0340:大型殲滅兵器“ジーニアス”による被害報告 ◆saLB77XmnM




そしてこれはマジック&ウィザーズの基本知識になるのだが、ゲーム内で生け贄――破壊されたモンスターは、自軍の墓地へと置かれる。
その際モンスターに付けられた装備カードの類は手札に戻ることはなく、そのままモンスターと一緒に墓地に送られる。
つまりは、アミバの装備も一緒に。
ここで問題なのは、アミバの持っていた荷物。クリークの大盾はともかく、中にはとても衝撃に弱い代物が交じっている。
ジャスタウェイ――ちょっとの衝撃でも爆発は免れない、紛れもない"爆弾"である。
本来なら狙った標的一体に対し、生け贄にしたモンスターの攻撃力×2だけだが、今回はそれにジャスタウェイの爆発力が加算され……

「ヒャハハハハハハハハハハー!!! こいつぁスゲェ! 予想以上の威力だぜ!!」
結果、周囲を巻き込むほどの大爆発を巻き起こした。




あたり一面焼け野原とは、よく言ったものだった。
周囲には木々の残骸と燃え上がる炎、どす黒い硝煙に覆われ、数秒前までの森の形は見る影もなかった。
「ぐ……っくしょ……う」
倒れた木々の残骸から、立ち上がる人影が一つ。
「っ痛つ……ったく、一体何が起こったってんだ?」
荒っぽい動作で地表に立ち上がったのは、
あの瞬間アミバ(フレイザード)の標的となっていた世直しマンから一番遠く離れていた人物、桑原和真だった。
爆発の衝撃の際に身体を打ったのか、全身が軋むように痛む。
あの一秒にも満たない一瞬の中で、桑原は動くことしか出来なかった。といっても、完全に逃げ通せたわけでもない。
助かったのは、運がよかったとしか言いようがない。桑原はチッと舌打ちをしながらも、周囲を見渡し被害の状況を確認する。
「あ……うう……」
幸運なことに、すぐ近くの足元には翼が転がっていた。
桑原と同様に木の下敷きになっているが、どうにか自力で抜け出せる程度だ。
もしかしたら、この木がうまく爆発の衝撃を和らげてくれたのかもしれない。
「……無事か? 和真、翼」
桑原が翼を助け起こしている横から、三人目の生存者が姿を現した。
「JOJO君。よかった、君も無事で……」
「――空条!?」
空条承太郎は常の平然とした姿――とは言いがたかった。
もしかしなくても爆発による被害だろう。承太郎の左半身は焼け焦げ、むき出しになった左腕は見るに堪えない火傷で覆われていた。
「騒ぐな二人とも。少々しくじっちまったが、見た目ほど酷くはない」
「でもそれ……ひょっとしたらJOJO君、僕たちを守るために……?」
「な、そうなのかよ空条!?」
「JOJO君のスタンドなら、できるよね?」
珍しく、翼に感づかれた。
「……さすがにあれは俺としても予想外すぎたんでな。どうにか時を止めて、転がっていた大木を盾代わりにするくらいしかできなかった。
それで自分をカバーしきれなかったってんだから、笑っちまう」
そう言いながら、承太郎は苦笑する。
あの一瞬、『スタープラチナ・ザ・ワールド』で時を止めた承太郎は、
どうにか防御だけでもと思い、『スタープラチナ』のスピードを生かして身近にいた二人を大木で守った。
自分の左半身に当たるところまで防げなかったのが手痛いが、どうにか命は取り留めている。
問題なのは、『スタープラチナ』でもカバーしきれなかったあちらの方。
世直しマンは……世直しマンたちは無事なのか!?」
叫ぶ桑原に、反応は返ってこない。次第に黒煙が晴れていき、

