「立てよ、火柱!!」

その声は、開戦を告げるゴングとなる。
デマオンの声が森の中に響くと、それに呼応するかのように火柱が立ち上った。
ボォンという爆音とともに、地面から生えた赤い槍が、吉良を焼き殺そうとする。
しかし、吉良は予想外の方法で、敵の魔法を躱した。
これまで敵と距離を置こうとしていた相手が、急に正面から向かって来たので、さしものデマオンも驚く。
吉良の打った手は、近距離パワー型の自スタンドで、相手を直接攻撃するということだ。
それが巡り巡って、敵の魔法攻撃の射程外から外れたのだ。


「キラークイーン!!」

スタンドの拳で、デマオンの腹を思いっ切り殴ろうとする。
その一撃は、男子高校生の広瀬康一の腹を貫通するほどの威力だ。
だが、その拳は空を切る。
躱されたのではない。大魔王は躱す必要もないと言わんばかりに、ドッシリと構えている。

「な!?」


魔法の世界ならば基礎中の基礎、念力の術だ。
吉良が魔法で動かされたことにより、そのスタンドもまた明後日の方向に拳を振ってしまった。


「う、うわあああ!!」

念力により地面に立つ権利を奪われた吉良は、奇怪な格好で浮遊している。

「もう恐れをなしたか。だが、わしを謀った罪はこの程度で贖えぬぞ!」


強制的に地面と別れを告げられ、空中に磔にされる吉良。
そのまま火が燃え盛っている場所に投げ込まれそうになる。

「キラークイーン、第二の爆弾。」


しかし、そんな状況でもシアーハートアタックを飛ばす。

「コッチヲ見ロォ!!」

自動追跡型の爆弾型スタンドは、例え持ち主がどのような状況に陥っていようと、獲物目掛けて走るのをやめない。
スタンド使いの意志とは独立しているからだ。
最もそれが吉良の理想通りの活動を出来るのは、辺りの気温が一定の時だけだが。


「なんだその能力は?だが、せめて真っすぐに飛ぶ力を身に着けてからわしに歯向かうべきだったな。」

魔法で吉良を宙づりにしたまま、爆弾戦車の行き先を見るデマオン。
だが辺りが燃えており、普段の場所より気温が上がっているこの場所では、温度に反応して走るスタンドは役には立たない。


「コッチヲ見ロォ!!」


シアーハートアタックはデマオンにぶつからず、代わりに火が付いた木へと走って行く。
カチ、と作動音がしたかと思ったら、大爆発する

「ぬ!?」

爆弾スタンドを無視していたデマオンの背筋に、うすら寒い物が走る。
だが、そんな第六感など無視して吉良を燃え盛る地面に叩きつけようとする。
しかし、そうすることは出来なかった。
シアーハートアタックによって倒れた木が、デマオンを潰そうとしてきたからだ。


「ぬうう!!」

炎を纏った樹木が、デマオンを頭上から焼こうとする。
魔法をキャンセルし、どうにか火の塊を躱す。
飛び散った火の粉や、木片がデマオンの身体を僅かながら焼いた。


地面に落ちた吉良は、すぐに空気砲を構え直す。


「ドカン。」

そこから放たれるのは、空気の塊。
人間や並みの悪魔ならともかく、大魔王相手の武器としては、力不足も良い所だ。
不死の力がない状態でも空気の弾如きに後れを取ることは無い……はずだった。


「一度わしに攻撃を当てられたぐらいで勝てると思うな。」
「そこで点火だ。」

吉良は不敵な笑みを浮かべ、握りこぶしの親指の部分に力を込める。
ただの空気の塊は、音を立てて爆発した。
迸る熱エネルギーが、デマオンの顔を、衣を、顎髭を焼く。

(馬鹿な!?)
「ふむ。少し離れすぎていたか。」
「おのれ……。」

さしものデマオンも、今の爆発には驚いた。
空気砲はかつて戦った地球人たちが使っており、この世界でも同行者である柊ナナが重宝していた。
その時に見た空気砲は、これほどの威力は無かった。
答えは今の使用者のスタンドにあった。

この殺し合いに巻き込まれなかった吉良は、爆弾にした空気の弾丸を放ち、仗助達を攻撃した。
その時は空気の塊を放つ猫草(ストレイキャット)という生き物を使ったのだが、今回は空気砲を使った。
威力は言うまでもなく、普通に空気砲を撃った時より高い。
エアガンがバズーカになった様なものだ。


