戦場(キリングフィールド)に人外の戦闘者が現れる。
真庭鳳凰による令呪の使用は
佐倉杏子とそのサーヴァントにとって予想外の怪物を呼び寄せた。
殺意よりも闘志が、魔力よりも何か得体のしれないエネルギーが迸る。
「楽しもうぞ。猛々しき闘争を」
異形の気配が漂い始める。
魔女とは異なる。かつて月の聖杯を襲った異星存在とも異なる。宇宙そのものの敵。
地球の生命は未だ、この浸食個体に気づいていない。
* * *
バーサーカー……
ファルス・ヒューナルは先の戦いからほぼ0に近い時間で次なる相手……佐倉杏子に襲いかかる。
相手……そう、相手だ。相手がサーヴァントならぬ弱者であろうとも武器を構え殺気を放つ以上はファルス・ヒューナルの相手となる。
「楽しもうぞ。猛々しき闘争を」
「はっ! 知るかよ一人でやってな」
相手が巨漢というだけでもプレッシャーは強い。バーサーカーのように闘争本能剥き出しならば尚更だ。
しかし、佐倉杏子は怯まないどころか啖呵を切ることができる。それは何故か。
自分のスペックを過信はしているからか──否。そういう奴はおっ死ぬと彼女は経験上で知っている。
ならば、何故か。答えは簡単。サーヴァントに対抗できるサーヴァントは彼女にもいるのだ。
カツ。
歩み寄るバーサーカーの足の裏から何か音がした。
次の瞬間、仕掛けられていた地雷が爆発した。しかし。
「温い!」
バーサーカーは減速なく突進する。
確かにサーヴァントにダメージを負わせられる威力が込められていたはずであるが、真庭鳳凰と違い素の耐久力だけで凌げるバーサーカーにとっては問題ない。
例え直前の戦いで傷を負っていようとまるで関係ないというように突き進む。だが、罠はこれだけでは無いのだ。
ワイヤーがバーサーカーの脛を刻み、連動してクレイモアが爆発して鉄片がめり込み、さらに何処からともなく手榴弾が飛んできて直撃した。
流石にバーサーカーといえど……杏子がそう思った刹那!
「ふはははははは」
それらを無視して再びバーサーカーが土煙から現れた。
ダメージが無いわけでは無い。甲冑の隙間からは赤黒い血液のような液体が漏れだしているし刺々していた鎧もに削られてボコボコなっていた。
しかしバーサーカーが痛痒を感じている様子は無く、完全に痛覚を無視している。
バーサーカーの様子を見て杏子の脳内にある光景がフラッシュバックする。
青い魔法少女。影の魔女。
痛覚遮断。暴走。狂化。魔剣。
耳障りな笑い声。
「はははははは」
「うるせぇ! 嫌な事思い出させんな!」
怒声を放ちながら杏子は後方へと跳び、バーサーカーの剣を紙一重で避けた。ように見えた。
サーヴァントの中でも上位ランクの筋力を持つファルス・ヒューナルの剣は当たらずとも地面に叩きつけた衝撃波で周囲に甚大な被害を与える。紙一重で避けようともそれは避けられず。
「がっ、野郎……!」
後方へと吹っ飛ばされた佐倉杏子はギャグ漫画のように建物の壁にめり込んだ。
魔法少女でなければ間違いなく死していたのは間違いない。
頭から流れる血によって赤く染められた杏子の視界に映ったのは追い打ちをかけんと突進するバーサーカーだった。
* * *
真庭鳳凰はバーサーカーが戦っている間も攻撃を受けていた。徹甲弾を躱し、手榴弾から逃げて仕掛けられていた地雷をするりと跨ぐ。
このサーヴァント。己のマスターすら囮にして自分を倒すつもりらしい。
卑怯卑劣が売りの忍者にこのような戦法で迫るとは・・・いや、敵はアサシンか?
