0211:すっぱい15
ここは佐賀県の南端。南九州に向かうヒソカとパピヨンの頭に、2度目の放送が流れ込んでくる。
(
防人衛――ブラボーか。奴はどうでもいい。アイツ・・・
武藤カズキさえ無事ならば・・・)
放送を聞いて、パピヨンはそんなことを考えていた。
しかしそんな思考も、隣の男――ヒソカにより、すぐに妨げられる。
「クロロ・・・ボクの・・・ボクのごちそう・・・とっておきの・・・食べられちゃった・・・」
ゾクッ
得体の知れない恐怖。いつもの飄々とした口調ではなく、地の底からしぼりあげたような声。
この男は、自分の知っているヒソカではない。
「ずっと・・・ガマン・・・ガマンしていたのに・・・」
――いや、いつものヒソカから、狂気と欲望を濾過した――そんなオーラか。
パピヨンには背を向けて、表情は見えない。しかし、ヒソカの狂気に歪む笑顔が、パピヨンの脳裏にはしっかりと描かれていた。
「ねェ・・・南九州に行く前に・・・ちょっと用を済ませたいんだ・・・いいかな・・・?」
「あ、あぁ・・・」
動揺を悟られないように返答するパピヨン。
「良かった、キミがそう言ってくれて・・・
このままじゃボク・・・キミを殺しちゃいそうだから・・・できれば、まだキミは殺したくないんだ・・・」
そう言って振り返るヒソカ。その表情は、「狂気に歪んだ笑顔」どころではなかった。『狂気』そのもの。さしものパピヨンも怯む。
「あ、キミはそのまま待っていてくれればいいよ・・・すぐに戻るから・・・」
そう言うとヒソカは、さきほどの少年達の元に向かう。
「もう食べ逃さないよ・・・美味しく、美味しく、美味しく、美味しく、食べてあげるからね・・・」
ヒソカを見届けると、一人残されたパピヨンはニタァ~と笑う。
「あれほど純粋な狂気・・・う~ん、ビューティフル。蝶・サイコー!あれもヒソカの魅力なんだよなァ・・・」
「―――聞こえますか、皆さん。」
・・・う、う・・・
玉藻は二度目の放送に、目を覚ました。脱落者の名前が読み上げられる。だんだんと意識がはっきりしてくる。
その中に「
ゆきめ」を確認すると、鵺野を想い、沈痛な表情を浮かべる。
「鵺野先生・・・」
教え子を失い、そして最愛の妻を失って、まだあの人は他人を守り続けられるのだろうか?さすがに鵺野のことが気にかかる。
しかし、今の自分にはやることがある。
狐の少年達を守ること。それをやり遂げてからこそ、自分は鵺野の元に行く資格があるのだ。
周りを見ると、狐の少年とその仲間は気を失ったままだ。もう一人、青髪の少年がこちらに近づいてくる。
「気がついたか。あんたは一体何者だ?」
「人に尋ねる前に、まず自分から名乗るのが礼儀ではないですか?」
「すまない。あんたはナルト達を助けてくれたんだよな?俺の名は一輝、聖闘士だ。アテナを守る戦士をしている。」
「私は
玉藻京介。医者・・・と言いたいところですが、この少年の同類ですよ・・・」
「どういう意味だ・・・?」
玉藻は自分が妖怪であること、ナルトの中に「九尾の狐」が封印されていることを説明する。
一輝は驚いた。不思議な連中がゴロゴロしているこの世界、妖怪がいても不思議ではないだろう。
しかし、このナルトにそんな力が眠っているとは。
次に一輝は聖闘士の、アテナの、そしてハーデスの説明をする。玉藻は腕の出血を治療しながら、一輝の説明を聞く。
「なるほど・・・聖闘士という存在が集まれば、あの主催者達を倒せる可能性もあるわけですね。」
「ああ・・・まずは星矢と
デスマスクを」
と一輝が言いかけたとき、二人は同時に同じ方向を向いた。
「・・・なんだ?あの禍々しい小宇宙は・・・?」
「こんな邪悪なオーラは私も初めてです・・・」
*さきほどのヒソカとはオーラが異なるので、玉藻はそれが同一人物と気づいていない。
「やばい、あんた!すまないが、この二人を連れて、外に逃げてくれ!」
「あんな敵相手に、一人で戦うつもりですか?私も・・・」
「今のあんたには無理だ。それにこいつらを誰が逃がすんだ?大丈夫だ、俺には策がある。」
一輝は黄金聖闘士との戦いやハーデスとの戦いで、光速の戦闘を経験している。
聖衣がない生身の身体で、かつ不思議な力による制限があるこの世界では、本来のスピードを生かすことはできないが、