「わしを謀っただけでは飽き足らず、度重なる狼藉、貴様には死さえ生ぬるいわ!!」

2発も攻撃を受け、怒り心頭のデマオンは、両手を広げて魔力を溜める。

「落ちよ!!水柱!!」

ルゲイエの爆発によって、燃え広がった火を消した時と同様に、横殴りの洪水が吉良に襲い掛かる。
逃げ場はない。100mを9秒台で走るアスリートも、津波からは逃れられないのと同じ原理だ。
先ほど岩の塊を弾き飛ばしたように、スタンドで殴り飛ばすことも出来ない。
1トンのパンチを撃ち出せるというゴリラも、水を潰すことは出来ないのと同じ理由だ。
2次元的な動きしか出来ない生き物は総じて、この水魔法を躱すことは出来ないだろう。


「ドカン。」

しかし、吉良は慌てず騒がず、爆弾に変えた空気弾を地面に放つ。
爆発の反動でロケットのように、地面から離れる。
そのまま手を伸ばし、大木に掴まる。
勿論、爆発のダメージを自身も食らってしまったが、胸の高さほどもある濁流にのまれるよりかはマシだ。


「その程度の魔法を見破ったぐらいでいい気になるな。」

辺り一帯を洗い流してしまうほどの濁流を放つ魔法も、大魔王にとってはほんの攻撃の1つでしかない。
今度は両の掌を掲げる。
突如彼の鋭い爪の先から火花が散ったと思いきや、その火花が集まり、炎の龍へと姿を変えた。
一つ星の下級悪魔の応用技で、彼らが使うのには溜めが必要だが、それを大魔王は一瞬でやってのける。
後は敵目掛けて龍を飛ばすだけ。
木の上という、逃げ場が限られている場所では、到底避けられる魔法ではない。
相手が魔法を中断でもするか、はたまたひらりマントのように気体を跳ね返せる道具でもない限りは、無事でいることは到底不可能だ。


「コッチヲ見ロォ!!」


しかし、右往左往していたシアーハートアタックが、ここへ来てデマオンに向かってくる。
高温に反応して動く爆弾型スタンドは、先程まで辺りが燃え盛っていたせいで、獲物を見失っていた。
しかし、先程の水魔法で火が軒並み消えたことで、温度が高くなっている場所がデマオンの手元だけになった。

「足掻くな!地球人の走狗の分際で!!」

やむなく、標的を吉良から彼のスタンドに変える。
炎魔法の詠唱をキャンセルし、念力魔法に変える。
不死身の能力が消えた今、爆発の直撃を受ければどうなるか分からない。
そのため、攻撃の矛先を吉良から爆弾スタンドの方に変えた。
強力な魔力の奔流を直に受けた爆弾型戦車は、かつてスタープラチナに殴られた時のように激しく吹き飛んで行った。


「コッチヲ見ロォ!!」
「今の魔法を食らって、無事だというのか?」


そして、スタープラチナに殴り飛ばされた後のように、何食わぬ顔で戻って来た。
ただの卑屈な人間だと思っていた相手の予想外の強さに、デマオンも歯ぎしりする。


「わしの手をここまで煩わせるとは……せせこましい心を持った地球人にしてはやりおる。
その力を他の星の征服にでも使えばいいものを。」

キラークイーンという幽霊を使った攻撃に、硬くて魔法を直撃させても倒せない使い魔。
威力に欠ける空気砲を、持ち前の能力で強化するなど、それを使う本人の対応力も優れている。
吉良吉影という男は、デマオンにとっても認めざるを得ない男だった。
このような男が、なぜこれほど卑屈な真似をしているのだと疑問に感じてしまった。


「生憎だが、わたしは常に「心の平穏」を願って生きてる人間なのだよ。自分の力を大きなことに使った結果、それを見た愚か者共が出る杭を打とうと喧嘩を吹っかけてくる……。
そんな「トラブル」とか夜もねむれないといった「敵」をつくらない…。というのがわたしの社会に対する姿勢でありそれが自分の幸福だということを知っている…。
もっとも闘ったとしてもわたしは誰にも負けんがね。」
「敵を作りたくないのなら、その長々とした持論語りをやめるがよかろう。耳障りで叶わん。」

