最大威力の『灼輪の弩槍(ブリューナク=ボウ)』の炎が、
アヴァルスを焦がし、燃え盛る。
炎は消えると同時に、アヴァルスは倒れる。死んだ訳では無い。蝋燭の火が消えるように意識を失っただけだった。
それを見届け、戦いに勝ったのはゴドリックとジュリアの二人。
そして、ゴドリックもまた倒れ、意識を失った。
「え……、ちょ。貴方まで倒れて!?ゴドリック!!しっかりして!!」
そうして倒れるゴドリックに意識が向いているせいで、ジュリアは気が付かなかった。
倒れ伏している筈のアヴァルスがいつの間にか消え去っていることに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
9月13日午前8時3分。ロンドンのどこかの路地裏にて。
「やれやれ。手間がかかりますね。ま、これも仕事のうちです。」
アヴァルスが意識を取り戻してから視界に最初に入ったのは、そんな言葉を発する金髪碧眼の20代くらいの青年だった。
その顔に常に浮かべている笑顔は人によっては好印象とも胡散臭さ丸出しともとれ、服装は緑色のTシャツにベージュのスラックス、その上から身体をスッポリと覆う純白のマントを羽織っている
「ルシウス……何しに来た。」
「なぁに、ボスからの命令です。『重症の貴方をあの場から連れ出せ』、と。言われた仕事をこなしたまでですよ。」
それを聞いたアヴァルスは仰向けで寝ている状態から上半身を起こす。
「私がいた場所に男と女が一人ずついたはずだろう?そいつらはどうした?」
「どうもしてませんよ?」
アヴァルスの忌々しそうな表情は、ルシウスの回答によりさらに忌々しそうな雰囲気となった。
「何故だ。何故殺さなかった!!?お前の仕事は暗殺だろうが!!!」
「俺のあの時の仕事は『重症の貴方をあの場から連れ出せ』でしたから。今回は暗殺はしませんでした。……それに、同情したんでしょうね。」
感情を出すことなく、淡々としゃべっていたルシウスは背を向け、語り出す。
「俺は昔、唯一にして大切な故郷の村を木端微塵にされた。あの二人もそうなる直前だった。そんな二人にきっと、同情して見逃してしまったのでしょうね。」
そうして、ニッコリと寂しそうな笑みを浮かべるルシウス。ルシウスが笑顔以外の表情を浮かべるのはこれが初めてかもしれなかった。
「そして、アンタは俺の故郷を木端微塵にしたんだ。」
そうして、ルシウスは振り返る。マントに隠れて見えなかったが、その手に持っていたのは弓。しかももう矢を番えてある。
そのイチイ製の弓がルシウスの霊装、『イチイバル』だという事に気付いたのは、矢を5発、急所ではない箇所に撃たれた時だった。
「は、ぐぅうううう……!!貴、様血迷、った、か…………!!!?」
アヴァルスは、5発の矢を体に撃たれてだけで、最早瀕死の状態だ。ルシウスの霊装『イチイバル』の効果による衰弱の効果がアヴァルスを徐々に蝕んでいた。
「血迷ってなんかいませんよ。俺は村を滅ぼした人間に復讐することが目的なんですから。所で、ウッドホーストと言う名の村をご存知ですか?貴方が滅ぼした村の名前ですが。」
「そん、なの……。」
今のアヴァルスは呼吸するだけでも精一杯な状態だ。ましてや喋るなんて行動は出来なかった。
「まぁ、いいや。死んでください。」
そして、ルシウスはアヴァルスを生かす気なんて当然なく、アヴァルスの眉間に矢を放ち、復讐の半分を完了させた。
アヴァルスは呆気なく地に転がる死体となった。
死んだ者が生き返ることは無い
もう、侮蔑も見下しも、『栄光の剣』を振るうことも出来ないだろう。
「は、ははは。」
ルシウスは渇いた笑い声を漏らす。ソレは、復讐の空しさを悟ったが故か?
違う。復讐の味に酔いしれたが故の笑いだった。
「はっははははははははははははははははははははははははははははははは!!ああ、これで目的が一つ達成された!!
待っていてくれ父さん、母さん、兄さん、村の皆!!
