0145:甘い果実 ◆SD0DoPVSTQ
「あ、あの……ブチャラティさんもうそろそろ良いでしょうか?」
「ん……あぁそうだったな別にもう振り向いてもらっても構わない」
そう言いながらブチャラティと呼ばれた男が茂みの奧から戻ってきた。
晴子は何があったのかを尋ねようとしたのだが、戻ってきたブチャラティが片手に持った首輪を見てその先に何があったのかを悟った。
「少々待たせてしまったようだな。さて再び移動を……いや、少し休憩させてくれ」
そう言ってその首輪を丁寧にバックの中にしまい込み、ブチャラティはその場で腰を落とした。
そうして何分が経ったであろうか。
ブチャラティは一人で何かをぶつぶつ呟きながら考え込んでいた。
ギャング時代に何度も嗅ぎ慣れた鼻につく臭い――血液の臭いに気が付き、
戦闘中かも知れないし、罠かも知れないので少女をその場に置いて現場を見に行ってみた。
案の定其処には太った女性の死体が転がっていた。
死因は恐らく短めの刃物による心臓への刺突。
それによるショック死、もしくは出血多量による死に思われる。
どちらにせよその死体――
ヂェーンが生き返ることはない。
それで初めてこの場所に来てから考えていた案を実行に移した。
それはスティッキィ・フィンガーズによる身体と首輪の分離。
首輪さえ外してしまえば主催者から脅される条件が半分に減る。
残りの半分の条件は『元の世界に戻さない』だが、それは主催者を倒してから考えれば済む事だ。
少なくてもその脅しは命を握られている今より、主催者を倒すときの大きな障害になるとは考えられなかった。
だが、どうしても自分の首輪を分離させることには抵抗を感じた。
それは自分の能力があまりにも都合が良すぎたからである。
自分がもしも主催者側ならこんな能力を持った奴を参加させる気にはならない。
つまりは分が悪すぎる賭けなのだ。
首輪自体に能力を使った場合、それを感知して爆発する仕掛けでもされていたら終わりだ。
だったら、人自身の首をスティッキィ・フィンガーズで分離させて、首輪を外してから再びくっつけてはどうだろうか?
だが、それでもまだ不安要素はあった。
放送では主催者側が此方の生死を――そして死因すらも完全に把握していたみたいであった。
ならば、その生死を判別する方法としてはこの外れない首輪が一番最適なのではないだろうか?
そうするとこの首輪が生死を判断できるということになる。
しかしその判断条件が解らない。
体温や心臓の鼓動かもしれないし、もしかするとナランチャみたいに二酸化炭素濃度で判断しているかも知れない。
それに最悪、それらの生死の判断が送られた場合、管理者側がなんかしらの手口でその場所を監視しているかも知れない。
長くなったがつまり結論は、答えを絞れない状態で首輪を取るのは自殺行為に等しいということだった。
だが行動しなくては何も始まらない。
丁度死体も見つけられたのだし、自分は死ぬ覚悟ならとうの昔からしている。
死体からの首輪を取るという行為自体には躊躇はない。
生き残るため、そしてこの無意味な争いを止める為――そして主催者を倒す為には必要な行為なのだから。
死体だと不安材料も格段に少なくなる上に、少女が離れているので最悪でも爆発に巻き込まずに済む。
自分の躊躇いからみすみすチャンスを見過ごすのは勿体ない。
それで決意して行動を起こし、死体からは無事首輪を外すことが出来た。
そして死体から首輪を回収できたことによって幾つかの不安材料は消えたのだが……
「――オレ自身のも試してみるか」
不安材料も減り、確証は得られずとも成功の可能性だってそれなりにはある。
首輪自体に能力を使わず人体に使えばいいのだ。
生きている人体への能力使用で爆発するのなら、自分の様なスタンド使いや最初に殺された男の様なのがまともに戦えなくなる。
それは殺し合いを促している主催者の意図からずれるだろうから、爆発する可能性は低い。
いつかは生きている人から首輪を取らなくてはいけないのなら、早めに行動をするに超したことはないのだ。
ならば決断は――
「あの……」
「ん?あぁ、もう休憩は十分だ」
