『第○○回風紀委員会(カンファレンスジャッジ)』緊急開催決定の通知
主な議題は2つ。詳細は下記の通り。
1.『救済委員であると発覚した159支部員の1人、春咲桜の処分及び関連する事柄について』
2.『「
ブラックウィザード」と呼ばれる大型スキルアウトによる違法ドラッグの氾濫について』
出席支部及び出席者は以下の通り。
7月○○日午後3時より成瀬台高校○○会議室にて開催予定。時間厳守。
「うぅ・・・。緊張する。やっぱり、巌原先輩のままで良かったんじゃないですか、破輩先輩?」
「リンリン。これは、お前にとって良い経験になると思ったんだが。“あの男”みたいに人の機敏を感じ取りたいのだろう?」
「!?な、なな、何でそのことを・・・!?」
「・・・やっぱり図星だったか。近頃ボーっとしながら、『あの人みたいに・・・』とか『私って鈍感なのかな・・・?』とかうわ言みたいに呟いていたぞ?」
「ッッッ!!!」
「全く・・・。“あの男”に入れ込むのは構わないが、そんなことじゃあ、人の機敏は掴めないぞ?リンリン?」
「・・・反省します」
「(・・・入れ込むことを否定しないということは・・・これは本格的だな。ふぅ・・・。春咲にしろ一厘にしろ、厄介な男に引っ掛かったもんだ)」
会議室の端っこの方で話し込んでいるのは、第159支部に所属する破輩妃里嶺と一厘鈴音。彼女達は、昨日に続いて急遽開かれることになった風紀委員会に出席している。
「・・・珍しいですね。網枷先輩がこういう場に出るなんて。今日初めて出席する私が言うのも何ですけど」
「無理矢理連れて来られたんだ。・・・リーダーに首根っこ捕まれて」
「あぁ・・・。それで・・・」
「酷いよ、双真!緋花も納得しないの!!唯、私は暇だと思ったから“穏便に”お願いしただけだぞぉ!!」
「(“穏便”・・・?)」
「(それが・・・?)」
会議室にある円卓の一角に座りながら話し込んでいるのは、第176支部に所属する加賀美雅、網枷双真、焔火緋花の3名。
足を負傷している焔火がここに居るのは、今回の議題が関係している。
「き、きき、きんちょうしますねー!!ついにわたしも委員会デビューですー!!」
「さっきからうるせぇぞ、抵部。もう少し落ち着けねぇのか?」
「だ、だだ、だってー!!」
「・・・なぁ、牡丹。やっぱり、渚とか冠先輩とかを連れて来た方がよかったんじゃねぇか?」
「仕方ありません。何せ、美魁と抵部は今回の議題に関わる救済委員を逮捕しているのですから。・・・私達の指示も仰がずに。ねぇ、美魁・・・!!?」
「うっ・・・!!目が据わってるぞ、牡丹」
会議室の窓側で話しているのは、花盛学園支部に所属する閨秀美魁、抵部莢奈、六花牡丹の3名。彼女達は、今回挙げられる2つの議題双方に関わっている。
「ふぅ・・・。今日も要の奴は出席していないようだな・・・」
「女の影に怯える等、漢の風上にも置けんぞ、椎倉!!シャキっとせんか!!!」
「女と付き合ったことがないお前等に、俺の気持ちがわかってたまるもんかよ!!」
「女と付き合ったことがない俺達の気持ちが、椎倉先輩にわかってたまるもんか!!」
会議室の入り口付近で何やらしょうもないことで喧嘩を始めたのは、成瀬台高校支部に所属する椎倉撚鴃、寒村赤燈、初瀬恭治の3名。
彼等は、本来は今回の議題に直接関わることが無い支部で、ここには監督係(=進行係)として出席している。
「も、もうすぐですね、破輩先輩・・・!!」
「あぁ。だが、178支部の連中がまだ来ていない。本来は、成瀬台と同じで今回の議題に関係が無い管轄なんだがな・・・。監督係でも無いのに出しゃばった真似をする」
「えっ!?そ、それじゃあ、一体何のために?」
「大方、どっかで情報を耳に入れたんだろう。あの悪名高い『悪鬼』がな。
まぁ、本来は昨日で終わってる委員会が紛糾したために、今日まで延ばしてしまった私達にも責任の一端はあるが・・・」
「『悪鬼』・・・!!それって、あの・・・!!」
時刻は午後2時55分を過ぎた。委員会の開催予定時刻まで、もう残り僅かとなっているのに、本日の委員会に飛び入りで参加することになったある支部だけが姿を現さない。
一厘と破輩が、その支部と所属する悪名高い支部員について話し込んでいる時に・・・入り口である扉が開かれた。
バン!!!
