0399:『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY.
朽木ルキアが目を覚ましたのは、全ての決着がついた後だった。
時は放送直前。
危惧していた
ボンチューの戦い、合流予定だったルフィや翼の命運、
その全てに関与することができず、ルキアは後悔する間もなく、時間の経過を受け入れたのだ。
「目覚められたか、ルキア殿」
眠りから覚めたルキアに挨拶を贈ったのは、額に『大往生』の三文字を刻んだ大柄の男。
男塾一号生雷電。ルキアを昏倒させた張本人だった。
目覚めて早々、ルキアは不機嫌な瞳で雷電を睨みつけた。
言葉はなくとも物語っている。
何故あの時、私を止めたのだ。と、そう言いたいのだ。
「……拙者のことが憎かろう。だが、これも全てはボンチュー殿との誓いのため」
「また、『男と男の信義』か」
首筋に違和感を覚えながらも、ルキアは立ち上がり、周囲を見渡す。
そこは薄暗い一室。外からは尚も雨が降り注ぐ轟音が聞こえる。
時間は、確かに経過してしまったのだ。
ルキアは雷電に嫌悪感を抱きつつも表には出さず、質問だけした。
「ここはどこなのだ? あれからどれくらいの時が経った? 承太郎殿はどこに行った?」
「ここは埼玉県、時刻は11時を回り、もう間もなく放送でござる。承太郎殿は……重傷の身を押して、付近の探索に出ておられる」
「埼玉? 翼たちとの合流場所は東京ではなかったのか?」
「東京には既に立ち寄った。だが、誰もいなかったのだ……壮絶な、戦いの跡を残すだけで」
数時間前、まだルキアが雷電の背で眠っていた頃。
二人の重傷人と降り止まぬ豪雨を考慮し、鈍行で東京に向かっていた雷電達が東京に到着したのは、10時近くのこと。
東京に足を踏み入れた時点で、戦闘音や何者かの叫び声を聞こえてきたが、確認しようにも手駒が足りない。
ルキアは気絶中であり、承太郎も火傷等で満足には戦えない。
唯一二人を守れる雷電だったが、二人を残して戦闘音を確認しに行くわけにもいかない。
雷電達は待機を迫られ、東京を探索したのは10時を回ってからになってしまった。
「そのときには既に終わっていたのだ。何者かと何者かによる戦闘が。
粉々に砕け散った大地や拉げた電柱などが目に入ったが、生憎それをやったであろう当人たちは発見できなかった」
「東京タワーには、誰もいなかったのか?」
「うむ。ブチャラティ殿、翼殿、姿は知らぬがルフィ殿も、そこにはいなかった。
ただ一つ、付近の地面に北を示す矢印があったので、それを辿ってここまで来たのだが……」
「合流は、まだ果たせていないということか」
この部屋にいない承太郎が、その事実を物語っている。
おそらく、火傷の身を押して仲間の捜索に出向いてくれているのだろう。放送間際のギリギリまで。
「むっ……? 噂をすれば影。どうやら、JOJO殿が戻られたようだ」
雨音に混じった人の気配を察知し、雷電は玄関口に向かう。
ルキアもその後を追い、共に承太郎を出迎えようとするが、
二人が玄関前まで脚を運んだ瞬間、薄っぺらい木の扉は、何者かによって乱暴に蹴破られた。
「承太郎殿!?」
その正体は、なんら問題ない、雷電とルキアが出迎えようとしていた
空条承太郎だった。
ズブ濡れになった学ランから水を滴らせ、不機嫌そうに二人を睨みつける。
背には、二人の男が背負われていた。
ルキアと雷電が、背負われた二人の顔を確認して顔を青くさせた刹那、
逸早くその遺体を発見し、ここまで担いで来た張本人が、怒りの口調で告げた。
そこは、どうにか雨風が凌げる程度の粗末なボロ屋。
その一室、カビでも生えていそうな青臭い畳の上に、二者の遺体が置かれる。
大空翼とブローノ・ブチャラティ。
チームメイトであり、ファミリーであり、仲間だった二人が、死んだ。
誰が殺したのか。
ヤムチャか。
何故死んだのか。戦ってか。
真相は分からない。
死人は物を語らない。
ただ理解できることは一つ。
大切な仲間が、死んだ。
「やはり……私か? ……私が、死を招いているのか?」
死体から目が放せない。
釘付けになった視線は、ルキアのもの。
「私が……死神だから……」
死を招くから、死神。
種族や役職のことではない。
朽木ルキアに関わった人間は、確かに死を迎えているのだ。
そして、ひょっとしたらボンチューやルフィも……
「みんな、私のせいだというのか! 一護が死んだのも! 翼が死んだのも!
