風紀委員会(カンファレンスジャッジ)

幾つかの風紀委員支部が集った第三者的諮問機関。合同捜査を行う時もこの名称を用いる。
生徒で構成されている風紀委員にとって、この委員会で決定された事柄は非常に重い意味を持つ。
委員会で決定された事柄は、提言として風紀委員を統括する“上”に送られる。提言自体に拘束力は無いが、大体はこの提言によって処分や方針等が判断される。
また、合同捜査時においても重要な役割を果たす。基本的に設置された支部がある学校内の問題(=管轄範囲。文字通り校内や通学路、学生寮etc)に対処する風紀委員達が、
様々な理由でその範囲を超えた活動をする時に機能する、公式の合同捜査本部として設置される。
この場合、普段は警備員に比べて重要な任務に就かない風紀委員も、警備員並に重要度の高い任務に就くことが多い。

風紀委員会の構成としては基本的に下記の通り。

1.諮問機関の場合
①監督係兼進行係として、議題と全く関わりの無い支部。
②議題に関わりのある支部

2.合同捜査の場合
①原則、合同捜査に携わる支部で構成される。
②原則、顧問(アドバイザー)的役割として警備員が最低1人以上参加する

尚、委員会への参加条件として禁止されてはいないが、監督係以外で議題とは関係が無い支部が委員会へ参加することは余り好ましく無いので注意されたし。






「『シンボル』・・・?」

六花が虚を突かれた反応を示す。

「・・・何だ、その反応は?アンタ等が何を考えてるのかは知らないが、俺からすれば春咲桜への処分云々なんぞより、このグループについて議論をする方が重要だと思うがな」

固地は、嘲るというよりは心底呆れているような視線を六花へ向ける。その後に、六花の隣に座る閨秀へ視線を移し、

「何せ、数人掛かりとはいえ“宙姫”を負かした連中だからな。風紀委員として、警戒するのは当たり前だろう?」
「えっ・・・?ちょ、ちょっと、債鬼君!?“宙姫”先輩が負けたってどういう・・・!?」
「言葉の通りだ、加賀美」
「はぁっ!?あたしは負けてねぇっての!!!」

固地の言葉に176支部のリーダー加賀美が反応し、閨秀が否定するが、『悪鬼』は更に言葉を重ねる。

「“宙姫”。アンタなら春咲桜や春咲躯園だけでは無い、ターミナルに居たと思われる他の救済委員の連中も検挙できた筈だ。アンタの実力なら。
だが、結局は春咲躯園しか逮捕できなかった。それは・・・アンタの信念にとって敗北以外の何物でも無いんじゃないのか?」
「ぐっ・・・!!」
「あの~、債鬼君。私・・・その『シンボル』について殆ど知らないんだ。よかったら、説明してくれる?」
「加賀美・・・。お前・・・」
「ご、ごめんよぉ!お、怒らないで頂戴!!」
「・・・ふぅ。仕方無い。元はと言えば俺から言い出したことだしな。説明する義務はあるか」

加賀美の能天気さに、固地は毒気を抜かれる。この2人は、以前より付き合いがあった。
『悪鬼』と謳われる固地と普通に付き合える数少ない人間として、加賀美はある種の尊敬に似た思いを抱かれたり抱かれなかったりする。

「『シンボル』。無駄にキラキラ光る“変人”が居るグループと言えば、俺達風紀委員の中では殆ど通じるだろう。
風紀委員の真似事をボランティアのような形で行っている連中だが、最近になってその行動が活発化しつつあるようだ。
今の所確認されているメンバーは4名。その内の2名は、ここ成瀬台に通う生徒・・・だったな、椎倉?」
「・・・よく知ってるな。俺等でさえ最近知ったばかりなのに。
まぁ、あんなわかりやすいというか、特徴が一致しやすい奴に今まで気付かなかった俺達はって話になっちまうが」
「以前興味が湧いて、奴等と一度だけ戦り合ったことがあってな。その時に調べたんだよ。
まぁ、奴等の行動範囲は成瀬台支部の管轄に入ることは少ないようだからな。知らなかったのも無理は無いか」
「へぇ・・・。どうだったんだよ、固地?勝ったのか?負けたのか?」
「まぁ、アンタに言った意味としてなら・・・引き分けといった所か。本当はあの“変人”と戦いたかったんだが、同行していた花盛の女に邪魔をされてな。
本来の目的は達成できなかった。まぁ、取り巻きの実力の度合いを知れたのは収穫だったが」
「花盛・・・!!あの女か・・・!!」
「その様子だと、アンタも戦ったのか?あの女と?」

