2匹の不浄猫が、デマオン目掛けて突進する瞬間を確認すると、吉良はすぐに逃げ出した。
いくら何でも分が悪い。
だが、今ここで殺さずとも、逆転の機会を掴むまで逃げ隠れを続ければいい。
空条承太郎と東方仗助に追い詰められながらも逃げおおせた時と同じ。生きていれば必ずチャンスは巡って来る。
「自身の力では敵わぬと見て、ついにはケダモノに頼り始めたか。だが何をしようと無駄だ。」
不浄猫はデマオンに近づく前に、森の木に隠れる。
戦いによって幾分か、望まれぬ開拓をされてしまった森だが、それでも隠れられるほどには樹は立っている。
「すこしは知能のある生き物のようだ。だが、主人を見捨てるとはな!」
デマオンは隠れた不浄猫を無視し、吉良を追いかける。
だが、その瞬間を彼らは待っていた。
不浄猫とはいつの世でも、犠牲による安寧を貪ろうとする者を守るために、傍若無人に振る舞う悪鬼を粛清する。
魔王が吉良にかかり切りになったと判断した瞬間、三毛模様の方が静かにデマオンの背後に忍び寄る。
足音も立てず、昼間の空き巣以上に静かに。
不浄猫の得意なことは、相手の一瞬のスキを見つけることだ。
デマオンは相手を見ることなく、後ろ手で炎魔法を放つ。
背後からの攻撃など、大魔王になる前から幾度となく受けたことがある。
しかし、当たったのは生き物ではなく1本の樹。
今のタイミングで不浄猫は狙ったのではない。
不浄猫は獲物をしとめる時、2度近づく。
1度目は獲物に飛びかかるタイミングを伺う時。
そして、次こそが本番だ。
体の細長さも相まって、獲物を狙う時の動き方は猫というより蛇を彷彿とさせる。
そして襲い掛かるのは、先程近づいた不浄猫ではなく、もう一匹、別の場所に隠れていた方だ。
満を持して、大きく口が開かれる。その先は魔王の首筋。
不浄猫の牙は尖ってはいない。食い殺すのではなく、絞め殺すのだ。
いや、ここがバトルロワイヤルという
ルールに則った世界である以上、『絞め』殺す必要もない。
呼吸に差し支えるほどの圧力がかかれば、自ずと首輪が作動し、数10秒で首より上が綺麗さっぱり無くなる。
だが牙がデマオンに触れた瞬間、不浄猫の方が鈍い悲鳴を上げた。
突然、獣の体毛が逆立ったと思いきや、全身が炎に包まれる。
そのまま死骸は明後日の方向に飛んで行く。
今の魔法は、デマオンが自身にかけておいた、一種のカウンターだ。
誰かが魔法の術者を攻撃した時、トリガーになる。
彼の生まれの魔界星は、不浄猫のような異形の生物などいくらでもいる。
真っ赤な瞳を輝かせ、集団で獲物を骨だけにしてしまう魔界のハイエナ。
常識を超えた巨体と力を持っているツノクジラ。
そのツノクジラのもとに、自分の歌を聞いた者を否応なく引き寄せる人魚。
神栖66町では、子供を攫うネコダマシとして恐れられる不浄猫も、彼にとっては少し厄介な生き物でしかない。
魔王は獣には目もくれず、ただ自身を謀った地球人の命を狙う。
残った一匹の不浄猫は、攻撃のチャンスを見失ったからか、攻撃に出る気配はない。
「岩よ。雷となり、地球人を打ち砕け!!」
何度目か、邪悪な岩の精霊が、吉良へと襲い来る。
既に見慣れた攻撃であるので、スタンドで殴り飛ばすことに成功する。だが、その間には逃げることをやめねばならない。
殺人鬼の下へ巨大な黒い壁が、ゆっくり、ゆっくりと迫り来る。
(何か……何かいい方法は無いのか……。)
戦うにしろ、逃げるにしろ、常に主導権を握られる。
吉良は必死で頭を回転させながら、魔王を出し抜く方法を模索する。
■
(しまった……あの方向には……)
不浄猫の死骸が、戦場の外へ飛んで行った瞬間。
ナナの背筋を、うすら寒いものが走った。
あの怪物は、間違いなく全身を焼かれて死んでいる。
だから何だというのだ。
むしろ彼女にとって、あの猫のような豹のような生き物が生きているより、死んでいる方が問題なのだ。
その理由は言うまでもない。
(これは……願ってもみない幸運ってやつね。)
金髪の少女、佐々木ユウカは近くに死体が転がり込んでくると、すぐにその場所へ走る。
邪な笑みを浮かべ、その口の端からは今にも涎がこぼれそうだ。
何しろ、欲しかった死骸(どうぐ)が手に入ったのだから。
焼け焦げていて、生命の活動を停止した生き物が、むくりと立ち上がる。
全身の火傷は無くなり、その姿はデマオンの魔法を食らう前と同じだ。
映画館で焼け死んだはずの風間シンジと同様、その姿は死んでいるとは到底思えない。
(早くアイツから持ち物を奪わないと!!)
