一切の予兆はなく、切嗣の脳内にK市内の光景が流れ込んだ。
雑踏を行く人々の姿、声。
山の木々の揺れる様、ざわめき。
どす黒い汚濁が所々に混じる海、その波の音。
正確な位置の判然としないまま、様々な場面が次々に流れていく。
その映像は切嗣の知る映像技術を遙かに凌駕し、恐ろしいほどに鮮明である。
それでいながら砂塵のようなノイズが絶え間なく走り、はっきりとした情報をつかむことができない。
例えるならば観光地のタワーにある望遠鏡の精度を何百倍にも高め、かつ覗き込むレンズに亀裂が入っていたら、このような映像になるのではないかと思われた。
「――――ぐッ―――!!」
すさまじい頭痛がする。
冗談でも比喩でも何でもなく、切嗣は自分の脳が燃え尽きるのではないかと思った。
苦痛にうめき、よろけ、思わずその場に蹲る。
こうなるのは当然である。
現代の人間にとっては神代に等しい未来の探索者、霧亥。
サーヴァントとして現界している今、その再現は必ずしも完璧ではないとはいえ、数千キロ先の視界を見通し、微細レベルでの対象の分析をも可能とする千里眼。
いかに強い精神力の持ち主であるとしても、その視界を自らの脳に同調させることで何のダメージも負わずに済むはずがない。
「――は」
しかし、腕を付く。
「――……アーチャー、」
切嗣は倒れない。
「先ほどの、敵……、《
アタランテ》の居場所を……探れ」
その言葉が終わるか終らないかのうちに、視界が再び大きく飛んだ。
激しい苦痛を得ながらもなお切嗣が卒倒せずにいられたのは、彼の行使する術式「固有時制御」によるところが大きかった。
自身の体内時間の速度を操作するこの術式は解除後に世界からの修正力が働き、心臓をはじめとした肉体に多大な負担をかける。
切嗣はこの現象に慣れているがゆえに、似ている今の状況もどうにか凌ぐことができていた。
とはいえ、長く耐えることのできるものでは全くない。
せいぜい限界は持って30秒、いやもっと短いか。
正確に計ることはできないが、追い込まれた現状を打開するために迅速かつ隠密に敵の情報を察知する必要がある。
切嗣の脳内に、さらに断続的な火花が走る。
風景は街に移る。ノイズ混じりの映像には人の姿はほとんどなく、建物も薄汚れているようだ。
先ほど交戦したアーチャー――《アタランテ》の探索を行うことは、最初から決めていた。
切嗣と霧亥にとって目下最悪の敵は討伐令の双子ではなく、何をおいてもあのアーチャーである。
数刻前の戦闘では一方的に追い込まれ、こちらの手の内を曝け出してしまった。
あの戦闘だけではない。その直前のアサシンと変身術を使う少女のマスターとの戦闘の段階から自分たちは監視されており、ゆえに敗北を喫したのだ。
それはつまり、アサシンが持ちかけてきた同盟を霧亥が無視して襲いかかったシーンも見られたということ。マスターである自分がサーヴァントを制御できていないことを知られているということだ。
加えて、サーヴァントの情報だけならまだいい。
先ほどの戦闘では『固有時制御(タイムアルター)』を使ったのに加えて、3画ある令呪の2画を使用したことをも見られてしまっている。
霧亥がいかにオーバースペックであろうとも、これだけの情報を知られ尽くしては勝てる道理はない。
ゆえにまず、切嗣はアタランテの探索を行う。
こちらの探索を逆探知されるリスクに思い至らなかったわけではない。それを考慮してもなお、相手の情報を掴まなければならない。
それほどに、今の切嗣は追い込まれていた。
廃墟じみた街を流れていく視界。それがやがて、ある一点で止まる。
「ここだ」
無機質な声。それとともに、ノイズがかった視界の中に何人かの姿が飛び込んでくる。
そのうちの一人の頭上に、犬とも狼ともつかない大きな耳があるのがはっきりと分かった。
間違いはない。先ほど会敵し、自軍に大きなダメージを与えたアーチャー、アタランテの姿である。
敵がこの瞬間に霊体化をしていなかったのは大きな幸運であった。霊体になっていたら、霧亥には遠視でその分析が可能であっても、切嗣が認識することは不可能だっただろう。
彼女の傍らには2人の少女――顔は判然としないが、少女というより幼女といえる程度の年齢だろう――がいるのが見えた。