バッファローマンや世直しマン……イヴやスヴェン殿が死んだのも!」
明度的にも心境的にも暗い一室の中に、ルキアの悲痛な叫び声が充満する。
「私はいつも、皆に守られるだけ……あの時も、尸魂界に幽閉された時も、私は助けられるだけだった!
私がいなければ……私さえ生きていなければ……!!」
死神だから。
覆せない事実が、ルキアの心を汚染していく。
「あまり気に病まれるな、ルキア殿。翼殿とブチャラティ殿は、戦って死んだのだ。男として、これ以上の最後はなかろう」
雷電が優しい言葉を投げかけるが、ルキアは聞く耳を持たない。
ちっぽけな慰めは、時として起爆剤にもなる。
今のルキアの状態は正にそうだ。
周囲の親しみを持った人間が、次々死んでいく。
自分自身は九死に一生を得ながら、今も生きているのに。
こんな現実、並の精神力では立ち向かえない。
「ならば訊くぞ雷電! あの時、ボンチューを助けに向かおうとした私を何故止めた!?」
「言ったはず。男と男の信義を違えるわけにはいかぬからだ」
「だがそのせいで、あやつは死ぬかもしれない! 私は生かされておきながらだ!
そうまでして、何故私を生かす!? 私の命に、どれほどの価値がある!?
皆を犠牲にして生き延びる者など、死神以外の何者でもないではないか!!
それでもまだ、私に気に病むなと――」
「喧しい!!!」
ゴチンッ、と鈍い音が響いた。
激昂したルキア、その扱いに四苦八苦していた雷電が、途端に黙りこくる。
ルキアは、自分の頭部が承太郎のゲンコツによって殴られたという事実も分からず、キョトンとした瞳を怒れる学ランに送っていた。
「ギャーギャー喚くんじゃねぇ! 俺は煩い女が大嫌いなんだ!」
唖然とするルキアの胸ぐらを掴み、承太郎は怒りの形相を近づける。
その血走った視線には生気が満ち溢れ、自分を蔑んでいたルキアとは、まったくの対極に位置している。
「いいかよく聞け! 翼やブチャラティ、それに世直しマンは、己の精神を貫き、最後まで戦い抜いて死んでいったんだ!
それがテメーみたいな小娘一人のせいだと!? ふざけるな!!」
声を荒げ、少女を威嚇しているというその光景だけでも、ルキアと雷電にとっては衝撃的なものだった。
普段は決して冷静さを失わず、クレイジーな翼のストッパーとしてクールを貫いてきた承太郎。
その承太郎が、今は桑原を彷彿させるほどの熱さを見せていた。
「翼のチーム結成の夢が崩れたのはテメーのせいか!? ブチャラティが志半ばで退場していったのはテメーのせいか!?
テメーは何様だ!? 全ての死者が、テメーのために死んでいってるとでも思ってんのか!!?」
――今頃になって、承太郎に殴られた頭部が痛み出してきた。
この痛みは、以前にも味わったことがある。
ボンチューが、バッファローマンが、世直しマンが自分を諭してくれた、ゲンコツの痛み。
「いいか!? この先誰が死んだとしても、テメーは二度と俺の前で悲しむな!