ユウカの能力の発動のトリガーは「操る死体の持ち物を持っていること」。
一瞬、ユウカが不浄猫の毛を一房毟っていたいたことから、彼女が右手に握りしめたものを奪えば良いと思っていた。
慌てて彼女がいる場所へ走ろうとするが、時すでに遅し。
「チェックメイトだね。」
不浄猫のひんやりとした牙が、柊ナナの首に触れるまで、あとほんの数センチ。
彼女が身じろぎしたり、何らかの拍子で身を捩っても、届くぐらいの距離だ。
「少しでも動いたら、この子がナナちゃんの首を嚙み千切るよ。」
ユウカのその言葉で、ナナは足を止めざるを得なくなる。
既に柊ナナのすぐ近くには、不浄猫が今にも飛びかかろうとしていた。
本来の不浄猫とは使い方が違うとはいえ、柊ナナぐらいの少女にとって脅威となるのは確かだ。
「どうやらお前は、ここでもロクなことをしていないようだな。」
「大切なシンジと結ばれるためにね。そして、シンジとの仲を引き裂いたナナちゃんをこうやって殺すためにね。」
この佐々木ユウカというドブにまみれた性根の人間が、この世界でも全く変わってないことに、呆れを覚えるしか無かった。
馬鹿は死ななきゃ治らないと言うが、この場合、馬鹿は死んでも治らないという方が正確だろう。
「呆れるくらい愚かな奴だ。まだ自分をアカの他人の恋人だと思って……。」
「うるさい。そんなことより、最後に言い遺すことだけ考えなよ。」
不浄猫と、佐々木ユウカ。
4つの爛々と輝く眼が、ナナの命を奪える瞬間を今か今かと待ち望んでいる。
元の世界とは、立場が完全に逆転した。
「さーて、どうやってシンジとあたしの怨みを晴らそうかな~。」
足を怪我し、逃げる力も戦う力もない子犬を、どう虐めてやろうか考える子供のような表情を浮かべる。
だが、その余裕の一瞬が命取り。
ナナは地面に落ちてある石を掴んで、ユウカの顔面目掛けて投げる。
「うわ!痛っ!!シンジに会う前に顔をケガしたらどうするのよ…!!」
しかし、彼女の肩に石が当たっても、殺すことは出来ない。
そもそも、ナナがこれまで能力者を殺すことが出来た背景には、暗殺用の道具があった場合か、断崖絶壁など地理的な条件が味方した場合のみだ。
(くそ……)
ナナの行動を抵抗と見なした不浄猫が、先の尖ってない牙でナナを絞め殺そうとする。
だが、標的と定めた少女は、急に宙へ浮いた。
「「え?」」
不浄猫の牙は、何もない所を噛むことになる。
3次元的な動きをし始めた復讐相手に、ユウカは驚く。いや、ナナ自身も驚いていた。
何しろ柊ナナは無能力者であり、空を自由に飛ぶ能力など持っていないのだから。
「地球人共が、静かに出来んのか!!」
彼女を宙に浮かせているのは、デマオンの魔法によるものだった。
勿論、デマオンは決してナナが心配だったという訳ではない。
これから目の前の男を殺すというのに、近くで乱痴気騒ぎをされてはたまってものではない。
「ちょ、ちょっと、ナナちゃんの邪魔をしないで……。」
良い所を邪魔されたユウカは、デマオンに文句を吐き出そうとする。
だが、その口調は尻切れトンボも良い所だった。
なにしろ、死体を操れる能力以外は一介の女子高生でしかないユウカが、魔族の王に睨まれたのだ。
そのショックで気絶やら失禁やらしないだけでも、褒められたものだろう。
「邪魔なのは貴様なのが分からぬのか!!」
怒鳴り声に合わせて、ユウカのすぐ近くから炎が立ち上る
「あちちち!!」
牽制のつもりで撃たれた炎だが、彼女の身体の先端を僅かに炙った。
それだけで、脱兎のごとき勢いで逃げていく。
勿論、不浄猫の死骸も一緒に。
「あ、ありがとうございます。」
「馬鹿者が。王が罪人を処刑する間ぐらいは静かにせぬか。」
デマオンとしては、ユウカも邪魔な地球人ではあるが、処すべきは自分を謀った吉良の方だ。
先程のやり取りの間に、またも吉良は逃げ出そうとする。
だが、魔王がナナとユウカの争いを止めたのは、吉良に対する慢心ではなく余裕。
そして、王たる自身に不届きな行為を行った相手を、処刑するための会場の準備だ。
