0159:悪のカリスマ◆HDPVxzPQog
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあアアアア!!!!!」
公園に響き渡る少女の絶叫。
目の前の光景――黒焦げの死骸に変わった
流川楓の姿を目にして、
西野つかさは髪を振り乱ししゃがみ込んだ。
この奇怪なゲームに招待されて以来、初めて出会った自分と同じ高校生。
死の恐怖に怯えてばかりの自分とは違って、豪胆で無愛想で、けれど何処かカッコよくて。
『全部夢だと思って二度寝してた』
悪夢の世界で寝呆けていた彼の吐いた、楽観的な台詞。
地獄のようなこの世界の中で、初めて、心から可笑しくて、笑えたのに――
「いや……いや、流川君、流川君、ねえ!ねえってば……!」
頬を大量の涙で濡らしながら、最早動くことのない流川の身体を揺すり続けた。
切れ長の瞳も、サラサラの髪の毛も、残酷な炎によって無残に焼き焦がされてしまった――
「ねえ……ねえ……」
掛ける言葉にも、彼女の涙にも、流川楓は応えない。応えることが出来なかった。
エリザベス・ジョースターは、
マァムの負傷箇所を確認し、応急手当を施しながら硬く唇を噛む。
自分が居ながら、自分を信頼してくれた者の命を守ることが出来なかった。
――甘く、考えていたのか。
波紋使いのエキスパートだから。歴戦の戦士だから。誰よりも長く生きているから。
どれも理由にはならなかった。守るべき青年の命は奪われた。結果だけが、無残にも横たわる。
狂ったように西野が泣き続けている。横たわったマァムの身体は、半ば焦げかけている。
大柄な死体と、一人の青年の姿が重なって見えた。
シーザー・ツェペリ。
自分の弟子の一人であって、単独で敵との戦いに向かった後―― 殺された、青年。
"――何故戦力を分けようなどと思ったのか"
こうなる可能性は予測できた筈だ。一刻も早く、この場所に辿り着くべきだった。あの時も間に合わなかった。
救えなかった二人目の青年のことを思えば、身体から力が抜けそうになる。不甲斐なさに消し飛ばされそうになる。
歴戦の波紋戦士とはいえ、エリザベス・ジョースターも、一人の人間であるから。
然し――
「……追わなきゃ」
自分に割り当てられた武器――クリマタクトを握り締めると、西野はゆらりと立ち上がる。
流川楓の仇を、とらなければ。擦れ違いざまに見た黒い殺人鬼の表情を、思い出していた。
――唇の端の吊りあがった、悪魔のような笑み、ウォーズマンスマイル。
当の殺人鬼こそが恐怖と混乱に怯えていたことを、西野が知るよしもない。
彼女の目に焼きついているのは、彼女にとって重要なのは、あの黒い殺人鬼が"笑っていた"ことなのだ。
"――アイツは笑いながら流川君を殺した"
だから、私もアイツを笑いながら、殺害する。焼け焦げた流川の代わりに。
復讐は当然の報いのように、無論許される行為のように、感じられた。彼女は、狂いかけていた。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺――――
「待ちなさい」
今にも走り出しそうだったところに、暖かな掌が肩に触れるのを感じた。西野は力任せに振り払う。
自分と行動を共にしていた女性の掌だった。振り払われても、静かに立ち尽くし、西野を見据えている。
女の冷静な眼差しが、何処か達観したような眼差しが、酷く不快だった。人が一人死んでいるのに!
「うるさいッ!
リサリサさんも、見たでしょう。あの、黒の殺人鬼を。
アイツ、笑ってた!流川君をあんなに……あんなに無残に殺しておきながら、笑ってた!」
子供のように言葉を吐き棄てるたびに、涙の雫が辺りに飛び散った。
怒ってるの悲しいのか、良く分かりもしなかった。ただ、行き場のない感情をぶつける先が欲しかった。
「もう、耐えられない、私、耐えられないよ……
如何してあんなに簡単に人を殺せるの。如何してあんなに簡単に人が死んじゃうの。
こんな世界、早く抜け出したい。流川君が言ったとおり、全部夢ならいいのに……
私、もう……ごめんなさい」
言いたいだけ言って、背を向けて走り出そうとする。殺人鬼を追うために。
もう勝てなくても良かった。
もう生き残れなくても良かった。
もう、死んでしまっても良かった。
希望なんて、初めから用意されていなかったのだ。
「……私達は、生き残らなければなりません」
噛み締めるように吐き出されたリサリサの言葉を耳にして、西野は駆け出そうとした足を、止める。
腫れた目で振り返れば、リサリサの瞳は、悲しみと――決意に満ちていた。
「私たちが"生き残ったから"ではありません。
彼が――死んでしまった彼が命を張って"遺してくれたもの"が私達だからです」
立ち止まり、目を見開いた西野の掌を、リサリサは優しく包み込んだ。
「私も、マァムも、つかさ―― 貴方も。
遺された者は、渡されたものを未来に引き継がなければならない義務がある」
震える少女の肩を、静かに抱きしめた。殺意のタクトが地面に吸い込まれるように落下する。
「渡されたもの……」
如何すれば良いのか分からなかった。唯、女の胸の中で泣くことしか出来なかった。
震えて、怯えて、悲しんで――死ぬのだ。怖かった。リサリサのように、強くなれないのだ。
少女の弱さを、リサリサも理解していた。だからこそ、自分は強くあらねばならぬと思った。
涙を見せるわけにはいかぬ。あの時と、シーザーが死んだときと、同じように。
抱いた少女の身体を離し、其の整った瞳を覗き込む。
「貴方は貴方の命を粗末にしないこと。
彼の意思を――楓の意思を、高潔な魂を。私達は引き継がなければならないのですから」
リサリサの瞳は、優しく輝いて。
其れは、西野が流川の瞳の中に見たものに、似ていた。
(殺すつもりはなかった……本当に、オレは……!)