3人は裸であった。会話までは全く聞き取れず周囲の状況はやはり判然としないが、風呂にでも入っているのだろう。
モラルがどうだとか、法律がどうしたとかいう話は今の切嗣にとってはどうだってよいし、そんなことに気を回す余裕など一切ない。
重要なのは、これで敵の情報をわずかでも掴んだことだ。
痛む頭を素早く切り替え、3人から視界を外す。すると、3人のすぐ傍にはもうひとり男がいる。やはりその顔は判然としない。
「――次だ、アーチャー。戦闘の起きている場所を探れ」
切嗣がアタランテたちの姿を認識していたのは、恐らく5秒にも満たなかっただろう。
気配を察知されるのも避けたいが、何よりもうタイムリミットが近い。
今のうちに少しでも広範囲に索敵を行い、参加者の情報を得ておきたかった。
廃墟めいた街を離れ、再び視界が高速で流れていく。
さらに激しさを増したノイズ混じりの街が、人が、車が、脳裏に火を付けながら猛スピードで視界をよぎっていく。
やがて、複数の人影が入り混じり、火炎とヘドロが舞う光景が映し出される。
ここはどうやら今いる場所と同じ海岸であるらしい。人影が重火器らしきものを振りかざし、海に向かって撃ち放っているらしい。
どうやら、らしい、というのは、切嗣にはそれがもはやはっきりとは見えていないからだ。
数秒前までは何とか人の姿程度は捉えられていた視界は、もはや壊れかけの映写機のごとくぼやけた像のみしか映し出していない。
限界だった。これ以上同調を続ければ、切嗣の脳は完全に焼き切れるだろう。
「――まだだ! もう一度別の場所を探れ!」
しかしそれでもなお、切嗣は探索を命ずる。
視界が逆流する。
映し出されたのは街中らしいが、それすらも切嗣には分からない。
完全な限界まで、残りはあと1秒。
雷光が見える。
霧が見える。
真っ黒な影が見える。
真っ白な影がかすかに見える。
意識はそこで途切れた。
▲
「おい、大丈夫か!?」
男の声で、切嗣は目覚めた。
見ると、心配げに自分を覗き込んでいる顔がある。
意識がはっきりしてくる。
どうやら、視界同調を行っていたまま気を失ったらしい。
頭痛はさほどではなくなっているものの、かわりに全身に疲労感がまとわりついている。
「救急車でも呼ぶか……? っとと」
それには及ばないと告げて急に立ち上がった切嗣に、男がよろける。
迂闊であった。焦りが冷静な判断を妨げていたのだろう。
視界同調に伴う脳への負担。それを考えれば、当然行うのは人目から少しでも場所にすべきであった。
周囲を見ると、日はすでに西に傾いている。敵に発見されなかったのはかなりの幸運というべきだ。
「あんた大方、あの毒に中てられちまったんだろ? こんな時に海には近付かないほうがいいぜ」
「毒……?」
男の言葉に、切嗣はふと海を見やる。
そこには、切嗣の持っている『環境汚染』の知識とは数段かけ離れた、どす黒い液体がうっすらと表面を覆う海があった。
遠くを見やると、その液体はより沖合のほうから流れてきているように見える。
「ったく、俺は親父の代からここで働いてるけどよ、島が消えて無くなるなんざ聞いたことはねえ……っておい! どこ行くんだよ!」
妙な時には妙なやつが現れやがるぜ、と男が一人ごちている間に、危険を感じ取った切嗣は足早に海辺を立ち去りつつあった。
▲
数刻後、切嗣の姿は車上にあった。
海が大変らしいですねえ、街中には連続殺人犯まで出てるらしいですし……といったタクシーの運転手の世間話に適当に相槌を打ちながら、依然として疲労の残る頭を回転させ、切嗣は次の策を巡らせていた。
霧亥の探索は負担が大きかったが、得られたものもまた大きかった。それを整理していく。
まずは先ほどのアーチャー、アタランテについて。
あの映像が確かならば、地図や事前に掴んでいた地理情報と照らし合わせると、どうやらこのサーヴァントが先ほどいたのはK市の北東部にある現在では人のほとんど住んでいないゴーストタウンのような地域であるらしい。
相手に知られたことの多さを考えれば、大まかな位置を掴んだだけでも十分な成果といえる。