「……くっそ」
「一体……何が……」
大事無い身体で静かに起き上がるボンチュー、ルキアと、

「………………」
その二人を覆うように仁王立ちした、世直しマンの姿があった。

世直しマン……?」
その存在に気づいた者が、一人二人と声をかける。しかし、それらに対する返事はない。
よく見れば、世直しマンを覆っていた煌びやかな鎧は継ぎ接ぎのように剥がれ、半壊していた。
ピッコロとの戦闘においても損傷らしい損傷のなかった、あの世直しマンの鎧が。
世直しマン……?」
鎧の半壊は、爆発による威力の大きさを物語っていた。
そして、鎧を半壊させるほどまでの衝撃を受けた中身――世直しマンは無事なのかどうか。
世直しマン……!」
返らぬ返事が、一同を不安にさせた。


「………………がはっ」

静かに漏れた呻きと共に、宇宙をまたに駆けるヒーローの足は、折れた。

「世直しマァァァァァァンッ!!!」
絶叫が木霊した。


「……説明してくれ、空条。さっきの一瞬、一体何が起こったってんだ?」
状況の解析を求める桑原ら四名の視線が、『スタープラチナ』を通して全てを見ていた承太郎に向いた。
「あっちの方角に反り立った丘が見えるだろう? あそこから俺たちが追っていたアミバが飛んできた」
「飛んできたって……?」
「そのまま文字通り、"飛んできた"んだ。その丘の上には、ぼんやりとだが人影も確認した。おそらくは」
フレイザード!」
該当する人物は、もはや一人しかいない。
「おそらくは何か特殊な支給品を使ったはずだ。
あの姑息な自称天才が、自分の身を捨ててまで俺たちを殺そうなんて思うはずもないからな」
「となると……全部そのフレイザードって奴がけしかけたってわけか」
「………………許せん!」
結論は推測の域を出ないが、『スタープラチナ』の見た先に誰かがいたというのなら、そいつが黒幕である可能性が高い。

「……お? おいッ!? どこ行くんだボンチュー、朽木!?」
そして、そいつは紛れもなく。
「……フレイザードは」「俺たちの敵だ」
穏やかに、それでいて底知れぬ怒りを含めた声で、ボンチューとルキアが言う。
二人が足を向けた先は、アミバが発射された方角。
まだそこにいるであろう、まだ殺しの余韻を味わっているであろう真の悪に、怒りをぶつけて。

「まさか……戦いにいくつもりか!?」
世直しマンを襲った突然の悲劇に、二人の感情は抑えが利かなくなっていた。
もちろん、この男も。
「……おもしれぇ! なら俺も行くぜ!! この桑原和真様をコケにしたヤローだ、直々にぶっ飛ばしてやらなきゃ気が……」
「和真、おまえは駄目だ」
意気揚々と戦意を向上させる桑原に、承太郎の冷静な横槍が入った。
「っなんでだよ空条!?」
「今の爆発で他の誰かが寄ってくる可能性がある。ここからはさっさと離れた方がいい。おまえは世直しマンを運んでやってくれ」
「そんくらいテメー……!」
言いかけて、桑原は気づいた。
承太郎の焼け焦げた左半身。そうなのだ。彼とて重傷の身。今でこそ平然と話しているが、ダメージは確かに負っているはず。
重傷者二人を翼に任せて放置など、危険極まりない。
だったらいっそ全員で、とも思ったが、ボンチューとルキアはもはや承太郎の言うことなど聞くつもりはなかった。
今、もっとも"ホット"なのはこの二人。桑原の方が、まだ微かに"クール"だった。

「ちっ、しゃあねぇな」
妥協した桑原は、気持ちを落ち着かせてボンチューの方を見やった。
「ならせめて、これを持っていきな。いくらなんでも丸腰じゃあつれぇだろ」
「……こ、これは――!?」
桑原はボンチューに向けて渡したかったのだが、その刀に驚嘆の声を漏らしたのは、死神を名乗るルキアだった。
斬魄刀。死神が虚を狩るために用いる専用の刀である。

