時刻は直に、夕方に差し掛かろうとしていた。
手元の千里眼日記に視線を落とせば、街が如何に混沌とした様相を呈しているのか一目で分かる。
商店街で発生した謎の局地的公害現象。信者の中にも負傷者が発生しており、サーヴァント同士の戦闘を目撃した趣旨の報告も数件上がっている。
だがそれ以上に特筆すべきであるのは――やはり近海に根を張り、本土の侵食を開始せんとしているライダーのサーヴァント……『
ヘドラ』のことだ。
椿の下にも、ルーラーの使いであるという白黒の使い魔はやって来た。
二件目の討伐令。討伐の優先度が件の殺人鬼主従よりも上という時点で、一体どれほど不味い事態になっているのかを窺い知ることが出来る。
「捨て置けば、程なく街中が汚濁によって埋め尽くされる。そうなれば、聖杯戦争そのものがご破算になりかねない……随分焦っているようだね、ルーラーは」
微笑するのは、椿の座す空間に留まったままのキャスター・
円宙継だ。
禁魔法律家であるキャスターも、やろうと思えばヘドラと似たような芸当を行うことが出来る。
悪霊、死霊、魍魎、化外――そういった異形の存在を街に解き放ち、ヘドラのように混沌を生みながら、魂を吸い上げて自身の糧にすることが出来る。
その気になればキャスターも、街一つくらいは容易に滅ぼせるのだ。
だが一体一体のスペックならば兎も角、無尽蔵に吐き出せる数量という点では、確実にヘドラが勝っている。
……今はまだかのライダーは海上に留まっているようだが、陸に上陸してくるのは時間の問題だろう。ルーラーもその点を加味して討伐令を発布したのだろうし、最悪、事態はそれだけに留まらない可能性もある。むしろそちらの可能性の方が高いとすら、キャスターは考えていた。
「これは僕の推測だけど……恐らくかのライダーは、その内陸に上陸してくるだろうね。そうなれば当然汚染の侵食度は急激に増すだろうし――もしも僕らのような聖杯戦争の参加者達が失敗すれば、確実にK市は廃都だ。聖杯戦争を恙なく進行させるために、白痴も同然に設定されているNPC達でどうにか出来るとは思えない」
「でも……此処は結界が貼ってある筈でしょ?」
「ああ。ちょっとやそっとのことじゃ破れないから、そこは安心していいよ。……でも、それも絶対って訳じゃない。僕らに目を付けているマスターやサーヴァントが全くいないってことは考えにくいし、所詮は宝具でも何でもないただの結界なんだから、破ろうと思えば破れる手合いもいると思うよ」
椿の表情が僅かに不安の色を帯びる。
今から一時間と少し前――彼女は、起こるはずのない現象に遭遇した。
死ぬ筈だった少女が死なないという、未来の改変現象。
『未来日記』が書き換わる、この街を訪れてからは一度も目にすることのなかった事態。
キャスターの言葉によって持ち直したかに思われた椿の精神面は、しかし完全に元通りとなった訳ではない。
"未来を変えられる人間が居る"……その事実は鋭く鈍い楔として、椿の胸の奥に深く打ち付けられていた。
そも。
春日野椿という少女が殺し合いのサバイバルゲームに参戦させられるのは、これが二度目である。
一度目は、聖杯戦争ではなかった。だが趣向としては、それなりに似通ったものだったと言えるだろう。
サーヴァントの代わりに『未来日記』……文字通り、未来を予知する日記を持たされて殺し合う。
情報、人員、知略、全てを動員して敵を蹴落とす。その点は聖杯戦争と何ら変わらない。
そこでも椿は宗教施設の奥に控え、信者達を使いながら暗躍していた。
その末にどうなったかは――今此処に椿が居り、未だ世界の破滅を希求していることから容易く読み取れる。
椿は失敗した。
あと一歩という所まで追い詰めながらも、敗死した。
未来が書き換わり、定められていた結末が変わる。
その恐ろしさを誰よりもよく知っている椿だからこそ、一度生まれた懸念を些事とかなぐり捨てることは出来なかった。