固地の興味深げな視線を感じ取り、閨秀は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「あぁ。確かに強かった。実力的にはレベル4の水流操作系能力者でもかなり上の方じゃねぇか?あれだけの水量を操作して、しかもその性質を変化させるトコからしても」
「水・・・!!や、やっぱりあれは『シンボル』の・・・!!」

水という言葉に反応したのは、『シンボル』や救済委員が居たあの戦場に参戦していた176支部員の1人・・・焔火緋花

「ん?お前は・・・名簿、名簿っと。・・・176支部の焔火緋花か。そういえば、お前もその場に居合わせたんだったな。
そして、対峙した救済委員に手も足も出ずに完敗したんだったか?その救済委員に関する情報すら、碌に得ることもできなかった。そうだな?」
「・・・はい」

固地が指摘する厳然たる事実に、焔火は項垂れる。本来は、焔火も昨日の風紀委員会に参加する予定だったのだが、通院のために急遽予定を取り止めたのだ。
そして、今日開催されることとなった委員会にあの戦場に参戦した者として、焔火は如何なる批判も覚悟で臨んでいる。

「支部とも連携を取らずに単独行動した挙句、何一つ成果らしい成果も挙げられず、最後は無様に地べたに転がった・・・か。
お前・・・風紀委員を何だと思っている?春咲桜やお前みたいな行動を取る輩のせいで、俺達風紀委員の信用が失墜していることを理解しているのか?
正義ごっこをしたいのなら、余所でやれ。邪魔しかできない無能者を置いておく程、風紀委員は寛容じゃ無いぞ?」
「・・・すみません」

固地から辛辣な言葉を浴びせられる焔火は俯いたままだ。だが、何もできずにおめおめと生き延びたことは事実。自分は・・・“先輩”にわざと生かされたのだから。

「債鬼君・・・!!それは、言い過ぎなんじゃないかな?」
「リーダー・・・?」
「加賀美・・・」

そんな傷心激しい後輩を庇うように、加賀美は固地に相対する。

「確かに緋花は私達に無断で単独行動して、結果として負けた。それは、批判されてもおかしくないよ。
でも、彼女は彼女なりの信念で救済委員に立ち向かって行ったんだ。『己の信念に従い正しいと感じた行動をとるべし』っていう私達風紀委員の信念を胸に抱いて。
それは・・・正義ごっこなんかじゃ無い。絶対に!!そうでしょ、緋花?」
「リーダー・・・!!!」

加賀美の言葉を受けて、焔火は顔を上げる。そこには、見るだけで人を元気にさせるような笑顔が浮かんでいた。

「それじゃあ、そんな部下に躾たリーダーのお前の責任はどうなんだ、加賀美?」
「えっ!?」
「お前・・・何を思い違いしているのか知らんが、部下が勝手な行動を取った以上、リーダーのお前にも責任は発生するぞ?そこの所をお前はどう考えている?」
「えっ、そ、それは・・・。ふむ。ん~とね・・・そりゃ、緋花が全部悪いかな?私はちゃんと普段から指導してるんだから、私には何の落度も無い、うん」
「ガクッ!!リ、リーダーぁぁ・・・」

先程までの態度から一変、自分には関係無いと発言する己がリーダーに焔火は項垂れる。

「・・・フッ。そうだな。お前には何の落度も無いのだろう。全ては勝手な行動を取った無能な部下の失態だ。
まぁ、ここでこれ以上追求するのも時間が無駄になるな。本題からズレてしまっているし、ここら辺にしておこうか」
「(・・・相変わらずこの人は、他人を苛める時程生き生きしているな)」

固地の横に座る真面が、己が先輩の態度に呆れ果てる。この人のせいで178支部がどういうイメージを持たれているのか。真面は、焔火とは別の意味で項垂れる。

「へっ!自分で時間の無駄になるようなことをしてりゃあ世話無ぇな。さっさと退席でも何でもして、178支部で働いて来たらどうだ?」
「フン。あいにくと178支部(ウチ)には大いに頼りになる先輩と、よく働いてくれる後輩がいるからな。心配は無用だ、“宙姫”」
「(・・・その先輩を尻に敷いて、その後輩を無理矢理外回りに連れ出してるくせによく言うぜ)」

