0154:希望の風◆Oz/IrSKs9w




「………というわけじゃ。ダイとターちゃんに出会えなければ、私は何も出来ないまま死んでいたかもしれん。二人には感謝の言葉も無い…」
「そんな、公主さん…」
「……そうか。ま、何はともあれ無事で安心したわい。しかもお主の元にこんなに大勢の力強い仲間が集っていたとはのぅ」


竜吉公主たちと太公望組が合流してすぐ後、竜吉公主と太公望を中心として、
互いに今までの経緯や手に入った情報などを自己紹介も程々に森の中で報告し合い、その他の者達もそれぞれにその話に耳を傾ける。

「ふむ、では先ほどの落雷はそのダイとやらが起こした物だったのか」
「あ…うん。さっきのライデインを見てこっちに来たの?」
「うむ」
「…不用心な奴だ」

腕を組んでずっと静かに話を聞いていた斎藤がぼそりと呟きダイと太公望の話を遮る。
「…確かにその通りだのう」
「しかもあの状況であんなくしゃみをするような阿呆を引き連れて堂々と近寄るとは…相手が相手なら死んでいたぞ」
「アホウだと?てめぇ、喧嘩売ってやがんのか!?」
斎藤の言葉を聞くなり、青筋を立てて怒りの形相で斎藤を睨みつける富樫。
「待て待て富樫!そう興奮するでない!」
「…しかし…確かにそうじゃ太公望。なぜわざわざ死に急ぐような危険を冒してまでこの場所に来たのだ?」
ダイと並んで座っている公主がその意図を探るかのように太公望の顔をのぞき込む。
「わしとてまだ死にとうはないわい。わしなりに考えがあっての事だ」
「考えだと?」
「てめぇ…シカトするとはいい度胸じゃねえか!」
「まぁまぁ、落ち着いて下せェ富樫の兄さん」
「チッ、おい太公望!俺はこのヒョロ長野郎を仲間にするのは大反対だぞ!」
「だ~か~らっ!とにかく少しは冷静になれ富樫!話が進まぬ!」
「……阿呆が」
「~~~~!!!この野郎っ…!!!!」
沖田や太公望の制止の声も耳に入らず、すました顔で冷静にたたずむ斎藤に、富樫が一瞬即発なマジ切れ寸前の様でにじり寄る。
どうして良いか分からない戸惑った様子のダイと公主だが、
その時突然その不穏な空気を払うかのように、公主が口に手を当てて激しくせき込んでその場を凍り付かせる。
ゴポというような嫌な水音と共に…公主の口元に紅い花が咲いたのだ。