たとえ、信頼しているキャスターが大丈夫と言ってもだ。
再びあの悍ましい文字……『DEAD END』が自らの日記に浮かぶ未来を、椿は恐れずにはいられない。
当然キャスターも、そんな椿の様子には気付いている。
キャスターにとって、春日野椿という少女は道具だ。
彼には彼女の信頼に報いようなんて想いは微塵もなく、ただ体のいい言葉を掛けてその憎悪を利用し続けている。
「言ったろう? 大丈夫だよ、椿」
そのことにすら思い至らない弱きマスターに、復讐鬼の少年はやはり甘いマスクで微笑みかける。
そして言うのだ、大丈夫だと。――彼女が何かを考え、あれこれと悩んだりする必要はないからだ。
キャスターは椿から、彼女が生前に経験したという戦いの大まかな顛末について聞いている。
その上で言わせてもらうなら、キャスターにとって、無様に敗北した人間の指示や意向など全く不要であった。
彼女の采配で計画が狂う方が余程面倒なのだから、椿は黙ってマスターという"核"であり続けてくれればそれでいい。
それ以上のことを、キャスターが椿に望むことはない。彼女がどれだけ尽くそうと、永遠に。
無能だろうが何だろうが、存在してくれているだけで道具の役目は果たしているのだから。
「仮に結界が破られたとして、その時は僕やティキの出番だ。仮に教団を失おうと、僕らが生き残る手段は幾らでもある」
「そう……ね。そう、よね」
「ああ、そうさ。君は安心して、僕らに任せていればいいんだよ」
ただ、今言ったことは嘘ではない。
あくまで御目方教という教団は便利な駒の山だ。
そしてその中に、王将の駒は混じっていない。
教団が壊滅しようが、それはキャスター達の敗北とイコールでは結ばれないのだ。
「それに、今は僕らのことじゃない。他人のことを考えるべき時さ」
ヘドラの討伐に、キャスター達が力添えすることは当然ながらない。
だが、義憤に駆られてヘドラへ向かっていく者はきっと山程存在する筈だ。
つまり――今夜は最高の狩り時。
闇夜に潜んで人を貪る悪霊達が、最大までその食欲を満たせる夜が来る。
英雄達よ、精々華々しく吼えるがいい。
光り輝く剣でもって、寄せ来る汚濁の波濤を切り払うがいい。
自分達は、お前達の後ろに伸びる影だ。
お前達が決して認識できない、認識する暇もない、しかし確かにそこに存在している影/陰。
日は傾いていく。
時は近い。
聖杯戦争という物語が大きく動く瞬間が、もうすぐそこまで迫っている。
【一日目・午後(夕方直前)/C-4・御目方教本部】
【春日野椿@未来日記】
[状態] 健康、禁魔法律家化(左手に反逆者の印)、一抹の不安
[令呪] 残り三画
[装備] 着物
[道具] 千里眼日記(使者との中継物化)
[所持金] 実質的な資金は数百万円以上
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を滅ぼす
1:千里眼日記の予知を覆した者が気に食わない
2:キャスターに依存
3:キャスターはああ言うけれど――
【キャスター(円宙継)@ムヒョとロージーの魔法律相談事務所】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、復讐を成し遂げる
1:ティキを通じて他参加者の情報を収集する。ひとまず海岸部に出現した異生物の情報を得る
2:当面はY高校のマスター、牧瀬なるマスター周りから対応していく。
3:但し夜、ヘドラとの交戦が本格化したなら、積極的に他主従を狩る方向に舵を切る
※ティキや信者を経由して、吹雪の名前、牧瀬というマスターの存在、『美国議員の娘に似ている』というマスターの存在を確認しました
◆
「……分かっちゃいたが、異常事態だな」
「だね」
「ですわねえ」
岡部倫太郎と二人の女海賊は、若干呆れたようにそう溢した。