閨秀と固地の応酬に、心中で溜息を吐く真面。現在の178支部は、上級生を差し置いてこの男が頂点に君臨していると言っても過言では無かった。






「では、改めて。俺の調査と“宙姫”の見立てでは、確認が取れている『シンボル』の連中は全員レベル4。その中でも高ランクに位置する能力者ばかりだ。
能力の種類・全体的なバランス共に、いい具合に揃っている。各支部でレベルにバラつきがある俺達風紀委員からすると、敵に回せば厄介な連中であることには違いない」
「あたしみたいに飛行可能な念動力系能力者、攻撃力がずば抜けて高い気流操作系能力者、メチャクチャな水量を操る水流操作系能力者。
そして、光を操る光学系能力者・・・リーダーを務めてる“『シンボル』の詐欺師”界刺得世。コイツはホント厄介だぜ。対峙したあたしの感想」
「確かに・・・!!もし、『シンボル』と戦闘状態になった時に、固地さんの言う通り比較的レベルの低い、あるいは無能力者が存在する私達風紀委員の支部単位では、
高位能力者+戦闘に特化している彼等とまともにぶつかるのは危険と判断せざるを得ませんね。
今の所『シンボル』と正面切って戦えると断言できるのは、レベルも高く戦闘面の能力に秀でている支部員が多い176支部当り・・・。レベルだけで言うと159支部もかしら?」
「おい、牡丹。あたし達花盛支部は含まれて無ぇのかよ?」
「私が言っているのは、支部単位の総合評価よ。あなたの実力を疑ってるわけじゃ無いわ。唯、集団行動である以上、突出した個人だけに注視していると足元を掬われるわよ?
私達花盛支部で能力が戦闘面に向いていると断言できるのは、あなたと冠先輩だけなんだから」
「・・・えっ!?そうなの!?私達の支部って・・・やっぱりすごいんだぁ。わっ、わっ!
176支部(ウチ)の稜(エース)とその界刺って人を戦わせたらどっちが勝つんだろう?わっ、わっ!」
「お前・・・今頃気が付いたのか?それと、はしゃぐな。・・・にしても、相変わらず176支部は高位能力者・人数共に多いな。
何か不正でもしてるんじゃ無いだろうな、加賀美?」
「そ、そんなわけあるもんか!176支部(ウチ)は他支部とは違って、映倫中と小川原付属両校を管轄範囲に置いている特殊な支部だから、その分人数も多いんだよ!!
それと、レベルの件は単純に映倫中の生徒が多いからだよぉ!!」
「そういやぁ、映倫の入学条件ってレベル3以上だっけ、牡丹?」
「そうよ、美魁。“共学の常盤台”と呼ばれる所以ね」
「・・・断っておくが、159支部(ウチ)は『シンボル』の連中と事を構えるつもりは無いぞ?奴等には、大きな借りがある。
むしろ、奴等が危機に陥った時には・・・躊躇無く奴等に加勢するぞ?」
「破輩さん!?それは、どういう・・・!?」
「何だ、今回の春咲桜の件のことか?その大きな借りというのは?」
「それもあるし、私個人的な借りもある。奴等が“私達”に敵対しないというのであれば・・・」
「・・・“俺達”を敵に回すと?それだけの価値が奴等にあると?」
「少なくとも、私はそう思っている。いや、私だけでは無い。これは、159支部の総意と受け取ってもらってもいい!だから、固地・・・くだらない真似はするなよ?」
「・・・つくづく厄介だな。『シンボル』の連中は・・・」
「(そこに同じレベル4で精神系能力者の形製さんが隠れメンバーとして居るんだよなあ。改めて考えると、すごい人達の集りなんだなぁ・・・『シンボル』って。ブルッ!)」

固地、閨秀、六花、加賀美、破輩の議論を聞きながら、一厘は改めて自分も協力した『シンボル』の強さに戦慄する。
自分と同じレベル4なのに。心の何処かでそう思ってしまう自分が居ることを、一厘は否定できない。