この世界を滅ぼしてみんなを生き返らせる前に、村を壊した連中をすべて……!!」
突如、腹部に、激痛を感じる。ルシウスは達成感に浸りきった愉悦から、すぐさま現実に引き戻された。
「な、んだ?これは……?」
激痛の発生源である腹部を見ると、そこにはぽっかりと穴が開いていた。流血は無かった。傷は焼き塞がれていたのだ。
「は、お前目障りで嫌いだし仕事だから早く死んでくれ。塵掃除する気分で清々しいって感じのままでいさせてくれよクズ野郎。」
ルシウスは荒々しい声に反応し、振り返る。
180cm以上の長身で、無駄な贅肉が無く一見は痩せて見える成人の金髪白人男性。着古してヨレたスーツにボロい革靴の格好をしていたが、かけているスポーツサングラス越しからでも、眼は侮蔑の感情を表していた。
それを最後にルシウスは頭部を鈍器の如き鉄板に殴打され、最期を迎えた。
ルシウスを何発の殴打の末に肉塊に仕立て上げた男は、息切れを起こしながら、携帯を手に取り電話をかける。
「もしもし、
ダスティ=アルフォードだ。『世界樹を焼き払う者』のクズ野郎二人の死亡を確認した。ああ、解った。それで………」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
9月13日午後4時45分。
視界いっぱいに広がるには見知らぬ天井…………何かではない。むしろよく知っている天井だった。
床に放り投げられたかのように置いてある学校のカバン。木製テーブルの上に置かれた陽気な女神(シーラ=ナ=ギグ)やウェスタンルックサムライガールの像等の尼乃昂焚からもらったお土産。壁に立てかけてある霊装『灼輪の弩槍』。
それら全てが
ゴドリック=ブレイクの部屋に置かれている物だった。
天井を眺めながら、どんどん意識をよみがえらせていく。
「(僕は……確か、『世界樹を焼き払う者』の幹部と戦って、ジュリアを……)」
眠りから覚醒したばかりの頭は今までの出来事を振り返る。そしてその内一番重要な記憶に行きついた。
「そうだ、ジュリア!!ジュリアは……!!」
慌てて起き上がると、ジュリアが膝に頭と両腕を乗っけながら眠っていた。そこでようやく、膝が重みを感じている感触に気付く。
まるで死んでいるかのように眠り込んでいたので左腕の脈を思わず測った。
トクン、トクン…。 と生命の鼓動が、ゴドリックの触覚に滲んできた。
「(……護れた。護れたんだ。僕は、護れた。今、この時までを間違いなく……護れたんだ。)」
「あ、起きましたね。」
感傷に浸っているゴドリックに声をかけたのはヤールだ。
「うぉ!!や、ヤールさん!!?いたの!!」
「勝手にお邪魔してスミマセンが、僕以外にもいますよ」
ヤールがそう言うと、ヒョッコリとタイミングを見計らったかのようにニーナとマティルダが出てくる。
「あ、薬草効いたんですね。良かった……。」
「にへへ、お邪魔してるよ。」
何気なく接してきた二人だったが、ゴドリックはそう言う訳にもいかなかった。
たとえどんな理由があっても、『ゴドリック=ブレイクは矢を放った。』という事実は、罪は消えないのだ。
「どうかしましたか?」
「あ…その……。」
何処か気まずそうな表情ながら、ゴドリックは三人の顔を見据える。
「…ごめんなさい。すみませんでした。」
「あの…ジュリアさんから全部聞きました。私はもう気にしていませんし。」
「僕もニーナさんに同じく。昨日の友が今日の敵と言うのは
必要悪の教会の中では当たり前です。逆もまた然り、です。」
「アタシはココの食糧頂いたし、あとはこれから一戦交えてくれればイイよ。よろしくね新人さん?」
へ? とゴドリックは豆鉄砲を食らったような顔つきになる。
あっさりと自分の罪が許容されたこと、マティルダの前半の台詞にも驚いたが、『新人』という単語に喰いついた。
「ああ、今回君と
ジュリア=ローウェルはイギリス清教の傘下に加わる。また『世界樹を焼き払う者』に関する事柄に関しても作戦する。以上の事を条件に『ティル・ナ・ノーグ』はイギリス清教の保護下に加わることになりました。」
「な……!!?」
「ジュリアさんと彼女の祖父母が交渉した結果です。それに君は高校を卒業した後の進路の一つに必要悪の教会に入団を考えていたんでしょう?卒業後の君の所属はイギリス清教ですが努力次第で必要悪の教会に入れますよ。」
「……そっか。最後の最後まで迷惑かけさせたか。」
日常を護る為に愛する人に矢を放ち、策に嵌り苦しみ、自身よりはるか格上に助けられ、愛する人と共闘した。
全ての結果がこれだった。