「仕方ない。まだ馴染みが薄いから使いたくなかったが」
左手を使う。それはかつての仲間、真庭川獺の左手であり、これを己の腕として繋げたことで彼の忍法が使えるのだ。
物の記憶を読み取る忍法、記録辿り。この場にある全ての罠を看破した。看破したからこそ、バーサーカーに指示を出す。
「下がれ! バーサーカー!」
しかし、遅すぎた。
* * *
爆音と共にバーサーカーが地面に沈む。
ランサー、
メロウリンク・アリティーの地下下水道に仕掛けた爆薬が彼の足元を崩落させたのだ。
ここでファルス・ヒューナルは理解する。佐倉杏子が退いたのは攻撃を避けるためではない。生き埋めにされることを避けるためだ。
生き埋めにされたところでファルス・ヒューナルにとってはどうということはないが、それでも瓦礫から這い出るまでに相手に時間与えることになるだろう。
その間に逃げる、攻撃する、あるいは罠を仕掛けるなど相手に有利な選択を与えることになる────まあ、このまま落ちればだが。
気合いと共に吼え、バーサーカー超反応と言っていい反射速度で宙を舞う瓦礫を足場に跳び上がる。
だが、それこそが罠だ。
跳んだバーサーカー前方の建物。ランサーが建物の壁を破壊して登場し、バーサーカー目掛けて落下する。言わずもがな二人は衝突する。
「闘争とやらが好きならあの世で好きなだけやるんだな」
ランサーはバーサーカーの肩と羽のような突起を足場にしてパイルバンカーの矛先をバーサーカーのコアに向けた。
このコアこそがダークファルス【巨躯】(エルダー)、禍王と呼ばれる彼の心臓である。ここを砕かれば如何に強靭なファルス・ヒューナルといえど死ぬ。
全く異なる世界の英霊、メロウリンクがそれを知っていたわけでは無い。
強いていえば勘だ。今まで絶望的な状況下で圧倒的強者を倒してきた勘が剥き出しのコアを心臓だと確信させた。
「まあ、英霊(おれたち)が逝ける場所かは知らないけどな」
数多の仇を殺した騎兵殺しの必殺杭。『あぶれ出た弱者の牙(パイルバンカーカスタム)』が今、発射される。
ランサーの杭がコアに届くまでの間、ファルス・ヒューナルはこう思った────見事。
昂る闘争本能と荒れ狂う狂気の中、バーサーカーは初めてこの英霊に賞賛を送る。この相手はただ、ただこの瞬間のために周到に準備していたのだ。
マスターを囮に誘導し、罠を駆使して、そしてその牙はファルス・ヒューナルに届いた。
ああ、良い闘争だ。昂る。滾る。迸る。貴様こそ我にとって最高の獲物。
だが、まだ満足していない。まだ……まだ…………まだ足りぬ!
バーサーカーの感情に応じてコアから放出される赤黒く濃いオーラ。魔力放出にも似た深淵の波動。それが薄い防御膜となって広がり、弱者の牙を弾き返す。
「さぁ、始めようぞ。猛き闘争をな!」
二度目の開戦宣告と共に防御膜が破裂し、猛毒を含んだ衝撃波となってランサーを冒していく。
さらにファルス・ヒューナルはランサーが吹き飛ばされる直前に足首を掴んで地面へ投げ飛ばした。
崩落した地面、瓦礫の山へと流星の如く墜落し粉塵を巻き上げるランサー。そこに落下に合わせて『星抉る奪命の剣』が振り落とされて──
「うおおおおおお」
ランサーの全身に悪寒が走る。毒に汚染されながらも全身の力を振り絞り、攻撃を回避するべく転がった。
直後、爆撃と聞き違えるほどの轟音がランサーの鼓膜を揺るがした。
* * *
「何だありゃ反則じゃねぇか」
佐倉杏子は額から流れる血を拭いながら舌打ちする。
標準で宝具を弾くバリア搭載のサーヴァントなんて何の冗談だ。念入りに罠を仕掛けたのは全てあの瞬間のためだったのに肝心の杭が刺さらないときた。
「いやはや、我もバーサーカーとは戦いたくないというのには同意する」