「これを私に貸してくれ!」
ルキアはやや強引に斬魄刀を奪い取ると、すぐに刀との『対話』を始めた。
通常、死神の持つ斬魄刀は『始解』を行うまでは皆同じ形状で留まっている。
故に、死神は刀と『対話』をし、名前を聞くことでその斬魄刀が誰のものか識別するのである。
「……やはり私の持つ『袖白雪』!」
その刀の正体は、ルキアが愛用する、現在尸魂界で最も美しいとされる斬魄刀だった。
「なんだぁ? こいつは元々朽木の刀だったのか? だったら遠慮することはねぇ。持っていきな」
「すまない……だがこれがあればなんとも心強い。恩に着るぞ!」
そう言って、ルキアは斬魄刀を握り走り出していった。
後に続こうとするボンチューが、
「…………世直しマンのこと、頼んだぜ」
「わぁってるよ。俺の名に懸けて、死なせやしねぇ」
桑原にそれだけ言い残し、去っていった。


そんな光景を陰から覗く男が一人。
「…………」
近場で起こった爆発に引かれ、様子を窺う男は、どうするかを思案していた。
(……相手は四人。しかも全員怪我人じゃないか)
これはさすがに有利すぎる……絶好のチャンスとも言える。
(どうする……やるか? 俺にやれるか?)
悩む男は、志半ばに散っていった友のことを思い出し、

(……いや、俺がやらなきゃいけないんだよ)
意を決して、陰から飛び出した。


ボンチューとルキアが去って数分後。
「やいやいやいやいやい!」
世直しマンを担ごうとしていた桑原達の前に、新たな来訪者が現れた。

「あとで絶対に生き返らせてやるから、ここは黙って俺に殺されな!」
拳法着に身を包み、意気揚々とおかしな発言をする男に、皆は訝しげな視線を送る。
特に桑原は、ヤンキーらしい睨みを利かせた目付きで牽制する。
「……誰だテメー」

「俺様の名前はヤムチャ! 地球人の中で一番強い男だ!!」

電波かなにかなのか。それとも、翼と同じように『クレイジー』な人種なのだろうか。
心中で早くも「やれやれだぜ」と呟く承太郎の横で、抑えが利かなくなった男はついにぶちギレた。
今回は承太郎が止める理由はない。というよりもむしろ、ここを満足にやり過ごすには桑原の力が不可欠だった。

「……俺は今最高にキテるからよ……あんまふざけたこと言ってると……」

ぷるぷる震える桑原の拳を見て、承太郎はまた呟いた。

「ぶっ飛ばすぞゴラアアアアアァァァァァァァァァァアァァ!!!」


「…………やれやれだぜ」




舞台は再び薄暗い森の中へと突入していた。
どこかに潜んでいるであろうフレイザードを探し、疾走するボンチューとルキア。
暗闇からの奇襲など恐れず、目指すは敵の影唯一つ。かならず見つけ出し、今すぐ倒す。

『オオオオオオオオオオオーン!!』
「――!」
けたたましい雄叫びと共に、併走する二人の横合いから、一体の巨大な陸亀が飛び出してきた。
重厚ながらも速度には欠ける陸亀の突進をかわし、すぐさま臨戦態勢を取る二人。フレイザードの影は、未だなかった。
「ちっ、なんだコイツは!?」
「うろたえるな! こやつはおそらく、フレイザードの使役するモンスター! まだ海馬瀬人のカードが残っていたのか!」
事態の把握を迅速に済ませ、現れた陸亀を敵と認識して構えなおすボンチュー。拳を繰り出す。

「ボボンチュー!!」
のろまな陸亀相手に、ボンチューの連続パンチは一つも外れることはなかった。が、
「っぐ……硬ぇ!?」
その装甲に、ボンチューの拳は弾かれてしまった。
カタパルトタートル。攻撃役よりも防御に特化したモンスター。守備力2000は伊達ではない。

「馬鹿者! 甲羅といえば亀の身体を覆う一番硬い部分! 小学校の理化で習わなかったのか!?」
「るせぇ!! 俺はまだ7歳だっつーの!」
戦闘中ながらも、ボンチューに学がないことをいじるルキア。だがそれは余裕の表れでもある。