「お!おい!?」
「公主さん!!!」
突然の事に驚いて青ざめた顔で公主の名を叫ぶダイ。
富樫も同様に驚きを隠せず、斎藤への怒りもどこへやら…公主の方へと急いで歩み寄る。
「公主!やはりお主は…!」
「ふ…心配はいらぬよ。まだ大丈夫じゃ…」
口元の赤い血を拭いながらも気丈に微笑みを返す。
「だ、大丈夫には見えねぇよ!病気なのかおめぇ!?」
「富樫…公主の体にはな、下界の空気自体が毒であるような物なのよ。
 仙人界のような澄んだ綺麗な空気の場所でしか生きられぬ身なんじゃ」
「へ…?」
「死を待つのみ、ということだ」
愕然とした表情で公主の顔を見つめ続ける富樫。
何か言葉を掛けようと口を開きかけはするが、結局良い言葉は出てこない。
「何かっ…良い方法は無いの!?公主さん!太公望さん!空気を綺麗にするアイテムとか、良くなる薬とか、他にも…他にも…っ!」
ダイが悲痛な声で二人に問いかけるが、返事をするものは誰もいない。
「…クソッ!!どうしようもねぇのかよ、畜生っ…!」
ギリギリと己の拳を強く握りしめ、
己の無力さ加減やこのゲームの理不尽さに対して、沸き上がる怒りと苛立ちに胸を詰まらせ立ち尽くす富樫。
「この様子では、香を焚いた浄室に入ったとしても…気休め程度にしかならんじゃろうな」
「…香?」
少し沈んでいる公主の諦めを含んだような微笑から呟かれた言葉を耳にすると、富樫が小さく聞き返す。
「香くらいなら、どっかの仏壇屋でも探せば置いてるんじゃねぇのか?」
富樫のその言葉に全員の視線が集中する。
「ブツダンヤ?」
「…しかしのう富樫、この世界に香なんぞあるかどうかも分からぬ。
 仏壇屋とやらが見つかったとしても無駄足に終わる可能性の方が高いぞ?」
複雑な表情で顔を見る太公望。
「でもよぉ…」
「…良いじゃないすか。可能性があるなら賭けてみるのも」
今まで黙って話の成り行きを見守っていた沖田が、富樫に助け船を出すかのように口を挟む。
「気休め?それでも無いよりはマシってもんでさァ。探してみましょうや、香を」
「……阿呆、そんな暇は無い。俺は話が終わり次第、大蛇丸を追う為本州へ出発する」
「え?」
思わぬ言葉を放った斎藤の方へ視線が集まる。
「てめぇ、自分の事しか頭に無ぇのかよ…!」
再び怒りに火がついた富樫は頬をひくつかせて斎藤へとゆっくり詰め寄る。
「…悪いが、足手まといに割く時間は俺には無い。探すならお前たちの方で勝手に探せ」
「なっ…!!?足手まといッ!?」
富樫のみならず、ダイまでもがさすがに今の発言には憤りを感じて斎藤の顔を睨みつける。
「…良い、その通りじゃからな。私などの為に無駄な時間を費やしている暇など無いのじゃ。二人共…彼を責めるのは筋違いじゃ」
落ち着いた優しい声で富樫とダイを制止する公主。
「フン、大体話は終わったようだな。こちらも必要な話は聞けた。そろそろ俺は行かせてもらう」
「さ…斎藤の旦那…」
斎藤は自分の荷物を肩に担ぎ上げ、ダイの後ろにある一回り大きな木を見上げる。
「おい!周囲に異常は無かったか!?」
「無いのだーっ!ずっと誰も何も見えなかったのだーっ!」
木の上でずっと一人で見張りを続けていたターちゃんのその返事だけ聞くと、背を向けて歩き始める斎藤。
「待て斎藤!わしの言った事は覚えておるのか!?」
「当たり前だ。藍染とやらの事、脱出方法を持つ奴を探す事、妲己、趙公明、男塾……問題ない。じゃあな」
「斎藤っ!死ぬでないぞっっ!!!」
遠ざかる斎藤の背に向けて大きく叫ぶ。必ず再会があると信じて。
「…じゃ、俺も旦那と一緒に行きまさァ。あんた達と会えてよかった…必ずみんな一緒に元の世界に帰りましょうや」
「沖田さん…」
ダイたちに軽く笑みを向け、振り返ると斎藤の後を早足で追う。



