0387:魂の座
ザ――――――
「・・・ここは・・・」
そこは
暗い森の中だった。そこに蔓延る木々の中でも一際大きな杉の木の根元に、ケンシロウは凭れ掛っていた。
鬱蒼と茂る木々と厚い雲に遮られ、そこにはわずかな光しか届かない。
梢と、その合間にのぞく地面からは、久しく聞いた憶えのない雑音が絶えず鳴り続けている。
これは雨音。そう、雨が降っているのだ。
改めて見れば、確かにケンシロウの体は、枝葉の隙間から零れた雫でしっとりと濡れていた。
不思議と寒くはない。それどころか、身体が、背中が焼け付く様に熱い。
「・・・ぐっ・・・」
そして、身体が思うように動かない。
どうやら背中に大きな傷があるようだ。痛みをあまり感じないのはその深さ故なのだろうか?
しかし、自分の身に何が起こったのだろうか。
ゆっくりと、自分の記憶を辿ってみる。
北斗神拳継承者として育ち、ユリアと出会い、核の炎を潜り抜け・・・
立ち塞がる数多の漢と拳を交えた。
そして気付かぬ内に見知らぬ土地に運ばれ、彷徨っていた。
・・・改めて己の半生を顧みれば、なんと起伏に富んだ人生だろうか。
一瞬、その全てが夢であったのではないかと錯覚を覚える。
だが。
ケンシロウは己の拳を見つめる。
硬く、傷だらけの武骨な掌。
シン、レイ、シュウ、ユダ、サウザー・・・
拳を交え、共に闘った南斗の男達の姿がよぎる。
ジャギ、トキ、ラオウ・・・
一子相伝の流派を巡って闘った、兄達の雄姿が蘇る。
そして、ケンシロウの眼差しに呼応するように、その拳には仄かな熱が宿る。
そう、この拳に刻まれた記憶は、偽りようの無い、俺の記憶だ。
そう――これは夢ではない。
ここは暴力の支配する、殺戮の大地。
これまでに2人の男と拳を交え、幾人かの人々と出会い、そして、その多くは救うことが出来なかった。
俺と闘った一人――DIO。
その目は冷たく、だが蟲惑的で、全ての生ある者を見下しているようだった。
あの男の――『スタンド』とやらの拳には、今までに闘った男と違い、“魂”と呼べるものが感じられない。
奴には、憎悪を抱くことすら躊躇う様な、『邪悪』を感じる。
そして、そのDIOの仲間、黒衣の男、ウォーズマン。
奴の目も生気を感じない冷たさだったが、DIOとは違い『感情』のようなものを漏れ感じる。
恐怖に怯え、それらから逃れるために感情全てを押し殺したような・・・
「・・・むっ!」
徐々に眼が慣れてくるにつれ、森の闇に隠されたモノが、段々と形を帯びてくる。
いつの間にそこに居たのか?