「君臨者よ!」
この手の敵、少し考えれば弱点など一目瞭然。
「血肉の仮面、万象、羽搏き、ヒトの名を冠する者よ!」
虚との戦いで培ってきた観察力は、ルキアの手を早める。
「焦熱と争乱、海隔てて逆巻き南へと歩を進めよ!」
両の掌を翳し、陸亀へと向けて放つ。

「破道の三十一、赤火砲!!」

ルキアが放った死神の攻撃手段、『鬼道』は陸亀の足元を狙い撃ち、その身体を衝撃で浮かせる。
一瞬、陸亀の身体が起き上がり、腹を見せた。甲羅に覆われていない、腹が。
「今だ!」
ルキアの掛け声と同時に、ボンチューが詰め寄る。
そして、相手の腹部目掛けて、

「ボーン!」
強烈なアッパーカット。陸亀の天地を完全に逆転させ、
「チュー!」
上空から、握り合わせた両拳をハンマーのように打ち下ろす。
それを無防備な腹部で受け止めた陸亀は成す術もなく、咆哮を最後に消滅した。
幻獣王ガゼルの時と一緒だった。召喚されたモンスターはその生を終えた時、カード共に消滅する。
そして、カードの弾ける音はすぐ近くで聞こえた。

「ヒャハハハー! やるじゃねぇか、だがこれで終わりだぜェ!!」

草むらの陰で、フレイザードがパンツァーファウストを構えて笑っていた。

撃ち出された100mm弾は、森を燃やし赤くする。
その場には、笑う氷炎将軍と、
「ヒャハ?」

周囲の炎以上に、怒りに身を滾らせる男女が一組。

フレイザード……!」
因縁の戦いが始まろうとしていた。




「霊剣!」
桑原が突き出す刺突は、一直線に伸びながらヤムチャへと放たれる。
「な、な、な!?」
「もっとだ!もっと伸びやがれ霊剣!」
それをバックステップで後方に避けようとしたヤムチャだったが、霊剣は伸びることをやめず、しつこく迫ってくる。
(なんだコイツの武器は!? 悟空の持っていた如意棒みたいに、伸縮自在なのか!?)
ならば、回避方向は横しかない。ヤムチャは霊剣の刺突を左にかわし、すぐさま桑原へと駆け出す。
「ぬらぁっ!!」
だが、今度は横合いから霊剣の薙ぎ払いがきた。かわすのは雑作もないが、なかなか相手との距離を縮めることが出来ない。
(クソッ、ならここは一発、遠距離から特大のかめはめ波で……って、まだうまく気が引き出せなかったんだよな俺!)
攻めあぐねいているヤムチャを尻目に、桑原は霊剣による攻撃をやめない。

戦況は桑原の優勢に思えたが、傍観者である承太郎は一人難しい顔をしていた。
「……マズイな」
「なにがマズイの、JOJO君? 桑原君の方が優勢に見えるけど」
疑問に思う翼に、承太郎は苦しそうな息を吐いて答える。
「表向きはそう見えるが、和真の方はだいぶ疲労が溜まっている。このままじゃあいつか息切れを起こすぜ」
考えてみれば、桑原は一日目が始まってから碌に休息を取っていない。
重傷を負うような戦闘はなかったが、体力は既に限界が近いはずだ。
「それにあのヤムチャという男、力の全部を出し切っているようには見えねぇ。まだいくつか、切り札を隠し持っている風だぜ」
霊剣を避けながら不恰好なダンスを踊るヤムチャにも、承太郎は眼を曇らせたりはしなかった。
冷静に分析して、あの男は強い。ならば、打開策が必要だ。
そう考えている矢先、ついに均衡が破られた。

「狼牙風風拳!」
ヤムチャの狼を模した拳の連激は、懐から桑原を強打する。
いつの間に懐まで間合いを詰めたのか、やはりこの男、計り知れない。
だが、この攻撃の成功に一番驚いているのは、他ならぬヤムチャ本人だった。
(……今のスピード……)
一瞬だったが、足が不自然に軽くなったような気がした。
(……ひょっとして、大蛇丸の封印が解けたのか?)