「ドカン、ドカン」
後ろを振り返り、吉良はまたも爆弾と化した空気弾を撃つ。
「無駄だと言ったはずだ。」
しかしデマオンはナナを雑に地面に置いた後、新たな魔法を練る。
持ち前の魔法で追い風を起こし、空気弾を真逆の咆哮へと飛ばす。
空気弾の爆発のタイミングを、自由に決定できるのは吉良のみだ。
だが、それがデマオンに近づくことは無い。
そのまま風に乗って、吉良も逃げようとするが、その足が動かない。
「風と共に逃げるつもりか?生憎だが、わしら魔族を利用しようとした地球人は、常に八つ裂きの刑を受けて来た。」
先ほどナナに対して使った念力を、今度は吉良に使う。
手足をばたつかせ、必死で魔力に抗おうとするも、革靴を履いた足を地から離される。
さらに指をパチンと鳴らすと、吉良のすぐ下から炎が出る。
まるで炙り焼でも作っているかのような有様だ。
「もう逃げられんぞ。わしが何かの気まぐれを起こしたり、そこの石に躓いて魔法を解いたりすれば、きさまはすぐにでもバーベキューよ。」
「く……くそ……。」
吉良はスタンドを出すが、近距離パワー型スタンドであるキラークイーンでは、魔王に届かない。
「あの爆発する使い魔を出しても無駄だ。奴は炎に反応して向かってくるのだろう?」
正確には高温に反応して動くのだが、そのために吉良のすぐ近くに炎を出した。
唯一離れた敵に通じるシアーハートアタックも、上手く動かない以上はどうにもならない。
「さて、最後に言い遺すことはあるか?」
(くそ……何かこの男を攪乱できる方法はないのか……。)
デマオンの燃え盛る炎のような瞳に見つめられながらも、必死で吉良は思考する。
これが最後のチャンス。逃せば後は無い。
とはいえ、相手は大魔王。ちんけな嘘では逆鱗に触れるのは目に見えているし、申し開きや命乞いをする相手でもない。
「そう怯えなくともよい。貴様は地球人にしては良く戦った。一思いに消し炭にしてくれよう。」
デマオンの右手に炎が宿る。
彼の高鳴る鼓動に合わせて、吉良吉影という殺人鬼の命が、カウントダウンを刻み始める。
そんな中、デマオンの近くにいた少女に目が入った。
(!!!!!!)
その瞬間、吉良は閃いた。
起死回生の一手、などと呼べるほど素晴らしい物ではない。
0%だった生存率が、10%に上がれば良いという程度だ。
それでも、この魔王から逃れるために、やってみる価値はある。そんな方法だった。
「じゃあ、最後に聞いておきたいことがあるんだが、答えてくれるかな?」
吉良のえらく冷静な態度に、デマオンは聊か戸惑うも、すぐに立て直す。
ここからならばどう足掻かれようと魔王が勝ち、吉良が破れる。余程のへまをしない限りは、それは決まっている。
だから、適当に質問を聞き流して、切りの良い所で魔法を放とう。そう考えていた。
「大魔王である君に問いたいことだが、私以外に裏切者が近くにいた時はどうする?」
この瞬間、心拍数が一番ハイペースになった者は、吉良からナナに変わった。
だが、彼女は平静を突き通す。
確かに自分は吉良に、デマオンやアイラを裏切った上での同盟を持ちかけようとした。
だが、この状況なら、自分のことを名指しで言われても苦し紛れの虚言と惚ければいいだけの話だ。
「隣にいる彼女はね、たしかに私にこう頼んだんだよ?『わたしと一緒に参加者を殺せ。』とね。」
柊ナナは思わず、足が出てしまいそうになった。
吉良の顔面を殴り、その口を塞ごうという衝動に駆られる。
(落ち着け……コイツの言ったことが本当だという証拠はない。)
勿論、そんなことを言われても、魔王はただのつまらぬウソだと考えてしまう。
目の前の地球人はこの期に及んで自分を言いくるめようとし、内輪揉めを狙っているにちがいない。
低くて聞き心地の良い声だけが取り柄のエセモラリストを焼き殺し、それでこの戦いを終わりにするだけ。
味方陣営にいる他の誰かから、柊ナナを疑えとでも言われなければ。
――デマオン様、あの柊ナナという少女はどう思いますか?
