0164:大阪探索は波乱含み ◆jYa6lM.CCA





入り組んだ住宅街。一見するとごく普通の家々。
違うのは、きっと現実なら聞こえているだろう音が、何一つしないこと。
子供の声もしない。大人の声もしない。飼い犬の声も。野良猫の声も。車の声も。笑う声も。鳴く声も。
何の声も聞こえない。死んだように静まり返った街。
ひどく明るく穏やかな日差しの中で、何一つ動くもののない世界は、夜中以上に不気味に見えて、
遊戯は小さく身を震わせた。
「ここにも、誰もいないみたいだね…」
ほっとしたような、落胆したような、力の無い声で呟く。この街に3人だけの唯一の声。

探索を始めてから3時間ほど。彼らは未だに、他の参加者と出会っていなかった。

「二人とも大丈夫?少し休もうか?」
先頭を歩くカズキは、前方を油断無く見回しながらも、心配そうに二人に声をかける。
「ううん、まだ大丈夫だよ!」
「わらわもまだ大丈夫よぉん。」
休んでいる暇はない。今この瞬間にも、誰かが襲われているかもしれないのに。
しかし言葉とは裏腹に、遊戯はかなりの無理をしていた。
この3時間、移動で歩き詰め、建物の上り下りも多い。
戦士であり元々運動の得意なカズキや、ある程度の修行を積んでいる妲己と違い、遊戯は体力があまり無いのだ。
その上、いつ襲われるかわからず、仲間も誰も見つからないという、精神的な疲労。
もしかして誰も居ないんじゃないか? みんな殺されてしまったんじゃ? 城之内くんのように―――
不安。希望。落胆。絶望。恐怖。死。どれだけ否定して振り払っても、何度も同じことを考えてしまう。
平和な日常を生きてきた遊戯にとって、あまりにも強すぎる重圧。
体力の消耗は精神を、精神の消耗は体力を、更に少しずつ蝕んでいく。

(相棒。)
心配そうな彼の声。
(大丈夫、だよ。もう一人のボク。)
大丈夫じゃなきゃいけない。足手まといになるわけにはいかない。
これから先も、脱出できるまでは、まだまだこんな時間が続くのだ。
皆を守るためには、こんなくらいでへこたれているわけにはいかない。だから―――


「うぷっ!」
疲れで少しぼんやりしていたらしい。立ち止まった妲己の背中にぶつかってしまった。
「ご、ごめんね妲己さ…」
そこまで言葉にしてから気付く。妲己が自分を見ることなく、前を見ていることを。
そう、ただ前だけを。前方、3人の前にあるものを…
遊戯は目を見開いた。

「う…わあぁぁっ!?」

それは紅い水たまり。血だまり。べっとりとした紅。その紅に沈む肉塊。人。人であったもの。なれの果て。
外側と中身が混ざり合った頭部を見れば、それが絶命していることは一目瞭然だった。
髪の長さから少女であろうことは見当が付くが、顔も半ば潰れてしまっている。
「……っ!」
胃を逆流するものを無理矢理押さえ込む。
あれは…人間!?本当に!?あんな…!
ぐるぐると渦巻く。死は知っていても、本物の死体を見るなど初めてだし、何よりこれは酷すぎる。
遊戯は真っ青な顔で口元を押さえ、ただ、立っているのが精一杯だった。

一番最初に言葉を発したのはカズキだった。
「…どうして、こんなこと…!こんな子供まで…っ!」
絞り出すような、震える声。悲しみと怒りが滲んでいる。
そう言われて遊戯は初めて、少女の身体がとても小さいことに気付いた。
華奢な身体。血の気を失った肌。
きっと弱い自分よりも更に弱い少女。こんな子までが、どうしてこんな…
「カズキちゃん…」
妲己は口元に手を当て、涙を浮かべ、不安げにカズキを見つめる。
「……ごめん。二人とも、少し休んでて。俺は…この子を埋葬してから行くから…」
「そう…ごめんなさい、わらわは少し休ませてもらうわぁん…」
遊戯は俯いていた顔を上げる。
青い顔のままだが、カズキを見つめ、確かな声で言った。
「…カズキくん。ボクにも手伝わせて。」
カズキは心配そうな顔をしたが、大丈夫かどうかは聞かなかった。
代わりに遊戯の目を見つめ、一度だけ強く頷いた。



ざく。ざく。ざく。ざく。ざく。ざく。ざく。ざく。
死んだ街に穴を穿つ音だけが響く。
剣で。石で。
それぞれに。ただ、ただ一心に。



どのくらいの時間が経っただろうか。
もうすぐ掘り終わるという頃、遊戯の身体が大きく傾いだ。
(相棒!)
「遊戯!?」
遊戯の体力と精神力が限界に来ていたのだ。
なんとか地面に倒れこむことは避けたが、誰の目から見ても無理は明らかだった。
「遊戯、妲己さんと少し休んでて。もうすぐ終わるから…」
「でも…!」
(相棒!今倒れたら、守るものも守れないぜ!)
「…わかった。少しだけ、休ませてもらうね…」
遊戯はややふらついた足取りで、家の陰で待つ妲己の元へと向かった。
自分の無力さを情けなく感じながら。

