「随分と馬鹿笑いをしているんだな。良い事でもあったのか?」

緑色の青年の冷たい言葉と鋭い視線が、佐々木ユウカの心臓を鷲掴みにした。
彼の威圧感は、先程気圧されたデマオンに比べれば全然マシな方だ。
だが、それとは別の強い感情が伝わって来た。


(何これ……怒ってるの?この人!?)

その重圧に耐えきれず、ユウカが後ろに下がろうとする。
瞬間、相手の視線が一層鋭くなった。
相手は鞘に収められた剣を、今にも抜こうとしている。
目の前にいたのは、杜王駅で見かけた青年。
そして彼女が持っている死体の幼馴染。


(待って?まだリンクは、あたしがイリアの死体を持っていることを知ってる訳じゃないよね?)

彼はまだ自分を殺そうとしていない。あくまで疑いの範囲だけだ。
そう言い聞かせている間に、汗がたらりとうなじを伝ったのを感じた。
何が何でもこの男を説得しなければならない。
理屈ではなく、本能でそれが分かってしまった。


「待って!あたしは何もしてないわよ!だからその剣を抜くのをやめて!!」
「アンタが何をしたのかは分からないが、俺はそっちの奴に用があるんだ。それに」

彼がそう言うと、今度はバツガルフの方に顔を向けた。
刃先が影に覆われた世界でも輝く剣と、真珠色の盾を取り出す。
隣にいた赤い男も、真っ赤なかぎ爪をその手に付けた。


「殺し合いに乗っている奴と一緒にいることは、アンタもその片棒を担いだってことじゃないのか?」
(……コイツじゃなくてあの赤い女の人にしておけば……!!)

リンクの疑いの目は、言われてみればユウカ本人からしても納得のいくことだった。
悪人と隣同士で歩いていたというのに、自分だけは悪人じゃ無いと弁解する方が難しいだろう。
しかも先程、自分の笑い声を相手に聞かれたのだ。
相当な話術が無ければ、ここから誤魔化すことも出来ないが、考えがまとまらない。


「片棒?どういうことよ!あたしとバツガルフが出会ったのはついさっきだけど、彼はあたしを助けてくれたのよ!!」

なので、全てを知らなかったことにした。
もしも目の前のどちらかが、柊ナナと関わっていればその時点でアウトだ。
しかしそうで無ければまだ逃げることが出来るかもしれない。
それならば悪いのはバツガルフであって、自分は何にも知らない哀れな少女でいられるから。
その賭けには勝った。
幸いなことに、リンクもルビカンテも、ユウカの関係者とは一人も出会っていない。


「そうか。ならばソイツから離れろ。」
「え?」

だが、賭けに勝ったことと、ツケを全部精算できることは別の話だ。


「助けてもらったか何だか知らないが、ソイツは1人参加者を殺している。
斬らなければならない相手だ。」

満を持して、刃をバツガルフに向けた。
まだ自分は疑われていない。そのはずなのに、身体を流れる汗の量が倍になったかのように感じた。
最悪、バツガルフを捨てて逃げるべきかもしれない。勿論犠牲者は増えているはずだから、新たな死体を調達すればいい。
だがここで逃げれば、最低でも一時的に貴重な手札が1枚減る。

バツガルフも罪は無いと主張するべきか、その罪を彼自身に負わせるか。
一瞬、されどユウカにとっては凄まじく感じるほどの長考の末、バツガルフを捨てて逃げようとした。
なにしろ、自分のザックの中には死体が眠っている。
持ち物チェックでもされれば、一巻の終わりだ。


「待て。」


今度は赤マントの男の低い声が響いた。


「お前の懐からは、死人の臭いがする。この男が探している死人使いとは、お前ではないのか?」
「え?」


まさか、嗅覚に優れた者がいるとは。
彼女はそんなことなど、全く念頭に置いていなかった。
だが、嗅覚が犬並みに優れている能力の持ち主など、いてもおかしくは無い。
そんな思い込みから、つい死体が入っているザックを凝視してしまった。
すなわち、口で話さなくても、自分が後ろ暗いことをしたと主張してしまったのだ。
目は口程に物を言うとは、良く言ったものである。


「つまらぬ罠に掛かった様だな。大方そこに自分が使う死体を入れているのであろう。」
「!!」


ユウカが背を向け、脱兎のごとく逃げ出した瞬間。
森の中に、雷鳴が響いた。
咄嗟に、二人は左右に散会。雷が落ちる場所から離れる。
リンクは一度、バツガルフと戦っていたことで、魔法の軌道は見切っている。
ルビカンテはバツガルフと対面こそしたことはないが、雷の魔法そのものはリンクよりも熟知している。
そもそも、2人は犠牲があったとはいえ、魔王を滅する力を持っているのだ。
この程度の魔法でやられると考える方がおかしいぐらいだ。