敵のマスターがいつの間にか右横にいた。薄ら笑いを浮かべて、肩をすくめている。
いつでも殺すことができたぞと言うように両手を組んで壁にもたれ掛かっていた。
「てめ──」
さっきまでボコボコにされておきながらなんのつもりだ。
三節槍を展開し、刺し貫こうとするも。
「遅い」
先に槍を持った左腕を右手に抑えられ、首を左手で絞められる。
そしてそのまま万力のように左手の力が込められていく。絞殺じゃなく頚骨をへし折る気だ。
杏子もやらせまいと空いている右手で全力で男の左腕を引くがビクともしない。
魔法少女の筋力は軽く押すだけで大の大人が吹っ飛ぶほどの膂力を発揮する。
その魔法少女の筋力をもってしても全く動じないのだ。
「これは驚いた。いや、その凄まじい腕力ではなく、お前が人間ではないという事実にだ。先に器を破壊してからソウルジェムとやらを破壊させてもらおう」
左手の力が更に強まる。
何故ソウルジェムを知っているのか。何故自分が人間ではないと分かるのか。そもそもこいつは本当に人間か。
疑問が溢れてくるも、このままでは殺される。
蹴りを腹へと食らわしてやるもびくともしない。ならばと魔法の槍を杭のように地面から生やした。これは流石に男も驚愕して後ろへと退いていた。
「あんたは何でソウルジェムのことを、あたしの体の事を知っている?」
「知っているというよりは分かったというのが適切だな。まぁ忍法の一種だと言っておこう」
「忍者はいつから魔法使いになったんだ?」
「その口ぶりからするとお前の世界の忍者は忍法を使えないのか?」
どうなんだろうな。
杏子の脳内で巻物をくわえて壁をすり抜けたり、大きなカエルを喚んだり、殺られたら爆発四散するといったかなり偏った知識がよぎる。
いやいや、アレはフィクションだからと思いながらも魔法少女が実在するのだから忍法も実在するのかもしれない。
ともあれ目の前の相手が得体の知れない怪人というのは事実だ。
バーサーカーのせいで身体の至るところが痛いが、動かなければ殺られる。
「お前のその肉体。どうやら死んでいるらしいな。でなければ『記録辿り』は発動するわけもない」
「記録辿りだぁ?」
「そうとも。忍法、記録辿り。詳細は教えないが、まぁ単純に言えばお前の人生を覗き見させてもらった。
中々奇異な人生を送っているようだな」
「はっ! あたしの人生を覗き見たからどうしたってんだ!
それであたしに勝てるとでも言うつもりか」
「お前が固有の魔法とやらを使えば苦戦するだろうが、まぁそれでも勝つのは我だろうな」
「そういうのはあたしに勝ってから言うんだね!」
三節槍がまるで蛇の如く繰り出される。四方六方から襲い来る刃は軌道を読むことすら困難。しかし鳳凰は左手をチョップの形にしたまま天へと伸ばし──
「忍法、断罪円」
何が起きたか分からない速さをもって男は槍を破壊した。節、棍、刃全てをだ。
それだけではない。いつの間に投擲された棒手裏剣が杏子の身体の数ヵ所に突き刺さった。
「我は言っただろう。読めていると。お前の戦闘経験も総て読めている」
「……んのぉ!」
血液が逆流して口から溢れる。
すぐさま痛覚を遮断し、回し蹴りを放つもかわされ、逆に回し蹴りを受けて先ほどまで埋まっていた壁穴に再び叩き込まれた。
痛覚を遮断しているため痛みは無いが肺から空気が全て失われてかなり苦しい。
それは佐倉杏子だけに限った話ではない。男もまたランサーから受けた傷が広がって血が身体の至るところから出ていた。
だが男は涼しい顔のまま、止めを刺さんと近づいていた。苦しみに喘ぐ自分と苦しくとも体術が乱れない敵。
このまま殺しあえばどちらに軍配が上がるなど明らかである。
(失敗した。まさか、こんなに強ぇなんて)