――ただの地球人の子供ではないか……何が言いたい。
――何か分からないものを感じます。もしかすると私達を利用しているかもしれません。
――たとえそうだとしても、ワシや部下のきさまが地球人1人に後れを取る訳なかろう。
デマオンは図書館で柊ナナに会ってから、最初の放送までの間、アイラからナナという少女が疑わしいと言われていた。
もしもの話、デマオンがアイラから忠告を受けていなければ。
吉良の言葉など、取るにならない嘘だと一蹴しただろう。
ここで、魔王の脳内に初めて葛藤が生まれた。
早くこの男を殺せと言う言葉と、話を聞くまで待てと言う言葉だ。
一度疑ってしまうと、疑念は関係のない所まで広がる。
図書館の放火は、襲撃者が柊ナナと結託して行われたことだとか。
そこで、そんなはずはないと自らに否定の言葉をかける。
現に自身が満月博士に襲われた際に、柊は満月博士を攻撃した。
だが、あの躊躇のない攻撃は、どうにもあの地球人の少年たちと同じ人間だとは思えない。
大魔王デマオンとは、悲しいほど何かを疑うことに慣れていない生き物なのだ。
彼は長い生涯、地球を手に入れることに力を注いできた。
地球は悪魔族が代々望んできた惑星であり、それを手に入れることに何の疑いも無かった。
だから、些細なことでも疑うことに時間をかけてしまう。
事実、地球人ナルニアデスが悪魔達の仲間になったふりをして乗り込んだ際、裏切りに気付くのに時間を要してしまった。
「話を逸らすようで悪いが、君の世界では蝙蝠という生き物はいるのかな?
だとしたら知っていると思うが、裏切りで有名な彼らは何の道徳も哲学も持たず、日陰から自分の安全な日陰へと移動するしか能のない生き物だ。」
(今、この男は何と言った?)
しかし、彼の言葉に反応したのは、柊ナナの方だった。
吉良吉影が言った蝙蝠の例えは、自分のことだと気付かないほど、ナナは鈍感ではない。
自分を、能力者たちを殺す任務を承った自分を、あろうことか道徳も哲学もない人間と言ったのだ。
彼女の気持ちを知ってか知らずか、吉良は宙づりにされたまま訥々と語る。
傍から見れば、どちらが追い詰められているのか分からない。
デマオンの胸の中で、薄々嫌な予感が湧き始めた。
この男を野放しにせず、すぐに殺してしまえと。胸の奥で何かが告げる。
左手の炎の弾を飛ばす準備をする。
「それだけなら飼ってやる価値もあるかもしれないが、あろうことか奴ら感染症の原因となる病原体を保有している。
温情のつもりで味方にしてやったはいいが、奴らが媒介する細菌には気を付け……」
自分の能力に胡坐をかき、好き放題やった悪人の分際で何を言うか。お前のような奴に私の両親は殺されたんだ。
吉良吉影のあまりの勝手な態度に、そんな言葉がナナの胸の内をよぎった。
デマオンが殺す前に、徒手空拳でもいいからこの男を殴らねばならない。
その時、奇跡が起こった。
「どういうことだ……。」
吉良にとって最高の、デマオンにとって最悪の奇跡が。
死んだ。
悲鳴を上げる暇さえ無く焼け死んだ。
柊ナナは、悲鳴も上げずに、魔王の放った炎によって灰燼に帰した。
いくらナナが動揺し、デマオンの前に出たと言っても、魔界で一番の力を持つ彼が間違って彼女に当てるようなことはない。
この場に、吉良とナナ、デマオン以外の誰も居なければ。
吉良の支給品にあったもう一匹の不浄猫が、主を守ろうと、そして主に歯向かう者を殺そうとした上での結果だ。
不意に吉良への足を止められた柊に、災厄が襲い掛かった。
柊と不浄猫は、共に炎に包まれ死んでいた。
自身の部下を殺害するという、してはならないことをした魔王は、一瞬だが集中力を手放し、放心状態になった。
それは、ひどく大魔王にあるまじき行為だった。
