あのバケモノの知り合いなのか。」
少し緩んだはずの覚の顔はまたも強張る。
助けてくれたことは事実だが、自分達3人を襲った悪鬼の知り合いだと、恐れてしまう。


「違うわ。私達は殺し合いに乗っていない。これから彼を止めに行く所よ。」
ローザは害はないと主張する。

「マリオはアタイを助けてくれたの!だから……」
すぐに覚が来た方向へ向かおうとするビビアン。
「あいつの所へ行こうというのか?冗談じゃない!!話し合いでどうにか出来る相手じゃないんだぞ!!」

ビビアンとマリオの間に、何があったのか覚は知らない。
だが、いきなり子供であるのび太を殺そうとする者が、話し合い程度で止められるとは到底思わなかった。
呪力を使って、無理矢理ビビアンを引き戻そうとする。


「俺達もいるから、心配する必要はねーっす。」
覚の肩をポンと叩いたのは、仗助だった。
「じゃあ、俺も行こう……。」

背丈こそは仗助の方が高いが、年齢は覚よりいくつか下に見えた。
自分一人だけで逃げる訳には行かない。


「あなたまで行ったら、その子はどうするのよ。それに、あなたも怪我をしているわ。」
ローザは覚を止めながらも、回復魔法で彼の傷を癒す。
「もう一人助かってない奴がいるんだ……ダルボスっていう……岩みたいな姿をしたヤツなんだけど……。」


朝比奈覚自身は、ダルボスが生きているとは思っていなかった。
けれど、それでも見捨てたくは無かった。


「その人のこともアタイらが何とかするわ。だから今は逃げて!」
ビビアンも覚を説得する。
「分かった。その代わりに生きて戻って来てくれ!!まだのび太を助けてもらった恩も返せてないからな!!」


心配を胸に抱きながらも、3人を見送る。
覚はのび太を抱え、さらに南へ向かう。


★    ★    ★


オレは何のためにここにいるんだっけ?
確かふん火した山をしらべるために、来たんだよな……
でも、あたりはまっくら。ゴロンこう山じゃない。
わからない。
おれはダるボす。
ごろンぞくのぞく長。
でも、だれかほかの人のために、やらなければ 壊せ いけないことがあった 壊せ んじゃないかか?
おもい 壊せ だせない。
なに 壊せ かまっ 壊せ くろ 壊せ なものに 壊せ の 壊せ みこ 壊せ まれて 壊せ 壊せ い 壊せ く。


壊せ壊せ壊せ壊せ や 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ め 壊せ壊せ壊せ壊せ て 壊せ壊せ壊せ く 壊せ壊せ れ 壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ



タイム風呂敷の力で、情に厚いゴロンの族長は、再び覚醒火炎獣マグドフレイモスへと化した。
その姿は、岩の塊のような姿をしたゴロン族とは、全く異なっていた。
全身が炎に包まれた大熊のような姿をして、額には魔力の源が爛々と輝いている。
四肢には鉄の枷が付けられているが、それらは拘束する役割を放棄している。
枷に付いてあった鎖は鞭のように振り回して攻撃する武器となっている。
事前情報が無ければ、とてもゴロンが変わった姿だと分からないだろう。
破壊と殺戮しか頭にない怪物は、マリオに殴り掛かる。
大理石の柱をも石ころの大きさに砕いてしまうその拳は、当たれば大したただでは済まない。
しかし、相手も闇に落ちたとはいえ、キノコ王国を何度も救った英雄。
ひらりとその殴打を躱し、反撃のハンマーを叩きこむ。


「ウオオオオオオオオ!!」

しかし、手ごたえはあったが、効いた様子は無かった。
ならば雷ならどうかと手を掲げるマリオだが、その隙を許してくれる相手ではない。
反撃にとマリオ目掛けて、拳が振るわれる。
どうにかハンマーでガードするマリオだが、その威力を殺しきれず、大きく後方に飛ばされる。