「グハッ!!!」
「ハーハハハッ!!!さあて、クソつまらない委員会を終わらせるために、さっさと始めようじゃないか!!!ハーハハハッ!!!」
「こ、固地先輩!!!し、失礼じゃ無いですか!?俺達が一番最後みたいですよ!?」
「それがどうした!!?ちゃんと時間は守っているじゃないか!!!
俺からすれば、開催予定時間の何十分も前に集った挙句、何もせずに油を売っている暇があるなら、スキルアウトの1人でも検挙しろと言いたいくらいだ!!」
「・・・!!ん?だ、大丈夫ですか!?」
「いてて・・・」
大声を挙げて入室して来たのは、第178支部に所属する固地債鬼と真面進次。真面が、固地が扉を勢いよく開けたために吹っ飛ばされた初瀬に声を掛ける。
「だ・・・大丈夫だよ」
「扉の前で呆けているから、そんな醜態を晒す羽目になるんだ。危機意識が足りないんじゃないか?よくそんなんで風紀委員が務まっているな?」
「お、お前・・・!!」
「何だ?反論でもあるのか?だが、もうすぐ委員会の開催時間だぞ?まさかとは思うが、お前の取るに足らない
プライドのために、委員会をぶち壊すつもりか?
まぁ、俺としては面白みも無いこんな委員会が早く終わると言うのなら、吝かでは無いぞ?」
「・・・!!」
「おい、初瀬!!ここは引け。まともに取り合うな」
「椎倉先輩・・・!!」
「ハーハハハッ!!それが、賢明だ。お前と議論をした所で、俺に有益になることなど何一つ無さそうだからな。ハーハハハッ!!!」
「す、すみません・・・。すみません・・・」
歯噛みする初瀬を無視して円卓へ向かう“風紀委員の『悪鬼』”こと固地と、己が先輩の態度を謝る真面。そして、固地の言う通り、時計の針は午後3時を指そうとしていた。
「ゴホン。えー、では午後3時を過ぎたので、予定通り『第○○回風紀委員会』を始める。進行役兼監督役の椎倉だ。よろしく頼む」
各支部の風紀委員達が、全て円卓に集う。これから、2つの議題について議論をすることになっている。
「議題は2つ。まずは、昨日の委員会で紛糾し、今日に持ち越しとなった議題についてだ。
つまり、この度発生・発覚した第159支部に所属する
春咲桜が救済委員であったことに対する処分と、それに関係する事柄についてだが・・・」
「それについては、昨日の時点で言った筈だよ。こっちは、人手が足りないの。
処分内容について決められない、つまり処分保留なら復帰させて貰う。というか、復帰させた。今頃は、私の分まで必死に働いているだろう」
「!!・・・そうなのか?」
破輩の発言に椎倉が驚く。だが、159支部のリーダーが下した決断について、黙ってはいない者達も当然存在する。
「それは認められないぜ、破輩先輩!!どんな理由があろうと、春咲桜は救済委員に所属していた。そんな奴をすぐに現場復帰ってのは納得行かないぜ!!」
「私も、美魁と同意見です。確かに、事情が事情のために私達の間でも処分の度合いを決めかねています。しかし、それを理由に現場復帰というのは・・・」
反論するのは、花盛支部の閨秀と六花。特に、閨秀は救済委員の1人を逮捕しているために、そして彼女の信念から破輩の言い分を認めるわけにはいかない。
「無論、それだけじゃ無い。昨日も散々言ったが、お前等も
風輪学園(ウチ)の騒動については知ってるだろう?