加えて、一緒にいた2人の少女。風呂に入っていたらしいことを考えると、かなり親密な関係であると考えるべきだろう。
マスターとは違ってサーヴァントには役割(ロール)は存在しない。サーヴァントが単なるNPCとそこまで深い関係を結ぶというのはやや考えにくい。
よって、2人の少女のうちどちらかがアーチャーのマスターであると考えるのが自然だ。
さらに、3人の傍らにいた男。何の縁もない人間が子供たちが入浴する傍にいるというのは、やはり考えがたいことだ。
この男も、2人の少女と何らかの深い関係にあると見て間違いはないだろう。
そして男のほうもサーヴァントであった場合、意味することはひとつしかない。すなわち同盟である。
2人の少女が共にマスターでかつ何の力も持っておらず、サーヴァントが彼らを守ろうとする善良な心の持ち主であるならば、同盟を組むのはいかにも自然なことだ。
この情報は大きかった。
正直にいえば、情報を掴まれすぎていた敵のアーチャーは、探索で居場所が分かり次第強引に奇襲をかけ、宝具の力で一気に消しとばすことも考えなかったわけではない。
だが、今となってはそれはやはり愚策であったことがはっきりしている。
敵に同盟相手がいるとなれば、その相手にも自分たちの情報が知れ渡っている可能性が高い。
加えて、もう一体のサーヴァントらしき男の力は不明。マスターの少女たちも、一見は無力に見えても先ほどの変身する少女同様に何らかの力を持っているのかもしれない。
勝算がない。未知数がなお多すぎる。今は可能な限り逃げ、2度目の交戦は避けるべきだ。
だがそれは、「この聖杯戦争で二度と交戦しない」ことは意味しない。
マスターの少女たちが真に何の力も持っていないならば、それはまさしく敵にとってのアキレス腱だ。
最初の戦闘では失敗したが、人質に取ることに成功できれば、一気に戦局を優位に動かすことが可能となる。
――かつて目指した正義の味方とは、あまりにも対極にある策。
思わず煙草に手をやり、「禁煙」の表示が視界に入ったことに気付いてポケットに引っ込めながら、切嗣はさらに思考する。
探索で得られたのはそれだけではない。
ここから西にかなり離れた海に面した場所、おそらくは港。加えて、更に判然としないが市街地、おそらくは商店街のような場所。
探索を行ったのと同時刻に、少なくともこの2か所で何らかの戦闘行為が行われていることも判明した。
海岸のほうでは、銃火器を持ったサーヴァントが海に向かって銃火器を撃っているのが見えた。
敵はおそらく海に勢力を広げ、さきほど討伐令が出されたサーヴァント、
ヘドラだろう。
商店街の方はさらに判然としないが、かなりの乱戦になっているらしいことだけは分かった。
これもまた有益な情報ではあった。
中学校および高校への襲撃。討伐令の双子とヘドラ。聖杯戦争の開始から時間もたち、戦火は着実に広がっている。
戦闘のあった場所は地図でおおよその目星は付いている。周辺を探れば何らかの情報を得ることが可能だろう。
加えて、探索以外の情報収集で得られたこともある。
市内に勢力を伸ばしている新興宗教、御目方教の存在。そして、永久機関の開発に成功したと発表した企業。
どちらも、主催者が用意した作り物にしては不自然極まりない存在だった。まずマスターの存在が関わっていると考えた方がよいだろう。
脳への負担というリスクを背負ってでも行った探索は有益だった。これだけでもオーバースペックのサーヴァントを引き当てた意味はあっただろう。
だが、戦局は決して優位になったわけでは全くない。
敵のアーチャーを探り、アキレス腱となりうるマスターの情報は確かに掴めた。しかしそれでもなお、再び戦えば不利になるのは情報量で劣るこちらだ。
令呪2画の損失に加え、自分自身の体の疲労も馬鹿にできるものではない。
二つの討伐令。あちこちで起こる戦火。御目方教。永久機関。
マスターが惹かれて集まってくる可能性の高い火種はあちこちにある。
しかし今はまだアーチャーはもちろん、他のサーヴァントとの会敵もできる限り避ける。
討伐令の報酬である令呪は恐ろしく魅力的だ。
霧亥のスペックならば、双子のほうはもちろん、害毒を撒き散らす怪物――否、怪獣の類であっても葬り去ることが可能だ。