「(・・・私も真剣に考えないといけない。自分の能力を最大限に活かせる方法を。・・・あの人みたいに。・・・ハッ!!・・・またか。癖になってるのかなぁ・・・?)」

「あの人みたいに」。破輩に指摘された無意識の言葉を、また心の中で思い浮かべてしまう。その理由を・・・一厘は知っている。

「(ッッッ・・・!!!はぁ・・・。でもなぁ・・・あの人って“その手”のことについて色々言うくせに、実際の場面だとはぐらかしたり誤魔化したりするんだよね。
形製さんも水楯さんも・・・その点についてはどう思っているんだろう?仕方無いって思っているのかな?だから・・・『シンボル』の一員として一緒に居るのかな?)」
「おい、リンリン?何ボーっとしてるんだ?まだ、会議中だぞ?」
「へっ!?あっ!?す、すみません・・・」

破輩に注意されて我に返る一厘。破輩の言う通り、まだ会議は終わっていない。

「フン。やはり議論する価値はあったな。詳細に分析していくと、相当に手ごわい連中であることが改めてよくわかったな」
「能力だけじゃ無ぇ、その思考っていうか手練手管って面でもややこしい連中みてぇだな。特にリーダーの界刺って男は、一筋縄じゃいかねぇ」
「幸いなのは、彼等が私達風紀委員とは敵対する意思が無いということ。まぁ、これについては今までもそうでしたけど。
そもそも、ボランティアとして私達のような真似事をしているくらいですから、表立って衝突することは無いでしょう。・・・ボランティアにしては強過ぎますけど」
「ふぅ。債鬼君達との議論で、ようやく私にも『シンボル』ってのが何なのかわかったよ。ようは、私達の同志みたいな人達なんだよね?」
「・・・何故そういう結論になるんだ、加賀美?」

またもや加賀美の口から出た能天気発言に、固地がツッコミを入れる。その意味がよくわからない加賀美は、六花に確認の意味を込めた質問をする。

「だって、今回の『シンボル』の行動って私達に敵対するためじゃ無くて、救済委員を巻き込んだ姉妹喧嘩ってヤツに彼等が巻き込まれただけでしょ?違うの、牡丹さん?」
「・・・確かに、そういう調書が警備員から送られて来ていますね。今となっては、何処まで信用できるのかは甚だ疑問ですが」
「これについては、春咲桜本人の証言からも裏付けされているようだ。『「シンボル」の人達は私が巻き込んでしまった』とな。
つまり、今回の救済委員絡みの件において、『シンボル』は俺達風紀委員に検挙されるような重大な罪は犯していない。そういうことになる」
「(・・・界刺って野郎の口ぶりだと、あいつは救済委員に結構関わっているみたいな感じだったけどな。
まぁ、今更言うのもアレか。この借りは、今度ぶつかる時に何倍にも増して返してやりゃあいい!!)」
「それじゃあ・・・」
「と言っても、実力そのものはやはり脅威と見るべきだろう。奴等は強い。そして、俺達風紀委員にとって厄介な存在でもある。
いずれ、『風紀委員の面目丸潰れ』又は『商売上がったり』・・・という事態になることも否定できないぞ?
何せ今回の件といい、“重徳力”の件といい、奴等が力を発揮したことによって事件が鎮圧・解決されているようだからな。」
「「「「「「「!!!」」」」」」」

瞬間、息を飲むような気配が・・・確かに存在した。






固地が放った“重徳力”という単語に反応したのは、椎倉、寒村、初瀬、閨秀、六花、破輩、一厘の7名。その中の1人―椎倉―に注目していた固地は、言葉を振り向ける。

「俺も、その情報を耳にしたのは偶々だ。偶然スキルアウトを狩っていた時に、その内の1人が『重徳の件に「シンボル」が関わっているという噂がある』と吐いたんだ。
どうやら、一部のスキルアウトに噂レベルではあるが『シンボル』の関与が広まっていたらしい。アンタの反応を見る限りでは、噂は本当だったようだがな。
勘違いしないで欲しいんだが、別に俺はあの件に今更ケチを付けるつもりは無い。
調書では、重徳が率いたスキルアウトは成瀬台支部員の勇敢なる働きにより鎮圧したことになってるしな。
風紀委員の信念を勘違いし、自分勝手な美意識に囚われた挙句、負け犬となった何処ぞの“風紀委員もどき”に比べれば、結果をきちっと出したアンタ等の判断は称賛に値する」
「ッッッ!!」
「債鬼君・・・!!」