懺悔を繰り返しながら、ウォーズマンは走り続けた。知らぬ間に、山道に紛れ込んでいる。
乱雑に生い茂った草を力任せに千切り飛ばし、時には転びそうになりながらも、走り続けた。
瞳に焼きついた黒焦げの死骸。耳に木霊する少女の絶叫。振り払うことは出来なかった。
――オレガコロシタ
何が正義超人だ。何がファイティングコンピューターだ。何が。
――オレハ昔トナニモ変ワッチャアイナイ
視覚を司るカメラの前に、ジラジラとノイズが走った。既に消去した筈の映像が再生される。
血飛沫。
"昔のオレハどんなダッタ?"
鋭利な鋼の爪先。凶器ベアクロー。ノイズ。脳味噌を一突き。深くねじ込んで、抉り取る。
――ザンギャクチョウジン
ノイズ。ジラジラとした砂嵐の向こうに忘れていた過去。残虐超人。再起不能。一撃必殺。
「ウア……… チガウ、チガウ、オレはセイギ……
ウアアアアアアアアアア!」
叫び声を挙げながら、機人は走り続けた。逃げるように、耐え難い何かから逃げ出すように。
山道を、抜ける。獣のように、駆ける。
やがて叫ぶのも忘れた頃、ひっそりと佇む小屋を見つけた。長野の山奥。隠れるような山小屋。
(疲れた……頭もはっきりしない……ガー……
休養を取る必要がある……落ち着けば……キン肉マンに会えば……)
全力で喚きながら駆け回ったせいだろうか、何もかもが曖昧なノイズの向こう側の出来事のように思えた。
自分が無抵抗な誰かを殺してしまったことも。自分が凶悪な相手と戦ってきたことも。
キン肉マンに会えば。キン肉マンに、会えさえすれば。
何度か、呟くように繰り返した。唯一の希望。
血の雨を好む残虐超人だったオレが変われたのも、あの間抜け面の超人のおかげだった。
オレは、若しかしたら故障してしまったのかもしれない。首筋に、傷を受けて以来、オレはおかしくなってしまった。
けれど、キン肉マンに会えば。アイツなら……アイツなら、何とかしてくれる。
あの男のことを思い出すと、力が沸いてくるのを感じた。アイツに、会わなければ。
何度も何度も呟きながら、辿り着いた小屋の扉を――開いた。
ギィ、小屋の入り口に日の光が差した。全て、閉じられた窓。中は、暗かった。
何時の間にか高く昇った太陽は、空の真上に近く、小屋の奥には光が差し込まぬ。
――コレイジョウサキニ、ススムベキデハナイ
頭脳に埋め込まれたコンピュータが幾度も警告を発する。"何かが居る"。暗闇の中に。
構うものか、と勇気を振り絞る。どうせ何処に逃げても、逃げ場所などないのだ。
油断なく――出来れば頼りたくはなかったけれど――燃焼砲を構え、踏み込んだ。
(さあ、来るなら来い!オレはファイティングコンピューター!ウォーズマンだ!)
『―― やあ。待っていたよ。』
透き通るような声で、ココロに、踏み込んでくる。
『―― 朝方の機械の男だろうか?
その節は悪いことをしたね。また会いたいと思っていた』
揺れる椅子に、魔性の美を称えた男が、座っていた。優雅に。絵画のように。
恐怖が、抑えつけた筈の恐怖が、ココロの底から、湧き上がってくる。
『―― 何を、震えているのだい? 怖がることは何もないじゃないか。
名前を聞こうじゃないか、人と人との出会いには、必要なものだからね。
私は――』
凶悪な火炎放射機を突きつけられて。
人を殺すために生まれてきたような、凶悪なロボ超人を前にして。
微塵も臆すことなく、それどころか、男は優しげに、ウォーズマンに笑い掛けたのだ。
バタン。
扉の閉まる音が響き渡った。
【愛知県、春日井にある小さな公園/午前】
【マァム@ダイの大冒険】
[状態]全身各所に火傷(応急処置した)、気絶
[装備]アバンのしるし@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:気絶中
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(ダイ・ポップを優先)
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]三味線糸
[道具]荷物一式、流川楓の支給品と荷物(未確認)
[思考]1:マァムの回復を待つ
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]ショック状態、移動による疲労
[装備]天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
[道具]荷物一式
[思考]1:ショック状態
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(真中・東城・さつきを優先)
【愛知県と長野県の境(山中の廃屋)/昼】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右肘部から先を損失、腹部に貫通傷(出血は止まっている)
[装備]:忍具セット(手裏剣×9)@NARUTO
[道具]:荷物一式(食料(果物)を少し消費)
[思考]:1、日が暮れるまで廃屋で身を隠す。
2、参加者の血を吸い傷を癒す。
3、悪のカリスマ。ウォーズマンと会話する。
[備考]:廃屋の周囲の血痕は消してあります。
【ウォーズマン@キン肉マン】
[状態]疲労、精神不安定
[装備]燃焼砲(バーンバズーカ)@ONE PIECE
[道具]無し(荷物一式はトイレ内に放置)
[思考]流川殺害への後悔/DIOに対する恐怖
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最終更新:2024年03月20日 01:13