身体能力はあちらが上。総合的な戦闘能力で負ける気はないが、グリーフシードに限りがあるため聖杯戦争序盤で魔力を使いまくるのはマズイ。
かといって逃亡するには状況が悪い。戦闘に際して人が来ないようにと周囲に人避けの結界を張っていたのが仇になった。
既に結界は解除したが人の来る気配はない。遠くからサイレンの音が聞こえてくる程度だ。
「ではそろそろ止めを、うん?」
鳳凰がサーヴァントの方に一瞬気をとられる。
サーヴァント達に動きがあったのだと杏子にも分かった。ともあれ鳳凰の注意が逸れたのは千載一遇のチャンスだ。
魔法の鎖のような壁を何枚も出現させ敵の視界を塞ぐ。
魔力はそれほどこめてないため強度は低いがそれでいい。
突如現れた未知の魔法壁に男が訝かしんでいる間に杏子は撤退した。
* * *
爆音。轟音。コンクリの壁が破壊されちぎれた水道管のパイプから水から流れる。
さながら紛争地帯の空爆直後のような惨状であるが、この光景を生み出した者達はまだ生きていた。
徹甲弾が発射され宙を自動的に舞うエルダーペインによって弾かれた。
エルダーペインが自動納刀され、バーサーカーの拳から闇色の衝撃波が放たれるも紙一重で躱すランサー。
一気に間合いを詰めたバーサーカーから拳の乱打が繰り出され、されどランサーは躱し、積みあがった瓦礫の山を粉砕して土煙を巻き上げる。
バックステップで距離を取ったランサーもまた徹甲弾を発射する。だが巨体に見合わぬ恐るべき速度でバーサーカーは弾を避ける。
さっきからこれの繰り返しだ。互いに有効打を出さないまま、下水道の崩落が加速し、近隣の建物が火にくべる薪のようにこの修羅場へと投げ込まれていく。
しかし遂に天秤が傾き出した。肉弾で戦うバーサーカーと違い、ランサーは銃火器だ。弾薬に制限がある。
魔力で生成しているものだが戦闘中に大量に補充できるほどランサーの魔力ランクは高くない。結果として弾切れがくるのだ。
「これで徹甲弾も弾切れか」
手榴弾、地雷は既に使い尽くした。残る武装はパイルバンカー一発のみ。
バーサーカーが距離を詰める。
「終わりかランサー……」
惜しむ声を出しつつもファルス・ヒューナルは仕留めるために闇色の衝撃波を繰り出す。
三連の衝撃波を避け、吼えながら突っ込むメロウリンク。蛮勇以外の何物でもないが、もはやこれしか手はないのだ。
応じる形でファルス・ヒューナルも踏み込む。
「行けぇ!」
パイルバンカーの杭が発射される。
それにファルス・ヒューナルは明らかな落胆を示す。
まさか最後の攻撃を正面からの特攻で使用するとは、一体何を見ていたのだ。
「弁えよ!」
やはり貴様のような弱者が立つべき戦場ではなかったのだとバリアを張る。
パイルバンカーを弾いたら顔面を叩き潰して終わらせようと思ったところで────バリバリと金属の牙がバリアを貫いた。
「ゥォオオオオ!」
咄嗟に杭に拳を叩き込み、軌道をコアからギリギリずらす。
だが胸部が風船のように弾け飛び、身体が浮いて砲弾のように後方の瓦礫へと吹っ飛ぶ。叩いた拳も半分が消し飛んだ。いわずもがな重傷である。
そんな状態にも関わらず、バーサーカーには笑いが込み上げてきた。
「ふ、はは、はははははははは」
そうだ。こうでなくては。自らの血潮に塗れながらも哄笑しながら瓦礫を押し退けて出てくるバーサーカー。
なぜ一度は弾いた牙がバリアを抜いたか、その理屈は知らないしどうでもいい。この刹那こそが────
“喜べアークス! 初の戯れの相手、貴様に与えよう!”
“へぇ、わざわざ待ってくれたのかい”
“む、貴様は。このような場所で遭遇とはくふふっ、随分と縁があるようだ”
“我の求める闘争、その本能に従うのみ”
“■■■■■■■様を返せ!”