遊戯はカズキと妲己を守りたいと願う。
けれど、自分はお荷物、きっと守られてしまう側だろう。
カズキと妲己どころか、自分より弱いあの少女すら守れない。
カズキはこの大阪探索で、遊戯と妲己を守るために、常に先頭に立って歩いていた。
きっとカズキは、遊戯を守り続けるだろう。彼が弱者である限り、自分の身さえ厭わず。
自分には力が無い。そのことがひたすらに歯痒い。
優しさ。勇気。強い心。それだけが遊戯の持つもの。
しかしそれだけでは誰かを守れない。守られてしまう。
力が欲しい。傷つけるためじゃなく、杏子や海馬くんを、カズキくんを、妲己さんを、
あの少女のような参加者を、みんなを守れる力が。


すぐそこの曲がり角、家の陰へ。そこに妲己が居る。居るはずだった。
「…あれ?」
辺りを見回す。目に入るのは、誰も居ない住宅街だけ。
「……妲己さん…?」




無造作に落とされていた紙を拾い上げる。
『”黒の章”人間の闇の部分を記録したビデオ』
妲己の目の前にあるテレビ。
そこに映し出されているものは、最低最悪の映像。この世で最も残酷で非道な人間の姿。
「ふぅん…なかなか良い趣味ねぇん。」
妲己は小さく微笑した。ビデオの中の人間よりも、遥かに邪悪に。

埋葬を手伝うつもりなどさらさら無く、悲しんだフリをして休んでいた妲己は、ふと声に気付いた。
微かにだが確かに聞こえる声。静かな街から聞こえる声。そして、何か違和感を覚える声。
妲己は最初、複数の参加者が何か言い争っているのだと思っていたが、次第に妙なことに気付いた。
数分経つごとに、声が全く別人たちのものになるのだ。
どう考えても、交互に話しているというような替わり方ではない。
そう、まるで切り替わったように。
まだしばらく作業が終わらないことを確認し、妲己は声の方へ向かうことにした。

「まぁまぁってところねぇん。」
しばし鑑賞してから、妲己はテープと霊界テレビをそこにあったホイポイカプセルに詰める。
脱出するにしても、優勝するにしても、使える道具は多い方がいい。
「まぁ、お土産ってことでもなかなかいいわよねぇん。」
なかなか楽しいものを見た妲己は、上機嫌で民家を後にした。



もうすぐ、2度目の放送が流れる。





【妲己ちゃんと愉快な武藤達】
【大阪住宅街/昼】

【蘇妲己@封神演義】
 [状態]:健康
 [装備]:打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式(一食分消費)、黒の章@幽遊白書、霊界テレビ@幽遊白書
 [思考]:1 二人のところへ戻る。
     2 正午の放送まで大阪探索。仲間と武器を集める。
     3 太公望、竜吉公主、趙公明から自分の本性を明かされるのを防ぎたいが、
       本性がバレても可能ならば説得して脱出のため協力し合う。
     4 どんな事をしてもゲームを脱出し元の世界に帰る。
        可能なら太公望や仲間も脱出させるが不可能なら見捨てる。

【武藤カズキ@武装錬金】
 [状態]:健康
 [装備]:ドラゴンキラー@ダイの大冒険
 [道具]:荷物一式(一食分消費)
 [思考]:1 少女を埋葬する。
     2 正午の放送まで大阪探索。仲間と武器を集め、趙公明を発見したら倒す。
     3 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、杏子、海馬を優先。
     4 蝶野攻爵がこの状況でも決着をつける気なら相手になる。
     5 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。

【武藤遊戯@遊戯王】
 [状態]:肉体と精神にかなりの疲労
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式(一食分消費)
 [思考]:1 妲己がいないことで困惑。
     2 正午の放送まで大阪探索。仲間と武器を集め、趙公明を発見したら倒す。
     3 ゲームを脱出するため仲間を探す。斗貴子、ブラボー、杏子、海馬を優先。
     4 ゲームから脱出し元の世界へ帰る。
 [闇遊戯の思考]:妲己の警戒を続けるが、妲己が善人ならばと希望を抱いている。


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151:大阪探索しちゃい隊 蘇妲己 191:大蛇vs妖狐
151:大阪探索しちゃい隊 武藤カズキ 171:奔る、奔る
151:大阪探索しちゃい隊 武藤遊戯 251:武藤復活!

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最終更新:2024年01月15日 22:24