0127:太公望、竜吉公主と再会す ◆lEaRyM8GWs
放送がすむと、沖田はしばしうつむき、数分ほど何事かを考え込むと、デイバッグを持って立ち上がった。
それを見た斎藤も黙って立ち上がる。
「6時だ。俺達は本州へ渡る」
淡々とした口調で斎藤は言った。沖田は橋の方へ身体を向け、表情が見えない。
「ま、待ってよ」
咄嗟に呼び止めたダイだが、かける言葉が見つからない。
先程の放送で――沖田の知り合いの名前が2つも呼ばれていた。
「6時になったら奴は死んだものとして
大蛇丸を追うと行ったはずだ」
「でもっ……」
「沖田、行くぞ」
斎藤の言葉に頷く沖田。
ダイには沖田の背中が少し小さくなっているように見えた。
「沖田さん……」
「俺ァまだマシな方でさァ。」
まだマシ、という言葉にダイと公主の表情が陰る。
沖田は2人の仲間を失ったが、ここにはいないもう1人の仲間は、3人の仲間を失っている。
ターちゃんの弟子のペドロ、友達の
アナベベ、妻の
ヂェーン。
ダイも公主も自分の仲間の無事は純粋に喜んだが、大切な仲間の大切な人の死に心を痛めている。
「沖田さん……」
「
ターちゃんが帰ってきたらよろしく言っといてくれィ」
首だけで振り向いた沖田は、少しだけ唇の端を上げて笑っていた。
心配かけまいとするように。
それが余計にダイ達の胸を痛める。
そこに――
「お別れのあいさつなら直接言って欲しいのだ」
いつの間にか、木の上に
ターちゃんがいた。
野生に身を置く
ターちゃんは、狼にすら気づかれないほど己の気配を断つ事ができるのだ。
「
ターちゃん!」
「遅くなってすまないのだ」
木から下りた
ターちゃんは、沖田同様、痛々しい笑顔を浮かべていた。
ちょっとした刺激を与えれば、今にも泣き出しそうな脆い笑顔。
だがそんな事はお構いなしに、斎藤はいつも通りの口調で声をかけた。
「阿呆が、遅すぎるぞ」
「すまないのだ。それより――みんな注意してくれ、誰かがこっちにやってくる」
「何?」
斎藤と沖田は武器を握りながら木の陰に身を隠し、顔を少しだけ出して橋を見た。
「どうやら橋の下を泳いできてるみたいで、何者なのか分からない。
正体を確かめようかとも思ったけどもう6時を回っていたし、こっちに戻るのを優先したのだ」
「わざわざ本州から四国へ渡ってくるとは酔狂な奴らだ。
あの落雷で人がいると考えてきたのなら――相当腕の立つ殺人者だな」
「もしくはダイ君の仲間かもしれませんぜ」
落雷を見て人が来るとしたら、斎藤と
ターちゃんの言った通りマーダーかダイの仲間だろう。
マーダーなら落雷などものともしない実力と自信の持ち主。
沖田は冷静な口調で言った。
「
ターちゃん、公主さんを背負ってやってくだせェ」
「分かったのだ」
いざとなったら公主を連れて逃げろという意味だとは、誰もが分かっていた。
その事を情けなく思いながらも公主は頷き、木の根から腰を上げる。
公主のデイバッグは
ターちゃんが持ってくれるため、彼女が手に持っているのは青雲剣だけ。
この剣を振るう事になるのだろうか、公主の胸で不安が膨らむ。
果たして敵か味方か――
「ぶぇーっくしょん!」
……橋の方角からくしゃみ。
敵か味方かは分からないダイ達だったが、とりあえずマヌケそうな奴だとは思った。
あんな大きなくしゃみをしては、見つけてくれと言っているようなもの。
さて、どうしたものか。
「ダアホ! そんな馬鹿デカイくしゃみをする奴がおるか!」
「し、仕方ねぇだろ、全身ずぶ濡れなんだぞ!?」
「もしここにおるのがゲームに乗った奴ならどうするのだ! 雷を落とすような奴だぞ!」
太公望はふと申公豹の雷公鞭を思い出し、身を震わせる。
雷公鞭に比べれば非常に小さな稲妻だったが、それでも回避が困難で威力の高い雷は脅威だ。
しかも今は全身びしょ濡れ、しかも海水。
雷を落とされたらさぞ愉快に全身を駆け巡ってくれるだろう。
「ど、どうする? 逃げるか?」
「泳いで逃げておるところを、橋の上から追ってこられ、雷を落とされたらどうなるかのう」
「じゃあ戦うか!?」
「雷を避けられるほどの身体能力は無いのう。避雷針に使えるものでもあればいいが……」
「じゃあどうするんだよ!?」
「雷を落とした奴がこの場にいない事を祈るしかないが……まだ敵だと決まった訳ではない。
とりあえずわしが様子を見てくるから、お主はここで待っとれ。
いざとなれば五光石をぶつけて逃げる、その時は爆砕符でサポートせい」
「じゃあ作戦を確認するよ。
まず斎藤さんと沖田さんが左右から近寄って、相手が出てくるのを待つ。
もし敵だとすぐ分かったのなら、俺が呪文か紋章閃で奇襲して、二人が挟み撃ちにする。
ターちゃんは公主さんを背負ってここで待機。万が一の時は逃げるか、森の中に敵を誘い込む」
全員頷き意思を統一すると、斎藤と沖田が左右に分かれて森の中を音も無く駆けて行く。
物陰から物陰へと移動し、橋の横に身を潜める。
ダイは小山から上半身を乗り出し、相手の姿を確認しようとする。
公主もまた、
ターちゃんの背中から橋を見つめていた。
あの野太いくしゃみから、橋の下にいるのは自分の知る誰でもないと公主は悟っている。
