0251:武藤復活!
斗貴子さん……!
大阪の街を進む一人の少年。彼の頭に存在するのは、自分の愛する人のことのみ。
衝撃により錯乱した
武藤カズキはその時、大切な彼女を守ることしか考えていなかった。
(斗貴子さん、今助けにいくから……!)
思い人の名を頭に浮かべ、ゆっくりとした足取りでカズキは進む。
町の外に広がる草原が見えてきた頃、彼の耳に自分の名を呼ぶ声が飛び込んできた。
「カズキちゃぁ~ん、待ってぇ~ん」
場違いな艶っぽい声が響きわたる。これは先程までこの少年と行動を共にしていた者の声だ。
しかしカズキはそれを認識してかしなくてか、そのまま黙々と歩き続けた。
(あらあら、カズキちゃんったら。わらわの声が聞こえてないのかしらん)
妲己は緊張感なく苦笑をこぼす。
しかしカズキがまだ自分の手駒と成りうる存在だ、ということを彼女は一瞬で理解する。
そう判断したのは、カズキが歩いているから。
もしもカズキがよく考えた上で離脱したのならば、きっと一心不乱に走っていくだろう。
走っていってしまえば、ここから遠く離れてしまえば、妲己や遊戯という自分を縛り付ける者と決別できる。
斗貴子のもとへ直ぐにでも行くことができる。
しかし彼の歩みはゆっくりとしている。それはなぜか。
答えは簡単。彼は綿密な考えの上で動いている訳ではないのだ。衝動的な行動に違いない。
そうならば説得は難しくない。説得までのヴィジョンはもうできている。
「カズキちゃん!」
走って近づきカズキの後ろから抱きつく妲己。妲己はぽろぽろと涙を流し、カズキの背中にしがみつく。
斗貴子のことばかりを考えていたカズキも、それには流石に反応を示した。
「妲己さん……」
「カズキちゃん、大事な人を失ったんでしょう?放送で聞いたわん…」
だっきちゃんの説得テク其の一・純情少年にはベタな演出を。
だっきちゃんの説得テク其の二・感情的になっている人間には再度事実を認識させることが有効。
「妲己さん、オレ…!」
「辛いのはよ~く分かるわぁん…仲間が心配だっていうのも分かるわん。
でもねん、わらわや遊戯ちゃんのことも忘れないでほしいのん。わらわ達も…貴方の仲間なのよん!」
悲しみを漏らそうとしたカズキに対し、妲己はそれへの理解を示し、更に自分達の存在を強調する。
それに対してカズキははっとしたような表情を見せる。
だっきちゃんの説得テク其の三・他人の悲しみには共感しているようにすること。
だっきちゃんの説得テク其の四・大切な物を持つ人間には、その大切な物と自分をダブらせるべし。
巧みな演技や話術をこなす妲己にとって、カズキ一人の心を操ることなどさして難しいことではない。
妲己の思案通り、この純情な少年は落ち着きを取り戻しつつあった。
「ねぇん、カズキちゃん。戻りましょうん。遊戯ちゃんも心配してるわぁん」
「妲己さん…どうすればいいんだろう、オレ…」
「大丈夫よぉん、カズキちゃんのお友達はわらわのお友達。一緒に…助けに行きましょうん」
妲己はカズキを抱きしめる。その姿は無限大の慈愛の大母さながら。
無論その優しさは偽りであるが、底なしのお人好しであるカズキがそんなことに気付くはずがない。
(楽勝ねぇん。カズキちゃんってば、単純なんだからぁん)
自分の考え通りに事が進み、心の中で喜悦する妲己。
あとの心配はミサが遊戯を上手いことなだめてくれるかどうか。
カズキの説得が予想以上に簡単で時間も余ったから、こちらから行ってもよいが―――――
海馬くんが……?
大阪の街で一人の少年が崩れ落ちた。悲しみという重石が少年にのしかかる。
その眼に力は無く、呆然としている。
(相棒!しっかりしろ!)
少年、
武藤遊戯の持つもう一人の人格。
彼もまた悲しみをその心に受けていたが、自分以上に苦しむ相棒を励ますため己は悲痛に耐えていた。
放送が流れたとき、遊戯は突如姿を消した妲己を探していた。
ほんの十数分間であったが、仲間と離れた遊戯は巨大な不安を抱えていた。
皆どこかへ行ってしまったのではないのかと。役立たずな自分は見捨てられてしまったのではないのかと。
勿論もう一人の遊戯はそんな事はないと励ましてはいたが、心の何処かで妲己を疑っていた彼の激励はやや力に欠けていた。
(妲己さん、一体どこに行っちゃったの?)