いや、はじめからそこに居たのだ。
全く気配を感じさせずに、黒衣の戦闘マシーンが、眼前に立っていた。
* * * * * *
思い返せば、なぜこのようなことをしたのだろう。
この男をDIOの元へ連れ帰れば、またDIOに褒めて貰える。
そして、この胸の中の妙な違和感も消え、再び心地よい『安心』が得られただろう。
なのに、私はこの男を連れ帰らなかった。
あの時・・・燃焼砲が発射されたとき、この男は身を呈して俺を庇ったように見えた。
だが、そんなことがあるはずが無い。戦闘中の敵を庇うなどありえない事だ。
そもそもこの男の拳には、明らかに殺意が籠められていた。
だが・・・殺意だけではない、何か別のモノも共に籠められていたのだ。
熱く、胸を焦がす何かが。
この男は、どこか似ているのだ。『あの男』に。
声は少し似ているが、容姿も雰囲気も全く異なる。
だが、2人に共通する何かを、はっきりと感じ取れるのだ。
彼を観察して分かる事が。
拳を交えることで感じ取れる何かが。
“魂”とでも言うべきだろうか。
弱き者を助ける優しさ。
道を誤らない賢さ。
真直ぐに道を歩む強さ。
・・・そう、今の自分には無い物達だ。
では、今の自分には“魂”が無いのだろうか・・・
確かめなければならない。
直接問い質さねばならない。この男の“魂”を。
・・・私の“魂”の存在を。
男が私に気付いたようだ。
「貴様は・・・」
ケンシロウが、ゆっくりと立ち上がる。
しかし傷の影響は大きいようだ。立っているのがやっとに見える。
だが、傷の深さを感じさせない闘気と殺気がその体から滲み出す。
「・・・どういうつもりだ。何故、止めを刺さない。」
その質問は尤もだ。
しかし、その明確な答えは自分でも分からない。
まるで自問自答するような気持ちで、ケンシロウに言葉を投げかける。
「オマエヲ生カシテ連レテ行クノガ俺ノ役目ダ。」
「では、何故DIOの元へ連れて行かない?それともDIOがここに居るのか?」
「DIOハ・・・居ナイ。オマエヲ連レテ行カナイノハ、俺ノ意思ダ。」
「意思・・・だと?」
「ソウダ。オマエニ聞キタイコトガアル。」
そして、肝心の問いを吐き出す。
「・・・ナゼ、俺ヲカバッタ?」
ケンシロウの眉間に皺が浮かぶ。不可解、といった表情だ。
そして、ケンシロウが答える。
「お前を庇った憶えはない。」
それは、自分が求めた答えではなかった。
自分の迷いを晴らし、心に生じた亀裂を解消してくれるものではなかった。
やはり、ケンシロウが自分を庇ったように見えたのは、只の偶然だったのか。
「ソウカ・・・」
ケンシロウの言葉に少なからず期待していた自分がいた。
だが、その期待は裏切られた。
もう、ケンシロウはDIOの元へ連れて行くしかないだろう。
そうすれば自分の迷いの正体がまた分からなくなる。残念だ。
だが、ケンシロウは意外な言葉を続けた。
「お前をこのまま放って行くのは危険すぎる。
・・・お前は、ここで倒す!」
(――!?)
これは、自分にとって全く予想外の言葉だった。
明らかに重傷を負っているケンシロウが、自分に敵うとはとても思えない。
それはケンシロウにも当然理解できるはずだ。
不思議と、ケンシロウが命乞いをするという考えは浮かばなかったが、
まさか正面を切って自分に向かってこようとは考えていなかった。
自慢の電子頭脳が過熱する。
「状況ガ分カラナイノカ? オマエハ、ナゼ諦メナイ・・・?」
ケンシロウは真直ぐに自分を見据えている。
まるで射抜かれるようだ。
「俺には自ら地に伏すことなど許されぬ。
北斗の宿命が、拳を交わした宿敵が、それを許してはくれない。
俺の拳に宿る漢たちの“魂”が、俺を前へと急き立てるのだ!」
“タ・マ・シ・イ”
全身を、電撃が走った。
もし、自分が生身の肉体を持っていたら、鳥肌が立ち、血が煮立っていたのだろう。
やはり。やはりこの男は“答え”を知っている!