それでも参加メンバーの中で、スピードに関してトップクラスを誇るのが聖闘士である。
相手が襲い掛かってくるのが分かっていれば、こちらから先制攻撃を仕掛けるのは、さほど困難なことではない。
そして、一輝は鳳凰幻魔拳という技を持っている。
この技を食らえば、どんな相手も精神が崩壊し、しばらくはまともに動くことすらできない。
つまり、足止めには最適な技である。
一輝の決意を見て、玉藻は悟る。
「この目は・・・生徒を守るときの鵺野先生の目と同じ・・・」
この少年は大丈夫だ。
「・・・分かりました。ではこの二人を連れて、山口方面に向かいます。」
「ああ、分かった。」
「必ず・・・生きて後を追ってきて下さい。」
「ああ、もちろんだ。」
玉藻は気絶したナルトと跡部を抱えると、すぐに山口に向かって走り始めた。
そして誰にともなくポツリとつぶやく。
「フッ・・・人間とはかくも興味深いものだ・・・」
一輝は禍々しい小宇宙の持ち主を迎え撃つべく、小宇宙を整える。
相手の戦闘力は、聖闘士として今まで自分が戦ってきた敵に比べれば、たいしたことはない。
もっとも一輝自身も聖衣を装着せず、しかも不思議な力により制限を受けている以上、大幅に戦闘力が落ちているのだが。
しかし、こんなに邪悪な小宇宙を持つ敵は、今までにも出会ったことがない。
「――まあいい・・・どんな敵だろうと、この鳳凰幻魔拳で粉砕してくれる・・・」
ヒソカは走る。いつもはトリッキーな戦闘を好むヒソカ。しかし今の彼は違う。
ただ血を求める。ただ命を求める。技も戦略もない、ただ殺戮を欲するだけの存在。
本能のままに、まっすぐに強者(ごちそう)の元に向かう。
「――きたな。」
ヒソカは一輝に跳びかかる。砂漠で1週間遭難した人間が、オアシスを見つけたがごとく。
その表情は、まるで人間のものとは思えなかった。
しかし、一輝は怯むことなく、自分の為すべきことを行う。
「―― 鳳 凰 幻 魔 拳 !」
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ヒソカは真っ暗な空間に一人いた。
遠くにゴン、キルア、クロロの姿が見える。三人の周りだけ、スポットライトを浴びせたかのように明るく見える。
「見ぃ~つけた☆」
熟しきってから食べようと思っていた、大事な大事なごちそう。しかし、誰に見つかるか分からない。
もう食べちゃおう。これ以上、耐えられない。ガマンできない。
三人の元に向かうヒソカ。しかし、ヒソカと三人の間に何か透明な壁のようなものがあり、三人に近づくことすらできない。
「――ボクの邪魔をするな・・・」
苛立って壁のようなものを叩きまくるヒソカ。しかしびくともしない。
「・・・なんだ?これは・・・」
ヒソカが壁のようなものを攻撃している間に、向こうに見える三人に異変が起こる。
なぜか三人は縛られており、銃を向けられている。
銃を向けているのは普通の人間。ヒソカから見て、食べるに値しない、生ゴミだ。
しかし、何故か三人は抵抗しない。
男がクロロに向けて銃を発射する。熟練した念能力者には銃なんて効かない。なのに、クロロはあっさりと殺される。
「――ヤメロ・・・」
せっかくのごちそう。まるで高級料理の上に油をぶちまけられたような感覚。
男は、次にキルアに向けて発射する。キルアもあっさりと殺される。
「――ヤメロ、ヤメロ・・・」
狂ったように壁のようなものを殴るヒソカ。しかし決してそれは壊れない。
――なんであんな生ゴミが、ボクの大切なごちそうを食べるんだ。
なんでボクのごちそうは、あんな生ゴミに簡単に食べられてしまうんだ。
男は、最後に、ゴンに向けて発射する。ゴンもあっさりと倒れる。
「――ヤメロ、ヤメロ・・・ ヤ メ ロ !!!」
ヒソカの虚ろな目を見て、一輝は鳳凰幻魔拳が決まったと確信をする。
「――どうだ、地獄を見た感想は?」
しかしそのセリフを言い終わる前に、ヒソカの手刀が一輝の心臓を貫く。
「なっ・・・馬鹿な!確かに決まったはず・・・」
鳳凰幻魔拳とは、相手の心にひそむ恐怖を増大させ、精神を崩壊させる技。確かにヒソカは、この技を食らっていた。
しかし、ヒソカにとっての「恐怖」とは、通常の人間の持つ「恐怖」とは全く異なるものだった。
今まで幻魔拳を食らった人間は、自分の命が失われたり、大切な人間が消え去る悪夢を見た。