晴子の声によって思考の海から解放されたブチャラティは返事をしながら立ち上がった。
「あの……大丈夫……でしょうか?何か悩みごとがあるのでしたら……」
「大丈夫、君が気にする必要はない。オレ自身でしか解決できない問題だ」
そう、これはスティッキィ・フィンガーズを操れる自分にしか出来ない問題だ。
多少きつく突っぱね過ぎたかも知れないが、自分とは違う世界を見て生きてきた少女を巻き込む問題では無いのだから……
「――『年齢』も、『性別』も、『人種』すら違うようだが……その三つの点で、俺と君は『同一』だ……」
俯いた少女の口から紡がれたのはかつて自分が口にした言葉。
「同一なら、同じ目的を持つのなら……少しくらい悩みを聞かせてくれてもいいかな……って」
「――同じ目的か……」
その単語を自分の胸の中で反芻して飲み込んだ。
「ならば君をこれからファミリーだと思って扱おう」
「ファ、ファミリー……ギャングの……ですか?」
目を白黒させている晴子に取り敢えず今まで考えていたことを掻い摘んで説明した。
首輪さえ取れれば無駄な殺し合いをせずに済む事。
死体からは首輪を自分の能力で外す事に成功した事。
生きた人間で試して初めて成功だという事。
自分の能力なら生きたまま首を外してまた着けることも可能だという事。
「――そして、オレがまず自分の首輪で試してみる」
ブチャラティはそのまま自分の手を首に持っていく。
「失敗したらいけないからキミは下がっているんだ。
そして爆発してしまった場合は、その結果と今説明した事からこの首輪の法則を見つけだしてくれ」
「待って!!」
晴子は咄嗟にブチャラティの手にしがみついて止めようとする。
「勿論オレも死ぬ気はない。最悪の場合を話しただけだ」
晴子の瞳をじっと見つめながらブチャラティは続ける。
「元の世界に戻るためには遅かれ早かれ通らなくてはいけない道だ」
「――本当に……それで生きて帰れるんですよね?私もブチャラティさんも、そしてみんなも……」
「勿論だ」
その言葉を聞いた晴子は掴んでいたブチャラティの手を自分の首に持っていってこう言った。
「なら、私の首輪をまず解除して下さい」
「君はこの島に会いたい人がいるのだろう」
「でも……生きたまま首輪を外せる可能性が高いなら……私でも出来ますよね」
「だが高いと言っても100%じゃない。オレは最悪の場合でも覚悟が出来ているが、君は違う」
「――確かに私は怖い、怖いです!足だって震えていて……こうやって立つのも精一杯です。でも、ブチャラティさんに死んで欲しくないんです」
震える唇から精一杯言葉を紡ぎ出す。
「それに……ブチャラティさんが失敗したら誰がみんなの首輪を外せるんでしょうか?」
ブチャラティの手を放すまいとして握る手に一段と力を込めながら言った。
「私は……覚悟とかは出来ないと思うけど……ブチャラティさんが死なないと言ってくれれば、それを信じることなら出来ます」
「――オレにはこの島で失うモノがない」
「でも、ブチャラティさんにしか……その能力は使えないと思います」
「……」
「大丈夫、成功すると一言言ってくれれば、私はそれを信じます」
嫌な予感がしていた。
こうやっている間にもこの島の至る所で殺し合いが起きている。
幸い前の放送では知り合いはいなかったが、それでも人が死んでいるという事実だけでも嫌になる。
もしかしたら知らないだけで今頃は自分の知り合いが巻き込まれているかも知れない。
自分達は普通の人間。
殺し合いに巻き込まれたら一溜まりもない。
晴子は嫌な胸騒ぎを感じ焦っていた。
(流川君……)
だが、その頃既に二人の知り合いが亡くなっていたという事実を晴子は知る由もなかった。
「私は――私に出来るのなら、早く戦いを止めてみんなと一緒に帰りたいです」
「この話は無かった事にしよう。東京に行って君の知り合いを捜してからでも遅くはない」
そう言って手を引っ込めようとしたが、より一層強く握りしめられた。
「……」
ブチャラティは晴子を説得しようとしたが、自分を見つめる2つの瞳が彼女の気持ちを代弁していた。
――能力を使うことで起爆する可能性はないのか?