「行ってしもうたのう…」
「せいせいするぜ」
「全く、お主という奴は…ハァ…」
富樫の顔を一瞥し、盛大にため息をつく太公望。
「…それで、これからどうするの?太公望さん」
「ダイよ、太公望でよい」
「あ…うん」
「太公望!仏壇屋を探しに行こうぜ!」
富樫が力強い声を張り上げ、太公望の目の前にドサリと腰を落とす。
「………」
「太公望?」
だが、太公望は何かを考えているかのように頭を捻って沈黙したままである。
「おい、何とか言えよ…!」
「…まぁ~ったく!お主は斎藤の言う通りの阿呆じゃ!トンマじゃ!間抜けじゃ!」
「なっ!!?どう言う意味だてめえっ!!」
突然、小馬鹿にしているようなふざけた笑みを見せながら、自分に対して悪口をぶつけてきた太公望にむかっ腹を立てて襟首を掴み問いつめる。
「言葉のままじゃよ!全く成長の兆しが見えぬお主があまりにも哀れでならん」
「て、てめえ…!もういっぺん言ってみやがれ!!」
「公主自身も言ったであろう!足手まといの自分などに時間を割くなと!わしらにはそんな無駄な時間は無ぁ~い!!」
ニョホホホ~、と例の謎の奇声を放ちながら怒りの富樫を意にも介さない平然とした様子で言葉を続ける。
「そっそんな!ヒドいよ!!仲間なのに!!」
そんな太公望の様子を見てダイまでもが感情を露わにして太公望に詰め寄る。
「えぇ~いっ!!やかましいわっ!!男には非情にならねばならぬ時があるのよ!ならぬったらなら~ぬ!」
「てめえ!この冷血野郎っ!!ふざけんじゃ…ねえっっ!!!!」
「グハッッ!!!!」
大きく拳を振りかぶり太公望の顔に思い切りストレートを叩き込み、数メートル後ろの木の幹に叩きつけられる太公望。
「ハァ…ハァ……もういい!俺は一人でも探しに行くぜっ!待ってろよあんた、必ず香をたんまり持って帰るからよ!!」
軽蔑したように太公望に視線を向けた後、唾を吐き捨てて後ろを向き歩いていく富樫。
「あ、ちょっと待って…!」
「ダイ!ならん!!お主は公主を守らねばならんのであろうっ!!」
思わず富樫の後を追おうとしたダイに向けて制止の声を張り上げる太公望。
「で…でも…!!!」
足を止めて迷いの眼差しでそれぞれに視線を投げかけるダイだが、そうこうしているうちに富樫の姿は森の先に消えてしまう。




「…全く…相変わらず不器用な男よの…太公望…」
口の端に赤い物を滲ませながら木にもたれ掛かっている太公望の元へ公主がゆっくりと歩み寄り、労るように頬に手を当てる。
「…こうでもせねば、あやつの願いは叶えられぬからのう…」
目線を富樫の消えた方向に向けたまま、苦笑いを浮かべる。
「え?…願い?」
きょとんとしたままダイが立ち尽くし、その隣にターちゃんが軽やかに降り立つ。
「だ、大丈夫なのか!?一体どういう事なのだ!?」
「成り行きは聞いておったかターちゃん?お主に頼みがある。耳を貸すんじゃ」
「?」
よく分からないまま耳を貸し、ゴニョゴニョと太公望から何かを聞くターちゃん。
「……分かったのだ。じゃあ私は行くのだ」
「えっ!?どこに行くの!?」
「ダイ君、公主さんの事は頼んだのだ!」
「え、ちょっとターちゃん!!?」
笑顔でダイたちに手を振った後、颯爽と富樫の去った方向へと駆けてゆく。
「一体どういう事!?」
「…富樫のお守りをあやつにまかせたのじゃよ。あと…動物と会話できる、あやつにしか出来ぬ事を頼んだのよ」
「…いつもそうやって、私たち周りの者には詳しい説明も無いまま事を進めるのじゃな」
「すまんのう。ま、わしらはこのまましばらく待機せねばならぬし…ゆっくり説明するわい」
どっこらしょ…と腰を上げて背の後ろに付いた土を払い、再び地面に座り直す。

「…富樫さんの願いって、何のこと?」
「あやつはわしを気にしてあまり口にはせなんだが…
 先ほど皆に教えたあやつの仲間、男塾の者たちを一刻も早く探したいはずじゃからのう」
「仲間…」
その言葉を聞いて自分の仲間であるポップマァムの事を頭によぎらせ、複雑な思いに駆られるダイ。
「だったら直接その事を富樫さんに言えばいいのに…!」
「逆効果にしかならぬ。言ったところであやつの事じゃ…
 意地を張って『俺の仲間にはすぐに死んじまうようなヤワなやつはいねえ!』とかなんとか言って突っぱねるに決まっとる。それに…」
言葉の途中で公主の顔を見る太公望。
「それに?」
「…お主はわしが別行動を取る事がつらいであろうからのぅ」
「太公望…」
まるで心を見透かしたかのように公主に笑顔を向ける。
実際、せっかく再会できた太公望と再び別れねばならない事があったりしたら…などと考えると、公主は胸が締め付けられるようであった。
「だからわしが動けぬ以上、ああするしか富樫の願いは叶えてやれぬのじゃ」
「太公望さん…」
突然ポカリとダイを小突く。
「だから『さん』はいらぬっちゅーに」
「いてて…ヘヘ…!」
(…ま、あまり大人数で固まるよりは別行動を取った方がメリットも大きいしのぅ。
 危険が増えるには増えるが…悠長にしとったらゲームはどんどん進行してしまうからな)