〇〇〇



「な、何だよアレは?」
東方仗助は戦場に行きつくなり、驚嘆の声を上げた。
辺りは炎の海になり、その中心部で炎に包まれた怪物が声を上げている。
その地獄のような風景に驚いたということもあるが、その原因らしき怪物が、参加者名簿の何処にも載っていなかったということだ。


「アレが……ダルボスって人?」
震えた声でビビアンは聞いた。

「違うと思うわ。名簿にもあんな姿は無かったし。」
「ゴチャゴチャ言ってる場合じゃねえっすよ!!」


バイクから降りて、3人はマグドフレイモスとマリオが戦っている場所へ近づく。
あの怪物が何者なのかは分からないが、放っておけばろくでもないことになることだけは分かった。


「いたわ!!マリオよ!!」
ビビアンは歓喜と不安が綯い交ぜになった様な、震えた声を上げる。

「ウオオオオオオオオオ!!!」
怪物は雄たけびを上げ、マリオに襲い掛かっていた。
この様子だけを見ると、どう見ても人間が凄まじい力を持った怪物に襲われているようにしか見えない。
既にゴロツキ駅で襲われた経験がある仗助は、マリオはただの被害者だとは思わなかった。
それはそうとして仗助としても、マリオはビビアンの仲間である以上は、殺されて欲しくはない。
ローザの恋人の仇だったとしても、罪を受け入れた上で償って欲しかった。


そんな仗助達の思いをよそに、怪物マグドフレイモスはマリオへ炎の拳を振り下ろす。

「ドラァ!!」
パワーとスピードだけなら、最強のスタンドのスタープラチナに勝るとも劣らないクレイジー・ダイヤモンドの力は、怪物の拳さえ弾き飛ばす。
しかし、拳を交わした時、仗助は異変を感じた


(何だこの手ごたえは……?)
外れた様子も無いのに、殴った手ごたえも無い。
今までにない感覚を覚え、うっすらと嫌な予感をした。
そして、この場にいる敵はマグドフレイモスだけではない。


仗助の背後にいたマリオにとって、この場では動く者すべてが敵であり、獲物なのだ。
故に、助けてくれた者であろうと、ハンマーを叩きつけようとする。


「やべっ……!」
クレイジー・ダイヤモンドの数少ない弱点は、異なる方向からの複数の敵に対処し辛いことだ。
事実、仗助はほとんど1対1での戦いしかしたことが無いので、1対多の戦いに対する経験不足もある。


「マリオ!!」
しかしその一撃は、マリオの旧友のグリンガムの鞭による攻撃のため不発に終わった。
標的を仗助からビビアンに変え、ハンマーで彼の武器を弾こうとするも、不規則な動きの鞭はハンマーでは捕らえづらい。
やむなく後方に下がり、鞭のリーチ範囲外まで避ける。


「マリオ……やめてよ……。」
ビビアンの懇願も空しく、マリオは鞭の隙間を縫って攻撃しようとする。
だが、ローザがマリオ目掛けて矢を放った。
その矢もまたマリオを傷付けることが出来なかったが、彼の接近を一時的に食い止めた。

「プロテス!!」
盾を模した結界が、3人を包み込む。
剣戟や殴打のような、物理的な衝撃を和らげるローザの白魔術だ。


「ジョウスケ!こっちは私とビビアンがどうにかするわ!!あなたはそっちの怪物を倒して!!」
「ありがてえ。今のは危なかったぜ。」
済んでの所でビビアンとローザに助けられた仗助は礼を言う。


「グオオオオオオオオオオオ!!」
「やる気満々って所だな。行くぜ!!」

雄たけびを上げるマグドフレイモス相手に、クレイジー・ダイヤモンドのラッシュが飛ぶ。
いくら恋人がいる女性とは言え、美女に任務を託されれば、引き下がるわけにはいかない。
炎に包まれた戦場で、仗助とマグドフレイモス、ビビアンとローザとマリオが対峙する。




炎が激しく燃え盛るこの戦場には、悪はいない。
影に魅入られたものと、それに抗う者だけの戦いだ。


最終更新:2022年06月16日 09:46