固地の言葉に、焔火はいよいよ涙目になってしまう。そんな部下の姿を見て、思わず怒りを込めた声を出す加賀美を無視するかのように固地は話を続ける。

「何よりも求められるのは結果だ。その結果を出すためなら、どんな手でも使うべきだ。
それと・・・結果を出せなかった落ちこぼれが何をほざいても意味は無い。耳に入れるだけ無駄だ。
フッ。よかったな、真面。この“風紀委員もどき”は、お前と同じ中学2年生だそうだ。同学年というのは、互いに影響し合うようだからな。
もし、今年になって176支部から178支部に異動願を出していなければ、今頃はお前もこの落ちこぼれの影響を受けていたかもしれんぞ?
お前は本当に運がいい。ハーハハハッ!!」
「固地先輩・・・!!」
「・・・ゥゥッッ!!ゥゥッッッ!!!」
「債鬼君・・・!!ホントに怒るよ・・・!?」

もはや頭を垂れ、泣くことしかできない焔火。部下を侮辱された加賀美が、怒りの余り拳を握る。だが、その様子が見えているであろう固地は、それでも話を止めない。

「フッ。だからこそ、その結果を出すために『シンボル』という俺達風紀委員にとっても脅威になり得る連中を味方に付け、見事事件を鎮圧・解決へ導き、
結果として奴等の事件への関わりの有無を一部の噂レベルに留め置くことに成功した、アンタ等成瀬台支部の手腕は評価されて然るべきだ。
調書には書けないことであっても、それが最良の結果を出すための過程ならば俺は評価する」

そう言って、固地はようやく加賀美の方を向く。今度は焔火に向けたような言葉では無い。できるだけ丁寧な言葉で、しかし凶悪な目付きはそのままに。
(ちなみに、称賛された椎倉、寒村、初瀬は押し黙っていた。調書に書かなかった、否、書けなかった最大且つ唯一の原因が、
『だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム』だとは口が裂けても言えないからだ)

「だから・・・本当に怒りたいのは俺の方だ、加賀美。
最良の結果を出すためじゃあ無い、自分の力を過信したために無謀な行動に走ったお前の部下の過程を、どうやって評価するんだ?
単独行動を慎み、お前達と連携を取ってさえいれば、焔火緋花は敗北することも怪我を負うことも無かったんじゃないか?俺の言っていることは間違っているか、加賀美?」
「そ、それは・・・」

固地の言葉は正しい。内心では固地と同じ気持ちであるが故に、加賀美は言い淀む。だが、焔火が対峙したのは唯の救済委員じゃ無い。
正式な報告には挙げていない、それは焔火と加賀美しか知り得ないこと。
かつて176支部に所属し、加賀美の部下でもあった男―麻鬼天牙―の存在が加賀美と焔火の心を重くする。
加えて―加賀美にも報告していないのだが―救済委員である荒我と斬山と共に戦ったことを隠していることもあり、
固地の言い分に全く反論できない焔火は、悔し涙を流しながら耐え忍ぶ他無かった。

「・・・どうやら納得してもらったようだな。だからこそ・・・破輩!!」
「!?・・・何だ、固地?」

急に破輩へ向けて言葉を放つ固地。その意図を図りかねた破輩の視線に固地は相対する。

「処分保留中の春咲桜を現場復帰させたというアンタの判断を俺は評価する!!
確かに、今風輪学園で起きている騒動は緊迫の度合いを増している。それを解決するためなら、どんな手でも使うべきだ。
そのためなら、処分保留中の春咲桜をも使うべきだろう。騒動の終結という最良の結果を導き出すための、限りあるピースの1つとなり得るのならばな!!」
「固地・・・。お前・・・」
「ちょ、ちょっと待てよ!?」
「固地さん・・・!!」

固地の言葉に驚く破輩・それに反論しようとする閨秀と六花へ向けて、固地は凶悪な視線を向ける。
顎を上げ閨秀達を見下す様は、固地債鬼という男の性質をより強く表現していた。

