0126:花と形見 ◆XksB4AwhxU





―――おうおうおうおうッ!!やめとけッやめとけって、なあ!
「うるさいぞ飛刀。舌を噛んでも知らんぞ」
加古川の浅瀬を渡り気配の感じる方角へと向かう。


気配――?

胸が圧迫される奇妙な感覚。
(なんなのだ?この胸騒ぎは・・・)
進んでいくと薙ぎ倒された川沿いの草木がある。
誰かがいたのは間違いない。ラーメンマンがこの世界に来て初めて出会う人の痕跡だった。

(何者かが川を横断したのか・・・)ヤメトケヨー
誰かが踏み荒らしたような足跡は、ラーメンマンの辿ってきた川沿いの道を横切り山へと向かっていた。
えぐれた土、木の腹や幹についた跡から、当人は相当な脚力と猿のような身のこなしができる者だとわかる。
(獣にしては乱暴な足取りだ。辿ってみるか)ヤメトッケッテーウゴクトハラヘルゾー
(さて・・・鬼が出るか、蛇が出るか。
人恋しいとまでは行かぬが、虎穴に入らずんば虎子を得ることはできんからな)マイゴニナルゾー

陽光が重なり合う樹の葉の合間を縫って森の内部を照らしている。
虫と鳥の声が響く中をラーメンマンは1人歩き続ける。

(足型が2つ・・・さて、何をそんなに急いでいたのか)オイ、ナンカシャベレヨー
(禁止エリアを危惧しての行動か?しかし、兵庫はまだ指定はされてないはずだが・・・)
正体不明の足跡を追い、草木を掻き分けながら兵庫県と京都府の県境を越えた。
草木を掻き分けて獣道をゆっくりと歩いていく。
山林に慣れているとはいえ、何か得体の知れないものの気配が漂っているのだ。無闇に走るほど愚かではない。
ラーメンマンの表情が次第に険しいものになる。
(2人か・・・常人とは思えぬ足どりよ。ウォーズマンやバッファローマンにこの様な真似はできぬ。
この地にいる超人の仕業ではあるまい。もっと目方の軽い者の技だ。
うまく味方にできればよいが、最悪の場合は2対1で戦うことになるかもしれん。
山林での戦いは慣れているが・・・厄介な戦いになりそうだ)
――なんだよッ!なんかしゃべれよッ。俺様を無視すんなようッ
ついに沈黙に耐え切れなくなった飛刀が叫ぶ。黙ってれば名刀なのに。
「・・・大声を出すな飛刀。聞かれたら怪しまれる」
――人間の気配なんかしねえよぅ!鳥の声しか聞こえねーじゃんかよぉ!
  武器ビビらせて何が面白れーんだ。脅かすなィ!
「・・・黙ってくれ。顔に唾がかかる・・・」
その時、ラーメンマンは1人分の足跡が途切れたことに気づいた。

――もう、だれもいねーみてーだぜ。鉢合わせにならなくてよかったじゃねえか、旦那。
「ううむ・・・残念だな・・・?」
不意に嗅ぎ覚えのある異臭が鼻をついた。リングに染み付いた独特の。戦う者が流す生臭い臭気。
ラーメンマンは足跡の終点に踏み入っていた。


足元の木の根の赤茶けた染みが視界の隅に入る。

山の清浄な空気に入り混じる錆びた鉄に似た異臭。
新緑の緑。木漏れ陽。割れた髪飾り。

相当の衝撃で木に叩きつけられたのだろう。
木の横腹はバケツで水をぶちまけたかのように濡れ、
べっとりと付着した血には何百匹もの蝿が音をたてて集っていた。
その近くには不自然に盛られた土がある。
「これは・・・」
 (足跡の正体は――)
無造作に投げられたデイパック。
食料だけが奪われていた。
 (襲撃者と・・・)
血の臭いを嗅ぎつけたカラスの鳴き声は。
人間の断末魔によく似ていた。

