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 この問題を、現在の日本で大きな問題となっている式典における国歌・国旗問題で考えてみよう。
 学習指導要領は、特別活動の項目で、以下のように規定している。

3 入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。

 これには前史がある。
 政府は君が代と日の丸が国歌と国旗であるという認識をもってきたが、実際に現場でそのように扱われないことも少なからずあった。1980年代になって、文部省はその徹底を図るために様々な手段をとった。
 85年にいじめや性の調査とともに、国旗・国歌の調査を全小・中・高校で実施したのである。

 「国旗、国歌の取扱い」については、この春の各校の卒業式と入学式で、それぞれ国旗を(ア)掲揚した(イ)掲揚しなかった、国歌を(ア)斉唱した(イ)メロディーだけ流した(ウ)斉唱もせず、メロディーも流さなかった、など具体的な回答を求め、併せて校旗、校歌についても同じようにきいている。80年にも同様な調査をしたが、それは3000校の抽出調査であった。その時の結果は、国旗については、入学・卒業式とも「掲揚した」が86―93%、国歌については「斉唱した」が卒業式で56―74%、入学式で47―67%、「メロディーだけを流した」が各2―4%という結果を得ている。*43)朝日新聞 1985/05/06

 このように政府・文部省が国旗・国歌の学校への浸透を図る一方、自治体単位ではかなり徹底した浸透ぶりをみせ、逆の問題を指摘された事例もあった。千葉県野田市のあるでは、毎日始業前に放送で「君が代」を流しながら「日の丸」を掲げる。夕方、旗を降ろす時も同じだ。生徒は、階段でも廊下でも校庭でも、何をしていても、「君が代」を聞けば直立不動の姿勢を取らなければならない。これは国会で取り上げられ、その後より穏健な形に変更された。
 このような背景の下に学習主導要領に取り入れられ、国会では早速、従わない場合は処分の対象とするというようなやりとりが行われた。「国旗・国歌に対し文相「違反は処分」 指導強化、日教組は批判」と題する記事は、「学習指導要領の改訂案について西岡文相は10日、記者会見し「国旗・国歌の指導」について従わない場合、処分の対象になるのか、との質問に対し、「当然守っていただくことになるので、指摘の通りだ」と述べ、教師がこの指導に反した場合、文部省として処分もありうる、との姿勢を明確にした。一方、日教組(福田忠義委員長)は「日の丸・君が代の強制など、国家主義イデオロギーを教育の場に持ち込む最悪の改訂」などと、全面的に批判する中央執行委員会見解を発表した。」と報道している。*44)朝日新聞 1989/02/11
 当時君が代を入学式に斉唱したのは、半数を多少超える程度であったことが調査でわかった。この調査結果に対して、危機感をもった人たちが学校で義務として斉唱・掲揚を行わせようとしたわけである。

●89年春の「日の丸掲揚」「君が代斉唱」実施状況
        小学校    中学校    高校
 <日の丸>
 ◆卒業式
 掲揚した   94.7   93.7   85.0
       (92.5) (91.2) (81.6)
 掲揚せず    5.3    6.3   15.0
        (7.5)  (8.8) (18.4)
 ◆入学式
 掲揚した   93.3   92.9   84.0
       (89.9) (90.2) (81.3)
 掲揚せず    6.7    7.1   16.0
       (10.1)  (9.8) (18.7)
 <君が代>
 ◆卒業式
 斉唱した   75.8   71.3   56.1
       (72.8) (68.0) (53.3)
 メロディー   2.3    3.5    1.6
 だけ流した  (2.9)  (4.5)  (2.7)

 斉唱もメロデ 21.9   25.2   42.3
 ィーもなし (24.3) (27.5) (44.0)

 ◆入学式
 斉唱した   58.8   68.3   54.2
       (46.4) (62.3) (49.0)
 メロディー   1.8    3.0    1.5
 だけ流した  (2.5)  (4.1)  (2.7)

 斉唱もメロデ 39.4   28.7   44.3
 ィーもなし (51.1) (33.6) (48.3)
 (単位は%、カッコ内は前回の1985年調査)*45)朝日新聞 1989/11/02