地球人など命の内には入らないし、不手際を犯した部下や裏切った部下を、顔色一つ変えずに粛清して来た。
違う。それらは全てデマオンの意志でやってきたことだ。
意志にそぐわず、しかも姑息な地球人の策略に嵌められたことで、部下を殺したことが問題だ。
「ドカン」
魔法が切れたことで、宙づりから解放された吉良は、炎が燃え盛る地面に空気砲を打つ。
元々デマオンが集中力を切らしたことで、弱まっていた炎は、完全に消えた。
1割あるかないかの賭けに成功した。このチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「待て!地球人よ!!たかが少しの幸運ぐらいぐらいで逃げられると思うな!!」
その怒声は、先程よりも勢いが薄れていた。
逃がしてはおけない。
柊ナナを殺したのはこの男が原因だ、そして彼女が吉良と手を組もうとしたからだ。
そんな体のいい言葉で、自分を誤魔化す。
部下を他者に嵌められて殺したことなど、王たる者として一番やってはならないことだからだ。
今から殺せばいい。まだ間に合う。
しかし、焦りが如実に表れる為、魔法のコントロールが乱れている。
破壊したのは、森の中の木々のみだ。
炎を纏った樹木が倒れ、下敷きになりかけるも、必死で走る。
魔王は倒れた木をもさらに吹き飛ばし、地球人を追いかける。
「岩よ!雷となり、地球人を打ち砕け!!」
岩の邪精霊は、不気味な声と共に倒れた木を吹き飛ばす。
ついに吉良を捕らえたと思ったら、何かが爆ぜた。
「吉影ェーーーーーーッ!!!!」
写真だ。
空を飛ぶ写真が間に入りこみ、吉良を魔法から庇った。
吉良の敵になる精霊あらば、彼の守護神になる幽霊も存在する。
「!?」
一体何なのか、吉良自身も一瞬混乱した。
この世界線の吉良は、まだ写真と化した父親に出会っていない。
確かに父の声をしていた何かが、自身を助けてくれたのだと理解した。
自身の父親が繋いでくれた一瞬を、彼は無駄にはしない。
「まだ逃げるか!地球人よ!!」
猶もデマオンが追いかけてくる。
だが、逃げる算段が付いた以上は、恐れることは無い。
「そこで点火だ。」
「!!?」
デマオンの足元で、地面が爆ぜた。
地面に散らばった木の欠片をスタンドで爆弾に変え、簡易的な地雷とした。
魔王の生命力があるため、足が無くなったり、ましてや命が失われることは無い。
それでも、走ることが出来なくなるくらいにはダメージを受けた。
そして、自分が狙おうとしていた獲物を逃がしてしまった。
騒がしかった森は、瞬く間に静寂に包まれる。
柊ナナと1匹の不浄猫の死骸、そして生き残ってしまった魔王を残して。
「そうだ……再び作戦を練らねば……あの、赤い地球人はどうしている……。」
吉良が去ってからしばらして、デマオンはそう呟いた。
その言葉を聞く者は誰もいない。
だというのに、何故か言葉を紡がずにはいられなかった。
だが、彼は知らない。
あの時不浄猫を殺したことが原因で、悲劇はまだ終わっていないということを。
[柊ナナ@無能なナナ 死亡]
[写真のおやじ@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 破壊]
[残り 18人]
【D-4 森・南 午後】
【デマオン@のび太の魔界大冒険 】
[状態]:ダメージ(大)片足にダメージ(大) 魔力消費(大) 嵌められて柊ナナを殺したことによる放心状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:不遜なるデク人形(オルゴ・デミーラ、ザント)をこの手で滅し、参加者どもの世界を征服する……はずだったが?
1.どうすればいい……?