「行くぞ。」
「私に命令するな。」

リンクとルビカンテは、短い言葉を交わす。
すぐに聖剣と炎の爪が、バツガルフに襲い掛かる。
バツガルフもそれに対応するかのように魔法を詠唱。

杖が青く光ると、魔法生物のバツバリアンを呼び出す。
たとえ死んでいても、ユウカの能力によって、生前と変わりなくパフォーマンスを発揮できる。
確かに捉えたはずの剣と爪は、魔術師を殺めるには能わなかった。
2つの刃は、バツガルフの顔面に届く寸前、緑色の膜のようなもので止められる。


「結界?」

ルビカンテはバリアやマバリアのような、攻撃ダメージを抑える魔法のことを知っている。
だが、攻撃を完全に防がれたのは、今の一撃が初めてだった。
2つの手にビリビリと、硬い物でも叩いたかのような衝撃が走る。

「来るぞ!」

今度はこちらの番だとばかりに、バツガルフが炎魔法を放つ。
この物語を読む者ならば、ガスバーナーを彷彿とさせる蒼炎が、杖の先から散布される。
炎の波は、そのまま2人を飲み込もうとする。
だが、リンクは慌てず騒がずマスターソードを横一文字に一閃。
炎の波を目の前で斬り伏せる。
獲物を焼き尽くす炎は、一瞬で無害な水蒸気へと姿を変えた。

聖剣であろうと、魔法の炎を斬ることは出来ないはずだ。
精々が風圧で吹き飛ばすのが関の山だろう。
だが、その不可能を可能にしたのが、魔王の置き土産だ。
アイスナグーリのバッジで、マスターソードに氷の力を纏わせたのだ。



「ルビカンテ!そいつの周りを飛んでいる奴等を倒せ!!」


結界のタネがなんたるか分かっているリンクは、ルビカンテに攻略法を伝える。
正面から戦って倒せない敵なら、弱点を知っている者が仲間に伝えればいい。
いつもはミドナがやっていたことだが、今度はリンクがその役割を担った。


「命令するなと言ったはずだ!」

ルビカンテは怒りながらも、炎魔法を使い、バツバリアンを焼き払う。
飛んで火にいる夏の虫と言うが、殺虫剤に当てられたハエのように、炎に包まれて落ちていく。

その間にバツガルフは杖に魔力を流し込む。
炎使いの弱点は氷だとばかりに、アイスビームを撃つ。
水色の光線がリンクの横を通り過ぎ、彼の心臓を貫こうとした、

「なんだ、その哀れな術は。」

だが、ルビカンテが真紅のマントを振るうと、冷凍光線は一瞬で水蒸気に帰した。
彼の炎のマントは、氷最強魔法であるブリザガさえ受け付けない。
すかさず、リンクは敵の懐へ突進。


「たああああああ!!!!」


地面を蹴り、竜騎士のように跳躍。
剣を大きく振りかぶり、唐竹割りの一撃を、バツガルフの脳天に見舞う。
電子頭脳が見え隠れしているヘルメットが、高い音を立てて割れた。
膝を付いて崩れ落ちるバツガルフ。
だが、これで勝ったとは確信しない。
1度とどめを刺す寸前で、逃がしている以上は容赦をするつもりはない。

「てぇやああああああ!!!!」

剣を大きく振りかぶり続けざまに、回転斬りを打ち込む。
バツガルフは胴体を横薙ぎに裂かれ、後ろに吹き飛ばされた。
強力な一撃が2連続ヒット。
おまけに一発は敵の脳天をたたき割っている。
並の相手なら既に打ち倒していてもおかしくない。
だが、リンクの表情は引き攣ったままだった。

(妙だな……)

左手には、確かに強力な一撃を打ち込んだという感触は伝わった。
だというのに、倒せたような感触が全くない。
かつて砂漠の処刑場で、ハーラ・ジガントの胴体を倒した後のような、スッキリしない感覚だ。
おまけに、相手がハイラル駅で戦った時に比べて弱すぎる。
追い詰められる寸前で使って来た時間停止魔法も、回避魔法も使ってこなかった。
ルビカンテのアシストがあることを加味しても、簡単に行き過ぎている。