木から降りた吉良は、訥々と語りつつも、空気砲をデマオンに向ける。

「ドカン。」
「コッチヲ見ロォ!!」

再び爆弾化した空気の弾を放つ。
空気砲の手軽さに、キラークイーンの攻撃力を加えた技だ。
殴り飛ばせば爆発するし、切り裂いても意味が無い。
おまけに逃げたとしても、シアーハートアタックが迫って来る。
だが、デマオンは避けようともしなかった。

「ワハハハハハ!その程度でこのデマオンを倒せたとでも思うか?」


高笑いをするとともに、突風がデマオンの方向から吹いてくる。
触れれば爆発する爆弾と化したとはいえ、所詮は空気の塊。
風船やシャボン玉のように、風が吹けばその先に飛んでいくのは当たり前である。
そしてその攻撃の対象は、空気爆弾のみならずシアーハートアタックや吉良自身も含まれる。
かつてデマオンはこの魔法で、地球人6人を纏めて城外へ吹き飛ばしたことがある。


「う、うわあああああ!!!」

吉良は悲鳴と共に地面を転がって行く。
そのまま、木にぶつかった所でようやく止まった。

「ワハハハ、ワハハハハハハ!!少しわしが力を見せればこのざまか!!」

台風のような大風を起こしてなお、高笑いをし続けるデマオン。

「くそ、キラークイーン、第二の爆弾、シアーハート……あちちち!!」
「立てよ火柱。」

すぐに吉良の足元から、紅蓮の炎が立ち上る。
それは吉良のスーツと靴を燃やし、慌てて地面を転がって火を消そうとする。
温度が高い場所に向かっていくシアーハートアタックは、方向転換してその場所で爆発する。
爆風に巻き込まれぬために、慌ててスタンドを引っ込める。


「岩よ、雷となり、地球人を打ち砕け!!」

攻撃の手は止まらない。
邪悪な岩の霊が、流星のように吉良目掛けて襲い掛かる。


「キラークイーン!」

どうにか岩をスタンドで殴り飛ばすが、散らばった破片が彼に小さな傷を幾つも作った。
彼の嵐のような攻撃は続く。


(この黒い男……承太郎のスタープラチナのように手数とパワーだけで攻め切るつもりか……想像以上に恐ろしい相手だ……!)
「つまらん。戦いを毛嫌いするあまり、狭い世界に閉じこもって牙を研ぐのを怠った駄犬か……。」



デマオンの言うことは最もだった。
大魔王は長い間、不死の能力に守られていたために、予期せぬ危機を察知する第六感が鈍っていた。
なんせ別の星に置いてある心臓に銀の矢を刺されねば決して滅びることは無いのだから、慢心する気持ちも残ってしまうだろう。
そのため、何発が最初の攻撃は許してしまった。

だが、ひとたび攻めに転じると、不死の力が無かったとしても俄然有利なのはデマオンの方だ。
彼は悪魔の王として、常に自身の力を高め、地球人や出世競争の相手となる悪魔と長きに渡り戦い続けた。
それに対し、吉良吉影という男は半世紀以上も戦火に見舞われたことのない国で生まれ育った若きサラリーマンだ。
たとえ出身が、行方不明者が多い町だとしても、命を賭した戦いをすることなく生きることも出来る。
彼自身が血みどろの争いを、蛇蝎のごとく嫌う性格なのも相まって、戦いに慣れ切っている相手には分が悪い。


このままでは負けてしまうことが分からぬほど、吉良も愚かではない。
なので、吉良は逃走という選択肢を選んだ。
だが、大魔王からは逃れられないという言葉もある通り、逃走が可能だと思うほど楽観的でもない。

(ならば……。)

炎が燃え盛る中では使いにくいシアーハートアタックを引っ込め、支給品から4つ折りに畳まれた紙を取り出す。
そこから奇怪な姿をした生き物が2匹飛び出た。
1匹は三毛の模様。もう1匹は白い身体に黒ぶちが印象的だ。
全身を見れば猫に見えなくもないが、猫にしては胴体と爪がやけにひょろ長い。
彼らは、とある時空の日本で危険だと見なされた者の間引きに使われていた。
その世界では不浄猫と呼ばれている。




(アイツ……少しは手加減しろ……。)

小柄な体格を生かして、倒れた木の裏に隠れて様子を窺っているのは、先程吉良に爆弾にされかけた柊ナナだ。
どうにか支給品と駆け付けたデマオンにより難を逃れたが、問題はその後だった。
爆発に巻き込まれかけるわ、濁流にのまれそうになるわ、爆弾戦車に襲われるわ、散々な目に遭った。
半分くらい味方(デマオン)の魔法が原因で死にかけた彼女は、出来るだけ彼らから離れている。