────かつてバーサーカーが求めたものであるのだ。
「はははははははァ!」
最後は笑い声にも気合いにも溜め息にも聞こえた。
猛る想いを声として天地に響かせ突き進むバーサーカー。人外の声帯で、しかし獣とは思えない声だった。
故に〝それ〟を呼び寄せた。
「…………ェセ」
ソレは毒。ソレは穢れ。
人外でありながら人の形をし、無我でありながら意思を持つ混濁と矛盾の鉄塊。
敗者でありながら征服者であり、地球環境に適応しながら地球上の生命から排斥されたモノの切れ端である。
本体からの指令を遂行すべく進軍する黒白のそれは遂に獲物を見つけた。
「カ……エセ」
ランサーとバーサーカーの中間。瓦礫の下から悪臭を漂わせる下水とは別種の悪臭と汚泥を噴出させてソレは現れた。
周囲のアスファルトが異形の法則によって蝋燭のようにドロドロに溶解されて下水に混ざる。
重装甲。人型の深海棲艦。戦艦ル級。そこらの雑魚とは一線を画す化け物である。
強者との闘争を望むファルス・ヒューナルにとっては至上の供物……のはずだが。
「止めだ」
興が削がれたと言わんばかりに肩を竦め、そしてランサーのいた場所に目を向けると既に敵手の姿は無くなっていた。
引き際まで見事である。
「良き闘争であった」
過去形だ。つまり後はただの事後処理であることを意味している。
カエセ以外何も言わないままル級の艤装がバーサーカーへ向けられる。
「カエセ」
砲撃の爆音と共に大口径の砲弾がバーサーカーに迫る。たとえ砲弾を避けようと砲弾から生じるソニックブームが周囲を破壊するだろう。
ならばと無事な方の腕でエルダーペインを抜き放ち、砲弾を一刀両断する。
続けて二発の砲口が火を噴いた、が既にバーサーカーは跳躍しており砲弾は空を切って路地裏の建物数件を粉微塵にする。
跳躍したバーサーカーはそのままル級に飛び蹴りをくらわせ、油膜と赤錆で彩られた左手の砲台を破壊する。さらにエルダーペインで袈裟斬りをする──が浅い。
(堅牢な)
見た目の柔肌とは裏腹に合金でも切っているかのような硬さだ。
ランサーから受けた傷口が開き、痛覚神経が強い信号を送るも無視しエルダーペインを戦艦ル級の顔面に突き刺した。
さらに逆手に持ち直し、突き入れるように剣を押し込ませて刀身を頭部から貫通させる。
致命傷だ。人であれば死ぬだろう、だが彼女は人でない。
両肩の砲台の砲塔がバーサーカーに照準を合わせ、発射。
剣を差し込んでいるバーサーカーに零距離射撃を回避する術はない。否、バリアを持つバーサーカーが回避する必要はない。
宝具さえ弾くこの防御膜を破れるはずがなく、至近距離で轟音を響かせるのみ。人間であれば鼓膜が破れるだろう。だが彼は人ではない。
「愚鈍!」
バーサーカーは返礼とばかり拳を三連叩きこむ。
ドン、ドン、ドンと破城鎚の如き音と威力がル級の身体を駆け巡り、今度こそ彼女を完全破壊した。
戦艦ル級だったものは緩やかな放物線を描いて地面に落下し、べちゃりと汚ならしい液体が飛び散る。
彼女はこれで終わりだ。だが、彼女『達』は終わりではなかった。
血液のように飛び散った廃液から白煙が立ち上り、そこから駆逐艦が這い出てくる。
同じく戦艦の死体……いや、残骸からも死出虫のように駆逐艦から湧いてくるグロテスクな絵面が展開される。
ダーカーたるバーサーカーは人類とは異なる価値観を有しているのか、特に何ら感じ入ることはなく両手を掲げて魔力を集中させる。
「応えよ■■、我が力に!」
両手が降り下ろされた瞬間、彼を中心に衝撃波が広がり一撃で駆逐艦達を擂り身に変えた。余波でそこら中の建物も倒壊する。
もはや路地裏は大通りに変容していた。昼間であるため人の姿は少ないが瓦礫の下にはいくつか人間の赤い血が見られる。
しかし、バーサーカーに、ダークファルスに、ファルス・ヒューナルに罪悪感など微塵もなく。
破壊に満足したのか、バーサーカーは静かに霊体化して消えた。
* * *
病院に忍び込んで薬を拝借し、血止めをしている最中、真庭鳳凰はルーラーからの第二の討伐令を聞いた。
令呪の報酬は既に一画を消費した真庭鳳凰にとって魅力的に見える。
しかし悲しいかな。鳳凰達にこれ以上の戦闘は不可能だ。日中に立て続けで戦闘を三回行い魔力は空っぽ、更にはサーヴァント共々軽くない傷を負っている。
仕方あるまい。ここは見に徹しようと決めて立ち上がった。
【D4/F病院//一日目・夕方】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(大)全身にダメージ(大)、右胴体に火傷(中度)、鉄片による刺傷