泣きたいなら、部屋の隅ですすり泣け! 自分を悲観したいなら、いっそ自殺でもしちまえ! いいな!」
そう言い捨て、承太郎はルキアの胸ぐらを乱暴に突き飛ばした。
ルキアは唖然としたまま反応をよこさず、承太郎はそんなルキアに興味を示すこともなく、玄関口へ向かっていった。
「JOJO殿! どこへ行かれる!?」
「散歩だ。放送までには戻ってくる……それと雷電、悪いが二人を埋葬してやってくれ。
……そこで不貞腐れてる死神も、それくらいはできるだろうからよ」
振り返らず、声だけで返答して、承太郎は出て行ってしまった。
後に残された雷電は、承太郎の身を案じつつも、仲間の死体のために埋葬のための準備を進める。
「立てるか、ルキア殿」
「…………大丈夫だ、雷電殿……迷惑をかけた」
静かに陳謝したルキアに、雷電は変わらぬ強面の表情で答えた。
立ち上がり、再度翼とブチャラティの遺体に手を合わせる。
黙祷。
(承太郎殿には、感謝をしなくてはいけないな)
もう少しで、ルキアは腐ってしまうところだった。
バッファローマンが、世直しマンが、ボンチューが、なんのためにルキアの周りに居てくれたのか、それを忘れてしまうところだった。
単に守られていただけではない。
今生きていることには、それ相応の理由がある。
死んでいった皆のためにも、ルキアは腐るわけにはいかない。
「……いかがした、ルキア殿?」
「いや、なんでもない」
気がつけば、不謹慎にも笑ってしまっていた。
今は翼とブチャラティの埋葬中だというのに。
(この者たちの思いは、私と雷電殿、そして承太郎殿が受け継ぐ)
土に埋もれていく二人の仲間。
その最後をしかと目に焼き付けて、
死神、朽木ルキアは、
二度と、俯かないと誓うのだ――
止みつつある雨の下、承太郎は一つの球体を弄ぶ。
茶色から黒く変色し、ところどころ削れて球の形を失いつつある、木製のサッカーボール。
翼の死体横に転がっていた、他でもない承太郎自身が作り出し、翼に託した彼等の“絆”だった。
「ボールは友達、か」
いつか、翼が言っていた言葉だ。
サッカーを愛し、ボールを愛し、チームメイトを愛した、我等のキャプテン。
彼が残したこのボールには、どんな信念が刻まれているというのか。
「11人の仲間集め……今から再開するには、さすがに骨が折れるな……やれやれだぜ」
無謀な挑戦だとは、思う。
だが、これは亡きキャプテンの夢だ。
仲間ではあるがチームメイトになったつもりはない承太郎、だがそれでも。
「『主催者』は、必ず『打倒』する。それでいいだろ、翼――」
半壊気味の木製サッカーボールを宙に放り、承太郎は『スタンド』を発現させた。
スタープラチナ。またの名を、星の白銀。
この輝きを、翼に、翼の友達に、翼との絆に――
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!」
宙に待ったボールを、『スタープラチナ』の拳が穿つ。
粉々に砕けた木片は地に返り、自然へと戻る。
だが、翼の信念だけは、『スタープラチナ』の、承太郎の拳に残る。
「翼……おまえの『信念』は、俺が確かに受け継いだ! 例えどちらかが果てようとも……俺とお前は『チーム』だ」
振り返らず、仲間が待つボロ屋へ帰還の道を辿る承太郎。
その手には、ドーナツ状の金属物質が一つ。
こちらは、ブチャラティが残してくれた『信念』。
必ず主催者を打倒し、生きて帰れという――イタリアンギャングからのぶっきらぼうなメッセージだった。
【埼玉県/2日目・昼】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕骨折、肩に貫通傷、全身各所に打撲、左半身に重度の火傷(以上応急処置済み)
[装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(食料二食分、水少量消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン、ドーナツ状に分断された首輪
[思考]:1.ルフィの捜索。桑原、ボンチューとの合流。
2.首輪の解析。
3.翼とブチャラティを殺害した人物を突き止め、仇を取る(ヤムチャが怪しいと睨んでいる)。
4.悟空、仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)、ダイを捜す。
5.主催者を『必ず』打倒する。
【雷電@魁!!男塾】
[状態]:健康
[装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
[道具]:荷物一式(水と食料を一日分消費)
[思考]:1.ルフィの捜索。桑原、ボンチューとの合流。
2.何があっても仲間を守る。
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:重傷、重度の疲労、右腕に軽度の火傷
[装備]:斬魄刀(袖白雪)@BLEACH、コルトパイソン357マグナム(残弾21発)@CITY HUNTER
[道具]:荷物一式、バッファローマンの荷物一式、遊戯王カード(青眼の白龍・使用可能)@遊戯王
[思考]:1.ルフィの捜索。桑原、ボンチューとの合流。
2.ゲームから脱出。
3.仲間が死んでも、もう自分を蔑むことはしない。
4.いつか必ず、フレイザードとピッコロを倒す。
