0106:中国の超人 ◆XksB4AwhxU





山林を長刀を背負った男が駆け抜ける。
道路と常に並行に移動する。見通しのよい道路に降りるなど自殺行為に他ならない。
――なあ、ラーメンマンの旦那よ。アンタ一体、どこに向かってんだ?
――正義超人っつー仲間のところか?

「飛刀よ。少し黙っていてくれ。私はお前のようにお喋りな刀は見たことがない」
男は背中の長刀に話し掛ける。黒く長い刀身に大きな目と口が並ぶ。
妖精・飛刀。長い年月を経て心を宿した妖刀である。
――うはは。俺も俺様以外で口がきける刀にゃ会った事がないな。
「そうかね。超人でもないくせに・・・おかしな奴だ」
額には「中」の印。弁髪を結い細長い髭を生やしチャイナ服に身を包んだ男・ラーメンマン。
キン肉マンと出会う前は残虐超人としてその名を轟かせていたが、
第2回超人オリンピックで彼と戦い、敗北をきっかけに残虐ファイトを改め自分自身の正義の心に目覚めた。

――お。ありゃ、川か。
道路を挟んだ山林から涼しげな清流が見える。
「うむ。あそこで水の補給をする。日本の川は真水でも飲めるからな」
――人間は不便だな~。どーせ、時間が経てば下から出しちまうくせによ~。
「黙らんと川に沈めたまま置いていくぞ。」
ラーメンマンの台詞に飛刀は口を「へ」の字に閉じる。

ラーメンマンは驚異的な脚力で道路を一足飛びに横切る。発見される危険を考慮し全速で河へと降りた。
河川は木々が生い茂り小規模な密林を構成していた。
道路側から発見される確率は低く、隠れるにはうってつけの場所である。無用な戦闘は回避するにこした事はない。

ラーメンマンは川岸に座り水をすくう。
「飛刀。飲んでみるか?」
――刀が水を飲むか~!って、俺に毒見させる気かよ!やだよ、錆びちまう!
ピチピチと刀身が揺れる。鞘当もないのに動かれてはたまらんとラーメンマンは背中から飛刀を下ろした。
すくった水を鼻に近づける。異臭はしない。山育ちであるラーメンマンはそれがすぐに安全な真水である事がわかった。
空のペットボトルが清水で満たされた。
この清流は加古川という。京都府に近い兵庫の山々より湧いた水が瀬戸内海、播磨灘に流れている。
「飛刀よ。妙な川だな」
――なんだよ。飲んでから言うなよ。毒でも流れているのか?
「違う。清浄な水だ。だが奇妙な事に魚の死体がどこにも見当たらん。
私とお前以外の生物の気配もな。人為的に作られた世界だ。放されている獣の数が少ないのかもしれん」
俺も生物かよ。飛刀が言うもラーメンマンは「心があるのだから生物だ」と答える。
ふうん。飛刀にすれば生物だろうが武器だろうが呼び方の違いでしかないので適当に相槌をうった。
食料の調達を兼ねての調査だったが水が手に入っただけでも良しとするほかない。
「飛刀よ。川沿いに歩けばいずれ人と出会うだろう。
死者の出てしまった今となっては難しいかもしれんが、私は仲間を作ろうと思う。
あのバーンと呼ばれた者に勇敢に立ち向かった少年のように、悪を討とうとする人間がいる。
そして殺されたものの中には弱き者、善良な者、戦う意思のない者もいたはずだ。
私は正義超人として弱者を助けこの悪辣なゲームを破壊する義務がある。
キン肉マンやウォ―ズマン、バッファローマンも同じ考えだろう。
彼らの居場所はわからんが合流する前にできるだけ味方を集めよう。
戦う意思のある者とは私が戦う。戦う力のないものは安全な場所に避難させる。
そうすればフリーザ、バーン、ハーデスと名乗った者共の箱庭から必ず脱出できよう」


キン肉マンよ――ラーメンマンはキン肉星王位争奪戦でズタボロになりながらも、栄光を勝ち取った友の顔を思い浮かべる。
死闘の連続だったお前にようやく訪れた平和も、卑劣なゲームによって崩れ去ろうとしている。
負ける気はすまい――キン肉マンよ。
ともに幾多の友情を育んできたバッファローマンもウォーズマンも――そして、この私もお前と同じ地にいるぞ。