いや、人体への能力使用だけなら爆発はする事はまずない。
――人体からの離別による起爆は?
死体から首輪は外せた。それ単体での理由はあり得ない。
――生体反応を感知して、反応有りの場合外すと起爆するのか?
その可能性は思い浮かぶ可能性の中で一番高い。
――ならばその生存反応の判別方法とは?
体温や二酸化炭素濃度では自然現象によって左右されやすい。ならば……
「――心拍数」
再度自問自答して得られた答えはそれ。
それならば全ての答えに説明が付く。
頭と首を胴体から外してしまえば首からは心拍数が感じられなくなる。
そう、それなら……
「――了解した。安心して任せてくれたまえ」
その言葉を聞き晴子は握りしめていたブチャラティの手を放し、静かに目を閉じ座り込んだ。
その座り込んだ彼女の首にブチャラティが再度手を伸ばす。
これで、数時間続いた無意味な争いもひとまず落ち着かせることが出来る。
そう思いつつブチャラティはそのまま手を横に奔らせた。
「おい、一寸止まれ。血の臭いがする」
片手を横に広げ、後ろから付いてくる
友情マンと
桑原和真を静止させた。
「おい、マジかよ!!そいつは大丈夫なのか?!」
「――臭いがするって事は相当血が流れてるって事だ。自殺にしろ殺されたにしろ、其奴はまず死んでるな」
そう言って忍者マスターガラは臭いを嗅ぎ出した。
「あちらの方向か……どうする?」
「他に人がいるかも知れないってなら行くしかないだろ」
「そうですね……殺された人ってのが悪人って可能性もありますし、
そうすると桑原くんが探していた浦飯くんや飛影くんだったって可能性も出ますね。ただ逆の場合……」
逆の場合、つまり悪人が人を殺して、そのまままだ近くにいるという可能性だ。
「――ガラくん、もし宜しければ危険かどうかだけでも確認してきてもらえませんか?」
「ん~、確かにそれだけなら俺が動くのが早いかもな。んじゃちと行ってくるわ」
そう言うが早いか
友情マン達の目の前からガラは姿、気配を消していた。
「ガラくん危険だと思ったら直ぐ戻ってきてくれればいいのですが……」
友情マンは本心からそう呟いた。
勿論、此処でガラみたいな強い友達を失いたくなかったし、
危険なら巻き込まれたくないのでいち早くこの場を離れたいという本音も隠されていたのだが。
(――戦闘力もなさそうな女の心臓を一突きか……えげつねぇ)
風に乗ってくる血の臭いを辿ると難なく殺人現場へ着く事が出来た。
(血の具合、肌の色、死斑、死後硬直の具合から察するに既に2~3時間以上は過ぎてるな……)
犯人が近くにいるかも知れないので、気配を殺しながら死体を調べてガラはそう判断した。
(――首輪が無い?外す方法でもあるのか?)
首は身体に繋がったまま首輪だけが消えて死んでいる。
(ま、考えても仕方ねぇか。使えそうな道具も……ねぇな)
少しばかり考えてみたが自分にはその方法が思い浮かばない。
自分のも外せるのかと思ったが変に触って爆発されても困るので、それ以上は考えるのを止めた。
変なボールが転がっていたが犯人も放置して行く位の代物なのだろう。
この場にいてもこれ以上の収穫はないと判断してそのまま場を去ろうとしたが、少し離れた場所からふと男の声が耳に入った。
どうやら殺し合いをしている様子では無かったが、この近くにいるということは犯人の可能性も高い。
気配を完全に殺し、忍者マスターガラはその場所に忍び寄った。
そして、茂みに隠れながらその場を覗く――すると其処には座り目を瞑った女性の首に手を伸ばしたおかっぱ頭の男が……
(首……首輪!?奴が!!)