【D-5 荒野 午後】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:ダメージ(大)スーツがボロボロ 苛立ち(中)
[装備]:空気砲(65/100)@ドラえもん のび太の魔界大冒険
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派の勢力に潜り込み、信頼を勝ち取る。
1.邪魔者を殺し、この場からさっさと逃走する。
2.名簿に載っていた、仗助、康一、重ちー、隼人、そしてシャークに警戒。争うことになるならば殺す
3.早人やミチルにもスタンドが見えたことに対する疑問
4.ヤン達からは距離を置きたい。
5.絵の中の少女、秋月真理亜の手が欲しい
※参戦時期は川尻耕作に姿を変えてから、カップルを殺害した直後です
☆
(ふざけないでよ……何なのよアイツは……!!)
火柱で丸焼きにされることを辛うじて避け、ひたすらにユウカは逃げていた。
余りの恐怖で、柊ナナを殺す千載一遇のチャンスを奪われた怒りも失せていた。
もう少しあの場で待っていれば、仇敵の死を見ることが出来て、溜飲の一つも下がったかもしれないが
だが、一度離れると、自分の町に待ったお楽しみを邪魔された怒りがわき上がって来る。
彼女は、柊ナナが学校で言った『人類の敵』など半信半疑だったし、どうでも良かった。
けれどはっきり分かった。あの男が、人類の敵なのだと。
柊ナナはその人類の敵と結託して、能力者たちを殺していたのだと。
シンジと結ばれるためには、たとえデマオンが人類の敵じゃなくても、倒さねばならない。
そのためには、不浄猫などより比べ物にならないほど強い死体を手に入れるしかない。
ひとまずバツガルフの下に戻ることにする。
死体集めの為には、彼もまたいなくてはならない存在だ。
同盟解消の時間が来るまで、力になってもらおうと考える。
その場所に来ると、先程襲って来た女剣士とバツガルフが、何もせずにただ睨み合っていた。
彼女は知らない。秘密裏にバツガルフが自身を捨て、アイラと組もうとしているなど。
(仕方ないわね……手助けしてあげるから、勝ちなさいよ。)
不浄猫を走らせ、アイラを襲わせる。
知らないからこそ、横槍を入れることが出来る。
味方か敵か、どちらが有利になるか分からない横槍を。
☆
(どうすればいいのよ……)
アイラはなおも、目の前の敵を倒すべきか、はたまたナナを助けに行くか決めかねていた。
「一つ言っておこう。ワタシとは違い、あのユウカとかいう小娘は人を殺そうとしている。
早く助けに行く方が良いんじゃないのか?」
「………。」
バツガルフの言うことは最もだ。
彼女自身もそう思っている。
少し離れた場所から爆発音を聞くたびに、その気持ちが加速する。
だが、この男を逃がしてしまったことや、後ろから刺されることを考えると、どうにも言うことを鵜吞みに出来ない。
そんな中、ひときわ大きい爆発が森の中に響く。
やはり、デマオンやナナの安否の為にも、一旦この男を置いておこう。
そう決断することにした。
「分かったわ。でもあなたを許した訳じゃないか……!?」
何かが、アイラの足を斬りつけた。
爪のような、刃物のような何かだ。
「やっぱり、後ろから攻撃しようとしていたのね……。」
「!?」
だが、ある意味これで良かった。
これで躊躇なくバツガルフを倒して、それからナナ達の下へ行けるから。
すかさずアイラは、怪我してない方の足で地面を蹴り、颯爽と敵の近くへ向かった。
「疾風突き!!」
まずはバツガルフの腹に一発、ディフェンサーからの突きを見舞う。
「ま……待て!!」
「今更遅いわよ!!」
突きから、そのまま斬り上げに一発。
「く…バツバリアン展開……」
「させるか!」
バツガルフは魔法を出し、彼女を無力化しようとする。
だが、杖から出たのは黒い煙だけ。
彼の杖を縦笛とするなら、魔力は杖に送り込む呼気。魔法はそこから出る様々な音。
笛にヒビが入れば正しい音が出ないように、アイラの一撃をモロに食らった杖は、一時的に魔法が出なくなった。
「これで終わりよ。剣の舞!!」
すぐにとどめを刺すためにも、アイラは切り札を切る。
舞の道と剣の道、踊り子と戦士。二つの技術を積まねば出来ぬ4連撃だ。
袈裟斬り、横薙ぎ、くるりと回転しながら逆袈裟。上空で縦に一回転して兜割り。
大剣が、バツガルフの電子頭脳を破壊する。
「く……おのれえ……。」
バツガルフのアイセンサーから、光が消えた。
(終わった……?何だかいやにあっさりしているけど……。)
彼を倒したアイラは、何とも不完全燃焼、といった気分を味わった。
それまでの、斬っても付いても全く倒れる様子が無かった相手が、嘘のようにあっさりやられた。
まるで自分が不意打ちで倒したかのようだ。
倒したという達成感など、あった様なものではない。
その時、ザッ、と何かが木の葉を擦った音がした。
(何があったの?あの男と一緒にいた女の子が戻って来たとか?それとも別の敵がいたの?)