集まってきたマスターを後ろから狙い撃つことももちろん可能ではある。
だが、最初に討伐令に参加して現状を招いた轍を踏むわけにはいかない。
ゆえに切嗣はまず、拠点への帰還を選択した。
拠点には愛用している武器があり、マスターをより確実に仕留めるには確保しておきたい。
アタランテによる追跡の懸念は、依然として強く残っている。僅かな時間だったとはいえ、探索の気配を察知された可能性もある。
だが何もせずに逃げ回っているだけでは、破滅を手をこまねいて待っているだけに等しい。
先ほどの索敵で見た様子からすると、もう一人の男はともかく、彼女はマスターの傍らを簡単には離れないように見えた。
もちろん、霊体化させた霧亥による警戒は怠らない。
加えてタクシーの運転手には、目的地である拠点まではなるべく蛇行し、かつ人の多い場所を通るように告げてある。
変なご注文ですねえ、と苦笑されたが、一万円札を数枚握らせ黙らせる。
マスターの少女を甲斐甲斐しく世話するようなサーヴァントである。先ほどの戦いでもそうだったが、まず間違いなく、NPCであっても一般人に危害が及ぶことをよしとしないタイプだろう。
追跡を避けるだけでなく、意図的に人の多い場所を通過して攻撃を躊躇させる。
そうまでして策を弄させるほど、先ほどの敗戦の記憶は切嗣の脳裏に深く刻まれていた。
夕日に照らされながら、車は走ってゆく。
敗北を喫し、逆襲の策を練る魔術師殺しと、その思惑をも更に踏みつけていくかもしれぬ探索者を乗せて。
【
衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態] 打撲、魔力消費(小)、疲労(中)
[令呪] 残り一画
[装備] なし
[道具] 小型拳銃、サバイバルナイフ(キャリコ短機関銃を初めとしたその他武装は拠点に存在)
[所持金] 数万円程度。総資金は数十万以上
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯による恒久的世界平和の実現
1:周囲を警戒しつつ拠点に戻り、作戦を練る。
2:アインツベルンの森の存在が引っ掛かる。
3:討伐対象の『双子』を抹殺し、令呪を確保したい。
4:アーチャー(アタランテ)を強く警戒。勝てる状況が整うまで接敵は避ける。
5:ひとまずアーチャー(霧亥)への疑念は捨て置き存分に性能を活かす。
[備考]
※アーチャー(アタランテ)の真名を看破しました。
※3つある拠点のうちどこに向かうかは次の書き手にお任せします。
【アーチャー(霧亥)@BLAME!!】
[状態] 疲労(小)、魔力消費(中)、ダメージ(中)
[装備] なし
[道具] 『重力子放射線射出装置(グラビティ・ビーム・エミッター)』
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1:サーヴァントの討滅。
2:アサシン(死神)、アーチャー(アタランテ)は殺す。
3:索敵を行ったことで発見したサーヴァントは殺す。
[備考]
※A-8、D-3、C-4を中心に索敵を行い、午後時点でそこにいたサーヴァントの存在を感知しました。
そして魔術師殺しが去った海岸を、沖のほうからじっと見つめる存在があった。
彼女こそは、このK市に広がるひとつの災厄の元凶。
汚濁の主。
公害の王。
水底からの復讐者。
ライダー《ヘドラ》と融合せしマスター、
空母ヲ級がそこにいた。
衛宮切嗣本人は全く知ることはなかったが、アタランテが霊体化していなかったこと、探索後に誰にも見つからなかったことに加えてもう一つ幸運だったことがある。
彼が霧亥の視界を介した探索を行っていたそのとき、侵食を続ける空母ヲ級に主催の介入が入り、その勢力が一時的に減退していたのだ。
このタイミングでの介入がなければ、真正面の陸地にいた切嗣たちは必然的に何らかの形で交戦を迫られていた可能性が高い。
そして戦闘ともなれば、その物量を前にして必然的に『重力子放射線射出装置(グラビティ・ビーム・エミッター)』を使用せざるを得なくなり、さらなる窮地に追い込まれていただろう。