異海、魔境と化した海。腐卵臭を運んでくる粘性の風は、明らかに尋常なそれではなかった。
何らかの異常事態が起きている。早急に情報を集め、事の次第を理解する必要がある。
そう思って岡部達は行動したのだったが――結論から言えば、事態は彼らの想定の倍は深刻なものだった。
「で、どうする? 討伐クエスト、参加するの?」
「いや、どう考えても無謀だろう。そもそもお前達の宝具は、確か大軍を相手取るには向かないものだった筈だ」
ライダー……アン・ボニーとメアリー・リードは、海賊のサーヴァントでありながら、船の宝具を持っていない。
そんな彼女達が唯一持つ宝具は、所謂"逸話由来"のそれだ。
『比翼にして連理(カリビアン・フリーバード)』――無数の兵士を相手に、捕縛される瞬間まで戦い抜いた逸話をなぞるかのように、状況が不利であればあるほど威力を増していく連携攻撃。対人相手なら、確かに二人の連携は素晴らしい戦果を齎してくれるだろう。
だが、今回の相手は大軍だ。大群、と言っても間違いではない。
近接担当のメアリーと遠距離担当のアン、二人の連携が如何に素晴らしいものであろうと、流石にこれだけの物量差を覆すのは難しいと岡部は考える。
「アンのマスケットを霊核に撃ち込むとかすれば、可能性はまだありそうだけど……いや、駄目だね。幾ら何でも相性が悪すぎる。成功した時の報酬とリスクが全然見合ってない」
「討伐令目当てで動く連中は山程居るだろう。お前達の強さは信頼しているが……最悪、無駄に消耗した挙句、何の収穫も得られない……というオチも考えられる。そうなったなら、ただ悪戯にこっちの手の内を晒してしまうことになる。メアリーの言う通り、ハイリスク・ローリターンが過ぎるんだ。だから俺は、討伐令を見送る考えでいる」
「財宝があるというならまだしも、手に入るのはただのイレズミですしねえ」
令呪をただのイレズミ扱いする辺りは、流石に自由を愛する海賊か。
それはさておき、ライダーの両名は岡部の意見に概ね同意だった。
海賊は時に無謀な戦いや航海に毅然と挑んでいく。だが、彼ら、彼女らは決して馬鹿ではない。
リスクとリターンを慎重に照らし合わせ、その結果によっては舵を別な方向に切る。
「――ま、そうと決まればのんびり見物してようか。ルーラーも本気だ、きっと凄い戦いになるはずだよ」
止めを刺した者には令呪二画、そうでなくとも貢献次第では一画を進呈する、という報酬は本来かなりの太っ腹だ。
アンとメアリーの目には然程魅力的なものとは写らなかったが、普通の主従ならばこの報酬だけでも参加する理由になる。
逆に言えばそんな大盤振る舞いをするほど、ルーラーは公害のライダー……『ヘドラ』というサーヴァントを危険視しているのだ。無理もないと、岡部は思う。少し話を聞いただけでもとんでもない真似を仕出かそうとしているのが分かったし、もし自分がルーラーだったとしても、全力を尽くして件のサーヴァントを排除しようとするだろう。
ヘドラはきっと、討伐に対して盛大に抵抗する筈だ。街を汚染しながら、自身を討つべく現れたサーヴァント達に容赦なく公害の猛毒を向ける筈だ。
まず間違いなく、今夜は嵐になる。
ヘドラが朽ち果てて街に平穏が戻るまでの間に、一体何騎のサーヴァントがこのK市を去るか、分かったものではない。
ヘドラは誰かが倒さなくてはならない存在だ。
その討伐に参加しないということは、いざ自分達の身に災厄が降り掛かってくるまで指を咥えてそれを見ている、ということと同義である。
静観自体がリスクとなり得る。それは岡部も分かっている。その点で彼は、この街に呼ばれたサーヴァント達のことをある意味信頼していた。
ヘドラは討伐される。彼とそのサーヴァント達は、そっちにチップを賭けた。
もしも賭けが外れれば大惨事。――先述したようにライダー達は対城宝具はおろか、対軍宝具すら持ち合わせていないのだ。そんな彼女達が、街を埋め尽くしたヘドラをどうにか出来るかと言えば答えは確実に否。そうなった瞬間に敗走が確定すると言ってもいい。ヘドラの勝利は岡部達の詰みだ。