「油断するな。」
「分かっている。」

ルビカンテもリンクと同じことを考えていたようで、相手を警戒し続ける。
案の定と言うか、倒したはずのバツガルフが立ち上がり、魔法の詠唱を始めた。


「させるか…火焔流!!」


ルビカンテがマントを翻すと、敵を炎の竜巻が包み込む。
だがバツガルフは怯む様子が無く、彼目掛けて雷を落としてきた。


「ぐう……」

マントの力で防げない雷を浴びたことで、うめき声を零す。


「無事か?」
「心配などされる謂れはない。」

そうこうしている間に、バツガルフの周囲にバツバリアンが現れる。
リンクはマスターソードで、小型魔法生物を打ち落とすも、展望は見えない。
今のバツガルフは死んでおり、一度死んでいる以上は、これ以上死ぬことは無い。


(ならば……)

剣で殺せぬならばと、剣を鞘に仕舞う。
代わりにザックから水中爆弾を取り出す。
何度斬っても決して死ぬことが無かったスタルフォスも、爆弾の力で一撃で粉砕できた。
一度死んでいるため、殺すことが出来ないならば、その肉体を壊せばいい。


「うわ!」

しかし、バツガルフのファイヤーウェーブがリンクを襲う。
爆弾は武器としての威力は十分だが、使い方は剣よりも難しい。
投げるタイミングを間違えて自分を傷付けるケースは言わずもがな、身体に火が付いている際にうっかり出してしまい、自爆することもある。


「させん!」

爆弾に引火して誘爆という事故は、ルビカンテがリンクの前に立つことで止められた。
冷凍光線を受けた時と異なり、今度はマントを広げ、筋肉質な身体を露出している。
だが、炎の力を受けても彼は倒れなかった。
マントを付けている時は氷を、そうでなければ炎をはじき返す。
炎の力と氷の力、両方を目の当たりにしたルビカンテだからこそ出来る芸当だ。
しかも、その魔法を吸収出来るため、防御と回復を一度に行える。


「助かる。」
「いちいち礼など口にするな。」

邪魔な炎が無くなった瞬間、水中爆弾をバツガルフ目掛けて投げつける。
だが、爆発が彼を巻き込む瞬間、バツバリアンが彼を守った。
勿論一体の魔法生物を倒したことになるが、何の解決にもなっていない。


「これも駄目か……。」

成功したかと思った攻撃が、中途半端な結果に終わったことで苦い顔を浮かべる。
もう2,3個投げてやりたいところだが、迂闊に爆弾は連投すべきではない。
自分を巻き込む可能性だって上がるのは言わずもがな、肝心な時に個数を切らしてしまうことになる。
矢のように使用できる個数が決まっている道具は、乱用を控えるべきだ。


「仕方あるまい。お前はあの女を追いかけろ。この死骸は私が倒す。」


既にリンクもルビカンテも、確証は無いがあの少女が死霊使いであることに気付いていた。
同時にバツガルフは何らかの理由で既に死んでおり、ここにいるのはただの操り人形でしかないと。


「いいのか?」

その瞬間、黒雲が集まり、二人の立っていた場所に雷が落ちる。
リンクとルビカンテは、すかさずその場所から離れる。


「私はあの女に興味など無い。二度言わせるな。」
「分かった。」

リンクはバツガルフを横切り、回転アタックを繰り返してユウカを追いかける。
それをバツガルフのアイスビームが狙うが、ルビカンテのファイガの力で止められる。
火球と冷凍光線がぶつかり合い、誰にも傷を負わせることの無いまま水蒸気となった。


リンクは戦場から去り、ルビカンテのみが残ることになった。


「さぞかし強い力を持っていたのであろう。生前お前と戦えなかったのが残念だ。」

炎の爪を掲げ、そして右手でファイガを撃つ。
魔法の炎による焼却も、アンデッドやゾンビに有効な手段だ。
2重の炎攻撃が死骸を浄化させようとするも、反撃とばかりに撃たれたファイヤーウェーブがその攻撃を防ぐ。
赤と青の炎がぶつかり合いは、青の方が軍配を上げた。


「炎など効かぬと言ったはずだ。」

しかし、ルビカンテは言わずもがな炎の使い手であり、炎への耐性も持っている。
ガノンドロフとの戦いで増えた傷さえも癒すことが出来る。
青い炎の中を潜り抜け、今度は炎の爪で敵を切り裂こうとする。
五月蠅く飛び回るバツバリアンを切り裂き、爪はバツガルフの目と鼻の先もといアイセンサーのすぐ先。
炎の爪を相手に刺し込み、そのまま炎を体内に流し込むつもりだった。


だが、それの攻撃がバツガルフに刺さることは無かった。


「消えた?」


彼から見れば、敵が消えたかのように錯覚するかもしれない。
だがそれは神の視座より見れば、ルビカンテに流れる時間が止まった瞬間だった。
炎の爪が刺さる直前、彼が放ったタイムストップによるものだ。


(おのれ…魔法攻撃のみならず時間停止まで使えるとは……)