立ったままダメージに耐える桑原を尻目に、ヤムチャの表情は徐々に緩み始めていた。

「……翼、突然だがサッカーでは、特にキャプテンの地位に立つ者には、
フィールドの状況を正確に判断し、的確な指示を出すことが出来る観察力と判断力が必須だ。そうだろう?」
「え? う、うん。その通りだよ」
承太郎から急に振られるサッカーの話に戸惑いながらも、翼は無碍に聞き逃したりはしなかった。
サッカーとなれば、翼が黙っているはずもない。
「おまえのその観察力を見込んで訊きたい。あの敵を見て、何か気づいたことはないか?」
「気づいたことって……体術はすごいけど、どこか危なっかしいって言うか……」
「そういうことだ。どんな些細なことでもいい。奴の動きから弱点を捜し当て、勝機を見つけるんだ。
じゃなけりゃこの戦い、負けるぜ」
承太郎とて、なにも桑原に全てを任せるつもりはない。この場を凌ぐには、桑原、承太郎、翼、三人の力が必要だ。
普段サッカーで培われた観察力を生かし、翼はじっとヤムチャを注視する。

「おらおらおらぁ! どうしたどうした! 攻撃が止まりだしたぜ!」
「ちぃ、あんま調子乗んじゃねぇぞ!!!」
戦況は一転し、桑原は防御に徹していた。
それをいいことに怒涛のラッシュを仕掛けるヤムチャの手は、眼にも留まらぬ速さだった。
確かに、この男は強い。先ほど承太郎が言った台詞も頷ける。
「あっ」
そこで、翼は気づいた。
ヤムチャの、弱点と呼べる一点に。

「足元がお留守だ」

翼の呟きを元に、承太郎はヤムチャの足元へと視線をやる。
「なるほど……あのヤローは攻撃に集中する一方、妙にフットワークが悪い。そこを突けば、勝機はあるな」
分析を迅速に済ませ、承太郎は次なる策に出る。
「翼、おまえにこれを渡しておく」
「え?これって……!」
承太郎の差し出したそれに、翼は思わず眼を見開いた。
荒々しい木目の残る、凹凸塗れのかろうじて球と呼べる物体。大きさはちょうど、『翼の友達』と同程度。
「忘れたか翼? 俺の『スタープラチナ』は精密作業をも得意とする。これくらい朝飯前さ」
それは、爆発の際に破砕した木を利用して作った、承太郎お手製簡易サッカーボールだった。
「おまえにはこれを使ってあることをやってもらう……わかるな翼?」
「うん! 任せてよJOJO君!」
立ち上がり、翼はピッチに立つ。
戦場という名のフィールドに、一人のキャプテンが降り立った。




「ヒャダルコォ!!」
凍てつく氷の礫が、ボンチューとルキアを襲う。
「――なめんなよ!」
「貴様の手の内など、もはや完璧に把握しておるわ!」
繰り出される攻撃にも、ボンチューとルキアは焦らず対処した。
フレイザードが炎と氷を扱うことは既に今までの戦闘で分かりきっている。ならば、幾分か避けやすい。
「ちぃ! テメーら、あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
敵は雑魚二人――だからこそ、フレイザードはこうやって堂々と姿を現し、血祭りにあげてやることを選択した。
疲弊を抑えるため、なるべく大技は使わないよう攻撃は中級呪文に限定し、宝貝も使わないよう努力したが、
「ボボンチュー!!」
「赤火砲!!」
(こいつら――想像していたよりも強え!?)
まったくのイレギュラーな事態に、フレイザードは頭を困惑させていた。
このまま二人を相手にするのは、さすがに骨が折れる。
追撃してこないところ見ると世直しマンは再起不能のようだし、ここは一度退くべきか。
(こんな奴ら、いつでも殺せる。こんなところで無駄な体力使っている暇は……)
思案中にも、相手は攻撃の手を休めない。