そんな心に暗雲が立ちこめてきた所に訪れたライバルの訃報。
心が弱っていた遊戯にとって、この報せはあまりにも酷であった。
虚ろな瞳に映るのは何なのであろうか。
過去の栄光――城之内や海馬と戦い抜いたペガサス島やバトルシティでの決闘の数々――か。
現在の絶望――その城之内も海馬もこの世界で死んでいった。そして自分も…――か。
いずれにせよ、今の遊戯の心は暗い闇にとらわれていた。
(海馬……まさかお前まで犠牲になるなんて……)
もう一人の遊戯は自分の無力さを歯痒く感じていた。
ゲームが得意なことがこの世界でどれほど役に立つであろうか。この殺し合いの舞台で何の足しになるというのか。
何も出来ない、不甲斐無い己との葛藤に苦しむ。
カズキは自分たちを守ろうとするだろう。そのとき自分には何ができる?
妲己を信頼すべきだろうか。裏切られたらどうすればいい?
口惜しい。誰かに頼らなければ仲間を助けることもできない自分が。
恨めしい。仲間の命を奪う世界に送り込んだあの主催者たちが。
主催者たちを思い出せば、今度は怒りが込み上げてくる。
あの下卑た嘲りが、頭の中で何度も繰り返される。
(『殺人ゲーム』だと!?ふざけやがって…………)
主催者たちの言葉に憤慨するもう一人の遊戯。しかしそこで『殺人ゲーム』というフレーズが頭に残った。
そして更にその中の『ゲーム』という単語が抽出された―――
(…相棒。杏子はまだ生きてるんだぜ)
裏の遊戯が表の遊戯に再び話し掛ける。
表の彼は未だ放心状態で、もう一人の声が届いていてはいなかった。
しかし裏の彼は、相棒のために話し続ける。
(もう一度言うぜ、相棒。杏子はまだ生きている。
いや、それだけじゃない。元の世界には本田くんも獏良もじいちゃんも居るんだ。まだ望みを捨てるには早すぎる)
闇遊戯はその声が相棒に届くことを信じて、淡々と話し続ける。
彼の思いが通じたのか、表の彼は自分の仲間たちの顔を思い浮かべ始めた。
(杏子もきっと不安でいるだろうな…本田くんたちは僕達のこと心配してくれてるのかな…)
表の遊戯は友の顔を思い浮かべる。真っ暗だった彼の心にわずかだが再び光が差し始めた。
裏の遊戯は畳み掛けるように励ましの声を掛ける。
(ああ、皆俺たちを待っているに決まってる。俺たちはまだ立ち止まっちゃいけないんだ)
(でも、僕たちに何が出来るの?こんな世界で一体何が?)
簡単には晴れない心の厚い雲。それはすなわち無能な自分に対する劣等感。
裏の遊戯もそれに苦悩していた。しかしその答え――と言うには頼りないものかもしれないが――を見つけるためのキーワード。
その鍵を彼は相棒に投げかけた。
(あの下衆どもはこれを『殺人ゲーム』、と言ってたよな、相棒。そう、『ゲーム』だ。
これが『ゲーム』だと言うんならこれは俺たちの専門、他の誰よりも俺たちに分がある。違うか?)
他の者が聞けば何と愚かしい発想だと笑うかもしれない。
だがゲームの達人である彼にとっては、この言葉がどれほど自信に繋がるものであろうか。
その考えを支えにして、彼は相棒を励まし続ける。
(『ゲーム』と言っても、難易度はベリーハード、その上誰一人仲間を失ってはいけないという縛りつきだ。
こんなゲームをクリアできるのは俺たちしかいないだろう)
裏の遊戯が提示する自分達の持つ可能性。それに対し表の遊戯も光を取り戻し始める。
なぜならゲームは彼にとっても誇りであったから。
(俺たちの『結束』を持ってすれば、どんな困難だって乗り越えられる!
そしてこんなアンフェアなゲームをふっかけてきやがった主催者どもを、『闇のゲーム』で裁いてやろうぜ!)