「それに、“面白いモノ”を見せてもらいましたし。」
「………え?」
少々頬を膨らませながら、ヤールは写真を渡す。
「え…………………、えぇ!!!??」
そこに映っていたのは、ゴドリックとジュリアのツーショットだ。
ただのツーショットではない。ジュリアがゴドリックをお姫様抱っこしているのだ。
“ジュリア”が“ゴドリック”をお姫様抱っこしているのだ。大事な事なので二回書きました。
「……………なにこれ!!ナニコレ!!!??」
「何、って…君が倒れた後、ジュリアさんが君を運んで、僕たちと合流、したんですよっ……ププッ。」
「最初見た時、一瞬唖然としましたけど、ごめ……、なさい。ただ、本当に、ツボにはまって……、ププッ。」
ヤールとニーナが頬を膨らまして笑いにこらえている。一方のマティルダは写真なんかには目もくれずまだ食料は無いのか、とキッチンへと遠征に向かった。
その最中に写真をもう一度見る。
合成なんかではない。本物の写真だった。被写体である当の本人はバッチリカメラ目線だ。
「ベン、これが……『JOSHIRYOKU』ってやつなのか。それとも『(BUTSURI)』もセットか?」
もう何もかもどうでも良くなったゴドリックは、自身の膝の上で眠るジュリアに眼差しを向けながら、今はここにいない友人に向けて疑問ともいえる愚痴をこぼした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「結局はこう収まったか。王道展開というのもたまにはいいな。最近鬱展開モノのアニメしか見ていなかったからな……。」
ゴドリックのアパート近くのビルの屋上でサラリーマンらしき人物が感慨に浸りながら、望遠鏡を覗き込んでいた。
「昂焚そうしていると変態みたいだよ……。」
その後ろで若干引いているのはユマだった。
「…………さて、私はもう行こうか。」
そんな二人に背を向けて、立ち去ろうとしているのは
双鴉道化。
双鴉道化の表情は仮面で隠れて見えない。声もヘリウムガスを吸った後の様な声でそこから感情や性別を汲み取るのは至難の業だ。
「双鴉道化。……お前、羨ましいのか?」
だというのに双鴉道化の背後にいる男は、いともたやすく心の内を暴いた。
「私だってれっきとした人間だ。魔術師である以前にね。感情くらい当然持つ。羨望も当然するさ。
これ以上みていたら羨望の感情で虚しくなってしまう。虚しさは強欲とは程遠くて嫌いなんだ。」
「なら、最初からあの青年を助けなければ良かったんじゃないのか?」
昂焚は最もな疑問を突き付ける。
人間という生物は自分にない物を求めている。それは物質的なモノも然り、感情的なモノも然りだ。
強欲を掲げる双鴉道化ならば真っ先に自分が求める物……羨望を埋める行動をとるはずだ。
「ゴドリック=ブレイクを貶めたところで私の強欲が満たされる訳では無いよ。自分を見失うほど子供じゃないさ。
せっかくいいものを見たというのに、これ以上は気分を害したくない。」
そう言って双鴉道化は、黒い羽毛を残して消え去った。
「ああ、そうだ。昂焚がどうやって私の正体を知ったのか教えよう。所謂『ラッキースケベ』と言う奴だよ。」
「…………へぇー。」
「おい、お前なぁ……。」
昂焚にとっての地雷級の置き土産を残して。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そうして事件は幕を閉じて、彼らの日常に平穏が訪れた。
ゴドリックがイギリス清教の一員として正式に活動するのは学校を卒業してから、と決まった。
しかし、卒業するまでにも色々な出来事があった。
『ブリテン・ザ・ハロウィン』。『第三次世界大戦』。『グレムリン』。
そんな世界の波乱が起きている時でさえも、様々な魔術結社は陰に潜み動いていた。
その中で、イギリス清教の魔術師もまた動き目立たない所で動いていた。
そんな波乱の中で、ゴドリックとジュリアは生き延びることが出来た。
風の噂で聞いた事だが、それらすべての渦中にはある特殊な少年がいたとの事だったが、ゴドリックとジュリアには知るよしの無いことだった。
7月。日本では夏休みの時期だが、イギリスでは卒業シーズン、別れと旅立ちの時期だった。
「……今日でこの制服を着るのも最後だったてのに。あいつらあんな馬鹿騒ぎしやがって……。」
ゴドリックは自宅のアパートでブレザーを脱ぎ、ハンガーにかける。ため息交じりでそんな風に言う彼はため息を一回吐いた。