「オマエ・・・教エテクレ、“魂”トハ・・・命トハ・・・イッタイ、ドコニ、ドウシテ・・・」
問い質さなければならない。答えを得なければいけない。
しかし、その思いと焦りとは裏腹に、どんなに電子頭脳を検索しても、適切な言葉が出てこない。
「オレハ・・・オレハ・・・」
自分の語彙力の無さがもどかしい。いや、言葉という物自体に限界があるのか。
対してケンシロウは、狼狽える自分を、しかしはっきりと見詰め、
そして一喝した。
「言葉は不要! 貴様の思いはその拳で語れ!!」
言うなり、ケンシロウは自分へと向かって間合いを詰める。
流石に、もう話して済ませることは出来ない状況のようだ。
とっさにファイティングポーズをとりつつもウォーズマンは、
戦闘が始まることに、何故か奇妙な安堵を感じていた。
ああ、やはり私はファイティング・コンピュータ、ウォーズマンなのだ。
* * * * * *
「あたぁ!」
ウォーズマンの顔面を狙った拳は、しかし目的を捉えることなく空を切る。
ケンシロウの繰り出す剛拳は、ウォーズマンの身体を捉えることが出来ない。
ウォーズマンはケンシロウの拳を全て紙一重で躱してゆく。
ウォーズマンのフットワークと、ケンシロウの傷の深さによって生じる溝は、残念ながらそう容易く埋まるものではない。
「ダァッ!」
ウォーズマンの拳が、ケンシロウの腹部を撃つ。
対してウォーズマンの拳は、的確にケンシロウの身体を捉えてゆく。
どんなに贔屓目に見たとしても、ウォーズマンは圧倒的な優位に立っていた。
しかし、両者の眼は、まるで正反対だ。
怯える子供が必死になって恐怖に抗うように、ウォーズマンの機械の眼は、まるで今にも泣き出しそうだ。
それに対して、ケンシロウの眼は、闘志に燃え、その輝きを失うことは無い。
その眼は、正に長兄ラオウの如く。
そう、正に北斗神拳を体現するが如く。
(ナゼダ・・・ナゼ倒レナイ・・・!?)
もう何度目かも分からない。ウォーズマンの拳は、ケンシロウを倒すのに充分なダメージを与えているはずだ。
何度殴ろうとも蹴ろうとも、ケンシロウは屈しない。
『理解不能!理解不能!』
ウォーズマンの電子頭脳が悲鳴を上げる。
「クッ、来ルナ!ウワァ―――ッ!!」
ゴォォン!
ウォーズマンの渾身の一撃が、ケンシロウの顔面を捉える。
その時、遂にケンシロウの動きが止まった。
いや、自ら動きを止めたのか。
「・・・もう、いい。」
またしても予想外の言葉がケンシロウの口から発せられる。
「貴様の拳は悲しく、弱い。そんな哀れな拳では、この俺を倒すことはできん。」
まるで駄々を捏ねる息子を諭すように、ケンシロウはゆっくりと言葉を紡ぐ。
ケンシロウがウォーズマンを見る眼に、闘志の他に、哀しい色の光が交じる。
その光は、暖かく、まるで吸い込まれそうなほど深い。
その眼を見ていると、ウォーズマンの心にまたしても不可解な感情が溢れてくる。
これは・・・そうだ。『安心』だ。
自分を理解してくれたことに対する安堵の気持ちだ。
自分の、“魂”の叫びを。
「ウ、ウルサイッ!デタラメヲ言ウナッ!!」
だが、それを認めるわけにはいかない。
自分に『安心』をくれるのは、DIOから授かった氷の意思。
それを否定することは、ウォーズマンにとっては耐え難い『不安』を伴う。
だが、ミシリと、ウォーズマンの心に亀裂が広がる音がした。
「死ネェッ!!」
ウォーズマンの拳が、ケンシロウの口を塞ぐべく打ち出される。
だが。
―――スゥッ
瞬間、ケンシロウの姿が消えた。
ウォーズマンの拳は、ケンシロウに当たることなく空を打つ。
「グフウッ」
さらに、ケンシロウの強烈な一撃がウォーズマンのボディに炸裂する。
「 北斗神拳究極奥義 無想転生 」
* * * * * *
「あたぁっ!」
ガシィィッ
ケンシロウの拳が唸る。そしてその拳はウォーズマンの顔面を直撃する。
「クソォッ」
ブゥン!
ウォーズマンの拳は空を切る。
先ほどとは打って変わって、ケンシロウの拳が一方的にウォーズマンを打っている。
その拳は、焼ける様に熱い。
「ダァッ!」
ウォーズマンは必死に拳を繰り出す。
まるで、纏わりつく何かを振り払うように。
(氷ノ精神ダ・・・オレハDIOノ命令ニ従エバ、DIOニ『安心』ヲ貰エル・・・ソレガ全テダ・・・!)
