0383:インフェルノ ◆Oz/IrSKs9w
砂塵から姿を現す、強い生きる意志を胸に宿したルフィ。
その体から溢れ出す、まるでそれは、ルフィの“覚悟”が具現化されたかのように。
ルフィの全身からは――強い水蒸気の様な煙が、大量に立ち昇っていた。
「よっ…と。………なんなんだそりゃ?ルフィ」
「…………ん?何がだ?」
ルフィの体に起きている異変。悟空は折れた電柱を隣に投げ捨てると、ルフィの前方10メートル程の地面に降り立つ。
「おいおい…勘弁してくれよ。まさか派手に自爆して、道連れにしようとか考えてるんじゃねぇか?」
「………は?」
体全体から溢れ出る白い煙。
ルフィの肌は40℃以上の高熱が出ているかのように赤みが差し、
悟空の言葉の通り…今にも『大爆発』を起こしそうにも見える、異常な風貌である。
「なに言ってんだよ悟空………って?ウワッ!?何だ何だ!?どーしちまったんだよ、オレの体…!!」
自身の異変に気が付かないほどの興奮状態だったのか、
悟空の問い掛けが理解出来ないと言ったような侮然とした面持ちで自分の両腕を顔前に掲げて見、
そこで初めて『それ』に気付き慌てふためく。
両腕からも次々に煙が立ち昇り、それは自分の意思で止める事も抑える事も出来ない。
「………わざとじゃねえのか?………フハハハハッ!やっぱお前、おもしれーカラダしてんだなぁ!」
「わざとなワケねぇじゃねーかッ!なんか体がアチーし!?おい!止まれ!止まれったら!!」
ルフィは必死に体のあちこちを掌で押さえて煙を止めようと試みるが、その現象にはまるで効果は無く。
「ハッハッハッ!!いーじゃねーか!何か強そうに見えるぜ?『燃える男』って感じで」
「………燃える男?…強そう…?」
「ああ」
楽しげに笑いを上げながらの悟空のその指摘に、ルフィの目の奥で一瞬…怪しい光がキュピーンと光る。
「よし!!ならいい!!さ、続き始めようぜ悟空!」
鼻息を荒らくし、満面の笑みを浮かべて腕をグルグル回すルフィ。
「おーし!仕切り直しだな。今度こそ、オレを楽しませてくれよ?」
「ざけんじゃねぇ!へへ…!」
ルフィは回す腕を止めて両拳を顔の前でガキ!と合わせ、再び戦闘態勢に入る。
悟空も、そしてルフィも、笑顔。
どちらも、悲壮さを微塵も感じさせない…期待に満ちた笑顔を向け合う。
もしこの場に第三者がいたとするなら、この二人を見て『狂ってる』とでも吐き捨てるかもしれない。
しかし、それでもこの二人は気にも止めないだろう。
強き敵と戦う。それは、悟空にとっては至高の喜び。ルフィにとっても、小細工無しの力比べは楽しくて仕方のない物。
二人を止める事の出来る者はこの世に存在しない。
激しさをさらに増していく豪雨さえも、二人の障害にはなりもしない…!
「今度は……オレから行くぞッ!!」
「来い!悟空ッッ!!」
初めて悟空が先に仕掛ける。地を強く蹴りつけて一直線にルフィ目がけて突進。
対するは、真上に両腕をグングン伸ばしていくルフィ。
「自分の技…食らってみろッ!!」
ズンッ!!!
悟空は光の如きスピードで突進し、一瞬でルフィの鼻先まで迫る。そしてルフィの頭に直撃する、悟空の岩をも砕くヘッドバッド。
…いや、砕けたのは…ルフィの背後の壁。
コンクリートの壁に悟空のその石頭をほとんどめり込ませ、そこを中心に花が咲くように巨大な亀裂が走る。
「ゴムゴムのッ!」
「ふん!上かッ!?」
豆腐の壁から出るかのように容易く頭を出し、その頭上を見上げる。
ルフィはビルの屋上の縁に指を掛け、腕を一気に縮めて急上昇していた。
すぐに屋上から指を離し、自由落下しながら右足を振り上げる。
「伸びる踏みつけだな!?あめぇッ!!」
「…“スタンプ”ッッ!!」
ルフィの位置から攻撃の軌道を瞬時に判断し、それに当たらない角度を付けて斜めに舞空術で急上昇!