低空飛行の成績だったゴドリックも、無事ニュードルイド高校を卒業した。この深緑色の制服に腕を通すことは、おそらくもうないだろう。
「その割には結構嬉しそうじゃない?」
そのため息に込められた感情を簡単に読み取る人間が一人、部屋の主より先に寛いでいた。
「まぁね。……ってなんでいるんだよジュリア!!?ってか何か嗅ぎ慣れない臭いがするんですけど!?」
「合鍵使ったにきまってるじゃない。それに今日は卒業記念って事で……」
ドン! とテーブルの上に瓶が置かれる。
2Lはあろうエールビールの瓶を皮切りに、更にドンドン酒を追加していく。
ワイン、ウィスキー、ジントニックとどうやって持ってきたのか聞きたくなる程の圧倒的な量と種類だった。
「飲み明かすわよ?」
ゴドリック=ブレイク18歳。
人生初の飲酒を砦の様に詰まれた酒で迎えた。
「……ひっく。」
「……………………………ゴドリック下戸なのね。」
「そういうジュリアは酒豪だったんだな。」
ゴドリックはビールを何回か一気飲みして、直ぐに眠りへとついてしまった。
起きた時には朝焼けですっかり白み切った空が窓から見えて、空になった酒の容器とそれを飲み干しきったジュリアがゴドリックの顔を覗き込んでいた。
しかし、リバースも急性アルコール中毒もただの一回も起こさなかった事に関しては褒めてもらいたいなぁ。としみじみ思っていた。
そんな二人は今、アパートの屋根で朝焼けを見ていた。
「……それにしてもゴドリックが私を助けてくれるまで成長したなんてね。もう立派な大人の男性なのね。」
ふと、ジュリアは口を開く。その表情は感慨深いものだった。
「え……?急になんだよ気恥ずかしいな。」
ゴドリックはポカンとした表情となった。だがそれも一瞬で直ぐに頬を赤く染める。アルコールでは無く羞恥のせいだ。
「本当は恥ずかしくなるから思い出したくないんだけど、10年前に貴方が魔術師になるとき、なんて言ったか憶えている?」
ふと、ジュリアは10年前の事をゴドリックに話しかける。ゴドリックは自分の幼いころの記憶を探り当てる
「“絶対にジュリアを護る!!もう誰にもジュリアを傷つけさせない!!生きてる限り、ジュリアを護る為なら、僕はなんだってする!!”……って言ったっけ。」
解らないまま、ゴドリックは答える。ジュリアは若干顔が赤かったが、それに構うことなく言葉を続ける。
「正直言って危なっかしかったわ。“やだこの子私が何とかしないと早死にする”って危機感を覚えた程よ。」
「そんなこと思っていたのか!?」
羞恥の次に心を占めたのは衝撃と驚愕だった。しかし冷静に考えてみれば8歳の子供がそんな事を口にするのは無謀にも程があった、ともゴドリックは思った。
「でもね、心のどこかでほんのちょっと揺れ動くものがあったの。そして、それに賭けてみようって思ったの。そうしたら、10年でここまで成長したわ。」
「ジュリア……。」
「ま、ただそれだけよ。それだけだけど本当によくここまで来たわね。」
そうして、また空を見る。太陽は徐々に昇って来ていた。
「……何回見てるんだろうな、夜明け。」
「え?」
「十年前のあの時も、アヴァルスからジュリアを助けた時もこんな夜明けだった。僕の人生が変わるときはいつも夜明けだ。」
「………考えてみればそうね。」
ゴドリックにそう言われ、ジュリアはああ。と納得した顔になった。
「そして、この夜明けも僕の人生が変わる瞬間になる。」
「………ゴドリック?」
ゴドリックが立ちあがる。その身に一身に太陽の光を受けている。
「10年前、僕は兄さんを殺したも同然の事をした。そして貴女の顔に疵をつけた。……それに、あの事件で僕は矢を放った。そんな僕がこんなコトをいうなんて、間違っているかもしれない。どの口が言えたのかって、思うかもしれない。」
「……ねぇ、ゴドリック?そんな昔の事を持ち出すなんてどうしたの?」
突然の事にジュリアは不安に包まれる。ゴドリックが一体何をしたいのか、その意図が掴めない。
「ジュリア。僕の目を見てくれ。」
そう言われ、ジュリアはその表情は緊張に包まれていた。けど、不思議と自嘲と後悔の気持ちを感じさせることは無かった。
もう、未熟な子供の目ではない。
かといって、冷め切ってしまった大人の目でもない。
その目はただひたすらに純粋な眼だった。
「でもいつ何が起こるか解らないから、僕は言う。
僕は貴女が、ジュリア=ローウェルが好きだ。ジュリアとずっと一緒にいたい。
―――――――――――――――――――――――――――――――僕を貴女の太陽にさせてくれ!!」
遂に、その言葉をゴドリックは告げた。