加勢に入りたくない訳ではないが、虎の子の空気砲を奪われてしまった今、迂闊に戦いに行くことも出来ない。
むしろ足手まといになるか、広範囲の魔法か爆発に巻き込まれて死ぬのが目に見えている。

だからと言って何もせず、ぼんやり勝利を見届けるほど怠惰な人間ではない。
辺りを伺い、どうにか自分が有利になる方法が無いか探す。


そんな中、この戦場にデマオンと吉良以外の第三者がいることに気付いた。
森の中、少し離れた場所から雷が落ちたこと。
デマオンが撃ったにしては、少し距離が離れている。

そしてもう一つ、人の気配がした。
この戦場の空気は完全に大魔王が牛耳っているので、第三者を察知するのは難しい。
だが、こうして戦場から離れていると、自分以外にも様子を窺っている者がいることに察しがついた。
柊ナナという少女は、この殺し合いに巻き込まれる前から後ろ暗いことをしていたため、背後には敏感であった。

どこかで、自分を見つめている視線を感じた。
それは友好の視線ではなく、明らかに負の感情を抱いた視線だ。

(あいつは……。)

木陰にチラリと映った金髪。
まさかと思ったが、間違いない。
かつて自分が殺したはずの佐々木ユウカだ。
あの時殺したという彼女がなぜ生きているのかは分からずじまいだが、ろくなことをする相手ではない。
少なくとも和解できるほど論理的思考が出来る相手では無いし、もしかするとシンジと添い遂げるために殺し合いの優勝を目指しているかもしれない。


(だが、どうする?)

ここでナナが悩んだのは、ユウカをどう処理するかということだ。
今の自分は武器が無く、彼女を殺すことでさえ一手間なはずだ。
一度殺された以上は警戒されている可能性もあるため、なるべくなら強い武器を用意しておきたい。
加えて、空が闇に包まれた今、いつ彼女が持ち前の能力で伏兵を忍ばせているか分からない。
敢えて自分から出て挑発し、彼女を戦場の真ん中に追いやり、デマオンか吉良の攻撃の余波を浴びせることも考えた。
だが2人、特にデマオンの攻撃の規模を考えると、自分まで巻き添えを食らいかねない。


ひとまずは彼女に付かず彼女から離れず、傍観の立場をとることにした。
だが、ナナは知らなかった。
ユウカの手札は、予想外な形で増えるということに。



「ギラ!!」

アイラが放った魔法が、バツガルフを焼こうとする。
だが、その身体はコゲ一つ付かない。
先ほど斬撃を入れた時も、効いた様子は無かった。
(魔法も効かない……一体どういうこと?)


相手が物凄く硬い、あるいはアイラ自身が弱いなどという訳では無い。
初級魔法であるギラは、敵を殺すには力不足もいいところだ。
それでも、炎耐性もない相手に全く効かないのはおかしい。
バツガルフの周囲に現れる、緑色のバリアの力だ。


「その程度ではわたしにキズなど付けられぬ。」

バツガルフの機械仕掛けのアイセンサーがアイラを見つめる。
今度は彼の周囲を飛びまわる小型機械生命体、バツバリアンが飛びかかる。

「させないわよ!」

しかし、彼女が持っている幅広の大剣は、攻防一体の役割を果たす。
それを軽々と振り回すことで、バツバリアンの突撃は悉く弾かれ、アイラ自身を傷付けることは無い。

「メガサンダー!!」

バツガルフ自身も杖を掲げ、雷魔法を使う。
だが、アイラは不規則な足さばきで、雷の落下点から確実に離れていく。


攻撃を食らっても効かないバツガルフと、攻撃の当たらないアイラ。
状況は完全に膠着。
だが、膠着では一つ問題がある。
それは、この場所が16時過ぎれば、禁止エリアに指定されることだ。
幸いなことに、まだその時間まで2時間以上ある。
しかしこうも戦いが動かないと、共倒れで気絶した挙句、時間切れでドカンということも十分あり得る。
そのため、バツガルフは現状を打破するために、新たな手を1つ打った。


「待て。この戦いを終わらせてくれないか?」

「!?」


仲間の死を告げられ、冷静で無くなっていたアイラも、剣を地面に刺した。
不意打ちを警戒し、魔法の盾だけ構えておく。
嘘か本当かは分からぬにしても、休戦、停戦を望む相手を殺すほど、彼女は血の気の多い人間ではない。

