0225:火炎交響曲//~dim.~(ディミヌエンド)





「それを…よこせえっっ!!」

ゴンとシカマルの眼前に襲いくるは、すでに深刻なダメージを受けているはずの桃白白
倒れ伏せている間に耳にした二人の会話から知らされた『仙豆』の存在。
それさえ手に入れば、殺して奪えれば…!
その一念で最後の気力を振り絞り、再び全身に殺意を漲らせて真っ直ぐにゴンの元へと地を蹴り駆ける。
その姿、表情――まさに、鬼…!


「ちっ!あのヤロー、まだくたばってなかったのかよ!」

シカマルはそんな桃白白を一瞥し、満身創痍の自分たちでは――もう殺されるしかないかもしれないと、半ば諦めの意を噛みしめる。

「……シカマル君、下がってて…!」
「え…おまえ…?」

桃白白を真っ直ぐに見据えてシカマルに背を向けたまま、静かな声で語りかけるゴン。
彼のわき腹に受けているダメージも決して軽いものではない。
しかし、それを感じさせないほどの落ち着いた声、力強い立ち姿。

(こいつ…この気迫…!?こいつだって怪我しちまってるってぇのに…何がこいつをここまで駆り立てるっつぅんだよ?
それに俺がシカマルって名前だって知ってやがったのかよ。ずっと尾けられてたってぇのか?
俺がシカマルだってのは、雷電のオッサンにしか名乗ってねーんだからな)

その背を眺めつつ、一瞬でそれを悟るシカマル。
桃白白とゴンの距離が縮まる刹那の時間にも、彼の頭脳はフル回転していく。

(見たところ、このままじゃ俺たちに分がワリィのは一目瞭然。
残りの持ち駒も少ねぇし、俺たちの状況…使える残りの策は、200程の内…片手で数えれるほどしか残ってねぇな。
こいつが俺の味方してくれる理由はわかんねぇが、俺も黙ってみてるだけって訳にはいかねえ!ちっ…!)

「死ねぇええッ!!!」
「はああァッッ!!!」

ズガアッッ!!!!ドガガガガガガッッ!!!!

桃白白の突き出した手刀とゴンの蹴り上げた右脚の激突を皮切りに、再び始まった他を寄せ付けないハイレベルな技と技の応酬。

「ハッ!ヌリャ!!」
「くっ!ヤアッ!!」
「ヌンッ!ぬるいわッ!!」

「くっ!ハアッッ!!」

先ほどのジャン拳グーで内臓部に見た目以上の深いダメージを受けている桃白白は、最初の頃の動きより速さとキレが半減してしまっているものの、
ゴンの方も念能力の数度の使用とわき腹の負傷により、同じく繰り出す技の威力が著しく低下。
右!左!と瞬時に繰り出された桃白白の打突を上半身を反らせて皮一枚で何とかかわし、
カウンター気味に繰り出したゴンの右アッパーも、桃白白は左肘で擦らせるように捌いて回避し、体勢を崩させる。

しかしゴンはそのまま身を任せるかのように、体を斜めに回転させてオーバーヘッドキックが如き蹴り上げを放つ。
それをも桃白白は中国雑技団よろしく、華麗なバク転で鼻先にチッ!と掠めさせるだけで回避する。

互いにコンディションが悪いとはいえ、その戦闘力は現時点で互角。
決め手に欠ける僅差の応酬が続く。

「フンッ!ハッ!!…小僧!…チェイッ!!…そろそろ終わりにしてやるわ!貴様の弱点ッ!見切ったわッ!!ヌオリャアッッ!!!」
「タッ!ハアッ!!グッ!?…そんなハッタリッ!!!」
「クハハハッ!ハッタリなどではない!…ん?もう一人のガキ、逃げおったか…!?おのれ、十億取りこぼしたわ…!」
「え…!?シカマル君…!?」

桃白白の放った浴びせ蹴りを両腕でガードするも、激突の衝撃を受け後ろに二メートルほど飛ばされるゴン。
ダメージも小さく軽やかに着地するも、桃白白の発言を聞くまで少し存在を失念していたシカマルの事を思い出し、辺りに軽く目を配るが…
確かに敵の言葉通り、シカマルの姿はいつの間にやらどこからも消え失せていた。

「人間など、こんなモノよ!金と己が一番ッ!貴様もやっと身に染みたか!?」
「…!ふざ…けるなっ!!」
「くく、馬鹿に付ける薬は無いな。まあよい!授業料、貴様の命で払ってもらうからなっ!!!」
「くっ…!?(シカマル君…逃げれたのか。よし…なら、あとはこいつをぶっ飛ばすだけだ!!!)」