――うえッ!なん、なんだこりゃあ!ひっでぇな。
暴力的な羽音は先ほどまでラーメンマンの耳に響いていた蝉の声をも消し去った。
盛られた土を掘り起こそうと何匹ものカラスのクチバシが動いている。
――こいつら死体を漁ってやがんのか・・・?
飛刀は昔見た戦場での光景を思い出した。死体に真っ先に群がるのは虫、獣。
棺桶の中だろうが土の中だろうが貪欲な嗅覚で獲物を探り当ててしまう狩人の群れ。
奪いに来るのは彼らだけではない。生きている兵士が去ると次は死体から身ぐるみを剥がしに貧しい人間がやってくる。
死んだ者は何もかも略奪され野ざらしのままに放置されて、やがて白骨へと変わるのだ。
――気持ち悪ぃッ!旦那、早くずらかろうぜ。
「遅かった・・・私達は遅かったのだ、飛刀・・・」
ラーメンマンは足元の壊れた髪飾りを拾い上げると、
飛刀を振り回してカラスを追い払う。そして土を掘り起こした。
――おい、おい。そんなことしてどーうすんだよぅ。

「哀れな・・・」
土の下から現れたのは透けるような髪の色の小さな少女だった。
青みがかった目は虚空を見つめ苦痛の表情で死んでいる。
――・・・まだガキじゃんかよ~・・・
飛刀は元・持ち主の黄天祥を思い出す。彼と同じくらいの年齢か、少し上だろうか。
抱き起こすと少女の腹部には散弾銃ででも撃たれたかのような惨く大きな傷痕があった。
最後まで生きようと必死に走ったのだろう。
そして追い詰められ、彼女は正面から戦おうとした。
「何故このような惨い真似ができるのだ」
ラーメンマンの握り締めた拳が震える。
――旦那よぅ・・・もうここは戦場だぜ・・・ガキだって女だって弱けりゃやられっちまうんだよぅ・・・
「馬鹿な!なにが戦場だ!こんな子供が殺されてもいい道理などあるものか!」
壊れ物を扱うように大事に少女の身体を抱き起こした。
少女の纏う衣服はラーメンマンの祖国のものに似ている。
鮮やかな山葡萄色の小さな少女の服は黒く変色した血と泥に汚れ腐敗し異臭を放っている。
ラーメンマンは己の上着を少女にかぶせ、けして少女の身体を見ないように汚れた衣服を脱がせた。
無残な姿のまま眠らせてはいけない。飛び散った血を拭い水で清める。
目蓋を閉じさせるとただ寝苦しそうに眠っているようだ。
もう、大丈夫だ。もう、そんなに苦しい顔をしなくていい。
割れた髪飾りの欠片を少女の手に握らせる。
「飛刀よ。ちょっと手を貸してくれ」
――おう。おー・・・
埋葬か、それとも隠蔽か――追いかけてまで殺したのだから後者であろうな。
ラーメンマンは飛刀を振り下ろし穴を掘る。深く掘る。誰にも傷つけられないように。
飛刀の刀身に涙が振った。飛刀は黙ったままスコップ役に徹した。

「許せ・・・」
君を助けてやれなかった。
作り終えた墓の側で小さな野の花が揺れる。





【京都府/山中/朝】

【ラーメンマン@キン肉マン】
【状態】健康、深い悲しみ、強い怒り
【装備】飛刀@封神演義
【道具】荷物一式
    *髪飾りの欠片を持っています。所持の理由は以下の通り。
    ・形見として少女の仲間、家族に届けるため
    ・殺人犯を見つける手がかりにするため 
【思考】1:弱き者を助ける。(危害を加える者、殺人者に対しては容赦しない)
    2:正義超人を探す。
    3:ゲームの破壊。 


時系列順で読む


投下順で読む


106:中国の超人 ラーメンマン 142:起と承と

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2023年12月09日 02:41