妲己は女だから除外、
趙公明はもう少し品のあるくしゃみをするだろう。
太公望はもっと若い声をしているから違うはずだけれど、橋の下から見覚えのある白い頭巾が登ってきて、
しかも見覚えのある若い顔も出てきて、見覚えのある服も出てきて、見覚えのある宝貝を持っていて、
あの野太いくしゃみは何だったのかと疑問に思っても、そこにいるのはどこからどう見ても彼だった。
公主の声にダイは振り向き、斎藤と沖田は眉をひそめ、
太公望はギョッと小山を見た。
「その声……公主!? 公主か!」
パッと表情を輝かせた
太公望は、小山に足を向ける。
「ダイ、
ターちゃん、あやつが
太公望じゃ」
公主の言葉にダイ達の警戒心も解ける。
斎藤と沖田も
太公望の名は聞かされていたのでとりあえず警戒を緩めるが、
くしゃみの主が他にいると考えいつでも飛び出して武器を振るえるよう構えたままだった。
小山の森から、
ターちゃんに背負われた公主が顔を出し、ダイも立ち上がる。
「どうやら信頼できる仲間を得ているようだのう」
公主の力になってくれていただろう少年と腰みの一丁の男に感謝する。
残酷な言い方だが、彼女は人間界の空気のせいで足手まといになっているだろうと
太公望は予測していた。
だからこそ助けるメリットの無い公主の力になっている彼らは信頼できる。
「富樫、安心せよ。わしの仲間が一緒におる、どうやら信頼できそうだ」
ずぶ濡れの富樫も橋の下から出て、公主の美しい容貌にちょっぴり感激しながら、
太公望と一緒に小山の森へと向かう。
「チッ……
大蛇丸を追うのがますます遅れる」
斎藤は苛立ちながらも、他の参加者と情報交換する必要性を分かっていたため、
すんなりと小山の森へと足を戻す。沖田も同様だが、彼の方は斎藤と違って安堵の表情を浮かべていた。
こうして一時的にではあるが、香川県という狭い地域に、
対主催者の考えを持つ7人もの参加者が集ったのだった。
【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/朝】
【チーム名=勇者一行】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康
[装備]:出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分)、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢(ダイを仮初の主と認めつつある)
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
2.竜闘気に耐えうる武器を手に入れる。
【竜吉公主@封神演義】
[状態]:疲労、普通の空気を吸っている限り、数日後には死んでしまう
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:無し
[思考]:1.太公望と話をする。
2.可能なら遠距離用宝貝を手に入れる。
【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、公主の荷物一式、恥ずかしい染みのついた本
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
[共通思考]:アバンの使途、エテ吉を探す。他、仲間になってくれそうな人を集める。
【チーム名=壬生狼】
【斎藤一@るろうに剣心】
[状態]:腹部の皮一枚切れている、体力微消耗、戦闘に少し支障有り
[装備]:魔槍の剣(鎧の魔槍の鉄甲が変形した物)@ダイの大冒険
[所持品]:荷物一式
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
2.オリハルコン製の武器を手に入れたらダイに渡してやる。
3.主催者達を悪・即・斬の信念に従い切り捨てる。
【沖田総悟@銀魂】
[状態]:鼻を傷めているが骨に異常は無し
[装備]:鎧の魔槍(右の鉄甲無し)@ダイの大冒険
[所持品]:荷物一式
[思考]:1.とりあえず成り行きを見守る。
2.オリハルコン製の武器を手に入れたらダイに渡す。
3.真選組として主催者を打倒する。
【太公望@封神演義】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)、宝貝『五光石』@封神演義、アバンの書@ダイの大冒険
支給品不明(本人確認済み)、鼻栓(薬草でできた、超悪臭にも耐える優れもの)
[思考]:竜吉公主と話し今後の行動方針を考える。
【富樫源次@魁!!男塾】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)爆砕符×2@NARUTO(キルアから譲渡)
鼻栓(薬草でできた、超悪臭にも耐える優れもの)
[思考]:とりあえず成り行きを見守る。
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最終更新:2023年12月09日 21:08