罵倒する桃白白とは対照的に、ただ純粋にゴンはシカマルを助ける事ができた事に胸をなで下ろしていた。
確かに少しチクリと胸は痛んだものの、元より感謝されるために助けに入ったつもりは無かったのも事実。
ゲームに乗っていない人物というだけでも助ける価値のある、そのシカマルの身さえ無事であればいい。
ゴンが願うは、ただそれだけであった。

「どどん!」
「!!?」

指先を突き出してかけ声を放つ相手の姿に、条件反射でとっさに身を捻り横に飛ぶゴン。

「馬鹿めッ!!ツアッッ!!!」
「えっ!?しまっ…!ガ…ッッ!!?」

てっきり例の光線のような放出系攻撃が来ると思ってしまい、回避行動に専念してしまったゴンの横っ腹めがけて、鋭い回転蹴りが逆方向から炸裂。
本能的に瞬時に行ったオーラの攻防力移動である程度はダメージを軽減できたものの、それも気休め程度。
ほとんど無防備に近い状態で、すでに負傷していた左わき腹に桃白白の足首がメキメキ!と嫌な音を立てながら深く食い込まされ、
激しい激痛を伴いながら遠くへ蹴り飛ばされる。

一度地面にバウンドしてからゴロゴロと転がっていき、生い茂る草むらの中へとたどり着いた辺りでようやく止まるゴンのカラダ。

「くっくっく……なかなか手こずらせてくれおったが、しょせんはガキ。
貴様の動きは単純すぎるわ!こんな初歩的なヒッカケにも騙される単細胞よ!!」
「グッ…く……そぉ…ッ!」
「ほう…まだ息があるか。感心感心。今楽にしてやるから安心するんだな」
「グ……ッ!!!」

ザッ……ザッ……

勝利を確信し、ゆっくり余裕の足取りでゴンの元へと歩み寄っていく桃白白
プロの殺し屋としてターゲットのトドメを確実に刺すため、歪んだ微笑を浮かべつつ一歩…また一歩と距離を詰めていく。
返り血で彩られたその冷徹な悪魔の表情は、光を遮る木々により暗い影を落とし…まさに悪鬼と呼ぶにふさわしいものであり…


ヒュッ!!

「!!?何者だ!!!」

突如桃白白の背後から聞こえた空を切る鋭い音。
とっさに体を横にずらして振り返る。

(…第一手!)

「石…!?新手か!?…ぬっ!!?」

飛んできた小さなこぶし大の石をかわした後にそれを目で追う桃白白だが、再び何かが空を切る音を聞く。今度は…頭上!

(即席の枝製投石仕掛け、成功!第二手!)

「上だと!?馬鹿なっ!!?」

顔を上げて、飛来する正体に目を懲らすが、
高く上がった太陽の光に幻惑されて目が眩み、目を覆いながら再びその場から回避のために飛び退こうとする…だが!

「クッ…?な…にィッ…!!?」

(第三手!!本命!影真似の術っ!!!)

足が、まるで地面に吸い付いたかのように動かせない。
空を切る音はどんどん動けない桃白白の元へと一直線に近付き、顔面至近距離まで落下してきた所で、ようやくその正体を目の当たりにする。

「な…に!?あの時の…!?」

ボフッ!トン!…トン、トン、トン……
顔に直撃し跳ね返り、地面を幾度も跳ねながら転がっていく……黄色いテニスボール。

「逃げたと思わせた…もう一人のガキの仕業…か…何の…つもりだ?馬鹿に…しおって…!!
……クッ!?何だ?もう動けるではないか!」

予想外の展開に少し呆気に取られるも、思いのほかすぐに体に自由が戻り、周囲を観察する。すると、ある異変に気が付く。

「そういう事か!おのれ…やってくれる!!!」

気を取られていたほんの僅かな瞬間の内に、草むらに倒れていたはずのゴンの姿が消えていた。



「やれやれ…おいあんた、生きてるか?」
「…ク…うん…ヘーキ」
「平気には見えねぇっつーの」

高い木の上で気配を消して桃白白から姿を隠し、ゴンを肩に担いだ状態でひそひそと声をかけるシカマル。

「…このままじゃあ二人とも殺されちまう。俺が奴を足止めするから…アンタはその隙にこいつを持って東京へ先に向かってくれ…」
「え…!?」

ゴンの右手にそれを包んでしっかりと握らせる。
指を広げたそこにあった物は…例の話にあった、仙豆。

「……嫌だ!まだ戦える…!」
「馬鹿。どう見たって敗色濃厚だっての…大丈夫だ、俺に策がある」
「策…?」
「ああ。確実に奴を足止めできる策がな。あんたも見ただろ?俺の影真似の術を」
「影真似?…あの、動きを止めちゃう能力の事?」
「そうだ。あれで奴を止めたまま、俺もすぐに逃げる」
「………でも、アイツをほっとくわけには…!…!?」