首に手を伸ばした男と消えた死体の首輪。
ガラの中で疑問だったモノが解れていく。
(奴が犯人か!!)
ガラの頭の中でそう答えを弾き出した時と、目の前の男の手が横に奔った時間は同じだった。
――閃光が奔る。
状況を判断する為ガラはちかちかする目を凝らした。
目に風景が映る前に飛び込んできたのは、嗅ぎ慣れた、何かを焦がした様な臭い。
それだけで何が起こったのかは理解は出来た。
そしてようやく元に慣れた目を凝らした先に映った風景は、
肩口から手が消し飛ばされてはいたが、元いた場所とは違う場所に棒立ちになっている男の姿だった。
ブチャラティは呆然としたまま立っていた。
色んな疑問が頭の中に飛び込んできて全く状況の整理が出来ない。
――痛い。
自分の推理は外れていたのか?
――痛い。
目の前の少女はどうなったのか?
――右上半身が焼けるように痛い。
そしてどうして自分は生きているのか?
――いた……
ノイズを訴えてくる右肩の先をばっさりとスティッキィ・フィンガーズで分断する。
浮かび上がる可能性と残ったノイズを次々と業務整理のように冷め始めた理性が否定していく。
そして残った答えは、どうやら自分は失敗したらしいということだった。
光にやられ浮かばない筈の風景に映るのは、自分を信じて静かに目を閉じた晴子の顔。
それを自分のミスで消し飛ばしてしまった。
なのに自分自身は本能が危機を察知して、無意識の内にもう片方の腕でスティッキィ・フィンガーズを使用し地面を弛ませ、
爆発が肩口に届く瞬間には爆発の届かない所まで逃げていた。
そんな瞬間的に危機を察知して反応できたのに、何故能力使用する前に察知できなかったのであろうか。
それが出来なかった自分自身が悔しく、情けなかった。
「――貴様が殺人犯……か。悪いが優勝するにも脱出するにも邪魔になりそうなんでな――死んで貰おうか!」
相手がどうやって助かったのかは解らない。
だが相手は重傷で武器もぱっと見見当たらない。
ならば、今の内に畳みかけるのが得策だろう。
ガラは斬魄刀を構え、未だ棒立ちの相手を見据えた。
首輪という、何もしなければなんと言うことはない単なる反ゲームへの抑止力。
しかしそれに幾重にも人々の推察が交差すると、時にそれは強大なトラップになる。
全ての人の首にぶら下げられた甘い果実の誘惑。
だが、禁断の実を手にした者はエデンの園――この島から死という形で追放される。
しかしそのトラップの脅威はまだ終わりそうにない。
【宮城県(海岸線沿いの道)/午前】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:健康
[装備]:遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、千本ナイフ、光の封札剣、落とし穴)@遊戯王
[道具]:荷物一式、ペドロの荷物一式、食料セット(十数日分、ラーメン類品切れ)、青酸カリ
[思考]:1.様子を見に行ったガラを待つ。
2.強い者と友達になる。ヨーコ優先。
3.最後の一人になる。
【桑原和真@幽遊白書】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:荷物一式
[思考]:1.様子を見に行ったガラを待つ。
2.ピッコロを倒す仲間を集める。浦飯と飛影を優先。
3.ゲームを脱出する。
【ガラ@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
[状態]:健康、満腹
[装備]:斬魄刀@BLEACH
[道具]:荷物一式(食料一食分消費、水無し)
[思考]:1.目の前の殺人鬼(思いこみ)を倒す
2.とりあえず友情マンについて行き、ラッキーマンのラッキーを拝んでみる。
3.脱出と優勝、面白そうな方に乗る。
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肩から下消失(現在は傷口を分断させることによって痛覚カット)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]:1.茫然自失
【赤木晴子@SLAM DUNK 死亡確認】
【残り 105人】
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最終更新:2023年12月17日 10:51