静かで鋭く、狩りに慣れた獣のような動き。
それが森の茂みの中を走る。
アイラは動かなくなったバツガルフを置き去りにし、その敵を追いかける。
足を怪我したため少し動きが鈍っているが、問題は無い。
「ギラ!」
閃光魔法を放つが、そこには当たらない。
そして、出てくることは無い。
今度は火柱を立てる。手ごたえが無い。それも外した。
急に、アイラは嫌な予感を覚えた。
先程まで動き回っていたはずの何かが、全く動く気配がしない。
木の上から、ドサリと何かが落ちてくる音がした。
それは、猫を彷彿とさせる、生き物だった。
やけに長い爪を持っていたことから、自分の足を斬りつけたのはこの魔物だと考える。
(死んでる……。どういうこと?さっきの攻撃は当たってないよね……?)
まるで自分が戦いをすることを忘れていたかのように動きの鈍いバツガルフ。
襲って来たかと思いきや、いつのまにか死んでいた猫の魔物。
何が何だか、全く分からないといった状況だ。
その瞬間、地面が揺れた。
敵が使って来たじひびきのような、明らかに敵にダメージを与えることを仮定した地震だ。
それだけで倒れることは無い。だが、確実に彼女に隙が生まれた。
その時、一筋の光線が、アイラの背中に命中した。
「アイスビーム。」
(これは!?)
患部から氷がじわりじわりと広がり、彼女を動けなくさせる。
ほとんどの状態異常を無効化させるイツーモゲンキを付けているが、火傷や凍結状態など、温度変化に影響するものは意味を為さない。
アイラが驚いたのは、未知の魔法ではない。
そこに殺したはずのバツガルフが立っていたことだ。
(どういうこと?確かに倒したはずなのに……。)
殺し損ねたということは無い。
それをアイラは確かに断言出来た。
頭を砕かれて生きているはずなど無いし、1人だけでこんな回りくどいことをする必要はない。
「メガサンダー。」
アイラの頭上に雷が落ちる。
動きを封じられ、避けることも出来ない。
鋭い痛みと共に、視界がまばゆい光に包まれてぼやけていく。
そんな中、バツガルフの後ろであの金髪の少女の姿が見え、ようやく気付いた。
あの金髪の少女が、死体を操る能力を持っていたのだと。
猫の魔物やバツガルフが生きていたり死んでいたりするのも、そういうからくりがあったのだと。
嵌められたのは、バツガルフの方だったと。
そんなことが分かった瞬間、もう一発雷が落とされた。
(あーあ、最悪。)
薄れゆく意識の中、頭の中でそんな言葉を紡ぐ。
目の前のバツガルフに最後の攻撃をしても意味が無いし、こんなことになった金髪の少女を攻撃するには遠すぎる。
氷に閉じ込められたまま、それでも右手だけを氷から引きはがし、指を鳴らす。
そして、最後の火柱を放った。
バツガルフでもユウカにでもなく、自分自身に。
氷が溶けても、ダメージが大きすぎる以上は、反撃に出ることは出来ない。
それでも、目的は一つだけある。
死ぬことよりも、あんな年端も行かないヤツにいいように扱われ、メルビンやシャークを傷付ける方が真っ平ごめんだから。
だから、そんな自分なんか焼き払ってしまえと。
剣と盾を残し、彼女の肉体は灰へと消えた。
☆
「あーよかった。でもこれ、同時に使う必要ないじゃん。」
まだ彼女がバツガルフから奪っていたのは、コートの袖だけだ。
バツガルフから死体を回収し、支給品のPOWブロックを鞄に入れる。
死体を操るトリガーには、死者の持ち物が必要である以上、道具はあればあるほどいいし、本来の道具として使うことも出来る。
うっかり自分のミスで彼を殺してしまった際にはどうしようかと一瞬パニックになったが、結果は大成功だった。
不浄猫の死骸を捨て、すぐにバツガルフの死体を手に取ったのが功を奏した。
もしもの話、デマオンが不浄猫を殺すことが無ければ。
ユウカの死骸を囮とした作戦は通用せず、彼女の方が倒れていただろう。
魔王の牙にかかったのは、彼の敵だけではなかった。
死骸となった男は、ユウカに跪く。
傲岸不遜を極めたような男がするとは到底思えない仕草だった。
[アイラ@ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち 死亡]
[バツガルフ@ペーパーマリオRPG 死亡]
[不浄猫×2 新世界より 死亡]
[残り 16名]
腹の底で溜めていた笑いを、一気に吐き出す。
「あははははははははははは!!」
成果は上々。邪魔な参加者が2人死んで、武器も手に入った。
デマオンに睨まれた恐怖も、高揚感でいくらか薄まった。
アイラの死体から、彼女の世界の情報を聞けなかったのが少し残念なくらい。