反論を続けるゴンだが、いきなり口を手のひらで塞がれ言葉を飲み込む。

「しっ!……奴に気付かれちまう。見つかるのも時間の問題だな…!」
「………そのカゲマネのジュツってので援護してくれたら、今度こそ俺が…!」
「…無理だな。さっきみたいにトドメを刺し損ねて、今度こそ二人とも殺されるのがオチだ。
トドメを刺すのは無理くせぇけど、動きを止めて、逃げる時間を稼ぐ程度なら問題ねー」
「………」
「でもそれには…手負いのあんたが邪魔だ。だから、先に行ってくれって事」
目線は下の桃白白を警戒し続けつつ、張りつめた緊張感の中で口元にフッと笑みを作るシカマル。

「…………分かっ…た…」
「…よし。雷電のオッサンの顔はわかるんだろ?
もし俺が少し時間かかっちまっても、待ったりせずに俺に構わず一直線に東京に行ってくれ」

「……え?」
ズキン…

「…あんたがずっと俺たちを尾けてたのにはもう気付いてる。
どんなつもりでんな隠密行動してたのかなんて、メンドクセェから聞く気もねぇよ。
ま…忍びの世界ならそんな事日常茶飯事だしな」
「………」
「あ、ついでに…俺のこの荷物、預かっててくれよ。全力で術使うには邪魔だからな」
ズキン…

「…そろそろ隠れてんのも限界…だな。じゃあ頼んだぜ。えっと…」
「……ゴン。ゴン=フリークス…」
「…ゴン。頼んだぜ…!」
「あっ!待っ…!!」
ゴンのいる今の場所から敵の意識を逸らすためか、隣の木、その隣の木へと軽やかに音も無く次々に跳んで移動していくシカマル。

「………シカマル…君…!」

そんなシカマルを止める言葉を口に出す間もなく、口に出す事もできずに…
ゴンは俯いて何かを思い詰めているかのように目をギュッと閉じたまま、仙豆を渡された手を固く握りしめる。
ズキン…!

(あの時と……同じだ……!)

脳裏をよぎるは、過去の後悔。

(カイトの……あの時と……!)

握った拳に爪が食い込んで、血が滲む。

ズキン…ズキン…!

心臓が早鐘を打ち鳴らし続ける…




「…あの短時間に遠くに逃げるのは不可能。必ず近くで息を潜めて隠れているは…ず…!?またか!おのれ…何度も何度も…!」
「へへ…間抜けなやつだな。これだけ影真似が効きやすい相手は初めてだっつぅの」
「クッ…!コケにしおって…!!殺してやる…!!!」

頭上の死角から幹を伝って影を延ばし、影真似の術を再び成功させたシカマル。
怒り心頭の桃白白に臆することなく、小馬鹿にするような口調で挑発する。

(…さっきのゴンを助けた時の影真似はもう五秒ほどしか持続できなかったから、ゴンを助けるだけで精一杯だった…
今回はよくて四秒が限界だな…!)

一瞬で冷静に思考を巡らせるも、余裕のない現状に冷や汗を一筋流す。

「ゴンッ!!行けえッッッ!!!!」
「ぬ!!?」

渾身の叫び。
その声とほぼ同時に、少し離れた木の上から影が地面に飛び降り、見る間も無く草葉の中へと姿を消す。

「貴様…!」
「へっ!わりぃな、十億減らしちまってよ…!」

動けぬ身のまま、歯軋りをしてシカマルを睨む桃白白

(へへ…らしくねー。俺がこんな真似するなんてな。
そういや…前にも似たような事あったな。あん時も自分の馬鹿さ加減に笑っちまいそうだったが…
…今回は、あん時より馬鹿すぎるよなぁ…メンドクセー性分になっちまったぜ。
これもナルトの奴のせいかもな…あんな、見ず知らずの変な奴のために…)



「くっ…そ…ォ!!」
走る。
振り返らず、走り続ける。

「シカマル君…!カイト…!!」

嘆くは、己の力不足、無力さ加減。
「シカマル君は…ッッ!!」

ゴンは気付いていた。
影真似の術で簡単に足止めして逃げれるだなんて、嘘だ。
全力で戦いたいから荷物を預けるだなんて、嘘だ。
全ては、自分を逃がすための嘘。自分にはもう不要になる荷物や食料を譲り渡すための嘘…!