しかし、ヒソカには人間、いや生物が持つはずの「死に対する恐怖」を持ち合わせていなかったのだ。
殺戮(ゲーム)のためには、自分の命をも道具に用いる。
そして、多くの人間が持ち合わせているであろう、「愛」もヒソカにはなかった。
いや、ある意味愛を持っていたが、それはとてもとても歪んだものであった。
そう、自らの手でそれを壊さなければ気がすまない、という・・・
ヒソカにとっての「恐怖」とは、殺戮の機会を奪われること。それも自分が目をつけた人物に対してならば、なおさら。
一輝が今まで相手にした敵の持つ「恐怖」とは、まるで次元の違うものであった。
それゆえ、ヒソカは精神が崩壊しても、何も変わらない。本能で血を求める。
何語かも分からぬ奇声を発し、手刀を抜いてさらに一輝を切り裂く。
さしもの不死鳥一輝も、聖衣なくして心臓を貫かれたら、もう永くはない。
「・・・くっ、この男は生かしておいては危険だ・・・最後に俺の命を懸けて、この男を・・・倒す!」
一輝はヒソカに切り裂かれながら、残された力を振り絞り、小宇宙を限界まであげる。
「――食らえ、これが俺の最後の技だ!
鳳 翼 天 翔 」
ドォォォォォォォォォォォォン!
すさまじい烈風がヒソカを襲う。腹部がえぐられ、真っ二つになって吹き飛ぶ。
そんな状態でもヒソカは満足気に笑みを浮かべる。
「ご・・・ち・・・そ・・・う・・・さ・・・ま☆」
それが戦いを、殺戮を求め続けた男の最期であった。
「フッ・・・」
ヒソカが飛ばされたのを見て、一輝は安堵の息をつく。
しかしもう自分は永くはない。星矢やナルト、跡部達と共に、ハーデスを倒すことも叶わない。
――星矢。俺はここで脱落のようだ。必ずハーデスを倒してくれ。お前ならできる。
――ナルト、跡部。必ず生き延びてくれ。
――玉藻。妖怪であろうと、あんたは信用に足る。後は任せた。
――紫龍、氷河。もうお前らと会うこともできないんだな。
――サガ。地獄であんたに怒られちまうかな?
――瞬。だらしない兄ですまない。しかしお前はもう強くなった。一人で大丈夫だよな?
フェニックス一輝。彼はその最期の時まで、その場に立ちつくしていた。
【佐賀県(佐賀市南端)/日中】
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス少量消費)
[道具]:荷物一式(食糧二食分消費)×2
[思考]:1、ヒソカを待つ。
2、ヒソカと合流後、南九州へ移動
3、知り合いとの合流
【福岡県(北九州市門司区)/日中】
【玉藻京介@地獄先生ぬ~べ~】
[状態]:中程度のダメージ、体力妖力消耗大
[装備]:なし
[道具]:荷物一式、石ころ数個
[思考]:1、ナルト、跡部を逃がし、山口で一輝と合流。
2、ナルトから九尾を引き剥がし、退治する。又は、完全に封印。
3、伊達から首さすまたを取り戻す
4、可能なら鵺野と合流(ナルトの九尾除霊の相談のため)
【跡部景吾@テニスの王子様】
【状態】気絶、右肩痺れ、全身に打ち身、骨にヒビ、擦過傷、疲労、出血(止血済み)
【装備】衝撃貝(インパクトダイアル)の仕込まれた篭手@ONE PIECE
【道具】荷物一式(少量の水を消費済み)、アバンのしるし@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ノートとペン、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1、気絶
2、ナルトに助太刀
3、乾と越前を捜す
【うずまきナルト@NARUTO】
【状態】気絶、空腹、体力チャクラ消耗大、九尾封印
【装備】無し
【道具】支給品一式(1日分の食料と水を消費済み)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
【思考】1、気絶。玉藻に憎しみ。
2、サクラ、シカマルを探す
3、主催者をやっつける
【ヒソカ@HUNTER×HUNTER 死亡確認】
【一輝@聖闘士星矢 死亡確認】
【残り95人】
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最終更新:2024年03月08日 01:23