0131:孵化 ◆QGtS.0RtWo





「おっ!なんかウンマソぉ~な木の実見っけ!」
「ウキウキキッ!ウッキッキー!(訳:こっちも食えそうなもの見つけたぞ!)」


放送が行われてから約二時間後。
悟空たち三人はコテージ周辺の野山で食料になりそうなものを探していた。

放送で知らされた死者たちの名前の中にエテ吉の身内や知り合いが数人含まれていたようであり、
人ではなく猿の身でありながらも、しばらくはまるで人間のように涙を流して悲しみに暮れていたエテ吉。
しかし一時間もすれば彼は立ち上がり、心配そうに佇むルフィに精一杯の笑顔を見せて、
「ウキ…!ウキッキー!(訳:もう大丈夫…!心配するな!)」
と、自分のために一言も話さずに心配そうにそばに付き添ってくれていたルフィに、
心配を掛けさせまいとニコと笑みを見せて赤く腫れた目を拭って涙を拭き、バシ!とルフィの背を叩いた。

「うおっ!……へへ、もう大丈夫なのか?よかった…!」

泣いているだけでは駄目だ。まだターちゃんは生きている。
自分よりも遙かに深い悲しみと向き合っているであろうターちゃんと生きて再び顔を合わせた時、こんな情けない自分は見せられない。

自分が支えてやらなければならない。

そう心に強く刻んで、彼はターちゃんを探そうとする意志をさらに強くしていた。


そして今、楽しげな笑顔で食料探しを続ける二人に対して……一方の悟空。

「………」

彼は二人の様子をどこか遠い目で眺めながら、一人地面に腰を落としてぼんやりと穏やかな風に身を任せていた。

「おーい!悟空ぅ~っ!あんまりたくさんは無いけど、結構食えそうな物あったぞ~!」

手に木の実やキノコなどを包み、ルフィが駆け寄る。

「…そうか」

しかし悟空はあまり元気の無いような気のない返事を返すだけ。

「なんだよ、もっと嬉しそーな顔しろよ~!ほらほら!」
悟空の前にそれらを広げ、その中からキノコ(毒々しげな紫色のキノコ)をつまんで口に運ぶ。
先ほどからいろいろ得体の知れない物を結構口にしているルフィだが、全く体に支障はないようであるのは…彼ならではか。

「…ああ、すまねぇ…」
しかしそんなルフィの様子を見ても、一向に様子を変えない。

「ウッキー!ウキウキウキキーー!!!!」
「ん?どーしたんだ?猿ーっ?」

その時突然エテ吉が焦ったように大声で叫びながら二人の元へ走り寄る。

「ウキウキ!ウッキウキッキー!(訳:誰かこっちに来るぞ!二人組だ!)」




「ん?…なんか猿の鳴き声が聞こえないか?」
「おう、猿だな…捕まえても食えそうにねぇな」

人目を避けるように木々を避けながら道無き道を行く桜木と日向の二人。
前方からエテ吉の叫び声が聞こえてきて足を止める。

「馬鹿言ってんなよ…猿の群れでもいるのかもな」
「群れぇっ!?…ふ、この天才が見事に手懐けて山のようにたくさんのバナナを献上させてやるよ!」
「……お前それ、本気の発言か?」

呆れる日向に気付く様子もなく、桜木は早足で鳴き声の方に向けて足を進める。

「…ん?…おい!お前らもしかしてゲームに乗ってないやつらなのか!?」

草むらから顔を出した桜木が目にしたのは、一匹の猿と二人の男。
そのような言葉を出したのは…ぱっと見たところ武器も持っていないし、
おそらく三人(?)が行動を共にしているような様子を見て、いきなり襲ってくるような殺人者ではないとの第一印象を感じたためだ。

「当たり前だ!…なんだ、良いヤツっぽいな。オレはルフィ!海賊王になる男だ!」

身構えていたルフィは現れた赤髪の男のその言葉を聞いて警戒を少し緩め、胸を張って笑顔でそう自己紹介をする。

「おい花道!不用心すぎだ!…お前ら、本当にゲームに乗ってないやつらなのか?」
桜木の後ろから現れた日向が険しい顔でルフィたちに問いかける。

「何度も言わせるなよ!当たりま…」
「おめぇら……地球人か…?」

ルフィのすぐ横にいつの間にか立っていた悟空が突然ルフィの言葉を遮って二人に問いかける。

「……は?」

「…地球人なのか?」

一瞬、言葉の意味が分からずに呆気にとられたように聞き返す桜木に対して、再びその問いを言葉にする。

「ウキ…?(訳:悟空…?)」

「地球人?ふ、その通り!地球規模の天才、桜木花道とは私の事だ。覚えておきたまえ!」

「…そうか…」

ゆっくりとした足取りで桜木に歩み寄る、無表情に近い悟空。



きりきりきりきりきりきりきりきり。


頭が痛む。
(やめろ!オラはそんなの望んでねえっ!!!)