だからその点で、岡部は心の底からヘドラの討伐に向かう者達を応援していた。
頑張って戦ってくれ、お前達の奮闘が俺達の明日を作るんだからな……といった具合に。普段の彼ならゲスな笑顔すら浮かべていたところだ。
無論、彼らと同じ考えに至る者は決して少なくない。
報酬を得られる可能性が低い、労力に見合わないと見送る者。
はたまた、討伐に向けて動き出したサーヴァント達の背中を貫こうと目論む者。
単純に興味が無いと静観を決め込んだ者――各々違った事情や理由で、彼らは嵐の夜に巻き込まれることを嫌がった。
そして――この時彼らの前に現れた、"そいつ"もまた、嵐に挑むのを嫌った内の一人であった。
「……マスター、下がって!!」
叫んだメアリーの声色は鋭かった。
先刻セイヴァーの主従と戦った時よりも、更に鋭く、強い危機感を感じさせる声だった。
見ればアンも無言の内にマスケット銃を構え、現れた"そいつ"へと銃口を向けている。
"そいつ"は、異様な姿をしていた。
全身の殆どが黒色で覆われており、そのせいか顔に装着した無機質な仮面の白さが異常なほど際立って見える。
仮面には四つの穴が空けられ、その全ての穴からぎょろりと蠢く眼球が覗いていた。
突き出た手は病人のように蒼白く、細長い。幽鬼のようだと、誰もがそう思うことだろう。
アスファルトを湖面のように波打たせながら、現れた"そいつ"は、紳士っぽく岡部達に一礼してみせる。
しかしその動作はあまりにも白々しくあからさまで、好印象など微塵も与えることはない。
「……何、君」
"何者か"と問うのではない。
"何か"と、メアリーは問うた。
性質自体は分かる。これは亡霊、怨霊の類だ。アンもメアリーも幾度となく戦ったことがある、俗にゴーストという括りで一纏めにされる存在。
だが――これまで彼女達が見てきた全てのゴースト達の放っていた邪気を総合しても、きっとこの怪人の半分にも届かないだろう。
瞬時にそう思わせる程の邪気と、見ているだけで頭がおかしくなるような気持ち悪さを、"そいつ"はとんでもなく高い領域で両立させていた。
「ソウ冷たくシナイデ欲シイネ……此方ハこレデモ、キミ達ト"仲良く"したいノダケドネ」
「……は、笑わせるね。君と仲良しになるくらいなら、昔の腰抜け船長とよりを戻す方がよっぽどマシってもんだよ」
後ろでその流れを見ているしかない岡部は、自分の背筋に鳥肌が立っていることに気が付いた。
収まる気配は全くない。それどころか、あの怪人の姿を見れば見るほど、言い知れぬ怖気に襲われる。
それでも岡部は、目を背けようとはしなかった。
岡部倫太郎は魔術師ではないし、優れた武芸を持つわけでもない。
戦いとなれば安全圏で大人しくしているくらいしか出来ることがなく、彼女達が勝利を勝ち取ってきてくれることを祈るしかない、どうしようもない弱者だ。
変な義心に駆られて特攻すれば命を落とすだけなのだから、見ているのが最善手。
それは分かっている。分かっているが、それで納得できるほど、岡部は腐った男ではなかった。
だからせめて、彼は見届ける。自分の召喚した彼女達の戦いを、その行く末を。
それ以外に出来ることがない現状を歯痒く思いながら、彼はただ目を凝らす。
悍ましくも穢らわしい四つ目の怪人。それに人並みの恐怖心を抱きながらも、彼はじっと、それを見続けていた。
そんな岡部の方に、怪人の四つ目が視線を合わせる。
思わず呻き声をあげそうになる岡部だったが、どうにかすんでのところで堪え、醜態を晒さずに済んだ。
「仕方ナイ、マスターのキミに相談シヨウ……話ハ聞かせて貰ッタヨ」
「……話、だと? ……ああ、ヘドラのことか」
「御明察。コッチのマスターもキミと同じ考えデネ――イヤ、少シ違ウカナ?