もしその身があれば、息を乱しているに違いないほどの裏の遊戯の激励。
自分が相棒に出来るのはここまで。あとは相棒次第だ。
ありがとう、もう一人の僕…
表の遊戯は立ち上がり前を見据えた。そこには誰も居なかったが、その視線は確実にあるものを捉えていた。
そのあるものとは『自信』。
再び輝きを含んだ彼の瞳には勇気と希望が生まれていた。
その光にもう一人の彼も気付き、その彼も光を帯び始める。
(さあ、みんなのもとへ行こうぜ。俺たちがみんなを助けるんだ)
(うん。足手まといになってる暇なんてないものね)
二人の心は一人の足並みで歩き始めた。希望を持って、仲間を求めて。
裏の遊戯は内心――と言っても心だけの存在でしかないが――相棒が再び立ち上がれたことにほっとしていた。
しかし、彼が話したことは正直言って無謀すぎる話である。ただ唯一可能性があるとすればそれは『闇のゲーム』。
これで少しでも殺人者たちを抑制できれば良いが、そのとき相棒はやはり自分を不甲斐無いと感じてしまうのではないか。
裏の彼は新たな不安を抱え始めていた。
だがこれは杞憂であった。表の遊戯ももう一人の自分の真意には気付いていた。
即ち彼は自分を立ち直らせるために支離滅裂な話を展開しているのだと。
けれども杏子たちへの思い、そして彼の優しさが遊戯の表の心を奮わせた。
目を閉じれば、親友と宿敵の姿が甦る。彼等の死の辛さは今は耐えるしかない。そう、仲間の『結束』を信じて。
しばらくして大阪の街の外が見えてきた。
そこには妲己とカズキの姿があった。不安を払い除けたからであろうか、この時遊戯は少しも迷わず二人のもとへ辿り着いた。
「遊戯ちゃん!」
妲己は急に遊戯を抱きしめ慰めた。
この時、妲己は遊戯がミサと一緒に居ないことが気になったが、ここでそれを尋ねたりでもしたら自分の心配が演技とばれかねない。
だから、今は下手な詮索はせず、とにかく彼を慰める。これが彼女の考えであった、が。
「妲己さん、僕なら大丈夫。今は名古屋へ行くのが先決でしょ」
遊戯は早朝の様子とは異なり、自信に満ちていた。
妲己は正直拍子抜けではあったが、彼が立ち直っているのならそれに越したことはない。
(あの子もどうしようかしらねん。まあ、向こうが約束守れなかっただけのこと。そんなに気にすることじゃないわよねぇん)
ミサとの約束は無かったこととして、彼女は気持ちを切り替えた。
カズキは遊戯を見て、錯乱していた自分を心の中で戒めた。
『善でも悪でも、最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない』
キャプテン・ブラボーはきっと己の信念を曲げず、誰かを守り殉じたに決まっている。
ここで自分が二人を置いて行ってしまえば、それは一人でも多くの人を守るという信念を曲げることになる。
斗貴子なら大丈夫だ。今自分がすべきは、二人と共に
趙公明を追うこと。
そして妲己と、心を新たにした二人――正確には三人か――の武藤は大阪の街を後にした。
意味は違えぞ目的は同じ。打倒趙公明を掲げ、名古屋を目指す。
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「ユウギ~ん。どこにいるの~?」(ひっそり)
マーダーを恐れた女性の声が大阪の街に聞こえる。
(その辺にいるって言ってたのに……どこにも居ないじゃない!ホント、どこに居るのよ~(T△T))
半べそをかいた顔のミサ。すると、ぐうぅう~、と恥ずかしい音がした。
(そー言えば、朝のあれっきりご飯食べてないんだっけ)
その場にへたっ、と座り込み、彼女はデイバックを漁りだした。
中には城之内少年が残したコッペパン。何やら罪悪感が湧き上がる。
「あとにしよ…」
ボソっとそう呟き、ミサは立ち上がる。そうして人探しを再開した。
「ユウギ~ん。ホントにどこにいるの~?」(ひっそり)
既に破棄された約束のために彼女は大阪を歩き回る。
探し人、武藤遊戯がもうここに居ないとは知らず。愛する人、
夜神月と会えるわけもなく。
【妲己ちゃんと愉快な武藤達】
【大阪府・街の外/日中(一日目・午後一時半ごろ)】
【蘇妲己@封神演義】
[状態]健康
[装備]打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(一食分消費)、黒の章&霊界テレビ@幽遊白書
[思考]1:名古屋へ向かう
2:仲間と武器を集める
3:本性発覚を防ぎたいが、バレたとしても可能なら説得して協力を求める
4:ゲームを脱出。可能なら仲間も脱出させるが不可能なら見捨てる
【武藤カズキ@武装練金】
[状態]健康
[装備]ドラゴンキラー@ダイの大冒険
[道具]荷物一式(一食分消費)
[思考]1:名古屋へ向かう
2:仲間と武器を集める(斗貴子・杏子を優先)
3:妲己と遊戯を守る
4:蝶野攻爵に会い、状況次第では相手になる
5:ゲームから脱出し元の世界へ帰る
【武藤遊戯@遊戯王】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]荷物一式(一食分消費)
[思考]1:名古屋へ向かう
2:ゲームを脱出するため仲間を探す(斗貴子・杏子を優先)
3:ゲームから脱出し元の世界へ帰る
[闇遊戯の思考]:妲己の警戒を続けるが、妲己が善人ならばと希望を抱いている。また『闇のゲーム』執行を考えている
【大阪府・市街地/日中(一日目・午後一時半ごろ)】
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]重度の疲労
[装備]核鉄XLIV(44)@武装練金
[道具]荷物一式
[思考]1:遊戯を探してダッキの元へ連れていく
2:夜神月と合流
3:夜神月の望むように行動
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最終更新:2024年04月03日 15:22