「何が言いたいのよ。勝てないからって諦めるつもり?」
「察しが良くて助かる。ワタシはこの殺し合いの先にいる者が誰なのか思い当たる節がある。」
「!?」

こうなると、いよいよアイラも剣を鞘に収めざるを得ない。
目の前の敵と思しき相手が、この殺し合いを盤上からひっくり返せるかもしれないカギを握っているというのだ。
嘘だという可能性も加味している。
この男が真実を言っている根拠は、どこにもない。
それでも、この殺し合いの参加者にとっては垂涎物の情報を握っている可能性は、捨てきれない。


「どうしてそう思うに至ったか話しなさいよ。」
「先程地震が起こり、空が影に包まれただろう。あの力は、わたしの世界にいた、古の魔女のものだ。」

何かを掴んだのか、バツガルフは途端に饒舌になる。
てっきりアイラは、オルゴ・デミーラが力を回復し、この殺し合いの会場を闇の封印で包んだのかと考えた。
だが、まさかこの男も似たようなことをする者を知っていたとは。


「わたしは奴に殺され、気付けばこの場所にいた。だからこの殺し合いで優勝し、奴を滅ぼすという願いを叶えてもらおうと思っていた。」

自分が被害者だということ、そして殺し合いに乗らなければならなかったというだけ話す。
突然の態度の改まりように、アイラも呆気に取られていた。

「だが、この殺し合いのウラにいるのが奴なら、話は別だ。優勝した者の願いなど叶えるはずがない。」
「つまり、このまま進んでもロクなことにならないと分かったから、私達の仲間に入れてくれってこと?」
「分かってくれたか、なら話が……。」
「ふざけないでよ!!」


彼の話は、アイラの怒声にかき消された。
その手は、一度収めた刃を、再び抜こうとしている。


「いくらなんでも勝手が良すぎるんじゃない?散々悪事を働いておいて、都合が悪くなった瞬間私達の方へ入ろうだなんて。
それにクリスチーヌって人が元の世界でも悪人だったと言っていたわ。」

アイラは図書館にいた時クリスチーヌから、バツガルフという男には気を付けろと聞かされている。
そもそもの話、彼を敵だと簡単に見なしたのも、彼女からの情報があったからだ。


「このまま実りのない戦いを続け、全員が大損をするよりかはマシだ!」
「そう思わせておいて、後ろから私達を刺そうとしない根拠はどこにあるの?」


実の所を言うと、アイラとしてはこの戦いを早く終わらせたかった。
吉良という殺人鬼に、この男の同行者だった金髪の少女まで、柊ナナの命を狙っているのだ。彼女の護衛を優先したいのは嘘ではない。
少し離れた場所から断続的に爆音が聞こえてくるから猶更だ。
だが、この男を倒したかったというのも事実だ。
かつての仲間や、図書館で打倒デミーラを誓った仲間が次々に倒れた中、彼らの分まで戦いたいという気持ちもあった。


「無い。」
「え?」

ここまできっぱりと答えられると、逆に呆気に取られてしまう。
溜めていた力を、何処に発散すべきか分からず、どうにもモヤモヤするばかりだ。

「弁解する手段など無いと言った。それにワタシは既に参加者を一人殺している。仲間に入れろと言う方が無理な話だろう。
だが、この戦いを止めることぐらいは出来る。ワタシと戦う以外にもやらねばならぬことがあるのではないか?」

互いに睨み合うだけの状態が続く。
目の前の敵と戦うことも出来ず、かと言って彼を野放しにしておくことも出来ず。
膠着していたかに思われた戦いは、さらに動かなくなることに。


(くそ…早く決めろ……。)

バツガルフとしては、アイラたちと同盟を組むのはそこまで悪い話では無かった。
状況が変わりつつある中での、作戦の転換は彼の得意分野。
殺し合いに優勝しても願いを叶えてもらえないのなら、いっそのことこの殺し合いから脱出し、それから計画を立て直せばいい。
ユウカという何を考えているのか分からない小娘など、切り捨てても惜しくはない存在だ。
だが、それはあくまでバツガルフにのみ都合のいい話。
相手側がそう簡単に乗ってくれるわけではない。


せっかくバツバリアンまで解除しているのだから、大人しく言うことを聞けと、頭の中で念じていた。



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最終更新:2022年12月02日 11:09