 そしてこの年度末、全国あちこちの高校でトラブルが発生したのである。
 新聞は次のように報道している。

 卒業式予行のボイコットがあった県立福岡高では、校庭の掲揚塔に「日の丸」が揚がったが、会場には「日の丸」も「君が代」もなかった。同校前には、午前9時から右翼団体15人が街宣車4台で乗りつけ、「君が代」を流す異様な光景。
 浦和西高正門前では、式に先立つ正午ごろから、在校生4人が、新入生一人ひとりに「ストップ・ザ・日の丸・君が代義務化」と刷られた手製のビラ400枚を配った。同高では、式での日の丸掲揚、君が代斉唱をめぐる校長と職員の綱引きが、同日朝まで続いたが、結局式での実施は見送られた。
 教員がビラを配ったのは県立浦和北高。埼玉高等学校教職員組合(高教組)のビラのほか、同高の教職員組合で作った独自のビラ1000部を新入生と親に配り、「『国歌斉唱』に際しては起立しない、歌わない等の抗議の行動をとりたいと考えています」と訴えた。式では開式とともに全員起立、そのままピアノ伴奏による「国歌斉唱」が行われた中、数人の教員と保護者が座った。
 生徒会が「強制反対」の決議文を出していた県立川越高では式場では「日の丸・君が代」はなかったものの、式開始直後、掲揚塔に「日の丸」が揚げられた。旗が翻った瞬間「ふざけんなよ」と叫ぶ生徒も。渋谷健校長は、同日行われた始業式で「皆さんの意見を100%採り入れることはできない」と話した。*46)1990/01/10朝日新聞

 1999年には広島で高校の校長が組合と教育委員会の板挟みとなって自殺する事件が起きた。
 23日に県教育委員会の「職務命令」が出され、新聞が板挟みを指摘した矢先のことであった。

広島県立高の校長自殺 卒業式の「日の丸・君が代」に苦悩?

 一日の卒業式を目前に控えた二十八日、広島県立世羅(せら)高校(世羅町)の石川敏浩校長(五八)が、同県御調(みつぎ)町の自宅の物置小屋で首をつって死亡しているのを家族が見つけた。広島県教委は文部省の指導にそって、今春の卒業式での「日の丸・君が代」の完全実施を、異例の職務命令の形で各学校長に命じていた。学校では「強制」に反対する教師らとの話し合いが連日続けられており、石川校長もその板挟みで悩んでいたらしい。尾道署は、遺書はなかったが自殺とみている。*47)朝日新聞 1999/03/01

 このような経過を経て、式典における「抵抗」教師に対する処分はかなりの厳格さで行われてきた。

    <交通事故及び争議行為に係るものを除いた懲戒処分等の状況・総括表> 
〈処分事由〉        平成14年度      平成13年度
     懲戒処分 懲戒処分,訓告等及び諭旨免職 懲戒処分 懲戒処分,訓告等及び諭旨免職
  体         罰 137人(10人)  451人(200人)   125人(3人)         424人(194人)   
b わいせつ行為
               148人(35人)    175人(165人)    100人(14人)        122人(93人) 
c 公費の不正執行又は手当等の不正受給
                16人(14人)      38人(46人)    19人(20人)          39人(37人) 
d 国旗掲揚,国歌斉唱の取扱いに係るもの
                26人(0人)        44人(5人)     94人(0人)         164人(37人) 
e そ の 他
                236人(35人)     742人(284人)   138人(29人)       1,272人(454人) 
合 計
               563人(94人)      1,450人(700人)  476人(66人)       2,021人(815人) 
(注1) ( )は,監督責任により懲戒処分等を受けた者の数で外数である。
(注2) 監督責任による懲戒処分等とは、非違行為を行った所属職員に対する監督責任を問われた懲戒処分等である。

 そして、現在処分された教師たちが処分の無効を主張して提訴し、裁判が進行中である。
最終更新:2008年08月04日 21:44