ドガンッッ!!!
「…………な……?」
悟空の予定通り、真下に伸びた足は悟空には当たらなかった。
しかし……
「………あれ?」
ルフィは、悟空が斜めに飛び上がる様を見てこちらも軌道を予測。
飛ぶ悟空と伸びる足の軌道が交わるように、攻撃を繰り出した。
「………何だ、今のスピードは…!?」
伸びた足は、悟空の頭上をかすめ、コンクリートの地面に突き刺さった。
今までのルフィの数々の技とは比べ物にならない…
ルフィ自身が思いもよらない次元の違う“超速度”で足が伸び、悟空に当たる事無く地面に突き刺さったのだ。
「今の“スタンプ”……なんなんだ…!?」
「たまげたぜ……ルフィ!」
「よし!もういっちょ!ゴムゴムのォ…!」
地面から離れた右足が縮みきるのを待つ間も無く、反対の左足を振り上げて頭上に伸ばし、狙いを再び定める。
「…!!させねえっ!!」
そのルフィの動作を中断させるべく、悟空は一気に間合いを詰めんと舞い上がる。
「…“斧”(おの)オオッ!!」
「……く!!?」
ズドン!!!
「………か……は…!?」
悟空の右肩に、ルフィのカカトが食い込む。
もはやその“斧”は“光の斧”。
伸ばした足を一気に縮めて放つその強力なカカト落としは、悟空に全く回避の余裕を与えずに人知を越えたスピードで突き刺さった。
「ぐ……!また…はえぇ…ッ!?」
「うおおおおッッ!!」
「クッ!?」
悟空が顔を上げた先、ビルの壁を足蹴にしてロケットのように突進するルフィの姿。
「“銃”(ピストル)ッ!!」
「ガッ!!?」
ルフィの肩口に構えられた拳が姿を消し、一瞬で悟空の腹部へと衝撃が走る。
「カハ…ッ!ちッ!“太陽拳”ッ!!」
さらなる追撃を防ぐべく両手を額に翳し、掛け声と共に放たれる鋭い閃光。
「うわっ!?目がッ!!?」
その閃光は見開かれていたルフィの両の目に焼き付き、一時的に視力を奪う。
「セヤァーーッッ!!」
「グ、は…ッ!?」
悟空は目を庇いうつ向いたルフィの腹部に蹴り上げを放ち、思いきりつま先をねじ込んだ体を勢いのままビル壁へと叩き付ける。
「か、め、は、め……」
「クゥ…!ゴムゴムのぉ……」
そのまま流れるような動作で必殺の構えに入り、掛け声を始める悟空――
――壁に叩き付けられ空中に跳ね返った勢いを殺さぬまま全身をクルクル回転させ始め、徐々にその回転速度を上げていくルフィ…!!
「波ああああああああッッッ!!!」
「“花火”いいいいいいッッッ!!!」
目が見えずとも関係の無い、360度全方向が射程の両手両足による無差別ラッシュが悟空の顔に、腹に、肩に、ぶち込まれる。
しかしその凶悪な“花火”の中心であるルフィ本体に巨大な気の大砲が直撃し、
ルフィはビルの窓を突き破り、さらには奥の壁をも容易く貫通して遠くに吹き飛ばされていく…!