その言葉をゴドリックは、ずっと昔から言いたかった。
ただ、兄が恋い慕っていたことを知っていたのと、傷つけてしまった事に対する罪悪感を持っていた事。
「何、言ってるのよ……。」
それ故、否定されるのが怖くてずっと言えなかった。
結果は、ゴドリックが一番恐れていた事だった。
「やっぱり。でも、ただ訊いて貰いたかっただけだから。応えなくても……いいんだ。貴女の意思で決めていい。」
否定されると思っていた。そうされて当然だと思っていた。
ならせめて言ってフられようと、そう決めたが故の行動だった。
そうしてその後は家族として生きようと、決めていたからだった。
「そんなの知ってた。昔から全部知ってたわよ。」
「え……?」
思わず呆然とする。
ゴドリックの思い描いていたシナリオとは違ったからだった。
「ずっと知ってた。兄さんと私の顔で負い目を負っているのを私はずっと知っていた。10年以上も一緒にいるから解らないわけないじゃない!!」
ジュリアは目は呆気にとられたゴドリックの目を見つめ返す。
彼女の本質である芯の強さがにじみ出ていた。
「私は現在を生きているゴドリックが大事だし、私は疵の事は自分の責任だって思っているわ。貴方が負い目を感じる必要なんてない。
……っていうか貴方。昔っから危なっかしいのよ!!」
「………はい?」
穏やかだったジュリアの口調が急に変化した。主に荒々しい方向に。
その変化にゴドリックはまたも戸惑う。
「あの時も死ぬ寸前で約束を破りかけて!!ふらふらして危なっかしいのよ!!信じたくても信じられないじゃない!!」
「え、ちょ……ご、ごめんスミマセン申し訳ございませんでした!!」
何故かドンドン逆切れに加速がかかっているジュリアに対してゴドリックはドンドン引っ込んでしまっている。
あれ、僕はなんで彼女を怒らせたんだろう?と疑問を感じてしまうほどだった。
「そんな貴方が『太陽にさせてくれ』っですって!!?
――――――――――――――――――そこはむしろ『太陽になってくれ』って言うとこでしょ!!」
「………え?」
息切れを起こしながら、ジュリアの言い放ったトドメの台詞は、引っ込みきったゴドリックが再び出てくるのに十分過ぎるモノだった。
「ジュリア、それ、オッケーってことか…………?」
「…………あ。」
ゴドリックの指摘で、元々怒りで赤くなっていたジュリアの顔がさらに赤くなる。
ずっと前に思わず裸を除いてしまったあの夜の時よりもさらに赤い。
そうして自棄になったのか、ジュリアは腹を括って続ける。
「そ、そうよ。貴方が危なっかしいから、生きて欲しいからずっと傍にいるわよ!!もう貴方の師匠としてじゃなく、貴方の恋人、妻として……………!!」
そこから、言葉は続かなかった。
ゴドリックがジュリアを抱きしめたからだ。
彼の胸に顔が埋まり言葉を続けることが出来なかった。
「ちょ、ゴド…………!!?」
「よかった。」
発したのは、そんな一言。
ただその一言で、ゴドリックの不安さが、ジュリアには読み取れた。
「よかった、よかった…………!!ありがとうジュリア。ありがとう。」
ただただ、感謝の言葉はゴドリックの身体を通して、ジュリアにも響き渡っていく。
「愛してる。もう絶対放してたまるか。生き抜いて、約束を守って、それで君との時間を大切にする。君の伴侶として生きていく。
――――――――――――――――――――これから君は僕の太陽だ。」
ようやくゴドリックはジュリアを放す。
ゴドリックは笑いながらも一筋の涙を流していた。
ジュリアは、ボロボロと涙を流していた。
「ちょ、ジュリア!!?何故泣く!?ナニか悪いことしたのか!!??ごめんまさかハグがダメだったのか!!!???」
それを見たゴドリックはまたもや慌てふためく。もうさっきとは比べ物にならないほどパニックに陥っている。
「違うわよ嬉し泣きよ!!察しなさい馬鹿!!馬鹿!!ばか……
―――――――――――――――――――――――――――…………本当に、私なんかでいいの?」
ジュリアの問いに、ゴドリックは応える。
先程までパニックを起こしていたのがまるで嘘のようだった。
「ジュリアがいいんだ。」
何の迷いも無くそう答え、ゴドリックは再び抱きしめた。
「ありがと。好きだよ。」
ここから先の言葉は不要とばかりに、二人は唇を重ねた。
とうに昇りきった太陽の光が二人を祝うかのように照らしていた。
砂糖を吐くかのような二人に、ジュリアの祖父が武力介入してきたのはもう少し経ってからのお話である
最終更新:2014年02月16日 01:31