※ブチャラティ、翼の死体は埋葬しました。
「このミクロバンドという腕輪は、実に素晴らしいアイテムだ!」
時は、放送直前。場所は東京の外れ。
大空翼、ブローノ・ブチャラティの二人組みと激戦を繰り広げ、その命を奪っていった諸悪の根源が、そこにいた。
ブチャラティに“ソダリッツィオ・ブジャルド[偽りの友情]”と罵られたヒーロー、
友情マンである。
彼の周囲には支給食料である菓子パンの屑が食い散らかされ、友情マンはその中心で恍惚な気分に浸っていた。
数時間前まで悩まされていた、『空腹』という生の一大事を、あるアイテムのおかげで一挙に解決できたからである。
装着者の身体を縮小するという超常科学の結晶、ミクロバンド。
ブチャラティの荷物からこれを入手した友情マンは、この応用性抜群のアイテムを何よりもまず、食事に使っていた。
例え一個のパンでも、自らの身体を小さくして食べれば、そのボリュームは何倍にも膨れ上がる。
そんな食いしん坊な小学生が思いつきそうな夢の発想を、友情マンはミクロバンドを使って実際にやってのけたのだ。
結果、たった一個のパンで友情マンの胃袋は満腹になった。
今後もこれを有効活用していけば、例え悟空のようなイレギュラーが発生したとしても大丈夫。
ただでさえ、現在友情マンが所有している食料は膨大な量なのだ。
空腹という名の敵は完全に退けた。
次に成すべきことは、これからの方針についてだ。
既にゲームが始まって約一日半。
その間友情マンは、東北、関東、中部地方を練り歩き、何人もの友達を得ることに成功した。
中にはペドロ、ガラ、月、悟空と、『友情マンのために』犠牲になってしまった友達も大勢いたが、
それは友情を育んだ仲ならば当然のこと。悲しむことではない。
「僕の友達で生き残っているのは……桑原君に斗貴子君か。
二人とも今はどこにいるかも分からないし……やっぱり、身近に友達が誰もいないっていうのは落ち着かないなぁ」
100人以上いた参加者は既に40人近くにまで減った。
間もなく放送が流れるが、今まで通りのペースでいけば、おそらく既に30人近くにはなっていることだろう。
そんな中で、友情マンの友達として成り立つ人材がどれだけいるか。それが問題だった。
「もうこの近くに、僕の友達になってくれそうな人はいないのかもな……ここは思いきって、西に移動してみるかな」
関西や中国方面ならば、まだ見ぬ友達候補達が友情マンを待っているかもしれない。
ゲーム中にはまだ
ピッコロのような要注意人物もいるし、
勝利マンを倒した参加者も依然健在の可能性がある。
友情マンには、まだまだたくさんの友達が必要だった。
友達を守ってくれて、友達のために死んでくれる、素敵な『友情』を持った人材が。
友情マン。その名の通り、友情を信条にする正義のヒーロー。
彼が掲げ、信じる『友情』は、断じて『ソダリッツィオ・ブジャルド[偽りの友情]』などではない。
「さて、そうと決まればさっそく出発――うぉっ!?」
食事を済ませた友情マンが、早速西へ歩を進めようとした瞬間。
足元を、一つの影が通り抜けていった。
「な、なんだ!? …………く、黒猫?」
その影の正体を確認した友情マンは、一瞬の驚きを恥に感じるほど拍子抜けした。
足元を駆け抜けていったのは、なんてことはない、ただの小さな黒猫。
このゲーム内でも野生動物はなんどか見たが、黒猫を見るのは初めてだった。
「雨が降っているというのに、猫が出歩くとは珍しい……
しかし、日本では黒猫が道を横切ると不幸が訪れるという迷信もあるしな。
猫とはいえ、ここは友好的に……」
駆け去ろうとしていた黒猫を、チチチッと声で呼び寄せ、友達になろうと試みる友情マン。
だが黒猫はそんな友情マンには見向きもせず、その場を離れていってしまった。
「…………フン。まあいいさ。猫なんかと友達になったって、僕にはなんのメリットもない」
懐いてこなかったのが悔しかったのか、友情マンは素っ気ない態度を取りながら、一人西への旅路を進めて行った。
黒猫が通り過ぎていったことなど、単なる偶然なのかもしれない。
たかが迷信と、笑い飛ばすのが正解なのかもしれない。
『友情』を『偽り』と信じず貫く者に、不幸が訪れるか訪れないかは、また別のお話――
【東京都/最西端/昼】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:左腕を骨折、全身に強い打撲ダメージ
[装備]:遊戯王カード@遊戯王
(千本ナイフ、光の封札剣、ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴は全て24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り六日と半日分)、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王、スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
ミクロバンド@DRAGON BALL、ボールペン数本、青酸カリ
[思考]1:休息を取りつつのんびり西へ移動。
2:頼りになる友達を作る。
3:参加者を全滅させる。
4:最後の一人になる。
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最終更新:2024年07月19日 08:06