ガシィッ
しかし、ケンシロウの拳が身体を打つ度に、ウォーズマンの心は揺れ動く。
(違ウ・・・オレがスベキコトは、コンナコトデハナイハズだ・・・コレは正義デハナイ・・・)
ケンシロウの、灼熱の拳が、
氷の精神を溶かしてゆく。
(違ウ。俺ニハ、ソンナ資格ハ無イ。正義ヲ諦メ、DIOニ忠誠ヲ誓ッタノダロウ?)
(コノ男の行ク先ニコソ、オレの求メル『安心』がアルノデハナイか?正義の道の先ニコソ・・・)
(違ウ!DIOノクレタ氷ノ精神ヲ貫イテコソ、絶対ノ『安心』ガ得エラレル・・・正義ナド、邪魔ナダケダ!)
(俺ハ正義超人・・・弱キヲ助ケ、強キヲ挫ク。正ニコノ男ハ正義超人ソノモノではナイカ!)
(違ウ!!違ウ違ウ違ウ!!!)
ウォーズマンの内で、二つの心が鬩ぎ合う。
正義の心と、氷の精神。
それは正に、ケンシロウとウォーズマンの闘いの映し鏡のようだ。
ガンッ!
殴られた頬が熱を発する。
ドゴッ!
蹴られた脚が燃える。
「あたたたたたたたたたたたっ!!」
全身が、そして心が熱い。
(正義・・・氷ノ精神・・・『安心』・・・“魂”・・・・・・)
氷の精神が瓦解してゆくのが分かる。
ウォーズマンの内面の闘いも、勝敗が決まる瞬間が近づく。
「ほあたぁっ!!!」
そして、止めの一撃が自らの顔面に迫り来る。
その時ウォーズマンの顔は、満面の笑みで溢れていた。
ガシィィィィィン!!!
* * * * * *
「なにっ!?」
ケンシロウの動きが再び止まった。
いや、止められたのだ。
ウォーズマンの顔面を確かに捉えたその拳は、その顔面で動きを封じられていた。
“ウォーズマン・スマイル”
その顔で大きく開いた口が、拳に噛み付き、咥え込んでいた。
「ククク・・・コレデキサマノ動キハ封ジタ。今度ハコチラノ番ダ!」
肉を切らせて骨を絶つ。その電子頭脳は僅かな隙をも逃しはしなかった。
ウォーズマンの百戦錬磨の人工頭脳が、土壇場で起死回生の打開策を弾き出したのだ。
「クラエッ!」
ドッ――――ゴォン!!
ウォーズマンの強烈な蹴りがケンシロウの脇腹に決まり、ケンシロウは大きく後方の大木まで吹き飛ばされた。
「ぐはっ、くっ・・・」
肋骨が数本折れたようだ。鋭い痛みが突き刺さる。
しかしそれでもなお、立ち上がるべく脚に力を入れる。
――だが。
ガクゥッ
足の力が抜け、膝が地を付く。
度重なる打撃によるダメージは、確実にケンシロウの身体に蓄積していたのだ。
「く・・・」
再び力を込めるが、その脚は他人の物の様に言うことを聞かない。
「カ――――カカカ!!」
地面に屈するケンシロウを見下し、ウォーズマンが悪魔的に笑い声を上げる。
そのマスクは、ケンシロウの一撃によって大きく歪んでいた。その歪みが、笑顔をより一層際立たせていた。
「正義ナド俺ニハ必要ナイ!
俺ハ残虐超人ウォーズマン!!