「俺…ッッ!!!シカマル君…ッ!!!」

しかし、走る。結果がどうなるかが例えわかりきっていたとしても。

それは、彼自身の言葉。

『…こんな状況だ。敵の命にも仲間の命にも見切りつける覚悟しろ!』

鵜呑みにした訳ではない。
いくらシカマル自身の言葉とはいえ、味方でも、例え敵であっても、目の前で誰かが命を失う事など決して耐えられない。

「オレ…!ウッ…ク…ッ!!」

涙が頬を伝う。
決して振り返らない。

彼の、最期になるかもしれない…その願いを叶えるために。
少年は、振り返る事を決して許されない。
いまだ煙を上げ続けているその混沌の林には、決して。



「………ざまあ…みやがれ…!」
「ふん…まんまと貴様の策にハマったのは失態であった。今回の反省点だな」
「へへ……!」

シカマルは笑う。
全てが己の目論見通りに進んだから。

「もうあのガキを追う事も難し。…ここまで粘られるとは思ってもみなかったわ」
「…ざまあねぇな……あんた……ゴホッ…!!」
「粋がった事ばかりほざきおって、なかなか見上げた根性だな。こんな出会いでなければ…弟子にしてやっても良かったぞ?」
「へっ…!死んでも…ゴメンだぜ…!」

決着は付いていた。
倒れ伏すぼろぼろのシカマル。それを頭上から見据えつつ腕を組んで立ち尽くす桃白白
二人の足下には、大量の血痕――

「…認識を改めねばならんな。これほど手こずるような者がまだウヨウヨとこの地にいるのであれば…
もっと強くなるか、強力な武器が要る…!」
「………」
「プロだからこそ、確実に、謙虚に、圧倒的に!相手を仕留める為の努力は欠かしてはならぬ…
小僧…シカマルといったか?勉強させてもらった。一応礼を言っておくぞ?クックックッ…」
「………」

シカマルは返事をしない。
否……もう、返事をする事が叶わない。
徐々に小さくなる呼吸――全身から流れ出続ける温かい血。

(ちくしょう……ドジったな……こんなハズじゃ…無かったってぇのに…
へ……親孝行もろくに出来てねえし……将来は…テキトーな嫁さん…みっけて…テキトーな生活…するはずがよ……
どこで…ドジ踏んじまったのかな?)

シカマルは笑う。
しかしそれは、自嘲する笑みではなく――満足げな笑み。

桃白白の姿はすでにそこには無く、残るは血溜まりに沈むシカマルの姿のみ。

胸部を貫かれ、全身はズタズタにされ、それでも――シカマルのその顔は、とても穏やかだった。

(…ま、いいや…これ以上考えるの…メンドクセェ……やれるだけやったし……みんな……誉めてくれんだろ…)

目に広がるは、木の葉の里。
手を振る家族、自分を急かす仲間たち。
たくさんの見飽きた、見慣れた顔触れが並ぶ。

やれやれ…メンドクセーとばかりに頭をポリポリ掻きながらも、その顔にははにかんだ笑顔が浮かぶ。

面倒くさがりでだらけるのが性分、しかし本当は誰よりも熱い火を心に宿した少年忍者…
奈良シカマルは、その仲間たちの輪の中へと消えていき――

彼の過酷な任務は、そこで終了した。

その安らかな顔のシカマルを愛でるかの様に、燃え尽きそうな緩い炎の燻る小さな枝が、彼のそばでぱちりと小さく爆ぜては――
炎は煙の中へと穏やかに消え失せていった。





【茨城県/午後】

【桃白白@DRAGON BALL】
 [状態]:気の消費大、腹部・内臓に深刻なダメージ、疲労
 [道具]:荷物一式(食料二人分、一食分消費)、ジャギのショットガン@北斗の拳(残弾19)、脇差し
 [思考]1:無理はしないが、可能ならゴンを追い仙豆を奪う
    2:参加者や孫悟空を殺して優勝し、主催者から褒美をもらう

【ゴン=フリークス@HUNTER×HUNTER】
 [状態]:オーラの消耗大、左わき腹・肋骨に深いダメージ
 [道具]:荷物一式(食料一食分消費)、仙豆@DRAGON BALL(一粒)
     シカマルの荷物一式(食料一食分消費)、テニスボール@テニスの王子様(残り2球)
 [思考]1:仙豆を持って東京の雷電に合流
    2:キルアを探す


【奈良シカマル@NARUTO 死亡確認】
【残り91人】

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220:火炎交響曲 桃白白 266:狩人の意思は、非情の舞台で爆発し
220:火炎交響曲 奈良シカマル 死亡
220:火炎交響曲 ゴン=フリークス 266:狩人の意思は、非情の舞台で爆発し

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最終更新:2024年04月19日 10:12