「ボボン!!」
高速でフレイザードの後方に回り込んだボンチューは、怒りという重さを乗せたパンチを叩き込む。
「チュラアアァアアァアァァァァアァァ!!!」
一撃、一撃、一撃、一撃、また一撃。
常人離れしたボンチューの拳は、フレイザードに確実なダメージを負わせていく。
「くそぉ!」
纏わりついたボンチューを腕で薙ぎ払い、フレイザードは体勢を整えようとするが、

「舞え、『袖白雪』」

生憎――敵は一人ではない。

フレイザードの前方には、斬魄刀『袖白雪』を解放し、その白い刀身を振るっているルキアの姿があった。
その穢れのない白き一閃は、フレイザードを縦に一刀両断する。

もちろん避けた。が、中途半端に避けたためか、ルキアの一閃はフレイザードの身体を斜めに傷つける形となった。
「グギャアッ――!!?」
血こそ流れなかったが、その痛みと苦しみは、人間が感じるものとほぼ同種。フレイザードは、確かな深手を負った。
「皆の仇――今ここで取らせてもらう!」
ルキアの猛攻は、まだ止まない。
刀の切っ先を地に向け、苦しむフレイザードを囲うように円形に斬撃を与える。
これが、『袖白雪』の能力発動に於ける布石。

「初の舞・月白」

その声と共に、円形に覆われた天地を、フレイザードごと氷漬けにしてしまった。
氷雪系斬魄刀『袖白雪』。その純白のイメージ通り、氷を操る能力を持つ。

一瞬の内に、その強大な冷気がフレイザードを閉じ込める。完全凍結とまではいかなかったが、十分なほどに自由は奪った。
そう、元より、氷を支配し炎の半身を持つフレイザードに、『袖白雪』の能力だけで勝てるとは思っていない。
相手の身動きを封じ、確実な打撃を与える一瞬を得る。それこそが、ルキアの真の狙いだった。

フレイザード……」
氷で全身の八割を覆われ、身動きをとることができないフレイザードに、ルキアが幽鬼のように歩み寄る。
「あの天然パーマの男……海馬瀬人……エテ吉……そして、世直しマン
彼女を支配する感情は、怒り唯一つ。
フレイザードはこの時、生命に死を齎す絶対的存在――『死神』を前にしたのである。

「皆の仇、今ここで取る!」

死神、朽木ルキアの刃が迫る。
悪行を重ねてきた絶対悪を打ち砕こうと、迫る。

――あ、あ、あ、

栄光が、遠ざかる音が聞こえた。
勝利が、崩れ去ろうとしていた。
バーン様の、蔑む顔が見えた。

――俺は、こんなところじゃ終われねぇ!

フレイザードの強さは、その残虐なまでの執念と、栄光への執着心にある。

――俺はまだ、強くなる!

どこぞの天才のように慢心し、愚直な行動を取ることなどなかった。
この戦いにも、勝算があったから臨んだはずだ。

――メラ!

迫る刃から眼を離さず、フレイザードは唱える。

――ヒャド!

練習どおり、今まで積み重ねてきた努力を重ねる。

――混ざって、弾けろ!

途端、
フレイザードを覆っていた氷が、爆散した。

その閃光と衝撃に、刃を振り下ろそうとしたルキアは吹き飛ばされた。
地べたに尻餅をつき、何が起こったかを確認するため、視線を前方に向けると、
「なっ…………!?」
驚愕と共に、フレイザードを包んでいた氷が、跡形も無く消え去っていたのを見た。

「メラ! ヒャド!」
氷漬けから解き放たれたフレイザードが、さらに唱える。
「メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! 
 メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド! メラ! ヒャド!」
何回も唱え続け、乱暴に魔力を繋ぎ合せる。炎と氷、二つの下級呪文を。

「ルキア、なんかヤベーぞアイツ! 早くそこから離れろ!!」
フレイザードのすぐ傍にいるルキアに対し、ボンチューが忠告するが、
「何を言う! こやつにとどめを刺すのは、今しかない!!」
ルキアはあと一歩というところまで追い詰めた標的から、退こうとしない。
再び『袖白雪』を振り上げ、フレイザードに斬りかかろうとするその刹那、