俺ハ与エラレタ命令ヲ忠実ニ遂行スル、キラー・マシーンダ――――ッ!!!」
ウォーズマンが絶叫する。
まるでそれまでの迷いを断ち切るかのように。
「コレデ止メダ!今度コソ死ネェッ!!」
そして、自身の必殺技をかけるべく、ケンシロウの元へと突っ込んで来る。
「ウォォッ!スクリュー・ドライバ―――ッ!!」
逃れようのないスピード。圧倒的な回転力。
迫り来るその黒い槍は、己の死を確信するのに充分であった。
だが、それでも諦めることは出来ない。
「ぬぅぅん!!」
ケンシロウは、最後の力を振り絞り、再び両の脚で立ち上がった。
だが、ケンシロウに残された力は、それだけだ。
気力と精神力で立ってはいるものの、もう動くことも、ましてや迫り来るウォーズマンを避けることも叶わない。
だが、立ち上がらなければいけなかった。
無様に散っては、亡き友に笑われてしまう。
北斗神拳伝承者として、一人の漢として、“魂”の火を燃やさなければならない。
そう、最後の一時まで。
高速で回転するウォーズマンの手が、自らの胸に飛び込んでくる。
「・・・無念・・・」
ドゴォォォォォン!!
* * * * * *
人は、いつ死ぬのだろう?
心臓が止まり、脳が死に、肉が朽ち果てたとき?
それでは、
心の臓さえ動いていれば、
脳が機能を保っていれば、
血が身体を巡っていれば、
人は生きていると言えるのか?
否。
それは、ただ死んでいないだけだ。
ただの糞尿と血の詰まった肉袋だ。
死んでいるのとおんなじだ。
(中略)
人は、自分で生きるのをやめた時、死ぬのだ。
『諦め』が人を殺すのだ。
だから、生きることを『諦め』ない限り、その人間は生きている。
『諦め』を拒絶してはじめて
人間は人道を踏破する権利人となれるのだ。
H.K.オータ 「Vlad Tepes」邦語訳版より抜粋。
* * * * * *
ウォーズマンは、ケンシロウの死を確信していた。
ケンシロウ本人も、自らの死を覚悟していた。
だが、ケンシロウの魂は、最後の瞬間まで屈することは無い。
見開いた両目で、ウォーズマンの回転する指先を凝視する。
一瞬のはずなのだが、何故か酷く長く感じる。
ウォーズマンが、ケンシロウの、左胸へと、
正確に、心の臓へと突き進み、
ドゴォォォォォン!!
そのまま突き刺さり、
―――そして、止まった。
「なっ!?」
「ナニッ!?」
ウォーズマンの技は、ケンシロウの胸からから数センチ手前で、止まった。
ウォーズマンが抉ったのは、
ケンシロウの鋼のような大胸筋ではなく、
オリハルコン製の胸当。
フェニックスの聖衣だった。
ケンシロウの不屈の精神に、
深い傷を負っても、何度打たれても、不死鳥のように立ち上がるその闘志に、
フェニックスの聖衣が応えたのだ。
そして、スクリュードライバーが達する直前、ケンシロウの体を聖衣が包んだのだ。
聖衣は自らが主と認めた者を見捨てはしない。
「これは・・・痛みが・・・消えた!?」
先ほどまで立つのがやっとだったケンシロウの身体に、みるみる精気が満ちてくる。
「ソッ、ソレガドウシタァーッ!!」
自身の理解できる範疇を遥かに超えた事態の連続に、理解しようとする努力を放棄したウォーズマンが、追撃をかける。
だが、今や立場は完全に逆転しつつあった。
片や、ダメージの残った体と、錯乱した心で繰り出す拳。
片や、フェニックスの聖衣の力を借り、未だ尽きぬ闘志で満ちた男の拳。
「ダァァッ!」
「あたぁっ!!」
どがぁあっ!!
ケンシロウの拳が、ウォーズマンの顔面を打ち抜く。
「ギャァァァッ!」
――――ズガァン!!