悟空の体はかめはめ波を中断させられ真下の大地へと力無く落ちてゆき……
ルフィの体はビルを抜けた向こうの林の中へと消えてゆく……
――――あー、楽しいなあ…
ルフィのヤツなら…あんなんじゃまだくたばっちまうはずもねぇ。
オラやっぱ、つええヤツと戦ってる時が……
………“オラ”?何言ってんだ、オレは。
きりきりきりきりきりきり。
どこかで聞いた覚えのある、耳障りな音が聞こえてくる。
――いてえ。なんかまた頭がいてえ。
きりきりきりきりきりきり。
――なんだよ、分かってるって。地球人さえ全部殺しちまえば…このモヤモヤも、スッキリするんだ。
地面に大の字に寝そべったまま、その全身に雨を受け続ける。
孫悟空の身に宿りし地獄の業火の化身は、狂おしいまでの熱量の猛りをいまだ陰らせもせず――
「―――ルフィ」
「ん?…あ、悟空」
強い雨風に揺られる木々に囲まれた土の地面に倒れるルフィの、その横に降り立つ悟空の姿。
ルフィは「よっ」と勢いを付け立ち上がり、麦わら帽子を地面から拾い上げる。
「ルフィ、最後にもう一度だけ聞く……オレと一緒に来ないか?」
強い風にかき消される事も無い、透き通るような声で語りかける。
「いやだ」
「………頑固なヤツだなあ、おめぇは……なんでそんなに地球人なんかの肩を持つんだよ?
おめぇと違って、何にも出来ねえ脆弱なやつらじゃねえか。
あんなヤツらは仲間にする価値もねぇ」
帽子を大切そうに手に持ち、軽く砂を払い頭に乗せる。
ルフィは少し空を見上げ、降り続く雨をぼんやりと見つめる。
「オレは、なんにもできねえんだ」
「………」
「料理も作れねえし、病気や怪我も医者みてえに治せねえ。航海術も知らねえし、嘘もつけねえし、頭もわりぃ」
悟空には視線を向けぬまま、空に向けて淡々と話し続ける。
「オレは仲間に助けてもらわねえと、生きていけねぇ自信がある」
「……言いてえ事が、よく分かんねえよ」
構える事もなく、ルフィのその顔をじっと見つめ続ける悟空。
――悟空、そんなのも直せねえのかよ?情けねえなぁ…ハハハ!ちょっと貸してみろって!
――悟空さ~!晩飯が出来ただよーっ!?
――孫君、ほら、ここを押したら……ね?簡単でしょ?この光ってるのが四星球よ。
(………なんだ、今のは)
脳裏をよぎる、どこかで聞いた声たち。いつの日かの、遠い過去の景色。
「………るせえ……!」
「……ん?」
「……うるせえって言ってんだ!!」
前ぶれもなくいきなり怒号を上げ、ルフィの頬に大振りの拳を叩き付ける。
「ギッ…!?このやろッ!!」
「ガッ!?」
拳をモロに打ち込まれながらも、ルフィもお返しとばかりに悟空の横っ面に拳のカウンターを決める。
吹き飛ぶ両者は互いに尻餅を突き、服を泥まみれにする。
「く……もういい!ルフィ!決着を付けてやる!おめぇも!地球人も!みんなみんな皆殺しだッッ!!」
暗雲に小さく轟く雷鳴は、その獣の咆吼を飲み込んで唸り続けていた。
頭に。腹に。脇に。腕に。足に。
その弾丸は絶え間無く浴びせられる。
「ッッ!!がッ!!グアッ!!」
「食らえエエッッ!!」
「やめ…グハアッ!?」
それはまるで、サッカーの壁蹴り練習のように。
木製サッカーボールは寸分違わず的確に
友情マンの体に激突し続け、そのボールは必ず持ち主の場所にリバウンドする。
最初に後頭部への強烈な一撃を受け、
友情マンの平衡感覚は失われていた。
最初のダメージ自体はそれほどでもない。
本来ならばその脳へのダメージも、時間が経てばすぐに治まる程度の軽い脳震盪(のうしんとう)である。
しかし、時間が空く事無く続け様に第二撃。第三撃。
回避も抵抗もままならず、翼の蹴るボールはサンドバッグのように一方的に
友情マンの体を痛め付けている。
(やばい!何だこれは!?あの無力そうだった彼が…まさか、こんな…!?か、回避を…!!)