此方はお尋ね者ノライダーをどうにかしようと頑張ッテイル、そんな連中ヲ上手く狩ろうと思ッテルンダ」
「それで……俺達に協力を持ち掛けに来た、というわけか」
声が所々途切れ途切れになってしまうのが何とも情けない思いだったが、岡部は怪人の言葉を反芻する。
岡部は聖杯戦争に、誇りだの何だのといった要素を持ち込むつもりはない。
彼の目的は願いを叶えること。その為に他の願いを踏み潰す覚悟も、彼は既に持っている。
だが――どうしても生まれ持った良心というものはあった。
この怪人の非道な策、それが効率的だというのは勿論分かっている。
それでも岡部はどうにも、そんな手段を取っている自分やライダー達を想像したくなかった。
……甘い。甘すぎる考えだ。岡部は自嘲する。本当に聖杯を手に入れたいと思うなら、手段を選ぶべきではない。
「……それは、いい話だな。ヘドラ討伐戦の裏で確実に競争相手を減らしていく……乗らない手はないな」
「ちょっ、マスター!?」
「正気ですの!?」
まさか乗ろうとするとは思わなかったのか、驚きに声を張り上げる二人。
そんな彼女達を無視して、岡部は続けた。
怪人を真正面から見据えながら――彼は言った。いや、言ってやったのだ。
「――――だが断る」
それがとある漫画出典の有名なネットスラングであることを知る者は、幸いこの場には居ない。
メアリーはやれやれというような顔をして、アンは「それでこそマスターですわ」と満足げに頷いた。
尤も岡部は、別に良心の呵責から、怪人の話を蹴り飛ばした訳ではなかった。
単純に、信用できないと思ったからだ。この明らかに怪しすぎる、異様な男のことを。
こいつの話に乗って、良からぬ策の一環に使われるのは御免だ――そう来れば、返す返事は決まっている。
無駄に格好つけたのは、性分だ。……ただ断るだけでは、気圧されたようで癪なものだから。
沈黙したままの怪人に対し、岡部は白衣をバサリとはためかせる。
……調子が戻ってきた。そう、岡部倫太郎はただの人間だ。こんな相手にはどうしようもなくて、ただ震えているしかない。女の影に隠れるのが精々の情けない人間だ。
――だが、"彼"は違う! 岡部倫太郎の内に眠れるは、過酷な運命と戦い続けるもう一つの顔!
「名も知らぬ奇妙奇怪な怪人よ、貴様のそれは確かに美味い話だ――だが美味すぎる!
この俺を欺くにはまだまだ修行が足りんぞ、四つ目男! 何故ならこの俺はァ~~~~……」
岡部は、深く、大きく息を吸い込んだ。
「『機関』と日夜交戦を続けながら、混沌の未来を築く為に戦う孤高の戦士! 鳳凰院――凶真なのだからなッ!!」
いつも通りの決めポーズを取りながら、往来にて高笑いする岡部倫太郎。
彼は心の底から「決まった……」と思っていたが、それを見つめるライダー達の目は大変冷ややかだった。
数秒の沈黙を置いて、嘆息を漏らしたのは、彼が言う所の四つ目男である。
「ソウカ……残念だヨ。必死こいて虚勢を張ル様は滑稽だッタガ、こうなればキミ達に用はモウナイネ」
「あら、やる気ですか? でしたらお相手しますわよ。丁度前の戦いの疲労も抜けているので、退屈はさせませんけれど」
「生憎と、コッチハ忙シイのでネ――『コイツら』と戯れていて貰オウ」
すっと四つ目男が右手を挙げた、その瞬間の出来事だった。
近くのコンクリートの塀を飛び越えて、人間の顔を細長く引き伸ばしたような怪物が出現する。
それだけではない。アスファルトの湖面から、そういった不気味な存在が何体も、何体も姿を現してくる。
漸く出現が止まった頃には、岡部達の"戯れる"相手は、二十以上にも達していた。
「こりゃまた、雑魚をわらわらと。僕らが対軍相手は苦手ってのを聞いて、早速実践してみようとでも思ったのかな」
「舐められたものですわね、メアリー。まさかこんな有象無象で、カリブの鳥を捕まえられるつもりだなんて」
メアリーがカトラスを構え、アンは消えた怪人から、悪霊の一体へと照準を合わせ直す。
「お、おいライダー。大丈夫なのか? 明らかにヤバそうなのが相手だが……」
「大丈夫。ガワは気持ち悪いけど、所詮ぽっと出の雑魚ばっかりさ。僕らの敵じゃない」
「私達を本気で倒したいのなら、せめてこの三倍は持ってきて頂かないと、です」
汚濁の嵐が迫る街にて、一発の銃声が響き渡る。
カリブの女海賊、その片割れが放った銃弾は、過たず悪霊の頭蓋を撃ち抜いた。
