0107:川を越えて ◆QGtS.0RtWo
「お…重いっ…!」
「頑張って!イヴちゃん!」
今、自分たち三人は山形県に流れる有名な川『最上川』を渡っている。
朝日が昇り始めた早朝から、当初の目的通りに秋田の山小屋を出て徒歩で南下を始め、今の所他の誰とも遭遇する事も無く今へと至る訳だ。
「…大丈夫かい?やはり僕が背負った方が良かったんじゃあ?」
「へ、平気…あと少しだから…!」
「ああっ!?落ちる!落ちちゃうッ!!」
「クウッ…!!」
ゆきめという名の雪女(?)だと名乗った少女を両手でぶら下げながら、ふらふらと今にも墜落しそうな頼りない様子で僕の頭上を飛んでいるイヴ。
最初にこの小さな川
(立て札には『最上川』と書いてあったため、本来なら大きな川なのだが)
に着いた時、大きめの橋が結構遠い距離の先に見えてはいたが…
遠回りをしてまで人目に付きやすい橋を渡るくらいなら…と、多少濡れてしまったとしても直に渡ってしまおうとの提案をしたは良いものの…
「私、『雪女』だから水は嫌なの!」
と、だだっ子のように嫌がる
ゆきめ。
その様子を見たイヴが
「なら、私が運んであげる」
と言った時はその意味が理解できなかった。
しかし…背中からまるで何かのアニメや神話上・空想上の生物…
一般的に思い描かれている清らかな天使のような立派な羽を生やしたイヴの姿を見せられて、驚きはしたものの…
すでに
ナッパや
フリーザと呼ばれていた者たちの不思議で非現実的な力を目の当たりにしていた為、
原理には理解に苦しむものの今更この程度の事は納得出来ない事も無い。
この姿で空を飛んで彼女を運ぶつもりなのだろう。
それはそうと…むしろ、最初はただの足手まといにならないかどうかと心配していたため、
『利用できる仲間を集めるための餌』
としての意味以外にも利用価値があったこのイヴという少女の不思議な能力は、これから大いに僕の為に役立ててもらう事としよう。
「後少し!もうすぐ渡りきれるよ!お願い、頑張って!」
「も…もうダメ…!」
イヴの羽の不思議な光が弱まっていく様が見て取れる。
「お、おい?」
「
ゆきめさん、ごめんなさい…!」
「えっ!?キャアッ!!?」
「……クシュン!!」
「大丈夫?ごめんね、私のせいで…」
「ううん、
ゆきめさんが濡れなくてよかった…」
「とっさに私だけ投げて助けてくれて…イヴちゃん、ビショビショだもの…」
川を渡った先の小さな釣り具店の中で、椅子に座って話している二人。
「…今、あの人が服乾かしてくれてるから、もう少しその格好で我慢してね」
「…うん」
イヴは今上半身は月の上着、下半身には『いちご柄のパンツ』だけ…という格好である。
「
ゆきめさんの支給品…役に立ったね」
「うん。最初はこんな物騒で私には使えそうにない物、いらないと思ったけど…」
一方月は建物の外、隣の建物との間の、周りからはなるべく見つかりにくい死角の場所で一人、
絞ったイヴの黒い上下の服を木の枝に通してぶら下げながらため息をついていた。
「全く…まるで子守りだ…えっと…『唸れ、真空の…斧?』」
服から少し距離を置いて、手に持った大きな斧を掲げながら半信半疑の不安げな表情でその言葉を呟く。
すると斧に付いている小さな丸い石が光を放って、突然その場に魔法の風が起きる。
「ウワッ!?本当に使えたのか!?」
イヴの服がその風で大きくバタバタとなびく。
『合言葉によりバギという小さな魔法の風を起動させる事が出来る斧』
との説明書きの通り、斧から広く渦巻く突風が発生する。
本来ならばある程度の殺傷能力も持つ風であるが、
この世界の不思議な制限によりその風は人がよろめく程度の突風で済んでいるため、服が切り刻まれる事は無い。
…まあ、月は本来の威力など知るはずも無いが。
(この武器、まあ使えない事も無いな。
こんな武器を扱うような武術の心得は無いが、運動神経には自信がある。
危険な相手から逃げる時に目くらまし程度になるかもしれない。
万が一の場合はあの二人を囮にすれば自分の助かる可能性も上がる。
クク、運が向いてきたぞ…!)
邪悪な笑みを浮かべながら一人考えを巡らせる月だが、端から見れば斧を構えながら洗濯物を乾かす半裸の変質者である。
「…!?」
しかしその時突然、耳の奥に聞き覚えのある忘れる事など無い…あの憎きバーンの声が響く。
「………」
彼らから告げられる、脱落者の名と禁止エリア。
(…竜崎は無事か。まあ、あいつは簡単には死なないかもな。
…なんといっても、このキラの好敵手なのだからな。フフ)
自嘲気味に小さく笑みをもらしながら声に耳を傾け続ける。
(…奴らはどうあっても殺し合いをさせて楽しみたいようだな。仲間割れを誘発させたいらしいが、僕にはその程度の小細工は無駄だ)
自分の頭脳、演技力には自信がある。
バーンの口から『世界最高の頭脳』と言わしめたあの竜崎をも欺き続けているのだから。
あんな小娘二人、騙し続けるのは造作も無い。
「……稲葉…郷子?」
「…?
ゆきめさん?」
その名を耳にした
ゆきめは目を見開いた。
「そんな……!」
ゆきめにはその名に聞き覚えがあった。
探している一番大切な人物
鵺野鳴介の、大切な生徒の名。
「そんな……」
自然と涙がこぼれる。
鵺野の名は無かったが、それでも涙は止まらなかった。
「………」
その姿に胸を痛めるイヴ。
トレインとスヴェンの無事を知って安堵の気持ちはあったが、目の前の人物の知り合いが死んだのであろうと察すると、複雑な気持ちだった。
「…
ゆきめさん…」
「……大丈夫、大丈夫…よ…」
「………」
涙を流しながらも懸命に笑顔を作る
ゆきめ。
そんな彼女の姿に、改めてこのゲームに対する深い憤りとやるせなさ、自分の無力さを感じて言葉を無くすイヴだった…
【山形県/朝】
【夜神月@DEATHNOTE】
[状態]健康
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]使えそうな人物との接触
竜崎(L)を始末し、ゲームから生き残る
【ゆきめ@地獄先生ぬ~べ~】
[状態]健康
[道具]荷物一式
[思考]鵺野鳴介との合流
ゲームから脱出する
【イヴ@BLACK CAT】
[状態]やや疲労、風邪気味
[装備]いちご柄のパンツ@いちご100%
[道具]荷物一式
無限刃@るろうに剣心
[思考]トレイン・スヴェンとの合流
ゲームの破壊
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最終更新:2024年08月15日 06:51