[令呪] 残り二画
[装備] 忍装束
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、真庭の里を復興させる
1:
ヘドラ討伐には様子見
2:中学校に通う、もしくは勤務するマスターの特定
3:今日はもうサーヴァント戦を行わない。
※ヘドラ討伐令の内容確認しました。
※忍法『記録辿り』で佐倉杏子および『魔法少女まどか☆マギカ』の魔法少女システムについて把握しました。
※忍法『記録辿り』で佐倉杏子が知りうる限りのメロウリンクの情報を把握しました。
【バーサーカー(ファルス・ヒューナル)@ファンタシースターオンライン2】
[状態] 疲労(大)、意欲低下、胴、右腕に裂傷(行動に支障なし)、胸部に風穴(大)、右手半壊、全身にダメージ(大)
[装備] 『星抉る奪命の剣(エルダーペイン)』
[道具]
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:闘争を望む
1:あの敵はそそらない
2:あの男はそそる
※ヘドラ討伐令の内容を確認しました
※メロウリンクの武器および『涙の雨で血を拭え』を確認しました。
※知性を感じないヘドラの尖兵に魅力を感じてません
一方。小学校の屋上で回復していた佐倉杏子もまたヘドラ討伐令を聞き、鳳凰と同じく不参加を決め込んでいた。
令呪はまだ減っていないし、何よりランサーは対軍向けの宝具を持っていない。
むしろヘドラと戦って弱った奴を後ろから刺す────かつての杏子ならばそうしたはずだ。
(でも今のあたしゃどうすりゃあいいんだ?)
弱きを助け悪を挫く正義の魔法少女。
その理想から滑り落ち、そしてまた戻された者。
マミやさやかならば参加するだろう。
あの魔法少女の才能があるっていうまどかって奴も魔法少女になったんならたぶん参加するだろう。
暁美ほむらはちょっと訳ありみたいだから除外する。
善良も悪夢も知るどっちつかずな自分が向かうべきはどちらだ。
「アンタはどうしたい」
傍らのサーヴァントに問いかける。
「サーヴァントはマスターに従うものだ。
だが“コレ”を渡されてATの軍団と戦うみたいなのはもう勘弁したいな」
「でもアンタはそぉいうサーヴァントだろ?」
「『人に決められた自分』が必ずしも真実とは限らないものさ」
俺のようにな、と言って霊体化するランサー。
ふぅんと適当に返事をして遠い海を見るマスター。
日が暮れようとしていた。
【C5/小学校(屋上)/一日目・夕方】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態] 魔力消費(小)、魔法少女態
[令呪] 残り三画
[装備] ソウルジェム、三節棍
[道具] お菓子
[所持金] 不自由はしていない(ATMを破壊して入手した札束有り)
[思考・状況]
基本行動方針:今はただ生き残るために戦う
0:様子見
1:他にはどんなマスターが参加しているかを把握したい。
2:令呪が欲しいこともあるしジャック討伐令には参加してみたい。
3:海の中にいるサーヴァント、御目方教の存在に強い警戒。狩り出される側には回らない。
[備考]
※
秋月凌駕とイ級の交戦跡地を目撃しました。
※ヘドラ討伐令を確認しました。
※真庭鳳凰の断罪円と記録辿りを確認しました。
【ランサー(メロウリンク・アリティー)@機甲猟兵メロウリンク】
[状態] 負傷(軽微だが一定期間は不治)、中毒
[装備] 「あぶれ出た弱者の牙(パイルバンカーカスタム)」、武装一式
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:あらゆる手を使ってでも生き残る。
0:霊体化して回復する
1:駅前を拠点にして、マスターと共に他のマスターを探る。
2:港湾で戦闘していた者達、討伐令を出されたマスターを警戒。可能なら情報を集める。
3:マスターと共に生き延びる。ただし必要ならばどんな危険も冒す。
※ヘドラ討伐令を確認しました。
※ファルス・ヒューナルの宝具およびバリアなどの能力を確認しました。
次回予告
とんだ災難だったなメロウリンク。
狩るつもりが狩られそうになるなんて人生ではよくあることさ。
ところでK市で怪物だって?
おいおい、今の時代に怪物かよ。どうせ偽物だろと思っていたんだが、どうやら本物らしい。
さぁどうするメロウリンク。コイツぁ流石のお前でも一筋縄じゃいかないぜ
最終更新:2016年12月11日 21:31