圧倒的な力に吹っ飛ばされたウォーズマンは、そのまま後方の岩に叩きつけられた。
大勢は、決した。
* * * * * *
何故だ。聳え立つ巨大な壁に、この男は立ち向かい、打ち砕く。
何故だ。完璧なはずの私の計算を、この男は悉く覆す。
何故だ。この男は絶望を拒絶し、奇跡を起こす。
「キン・・・肉・・・マン・・・」
砕けた岩の破片に寄り掛かりながら、何故かその名を呟いた。
もう体に力が入らない。闘う気力も出てこない。
DIOに貰った安心も、どこかへ行ってしまった。
もう、何も考えられない。既に自分は死んでいるのではないかとさえ思う。
力なく顔をあげ、眼前の死神に眼をやる。
ピシッ
そのとき、度重なる衝撃に、ウォーズマンの仮面が軋み、
パー・・・ン
真っ二つに割れ、地面に落ち、機械質な素顔が露になった。
「ア・・・ア・・・アァ・・・」
それがきっかけだった。
隠していた、押し殺していた感情が、洪水のように溢れてきた。
罪悪感。無力感。失望感。自己嫌悪。後悔。恐怖。悲哀。懺悔。
そして最後に、羞恥心が。
「ミ・・・見ルナ・・・俺ノ顔ヲ見ルナ・・・俺ノ・・・醜イ・・・顔ヲ・・・」
力なくその顔を隠す姿を、ケンシロウは哀しい眼で見つめていた。
「・・・醜いのは、貴様の顔ではない。
・・・己自身に負けた、貴様の“魂”が醜いのだ・・・」
・・・俺の、魂・・・ 魂が、負けた・・・
・・・今なら分かる気がする。
確かに私は、この世界に負けていた。正義を貫くことを諦めていた。
自分の内で叫ぶ正義の声に耳を塞ぎ、
氷の精神の中に閉じこもり、悪を見て見ぬ振りをした。
その、氷の精神は、今、完全に溶けてしまった。
「そうか・・・私は、貴様に会う前に負けていた。
・・・既に死んでいたのかもしれないな・・・」
長い長い悪夢からやっと眼が覚めた気分だ。
そして気付いてしまった。自分の“魂”の在り処に。
もう、自分を騙すことは出来ない。
もう、魂が燃えるのを止めることはできない。
こんな所でへばっていたら、仲間に合わせる顔が無い!
「ぐ・・・おおおおおおおっ」
最後の力を振り絞る。
全身全霊に力を込めて、立ち上がる。
「我が名はウォーズマン! 一人の漢として、改めて貴様に勝負を申し込む!」
もう、ウォーズマンの眼には迷いも恐れも無い。
そこにあるのは、純粋な闘志。
「行くぞ!ケンシロウ!!」
「来るがいい!ウォーズマン!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
二つの拳が交差する。
* * * * * *
ザ――――――
雨はまだ止む気配すら無い。
だが、鳴り響く雨音は、もうその耳には届かない。
「フッ・・・俺は・・・悪役・・・ヒールだ・・・
ヒールはヒールらしく・・・
ヒーローに倒されなきゃぁ、サマにならねえぜ・・・」
大木に凭れて、ウォーズマンが嘯く。
彼の魂が、体から抜け出てゆく。
ケンシロウは、静かにウォーズマンの拳を握り、呟いた。
「ウォーズマンよ・・・貴様の“魂”は、確かにこの俺の胸と拳に刻まれた・・・
胸を張って逝くがいい・・・」
「ケンシロウ・・・もっと・・・はやく・・・お前に・・・
会 い た か っ ――コ―――ホ―――・・・」
事切れたウォーズマンの顔は、
仮面の無いウォーズマンの顔は、
安らかな笑顔だと、なぜかそう思えた。
【愛知県/昼】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:背中一面に大火傷、全身打撲、左肋骨骨折、満身創痍(聖衣の力で動ける)
[装備]:フェニックスの聖衣@聖闘士星矢(胸当部損壊)
[道具]:荷物一式×4(五食分を消費)、マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾、手裏剣×1@NARUTO
[思考]:1、洋一を探す(洋一の安否を確認する)。
2、DIOを倒す(他人は巻き込みたくない)。
3、つかさの代わりに、綾を止める。
4、DIO討伐後、斗貴子を追い止める。
5、ラオウを倒した者を探す。
6、ダイという少年の情報を得る。
【ウォーズマン@キン肉マン 死亡確認】
【残り35人】
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最終更新:2024年08月20日 16:17