「そもそも、破輩に付け入る隙を与えたのはアンタ等の怠慢以外の何物でも無い!
嫌だ嫌だと喚く暇があるなら、こんな事態になる前にさっさと処分を決めてしまえばよかったんだ!俺なら付け入る隙は与えない!!
“宙姫”。六花。アンタ等はこの委員会の主旨を何だと思ってるんだ!?反対するだけが能か!?
アンタ等のくだらない遠吠えを聞くために、風紀委員会(このかいぎ)は開かれているんじゃ無いぞ!?」
「も、もし復帰させた春咲桜がまた・・・!!」
「フン。その時は、復帰させた破輩を含む春咲桜の愚行に関わった全ての連中を俺達の手で検挙してやればいい。それだけの話だ。なぁ、破輩?」
「あぁ!!その時はお前等が私達を捕まえに来い!!無論、そんなつもりは更々無いし、春咲にそんな真似をさせるつもりも無いがな!!」
「グッ・・・!!」
「ッッッ!!!」
「(そ、そらひめ先輩とむつのはな先輩のこんな姿・・・はじめて見る・・・!!)」
「(・・・!!この人も、あの人のように確固たる信念を持っている。ブレることのない信念・・・か。私も見付けなきゃいけない・・・!!私自身の信念を・・・!!)」

固地と破輩の力強い発言に、閨秀と六花は言葉に詰まってしまう。春咲桜への処分内容に拘る余り、意思決定機関に身を置く人間としての自覚が今回の2人には欠けていた。
そして、そこを“風紀委員の『悪鬼』”こと固地債鬼に付け入られてしまったのである。その結果、春咲桜の処分を巡る大勢は・・・決した。






「・・・それじゃあ、お前は春咲桜への処分についてどういう処分がふさわしいと思っているんだ、固地?」

応酬が一段落する頃合いを見計らって、椎倉が言葉を挟む。監督役として、ある程度の結論を導かなければならないのだ。

「そうだな・・・。救済委員だった事実は変わらないが、“無理矢理”だからな。免職までは行かないか。・・・落とし所としては無期限の停職処分が妥当じゃないか?
もちろん、この処分が決定するまでには多少の時間を要するだろうから、それまでは職場復帰を認めてもいい。
事態も切迫しているようだし、使える駒は多いに越したことは無い。
だが、処分が下された後は即刻停職してもらうがな、破輩。それまでに風輪の騒動を終結させられるように、精一杯励むんだな」
「お前に言われなくてもそのつもりさ、固地」
「ということだが・・・固地の意見に何か異論や反論がある者はいるか?いたら、挙手してくれ」

固地の提案を受けて椎倉(ちなみに、椎倉も固地と同意見であった)が他支部の意見を聞くが、どの支部も反応は無い。
どの支部も、これ以上の議論は望んでいないようだった。もし、異論・反論を述べようものなら『悪鬼』による口撃の餌食になることは間違い無い。

「(・・・さすが“風紀委員の『悪鬼』”と言われるだけのことはある。あれ程紛糾していた議題を、こうも力尽くで纏めてしまうとは。
もしかして・・・『シンボル』の話題を出したのも、この結論へ持って行くための過程だったのか?だとすれば・・・恐ろしい男だ)」

監督役の椎倉は、一連の議論を主導した固地の弁舌に舌を巻く。破輩の言い分も理解できるし、閨秀・六花の指摘も真っ当であった。
だが、あの『悪鬼』はどちらに入れ込むことも無く自分の価値観のみで判断を下し、議論を力尽くで纏め上げた。
余計な感情に囚われずに、ただ己が望む結果と、それに繋がる意味ある過程のみを己の価値基準に置くこの男の信念は、
風紀委員の中でも好き嫌いが激しく分かれる代わりに、こういう場において絶大な力を発揮する。

「では、特に異論や反論も無いようなので、春咲桜への処分は無期限の停職処分という方向で提言する。
では、次の議題である『ブラックウィザード』と呼ばれる大型スキルアウトに関わる問題について議論を始める
これについては、各支部にも随時情報が入っている重要案件だ。昨日みたいな紛糾だけは勘弁してくれよ」


昨日から続いていた議題の1つがようやく纏まり、次なる議題へ移る。その旨を聞き、176支部員の1人である網枷双真の目が・・・僅かに細まった。

continue…?

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最終更新:2012年05月31日 21:24