肺の辺りにも直撃し、呼吸もままならない
友情マン。
その顔は腫れ上がり、唇が切れて血の味がしていた。
「ヤアッッ!!」
「グアッ!?う、腕が…ッ!?」
迫り来るボールに向けて手を差し出して直撃を防ごうとするが、
焦点の合わない目ではボールが分裂しているかのように見えてしまい距離感も掴めない。
キャッチに失敗したボールが
友情マンの左腕に当たり、腕が有り得ない方向に曲がる。
(死ぬ、死んでしまう!!有り得ない!何なんだ彼は!?こんな硬いボールが有ってたまるか!なんで彼の脚は平気なんだ!?)
「ブチャラティ君の……カタキだあああっっ!!!」
翼の顔は怒りに染まり、その怒りは黄金の右足に伝導する。
弧を描き帰ってきたボールめがけて飛び上がり、バク転。空中からのオーバーヘッド!
(何とか、何とかしないと!!)
焦燥に駆られ、足が勝手にじりじりと後退していく。
このままだと、確実に死ぬ。
友情マンはこの怒れる青年に“恐怖”すら覚え始めていた。
体の隅々まで行き渡る焼けつくような痛みはまるで地獄の業火のようであり、それは
友情マンを今にも焼き尽くさんと蝕んでいく。
それ以上足を動かす事も事も叶わず…
ズドン!!!
「……………」
「……え…?」
友情マンの足元に埋まる球状の凶器。
そのボールは地面の泥をえぐり、目の前で止まっていた。
「………ボールは…人殺しの道具なんかじゃない……ボールは『友達』なんだ…!」
――
大空翼は、泣いていた。
雨の中を立ち尽くし、やり場の無い怒りと悲しみを噛み締め、ただ…涙していた。
(わざと…外したのか?いや、どちらにしろこれはチャンスだ!)
攻撃がようやく止まり、安堵と殺意が顔を出す。
おぼつかない足取りで前に出てしゃがみ、ボールを持ち上げる
友情マン。
「優しいんだね、君は……」
「ウ……ウゥ……ッ!」
次々と流れ出す悲しみ。
目の前でブチャラティが死んだという現実により、翼はようやく“死”というものを受け入れ始めていた。
――石崎君も、日向君も、若島津君も、ブチャラティ君も……
みんな、もう二度と一緒にサッカーが出来ないんだ。死んでしまったんだ…
翼は、現実から逃げていたのかもしれない。
殺人ゲームなどという非日常。
こんな場所に突然放り込まれ、殺し合いなどとは無縁の人生だった翼が『まとも』でいられるという方が無理な話だったのだ。
「……もう、誰も…死んでほしくないんだ……ウウ……!」
「………」
止まらない涙は頬を伝い、雨に流され地に落ちる。
友情マンは憂いに満ちた表情で、翼の方へと足を進めて…
「…来ないでくれ!」
「君は……ブチャラティ君を、殺した。命は…奪わないけど、許す事は出来ないよ……」
「……そうか、分かった。これ以上近寄らないよ」
「………」
「でも…このボールは君の物なんだろ?」
無言の翼に木のボールを見せる。
しばらくの沈黙。
「………チームメイトが、作ってくれたんだ」
「手作りなのかい?なら、これは君に返すよ」
友情マンは地面にボールを落とし、軽く足を後ろに引く。
「……サッカーで……」
「…え?」
―――違う。
引いた足は、頭より高く上がる。
「……殺してあげるよ!!」
「…!?なっ!!?」
その蹴りは、努力マンと同等と評された事もあった
友情マン。
その全力の蹴りから放たれるシュートならば、相手が一般人であれば間違い無く確実に命を奪う程の代物。
「僕のために!死ねぇーーーッッ!!!」
翼のシュートより遥かに強力。
ただのスポーツ選手のそれとは全く次元の違う、悪魔のごとき殺人シュートが放たれる!