だが、互いにそんなことはつゆ知らず。
空母ヲ級はその本能に従い、更に勢力を広げるべく蠢く。
戦闘による損失。駆逐艦数隻損傷。最初の戦闘とそこから生産したものを差し引きすると、全体での損失は艦隊全体の戦力を損なうものではない。
領域の拡大。これもまた介入の影響は軽微。陸地を浸食し、己に有利な海とする。
遠征・補給の実施――
そのとき、一機の艦載機が彼女の元に帰還した。
――索敵ニ成功。
――△△港付近ニテ艦娘の存在ヲ複数確認。
――戦闘中ノ模様。
「……」
その報告を何度も何度も反芻する。
艦娘発見。
空母ヲ級は繰り返すたびに、己の中で二つの衝動がより強くなっていくのを感じていた。
艦娘を轟沈せよ。
上陸せよ。
轟沈。
上陸。
『ルーラーからの、お知らせだぽん』
そして瘴気を一層濃くする彼女の前に、白黒の妖精が現れた。
自分に対して討伐令が発令されたこと。参加した者に対しては1画、討ち取った者に対してはもう1画の令呪の賞与。
『理解できるぽん? じゃあ、頑張ってほしいぽん』
返事も待たずに、妖精の姿はかき消える。
汚染された頭であっても、理解はできる。
いつの時代であっても怪物とは攻撃を受けるものであり、討ち果たされるものであるということ。
その理解は理性によるものではなく、空母ヲ級とヘドラに共通する本能のようなものであった。
間もなく、敵の勢力が自分を討たんと軍勢となって現れるだろう。
ならばどのようにしてこの局面を打開するか。
籠城し防御に徹する――否定、否定、拒否!
攻勢に転じ、敵勢力を襲撃――肯定、肯定、肯定!
空母ヲ級の中に、更に強い意志が沸き上がる。
必要なのは迎撃ではない。
軍勢に狙われる以前に、本艦の敵を襲撃。奇襲。撃破。
そしてその本能に己の裡に潜むヘドラの意思が重なり、共鳴する。
《上陸》に対する本能がさらに強くなっていく。
艦娘を轟沈せよ。
上陸せよ。
轟沈。
上陸。
轟沈。
上陸。
意思が強くなるにつれ、汚濁が広がる。それはもはや、主催者の介入を受ける以前の勢力範囲を越えていく。
彼女を中心とした半径数百メートルの範囲には、魚はおろかプランクトンの1匹すら存在を許されていないであろう。
そして夕日に照らされ、瘴気を天に突き上げながら茫洋と佇んでいた空母ヲ級の姿に変化が訪れる。
彼女の巨大な頭部。それがアメーバのごとく徐々に横に広がっていく。
やがてそれは、まるで超高熱に当てられて溶解してしまったUFOのごとく、歪んだ円盤状の形を成していった。
轟沈。
上陸。
轟沈。
上陸。
その背から、硫酸の瘴気が海に噴射される。
それが繰り返され、もはや海の面影すらない汚液の表面から空母ヲ級の体が浮き上がる。
ライダーの英霊・ヘドラ。この怪物はかつて状況に応じ、自らの姿を変化させていった。
その一つが飛行形態。およそ既存の航空力学では考えられない歪な翼を持つそれは、しかし現実にあらゆる場所を自在に飛び回って1000万を超える被害を産み、日本中を恐怖のどん底に叩き込んだ。
本来ならば、宿敵の火炎放射を浴びたことによって生まれたその姿。
だがこの場においては、敵の轟沈を強く望む宿主の意思と上陸を強く望むヘドラの意思が重なり、この姿を再現する結果を呼んだのか。
速度を増しながら、今や毒の飛行空母とでも呼ぶべきヲ級は海上を行く。
航跡には骨と化した魚や海獣が、溶解した甲殻類が次々に浮かび上がる。
戦争と公害。
それは人類の発展史において生み出された必然の暗黒面であり、誰もが目を背け続けてきた犠牲でもある。
二つの宿業を一身に象徴する融合体。それが、此度の聖杯戦争における一つの転換点を産み出そうとしていた。
【C-7/海上/一日目・夕方】
【空母ヲ級@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 無我、飛行形態
[装備] 艦載機
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:艦娘、轟沈
1:発見した艦娘を沈める。
2:宝具で陸地を海に変える。
3:艦隊の建造、補給、遠征の実施。
最終更新:2016年10月23日 10:29