「…で、ターちゃんに頼んだ動物に関する事とは一体なんなのじゃ?」
少し会話に間が空き、公主がその間を埋めようと太公望に問いかける。
「それは秘密よ。まぁ心配いらぬ、あやつならしっかりやってくれる。信頼しとるよ」
「答えになってないよ!隠さないで教えてよ太公望!」
「ヌフフ…簡単に教えてしもうたら面白くないであろう」
ええー!?といった具合に不満げに漏らすダイ。
「フフ…諦めよダイ。こやつは一度言い出したら聞かぬ性分であるからな」
「そういう事よ。それはそうとダイ、今思い出したがもしやこの『アバンの書』とやらはお主の世界の物か?
 ライデインとやらの名が書いてあったのでな」
自分の鞄を探りながら問う太公望だが、その言葉を聞くなりダイの目が変わる。
「アバンの書!!?」

太公望からそれを受け取ると、少し涙を目の端に溜めて笑顔を見せる。
「アバン先生……」
アバンの書を大切そうに胸に抱き目を瞑るダイを見て、小さく微笑みを浮かべる二人。
「…やはりそうであったか。それをよく知っている者に出会えたら、聞こうと思っていた事があるのじゃ」
「…え?何を?」
顔を上げ、太公望に疑問の表情を向けるダイ。

「『バギ』とやらの事、詳しく教えてくれぬか?」

口を紡いでニヤリと笑みを見せる太公望。
それが何を意味する言葉なのか意図が読めず、公主とダイはただ首を傾げるだけであった。





【香川県、瀬戸大橋付近の小山の森/午前】

【チーム名=新・勇者一行】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康、MP微消費
[装備]:出刃包丁
[道具]:荷物一式(水残り半分)
    公主の荷物一式
    ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[思考]1:竜闘気に耐えうる武器の入手
   2:公主を守る
   3:ポップ・マァムを探す

【竜吉公主@封神演義】
[状態]:疲労進行中
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:無し
[思考]1:遠距離用宝貝の入手
   2:富樫を待つ

【太公望@封神演義】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費、支給品不明)
    五光石@封神演義
    アバンの書@ダイの大冒険
    鼻栓
[思考]1:バギの習得を試みたい
   2:富樫を待つ
   3:ゲームの脱出

【チーム名=壬生狼】
【斎藤一@るろうに剣心】
[状態]:健康(腹部はほぼ完治)
[装備]:魔槍の剣@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式
[思考]1:ダイの使える武器を探す
   2:大蛇丸を追う
   3:主催者の打倒

【沖田総悟@銀魂】
[状態]:健康(鼻はほぼ完治)
[装備]:鎧の魔槍(右鉄甲無し)@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式
[思考]1:斎藤に付いていく
   2:主催者の打倒

【チーム名=富樫とお守り】
【富樫源次@魁!!男塾】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式(食料1/8消費)
    爆砕符×2@NARUTO
    鼻栓
[思考]1:公主のために仏壇屋を探して香を持って帰る
   2:男塾の仲間を探す
   3:ゲームの脱出

【ターちゃん@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]:健康
[道具]:荷物一式
    恥ずかしい染みのついた本@ジャングルの王者ターちゃん
[思考]1:富樫に付いていく
   2:太公望からの頼み事の実行(内容は次の方にお任せします)


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127:太公望、竜吉公主と再会す ダイ 161:動き出す計画
127:太公望、竜吉公主と再会す 竜吉公主 161:動き出す計画
127:太公望、竜吉公主と再会す 太公望 161:動き出す計画
127:太公望、竜吉公主と再会す 斉藤一 200:正義と狂気
127:太公望、竜吉公主と再会す 沖田総悟 200:正義と狂気
127:太公望、竜吉公主と再会す 富樫源次 161:動き出す計画
127:太公望、竜吉公主と再会す ターちゃん 161:動き出す計画

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最終更新:2023年12月22日 22:16