それを合図代わりに突貫していくのはメアリー・リード――カリブ海を馳せた女達が、自由自在に暴れ始める。
その姿を、路傍の草木に紛れて見つめる腐敗した眼球があることに、とうとう誰も気が付かなかった。
【C-5/路上/一日目・午後(夕方直前)】
【ライダー(アン・ボニー)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] マスケット銃
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:眼前の敵への対処。
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(
ニコラ・テスラ)には注意する
【ライダー(メアリー・リード)@Fate/Grand Order】
[状態] 完治、健康
[装備] カトラス
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:眼前の敵への対処。
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)には注意する
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
[状態] 健康、気疲れ、少しいつもの調子が戻ってきた
[令呪] 残り三画
[装備] 白衣姿
[道具] なし
[所持金] 数万円。十万にはやや満たない程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1:眼前の戦いを見守る
2:未来を変えられる者を見つけ出して始末する
3:殺人鬼の討伐クエストへ参加しつつ、他マスター及びサーヴァントの情報を集める。ヘドラについては相性が悪すぎる為見送りの姿勢
4:『永久機関の提供者』には警戒。
5:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)は倒さねばならないが、今のところは歯が立たない。
[備考]
※電機企業へ永久機関を提供したのは聖杯戦争の関係者だと確信しています。
※世界線変動を感知しました。
※セイヴァーとそのマスターに出会いました。
◆
「やれやれ。馬鹿面で乗ッテ来テくれれば、一番良カッタンダガ」
手痛く振られた四つ目の怪人……ティキは岡部達の前から姿を消し、数十メートルほど離れた民家の屋根上に現れた。
元々そう期待はしていなかったが、案の定だった。
もしも乗ってきていたなら、体よく利用して最後には破滅をくれてやるつもりだったのは、言うまでもない。
ティキは岡部倫太郎が危惧した通りの邪悪で、アンやメアリーが感じ取った通りの巨悪である。
悪魔の甘言に乗った者の末路がいつの時代も一つであるように、ティキと手を結んだ者が報われることは決してない。
「だが、収穫ハあったネ」
けしかけた悪霊共は、数こそ多いが所詮サーヴァント相手には有象無象の雑兵だ。
まず間違いなく蹴散らされるだろうし、掠り傷でも付けられればそれだけで御の字。
ティキは端から彼らの奮戦になど期待してはいない――何故ならあの霊達は、カモフラージュだからだ。
盛大な数と奇怪な見た目。それにあの場の全員の意識を集中させつつ、本命は背後にひっそりと生み出す。
ティキのあの場における"本命"こそが、路傍に隠れて岡部達を見つめる、眼球の魍魎である。
意図は監視だ。悪霊を退けた後の彼らの動向を、ティキはこれで逐一監視することが出来る。
彼らが自分達で気付いて目を破壊しない限りは、その策も行動も、全てがティキに筒抜けとなるのだ。
「とはいえ、暫クは泳ガセル段階カ……サテ、次は何をしたモノカナァ」
ケタケタと不快な笑い声を漏らしながら、再び四つ目の怪人は湖面に消える。
汚濁の嵐が迫り来る聖杯戦争の中、暗躍するは災厄の影――四つの眼が、常に街を彷徨っている。
【ティキ@ムヒョとロージーの魔法律相談事務所】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:会場を巡回しつつ参加者に接触、情報収集
2:上手く取り入ることの出来た参加者は積極的に利用していく
[備考]
※岡部倫太郎を監視しています。
最終更新:2016年11月16日 22:20