フレイザードが、笑った。
「――完成だ」
「――ッ!?」
フレイザードの右手と左手、そこに集まった炎と氷の魔力が合わさり、弾け、放出される。
ルキア目掛けて。


「ルキアァァァァァ!!!」

ボンチューの叫び声があがった頃には、ルキアはその身を地に転がしていた。
合成された魔力の波動を一身に受け、甚大なダメージを負って。

「……やった」
ボンチュー絶叫の最中、フレイザードは小さく呟く。
「……やりやがったぜ」
そして、笑う。
「やりやがったぜェェー!! さすがは俺様だァァァ!!!」
呵呵大笑しながら、はしゃぎ回る。
もう一人の敵など、歯牙にもかけず。

――……おい、嘘だろ?

ボンチューは、自分の眼が見た光景に信じられず、思わず問いかける。

――守るって、決めたんだよ。

――失わないって決めたんだよ。

――誰にも負けないって……

悲しみと怒りが、人の死に対する当たり前の感情が、湧き上がる。
ボンチューの場合はそれに加えて、守れなかったことへの背徳感――否、『敗北感』をいっそう滾らせて。
再び、叫ぶ。

「…………フゥレイザァァァドォォォォォ!!!」

その怒声により、フレイザードはやっとボンチューを視界に入れる。
「ヒャハハハ、そういやもう一匹いたんだったな。いいぜ、こいつの試し撃ちに使ってやる!」

戦いは、第二ラウンドを迎えようとしていた。




「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
けたたましい雄叫びと共に、翼が駆け出す。
足元には、承太郎が『スタープラチナ』を使って作り出した(削り出した)お手製サッカーボール。
サッカーボールと呼ぶにはあまりにも粗末で、重さ、強度、弾力性から見ても、とてもスポーツとして使うボールとは認められない。
だが、問題ない。これを叩き込む先は敵チームのゴールではなく、敵プレイヤーの足元――つまり、ヤムチャの。

翼の足元に火花が散ったような錯覚が見え、同時に懐かしくもどこか違った感触を思い出す。
大空翼必殺のドライブシュート。その鋭い弾道と回転力は、常人の眼に留まるものではない。
「ん、なんだ?」
常人と呼ぶにはあまりに逸脱しているヤムチャだったが、
『足元がお留守』な彼は、地面擦れ擦れを飛ぶ木製サッカーボールに気づくことができなかった。
「おわっ!?」
ただでさえ夜の森は視界が悪い。加えて翼の正確無比なコントロールは、狂うことなくヤムチャの足を狙い、命中させた。
結果として、ヤムチャはすっ転んだわけである。

「ってて……いったいなんだっていうんだ?」
浮かれてはいたが、多少は戦闘中であるという緊張感があるのだろうか。すぐさま起き上がり、体勢を整える。
そして気づいた。さっきの一瞬、攻撃を加えるには絶好のチャンスであったにも関わらず、
対戦者の桑原は何もせず、自分から距離を取っていたことに。


「足元がお留守だぜ」


不意にした声は、すぐ後ろから聞こえた。
いつの間に――と思う刹那、

    ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「そして、後方不注意だ」

振り向くと、そこには学ランの男ともう一人――フリーザの仲間とも思える、宇宙人のような人物がいた。

「オラァ!」
その名を『スタープラチナ』。
本来、スタンド使いでなければ見ることも叶わない影の分身は、"敵"に向けて拳を叩き込む。
ただひたすらに、持てる全ての力を出し切り、この男を行動不能にするために!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!」

まだ、まだ足りない。ここは自分の生命をすり減らしてでも、黙らせる。この男を!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ! 」


――叩き込まれる拳。その全ては、ヤムチャへと命中した。
『スタープラチナ(星の白金)』。ずば抜けたパワーとスピード、そして正確さを誇る、空条承太郎のスタンド。
その真骨頂こそが、この連打(ラッシュ)なのだ。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年06月21日 00:16