「見えッ…!?」
絶望的なまでの速さで襲いかかるそのシュートは、翼の脳が判断する間も全く無く一瞬で眼前に迫る。
翼が確実な『死』を感じた瞬間には、それはもうすでに回避もガードも不可能な距離。
死ぬ。
その言葉を、ようやく頭が理解した。
ガ ッ !!!
鈍い音が、辺りに響く。
ボールは翼の頭で跳ね、真横の木の幹に突き刺さる。
「………そんな………馬鹿なッッ!?」
ボールが跳ねたその場所に、立ったままである翼の体。その片腕が、真横に伸ばされている。
腕の先には握りこぶし。こぶしの先には、幹に埋まるボール…!
「空手パンチで……僕のシュートを…防いだ!?そんな馬鹿なっっ!!」
―――まったく……世話が焼けるな、翼。
翼の体にダブる、ある男の影。
友情マンには見えない。翼の目にも映りはしない。
「………若島津君は…毎日毎日、こんなシュートを受けてきたんだ…!」
「君は……君は、一体…!?」
友情マンの目に映るは、王の姿。
四角いフィールドに君臨する……“世界”の、
大空翼の姿。
「僕らは、一緒の……一緒の世界で……繋がってるんだ!」
幹から転げ落ちたボールは、翼の足元に。
―――へへっ!行こうぜ!翼!
―――オレたちのサッカーは、あんなヤツには絶対に負けはしない…!
翼を挟む、二人の仲間。
「行こう……石崎君……日向君……!」
それは、目には見えない『絆』。
翼の信じる、サッカーを通じた絆。
「あ………あ………?」
「食らえええッ!トリプル――シュートオオーーーッッ!!!」
「うわ……うわああああーーーッッ!!?」
三人の心が、一つのボールを通して繋がる。
ボールは稲妻となり、金色の光を放つ。
…翼の足は、砕けた。木製のボールが翼のスポーツ生命を絶ってしまった。
ド ツ ッ
「……………え?」
――翼の額に、ナイフが生える。
「…………な…ん…」
ゆっくりと、前のめる。
思考が定まらず、目の前が白く染まる――
「………君の、負けだよ」
ホワイトアウトしていく視界の端に映ったのは、何事も無かったかのように無事な姿である
友情マンの姿と――
「魔法カードを、発動したよ。君のボールは“封札”された。
やれやれ……死ぬかと思った。ま、僕に最後の切札を使わせたんだ……立派な物だよ……」
“光の封札剣”で地面に串刺しにされた、彼らの“絆”の姿だった…
もはや、どんな者にも止められない。
拳は血を噴き、体は泥にまみれ。
殴って、蹴って、頭突いて、投げて。もはや体裁も何も無い。
二人の戦いは、もはや見るに堪えない泥試合。
「ウリャアアアッッ!!」
「だりゃあああッッ!!」
透き通る。
何の雑念も、思惑も無い。
汗が煌めき、舞い上がる。
「隙だらけだぞ!ダリャアッ!!」
「グヘッ!?くっ、そっちこそ!!」
「ガハッ!?このお…ッ!!」
もう駆け引きも何も無い。あるのはただの意地と意地。
殴って、殴って、殴る。
終りの見えない拮抗。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
拳が互いの腹を撃ち抜き後ろによろめいて間合いが離れると、二人とも肩で息をして睨み合う。
「ハァ…ハァ…そろそろ…ハァ…限界なんじゃ…ねえのか、ルフィ?」
「ハァ…んな…わきゃ…ハァ…ねえだろ…」
虚勢を張るのも、意地の張り合い。
「ハァ…おい…ルフィ、…ハァ…そろそろ…一番…つえぇ技で…ハァ…ケリを、付けようぜ…!」
「ハァ…ハァ…そうだな…悟空…!」
お互い口には出さずとも、すでにどちらも体が限界に近い。
二人は背を向け数歩分距離を離すと、再び向き合い顔を合わせる。
「……次で、ほんとの最後だ。覚悟はいいな?」
「……ああ…悟空を倒す覚悟なら、とっくに出来てる」
薄く笑みを向け合い、両者とも腰を落として深く構え直す。
「界王拳ッッ!!」
残り少なかった悟空の気が膨れ上がる。体を纏うオーラが目に見えて増加。
「確か、こんな感じだっけ……?」
ルフィは自らの意思で足首を潰すように縮め、そしてそこを一気に解放。
すると大量の血液が無理矢理下半身から心臓付近に送り込まれ、半ば消えかけていた体からの煙が再び勢いを増し始める。
「……おめぇなら…いい『仲間』になれたと思うんだけど……残念だよ、ルフィ」
「………」
悟空は両手を腰の後ろに構え、ルフィに静かに語りかける。
ルフィは無言のまま両手をグルグル回した後、一気に遥か後方へと両腕を伸ばしていく。
「かぁ……めぇ……」
「ゴムゴム……」
「はぁ……めぇ……!」
「ゴムゴムの……!」
息が止まるほどの静寂。
視線は相手の姿だけを映し合い、そして……!