今や、この騒動は風輪学園に16人しかいないレベル4の手を借りなけりゃいけない程だ。
そんな状況で、使える人材がいればどんどん注ぎ込まないと。今起きている騒動が、私達の手に負えなくなった時にはもう遅いんだ!!」
「それとこれとは話は別です。正当な処分が下されていない状況下で、周囲の環境を盾に罪を犯した者を復帰させること等、言語道断です」
「おぅ!もっと言ってやれ、牡丹!!」
「(・・・あの人みたいなこと言ってる)」
閨秀と六花が、破輩に反論し続ける。その終わりの見えない議論に、椎倉は辟易する。
昨日の風紀委員会が紛糾した最大の原因は、春咲桜への処分と、破輩が言う早期の現場復帰に関して、159支部と花盛支部が衝突し続けたことにあった。
おかげで、同時に議題に挙げる予定だったもう1つについても議論することもできず、今日も議論できるかどうか怪しくなって来た。
他支部ほったらかし、しかも白熱というか衝突しかしていない議論をどう纏めようか、椎倉が頭を悩ませていた・・・その時!!
ダン!!!
「・・・全く。本当に時間が無駄だな」
「固地・・・」
周囲の視線が、円卓に脚を勢い良く乗せ、腕組をする傲岸不遜な男―固地―に集中する。
灰色のシルクハットで目を隠していた固地が、顔を上げる。そして・・・凶悪極まりないその目を見開いた。
「アンタ等は、昨日もこんな無意味でつまらない議論を繰り広げていたのか?フッ、どうやらここにお集まりの方々は、余程暇を持て余しているらしいな」
「固地・・・。テメェ、何処をどう聞いたらあたし達が暇そうにしているって判断になんだよ!!」
「実際暇なんだろ、“宙姫”?でなけりゃあ、こんな実りの無い議論を延々と続けたりはしない」
「テメェ・・・!!」
「待って、美魁!固地さん・・・。あなたは、この議題についてどういう考えをお持ちなのかしら?そこまで言うからには、何か腹案でも?」
怒る閨秀を抑え、六花が固地に質問する。今日の委員会に飛び入りで出席したこの男は、偉そうにしているだけの無能な人間では無いことを六花は知っていた。
「フン。・・・今回の春咲桜の件については、色々議論しなければならない点がある。そこを、まずは整理しなければならんだろう」
「・・・と言うと?」
「まずは、『春咲桜が“無理矢理”救済委員に入らされたというのは本当なのか』という点だ」
「「!!」」
固地の発言に、思わず身を固くする破輩と一厘。
「と言っても、これについては議論の余地が無い。何せ、春咲桜の身柄を預かった警備員共がそういう結論を下してしまっている。
聞く所によると、自首へ赴いた春咲桜の言葉を碌に聞かなかったという情報もあるにはあるが」
「・・・そんな情報、一体何処で・・・?」
「さてな。それは、ご想像にお任せしよう。まぁ、その情報が無くとも何故そういう結論に至ったのかは、
春咲桜の血筋と逮捕された彼女の姉である
春咲躯園について考えれば、自ずと推測できる」
「・・・つまり、裏取引があったと?そう言いたいのですか?」
「さぁ。何分証拠は無い。憶測でものを言うのは余り好ましくは無いし、つまりはこれについて議論をしても無意味ということだろう」
「じゃあ、テメェは何でそんな無意味なことをわざわざ・・・」
「無意味ではあるが無駄では無い。議論の余地のある無しを仕分けするという意味では。フッ、アンタ等の無駄な議論よりかは何十倍もマシだと思うが?」
「・・・!!」
固地の理の叶った意見に反論できない閨秀。そんな、言葉に詰まる友人に助け舟を出すために六花は更に質問を重ねる。
「では、他には・・・?」
「そうだな・・・。では、この辺で視点を変えてみようか?」
「視点・・・?」
「あぁ、そうだ。つまりだな・・・」
六花の催促を受けて固地の口から出た言葉。それは・・・
「今回戦場となったコンテナターミナルにおいて、救済委員や風紀委員以外で参加していた者達・・・『
シンボル』について議論するというのはどうだ?」
『シンボル』。春咲桜や春咲躯園を含めた救済委員同士が衝突した戦場に加わっていた風紀委員外の勢力を議題の1つとし、議論はようやく活発化し始める。
continue…?
最終更新:2012年08月03日 23:23