――脱出ってどうすりゃ脱出できるんだよ?
「うむ。私たち超人は異次元から巨大ジャングルジムまであらゆるリングで戦い、その都度、死線をくぐり抜けてきた。
どんな困難な状況でもあきらめなければ、戦いの血路は開かれるものだ。そして勝利へのヒントは必ず見つけられる」
――結局、策らしい策はねーんだなー。がっかりだぜ。
「お前も何か考えろ。主催者の意図通りに事が運べばお前とて無事では済まんのだぞ」
――うう、わかったよ。
自分自身が誰の手に渡ろうと多くの主人の下を転々としてきた飛刀は構わなかったが、
もしもゲームが終了し、無人の世界に取り残させる事を考えると身震いしないではいられなかった。
所有者が妖怪仙人の余化から周の武成王・黄飛虎に代わった頃から、飛刀の身辺は騒がしくなり、
仙界大戦の終わり頃には封神された黄飛虎から息子の黄天祥の手に移った。
所有者が代わるのは武器である彼にとって苦ではない。
だが、飛刀は天祥が死ぬまでのあいだ彼の武器でい続けることを全く疑っていなかったため、戸惑っているのだ。
父親譲りの少年の明るい顔がもう見られないかと思うと少々の寂しさがあった。
――そーだなー・・・とりあえずー・・・
――会うんなら太公望だな。ちょっと貧相だが来るものは拒まないフトコロのデカイ仙人だ。
「古代中国の仙人か・・・恐れ多いな」  
ラーメンマンは絵巻物にある髭の長い風格漂う老人を想像している。
「他の仙人はどのような人物なのだ?」
――竜吉公主は太公望と同じ崑崙出身の仙女だ。
  病弱でいつも浄室にいたから、俺はあまり見たことがない。
  崑崙の仙道は殺生は好まねえからアンタがつくとしたらコッチだろう。
  反対に妲己や趙公明様は妖怪仙人だから人間を殺す事に躊躇はしねー。
「妖怪仙人・・・とは?」
――鉱物や虫でも千年以上月日の光を浴び続けると魔性を帯び心を宿す。それが俺だ!
  で、人型に変化できるようになりゃあワンランクアップで「妖蘖」と呼ばれるようになる!
  んで、常に人型に変化していられる奴が「仙人」よ!
「人間ではないものもいるのか・・・やはり様々な仙術を使うのか」
――仙術っつーか実際術を起こすのは宝貝だな。
  仙人が何千年もかけて造った戦闘兵器でな、火や虫を操ったりと色々なことができるぜ。
  強い仙人ほど強力な宝貝を扱えるぞ。
「厄介だな。その妲己と趙公明とはどんな妖怪なのだ?」
――趙公明様には会わないほうがいいぞ。妖怪仙人の住む金鰲島じゃ通天教主や妲己と並ぶ実力の持ち主でな。
  強い奴を見つけてトレビア―ンな決闘をするのが趣味っつー困った仙人だ。
  見たところアンタは強そーだから会えば決闘を申し込まれるぜ。
  厄介だろ?厄介さ。俺も疲れるから会いたくねーんだ。
「おかしな奴だな・・・そいつも人を襲うのか」
――強い奴と戦うのが生きがいだからなー。弱い奴は眼中に入らねーと思うぜ。
  まぁ、挑まれれば応えるんじゃねーか。好戦的だからな。
  用心するなら妲己だ。あいつは誘惑の術で人間を操り殷王朝を破滅に追い込んだ女仙だ。
  美貌と知略を使って人間を弄ぶ。太公望がめちゃくちゃ苦戦してた相手だぜ。    
「良く知っているな」  
――ふん!俺は元々趙公明様の配下の武器マニア・余化っちゅー奴のトコで長年コレクションやってたからな。
  妖怪仙人には詳しいのさ!
「しかし・・・元配下が元上司の情報をそんなに公開していいものか」
――俺は持ち主の味方だ!
胸を反らして答える飛刀にラーメンマンは呆れて何も言えなくなった。

――味方集めるって話だけど・・・
  旦那よぉ。見つけ次第、先手必勝でやっちまったほうがいいと思うぜ。
  妲己や趙公明ほどの大仙人が選ばれたんだ。
  他にどんな化物が潜んでるか考えただけで震えが来らぁ。
  きっと想像もつかねェような術を使うんだぜ。やだやだ。
刀身がぐにゃぐにゃと揺れる。幼子が駄々をこねるような動作だ。
「武器のくせに怯えるな。飛刀。」
ブツブツ呟く飛刀を片手で軽々持ちあげて諭す。
「でかい図体して情けない奴だ」
――だってよォ~、この世界にきてからよ、なんか俺の身体がおかしいんだ。
  幻惑であんたをだまくらかすのだって失敗するし、自信無くしちまうよぉぉん。ど~なっちゃうの俺!?
「お前・・・私を嵌める気だったのか!」
ラーメンマンの手に力が篭もる。握られた飛刀はたまらず悲鳴を上げた。
――だって怖ぇ~んだもんよ~!身体動かね~し~!
  アンタがどんな奴なのかわからなかったし、気味悪がられて折られんの嫌だったんだよぉ~~ん!!
ラーメンマンの額に汗。こんな阿呆に誑かされたのでは末代までの恥だ。

――どうした、旦那。
「静かに・・・人の気配がする」
――げーーーーー!逃げようぜ旦那。俺はまだ折られたくねぇよ。
「黙ってろ飛刀。それとも1人でここにいるか?」
――冗談やめろって。俺は1人じゃ動けねーんだよ!ついてくしかねーんだよ。
「置いていかれたくなかったら口は閉じていろ。唾が飛ぶ。敵か味方か確かめるだけだ」
ラーメンマンは飛刀を片手に気配のする方へ向かった。





【兵庫県/加古川付近/朝】

【ラーメンマン@キン肉マン】
【状態】健康
【装備】飛刀@封神演義
【道具】荷物一式
【思考】1:気配の確認。
     2:弱き者を助ける。
     3:正義超人を探す。


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最終更新:2023年12月05日 12:36