「はあああああーーーーーッッッッ!!!」
「バズーカアアアアアーーーーーッッッッ!!!」
悟空の放った極大かめはめ波を貫くルフィの両腕。しかし貫いたとはいえ、その接触部は激しい熱を受けて焼けただれていく。
「おおおおおおおおおッッ!!!」
「アアアアアアアアアッッ!!!」
どちらの奥義も、止まらないどころかどんどん威力と勢いを増してゆく。
叫ぶ咆咬は天を揺るがし、神をも引き裂く。
「ごぉぉくぅぅうウウウウウウーーーーッッッッ!!!」
「ルゥゥフィィイイイイイーーーーーッッッッ!!!」
二つの“信念”は交錯し、二人の戦士に喰らいつく。
―――きりきり…きりきりと、何かが削れる音がする。
最初のそれは“地球人”を削る忌まわしい金属音だった。
再びそんな音がする。
―――悟空…?
オレさ、馬鹿な事、しちゃったんだ。
取り返しのつかない…馬鹿な事さ。
死んじまったから、償う事も出来ないんだ。
苦しいよ……悟空。
……けどさ、悟空。
お前は、まだ生きてるんだ。
お前は、まだ償えるんだ。
だからさ、頑張ってみてくれよ。オレの分まで。
いいじゃねえか、オレとお前の仲だろ?
これくらい、頼まれてくれよ。
これだけが、お前に対する…最後のワガママさ。
いつもはお前がワガママ言う側なんだから、最後くらいはオレが言わせてくれって。
……じゃあな、悟空。もうお前には二度と会えないんだ。
楽しかったよ。お前と一緒にやってきた人生。
もし叶うなら、生まれ変わっても……また、会おうな。
だってお前は、オレの、一番の………
きりきり、きりきりと、それは何かを巻き戻す音。
止まった指針が、巻き戻る。
狂った時計が、巻き戻る。
壊れていたなら、直せばいい。
直ったならば、ネジを離そう。
時間が再び、動き出せるように―――
友情マンは、気配を殺して隠れていた。
物陰から見つめるその先、背負う男と背負われる男。
(……なんてこった……全部…無駄になってしまった…!クソッ!!)
ルフィが歩く。その背には、気絶した悟空の姿。
(まさか…カカロット君が負けるだなんて…!あの麦わら君、そこまで強かったのか…)
軽く舌打ちし、自分の計画破綻を嘆く。
ルフィたちはどんどん遠ざかっていき、ついには姿が見えなくなる。
(完全に……僕の計算ミスだな。今麦わら君とはち合う訳にはいかないし……何か新しい手を考えないと…)
折れた左腕がズキリと痛み、口元を歪ませる。
(まあ、とりあえず……何か食べよう)
空腹と戦いの疲れで足がもう動かない。
友情マンは壁にもたれてズルズルと腰を降ろし、ブチャラティたちから奪った食料を広げ始める。
(……食べ物があるって、素晴らしい事だなぁ……)
ミジメに耐えるだけだった胃袋に久々の補給を与えつつ、
友情マンは次の一手を模索し始めた―――
―――ブチャラティは、まだ生きていた。
何本も刺さるナイフからは止め処なく血が溢れ、上半身の火傷は息をしただけでも酷く痛み出す。
しかしまだ、辛うじて生を取り留めてはいた。
(……戦いは……どうなったんだ……?)