かりかりかりかりかりかりかりかり。


痛い。痛い。どうすれば治まる?
(やめろ!やめろぉっ!!)


簡単だ。原因を取り除けばいい…
(やめろぉおーーーーッッッ!!!!)



「な……なに……!!?」
「なっ!?花道っ!!?貴様ああッッ!!!」
ある程度ゆっくりと間合いを詰めたと思った瞬間、常人には姿を消したかに思えるような恐ろしい速さで一気に花道の眼前に飛び、手刀で胸の中心を貫く。
「悟空っ!!?何すんだよ!!?やめろぉっ!!!!」
突然の悟空の豹変に驚愕の表情を見せて叫びながら悟空の背に走り寄るルフィ。
「クソッ!!罠だったのか!!!?」
ゆっくりと崩れ落ちる花道の体を見ながらそう叫んで、日向はとっさにショットガンを構えて悟空に向け、躊躇無く弾を放つ。
「…おめぇも…地球人だろ…?」
ドン!との大きな銃声が響くより先に日向の背後に立つ、残忍な目で日向を眺める悟空。
「な…!?化け物野…郎…!!!」


そう口から呟きながら日向は振り返るが……そのままその言葉と共に首が斜めにずれてゆき、
目を見開いたまま首から上が地面に落ちて、ボールのように軽く二度ほど弾む。

「なんでだよっっ!!?悟空ーーッッ!!!!」
ルフィは困惑の色を瞳に浮かべながらも、目の前の惨劇に心から腹を立てて悟空に全力で拳を向ける。
「ルフィ、俺を邪魔するな…!」
今までルフィに向けられていた『仲間』を見るような優しい眼差しはもうそこにはなく…
まるで下等生物を見下すかのような冷たい眼差しでルフィをにらみ返し、
空を一文字に切るような鋭い回し蹴りを眼前のルフィのわき腹に叩き込んで数メートル横に吹き飛ばす。
「ウキーー!!!(訳:ルフィーーッ!!!)」

「ふん…俺は忙しいんだ…じゃあな」
ルフィやエテ吉にはもう興味がないかのように一瞥し、背を向けて歩き出し…木々の中へと姿を消す、悟空。

いや……もう彼は孫悟空ではないのかもしれない。

その体はもう今までのような優しい気ではなく、戦鬼のように凶々しい黒い気で溢れていた。


それは、その戦鬼の心の牢獄に閉じこめられた本来の孫悟空の心の叫びなのか……

それを見た者は誰もいなかったが、喜びに満ちた鬼の顔の頬に…一筋の涙が伝い、落ちた。



【長野県/午前】

【孫悟空@DRAGON BALL】
[状態]カカロット化、やや疲労、出血多量、各部位裂傷(応急処置済)
[装備]サイヤ人の硬質ラバー製戦闘ジャケット@DRAGON BALL
[道具]荷物一式(支給品未確認)
[思考]地球人を皆殺し(意識の奥底に本来の自我は少し残っている)

【長野県、別荘地周辺/午前】

【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]各部軽傷、わき腹に軽いダメージ、空腹
[道具]荷物一式、山の幸少量
[思考]悟空の変貌に混乱中

【エテ吉@ジャングルの王者ターちゃん】
[状態]健康
[装備]パンツァーファウスト(100㎜弾×4)@DRAGON BALL
[道具]荷物一式
[思考]ターちゃんとの合流
   悟空の変貌に混乱中

【桜木花道@SLAM DUNK 死亡確認】
【日向小次郎@キャプテン翼 死亡確認】
【残り107人】


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070:彼の者の名は伝説の 孫悟空 149:其を呪縛するものは
070:彼の者の名は伝説の モンキー・D・ルフィ 149:其を呪縛するものは
070:彼の者の名は伝説の エテ吉 149:其を呪縛するものは
029:天才 桜木花道 死亡
029:天才 日向小次郎 死亡

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最終更新:2023年12月15日 08:51