バツガルフという強い力を持った死体を、デマオンにぶつけてやればいい。
そして今度こそ、柊ナナを殺す。
そんなことを考え、[C-4]を出た瞬間だった。
「随分と馬鹿笑いをしているんだな。良い事でもあったのか?」
そこにいたのは、ハイラル駅で見た、緑色の服の青年だった。
彼はまだユウカのことを知らない。
だが、因縁の相手であったバツガルフと同行している時点で、同罪のようなものだった。
【C-3 森・東 午後】
【佐々木ユウカ@無能なナナ】
[状態]:ナナへの憎悪(極大) デマオンへの恐怖(中)
[装備]:POWブロック@ペーパーマリオRPG
[道具]:イリアの死体@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、基本支給品×2(自分、ピーチ)、遺体収納用のエニグマの紙×2@ジョジョの奇妙な冒険 陶器の馬笛@ゼルダの伝説トワイライトプリンセス、虹村家の写真@ジョジョの奇妙な冒険、ランダム支給品×1(彼女でも使える類)、愛のフライパン@FF4 不浄猫の死骸@新世界より+不浄猫の毛玉 ディフェンダー@ FINAL FANTASY IV 魔法の盾@ドラゴンクエストVII まだら蜘蛛糸×3@ドラゴンクエストVII
[思考・状況]
基本行動方針:シンジと添い遂げるために優勝する
1:どうにかしてナナを殺す
2:この場から逃げたい
※まだ昼ですが、太陽が隠れたため、ネクロマンサーの能力を使えるようになりました。
※参戦時期は死亡後で、制服ではありません。
※死体の記憶を共有する能力で、リンク、仗助、ピーチ、マリオの情報を得ました。
イリアの参戦時期は記憶が戻った後です。
※由花子との情報交換でジョジョの奇妙な冒険の参加者の能力と人柄、世界観を理解しました。
但し重ちー、ミカタカ、早人に対する情報は乏しい、或いはありません(由花子の参戦時期で多少変動)
【バツガルフ@ペーパーマリオRPG】
[状態]:死亡 ユウカの能力で操られている。
[装備]:えいゆうのつえ@ドラゴンクエスト7
[道具]:基本支給品 なし
[思考・状況]
基本行動方針:××××
1:佐々木ユウカに仕える
【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/6 肋骨一本損傷 服に裂け目 所々に火傷 凍傷(治療済み) 疲労(中) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大)
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス トルナードの盾@DQ7 アイスナグーリ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2 水中爆弾×5@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス アルスのランダム支給品1~2 (武器ではない) 正宗@Final Fantasy IV 柊ナナのスマホ@無能なナナ 火縄銃@新世界より 美夜子の剣@ドラえもん
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺す。
2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く
3.アルスの想いを継いで、仲間を探し、デミーラを必ず倒す
※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます
【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/8 魔力:中 疲労(中)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.リンクと共に、殺し合いに乗っている者を倒す
※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。
※アイラの剣と盾以外の支給品、および柊ナナの支給品は、焼失しました。
[不浄猫×2@新世界より]
吉良吉影に支給された意思持ち支給品。呪力による変異を利用した品種改良で強化された猫で、何らかの理由で「不要」と判断された人間を密かに始末するための生物兵器。
先の尖ってない牙で敵を絞め殺したり、尖った爪で引き裂いたりする。2匹1セット。
最終更新:2022年12月29日 21:13