意識を取り戻した時、すでに戦いは終わっていた。
辺りからは雨粒が地上に落ちて奏でる不規則なリズムしか聞こえてこない。
(モンキー・D・ルフィ……ツバサ……な…ツバサッッ!?)
自分の隣に眠る、
大空翼。
安らかな寝顔は赤い血で覆われ、彼が絶命している事はブチャラティにも一目瞭然だった。
(………すまない、ツバサ……)
守れなかった。その事実が胸を痛みで押し潰す。
(……オレももうじき……死ぬ。ツバサ、オレも君と共に行こう。だが、せめて、君だけでも……!)
動かない体に最後の力を振り絞りスタンドを発現させ、翼の首筋へとスタンドの手を添わせる。
(………ベネ[良し]。やはり生命活動を停止した体からなら……首輪は外せた。ツバサ、君はこれで“奴隷の呪縛”から解放されたんだ)
翼の首からいとも容易く首輪を外せ、その成功に薄く微笑みを浮かべる。
(人は皆…眠れる奴隷だ。だが、それは“誰か”に決められた事ではない。あの主催者たちだろうと…だ。
…オレたちの運命を勝手に決める事など…誰にも出来はしない!)
口を固く結び、天を見上げる。
(ハルコ……ツバサ……カズマ……オレたちは“家族[ファミリー]”だ。
あんな“ソダリッツィオ・ブジャルド[偽りの友情]”とは違う、本物の“絆”で結ばれている……)
ブチャラティの瞳が閉じられる。スタンドは薄く透けてゆき、握る拳が緩んでゆく。
(……魂は……受け継が…れる…なるべくしてなった……これで……いい……)
シトシトと、雨が降る。
洗い流すは男の生。
ブチャラティの手に握られた忌まわしき束縛の首輪は、横で真っ二つに割られていた。
運命の束縛から解放された二つの魂は今…ようやく自由を得る―――
【東京~埼玉の県境付近/昼】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]両腕を始め、全身数箇所に火傷、疲労・ダメージ大、空腹、ギア・2(セカンド)を習得
[道具]荷物一式(食料半日分・スヴェンに譲ってもらった)
[思考]1:ブチャラティたちと合流
2:ルキア、ボンチューと合流する為に北へ
3:"仲間"を守る為に強くなる
4:"仲間"とともに生き残る。
5:仲間を探す
【孫悟空@DRAGON BALL】
[状態]顎骨を負傷、出血多量、各部位裂傷、疲労・ダメージ大
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@DRAGON BALL
[道具]荷物一式(食料無し、水残り半分)、ボールペン数本、禁鞭@封神演義
[思考]1:気絶中
2:不明
※カカロットの思考は消滅しました。
【東京都/昼】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]左腕骨折、全身に強い打撲ダメージ
[装備]遊戯王カード@遊戯王
(千本ナイフ、光の封札剣、ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴は全て24時間後まで使用不能)
[道具]荷物一式(水・食料残り七日分)、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王、スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
ミクロバンド@DRAGON BALL、ボールペン数本、青酸カリ
[思考]1:休息を取る
2:次の作戦を考える
3:参加者を全滅させる
4:最後の一人になる
※ブチャラティの手には翼の首輪(ドーナツ状に真っ二つになっている)が握られています。
※千本ナイフにより具現化したナイフはすでに消滅しています。
【大空翼@キャプテン翼 死亡確認】
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
【残り36人】
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最終更新:2024年07月17日 03:02