本来に比べて、止められる時間は短くなっている。
だが、確実にその瞬間はバツガルフの利になった。
すかさず雷撃が、ルビカンテを襲う。


「ぬうううううう!!!」

炎の熱さとは違う痺れと痛みが、ルビカンテの身体全身を駆け巡る。
だが、その程度で倒れることは無い。
まだ戦い足りない。
セシル達に敗れ、この世界でマリオに敗れ、のび太たちに敗れ。
敗北が彼を強くした。
この程度で、彼自身が膝を屈することなど、あってはならないのだ。


仕返しにと、炎の竜巻を撃つ。
まだバツガルフはバツバリアンを出し切っていない。
だが、たとえ敵の守りが不完全だったとしても、それで倒すには能わず。
死んでいる相手とは、殺せないという点において、生きている相手より厄介なものだ。
ただのアンデッドならば、炎でその肉体を焼き払ったり、爆弾や鉄球で砕けば倒せる。
だが、ルビカンテが対峙している敵は、ただの生きる屍に非ず。
痩せても枯れても世界征服の為の組織の総統だった男だ。
炎魔術しか使えぬルビカンテに比べて、使える魔法の幅は広く、死角から叩く技術にも長ける。


炎の竜巻が消えると、既にバツガルフはバツバリアンを呼び出している。
4体揃ったため、先程リンク達の攻撃を止めた緑色の結界が張られる。
彼の恐ろしさは、魔法攻撃よりも防御にある。
何しろ外的要因が無い限り、彼を破ることが出来たのはカゲの女王のみだったのだから。

(面白い。ならば私も一つ試してみるとしよう)


今度は新たにルビカンテが詠唱を始める。
再び炎の魔法を唱えるか?否。


「さあ、回復してやろう!」


彼が唱えられるのは、炎魔法のみに非ず。
ケアルラやレイズと言った回復魔法まで使える。
本来なら強者と認めた者に、万全の状態で戦えるために使っているのだが。
ルビカンテのかざした両手が光ったと思いきや、バツガルフの結界の中に、さらに淡いブルーの光が満ちる。


「グ……うああああ!!」


死者である以上、斬っても付いてもダメージを受けた様子が無かったバツガルフが、苦しみ始めた。
ゾンビや幽霊、アンデッドには白魔法をかければ、回復ではなくダメージを与えることが出来る。
ルビカンテのいる世界に伝わる常識だが、それはユウカが使うネクロマンシーにも同じことが言えた。

「フフ……効いたであろう。浄化の力は。」


そしてルビカンテの魔法がバツガルフの結界を通したのは、別の理由にある。
シェルやマジックバリア、そしてバツガルフの結界では、回復魔法は通さないのだ。
これもまた常識的な話であるが、如何なる結界も万物を通さぬわけではない。
なぜなら、全てを通さぬならば結界の中にいる者は酸欠に陥ってしまうからだ。
たとえバリアの使い手が、生命活動に酸素を必要としなくても、何かと不都合が生じるだろう。

結界の影響を受けない力の代表格が、「術者にプラスの効果をもたらす力」。すなわち回復のような白魔法だ。
これもまた、ルビカンテのいる世界では常識。
彼の強みは、炎のみではない。手持ちの技の種類が少ないのは事実だが、それゆえ使うべき場所を知り尽くしている。


「もう一度だ!ケアルラ!!」

続けざまに回復魔法を放つ。
主の身を案じてか、バツバリアンの大群がルビカンテへ襲い掛かる。


「ふん、操られた死骸の、そのまた操り人形にしてはやりおる。」

蛍を彷彿とさせる魔法生物を、ファイラで焼き払う。
その炎はバツガルフ本体を焼くことはないが、さほど問題は無い。
相手の防御を無視して、3発目のケアルラを放とうとした時だった。

バツガルフの身体が、音を立てて崩れ落ちた。
そして、もう動く気配は見せなかった。
死んだふりや一時的な休眠状態などではない、確かな死だった。


(リンクが奴を倒したか……それとも、奴が別の死体に手を付けたか……)


念のためにと、杖を奪ってから、炎で死体を焼き払っておく。
まだリンクが敵を倒した訳ではないため、すぐに彼の方へと走った。
仲間意識がある訳ではないが、それはさておき戦うことが出来ぬうちに死んでも困るからだ。
1発魔法を受けたとはいえ、それまでに炎と氷の力を吸収できたため、傷はガノンドロフを倒した後より浅い。



[C-3 森 午後]


【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/5 魔力:大 疲労(大)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG 
[道具]:基本支給品  えいゆうの杖@DQ7
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.リンクと共に、殺し合いに乗っている者を倒す
2.リンクを追いかけ、とりあえず合流する





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最終更新:2022年12月29日 20:32