0233:宿命と血統
さやさやと水の流れる音。穏やかなとき。
高く昇った太陽の輝き。光を受けて煌く川辺。或いは万華鏡のように。
川辺には三つの影が伸びていた。どれもがしなやかに丸みを帯びたスタイル。女性達の影。
「
マァムさん、大丈夫でしょうか……」
不安げな面持ちで、
西野つかさが言葉を漏らした。淡く透き通る金色の髪の、年若い少女。
「命に関わる怪我ではないわ。今は、休息が必要なだけ」
素っ気無く必要なことだけを伝えるように、傍らの女性が答える。
リサリサ――エリザベス・ジョースター。
一見冷徹に見えるこの態度も、別に本当に冷たいわけじゃあなくて、彼女の特徴なのだな、と西野は理解し始めていた。
リサリサは余計なことは、口にしない。不要と必要を、的確に判断出来るひと。
鉄面皮に見える綺麗な顔の奥には、炎のような激しさと、そして温もりとを秘めている。優しいひと。
「けれど、いつまでもここに居続けるわけにもいかないわね。
二時まで様子を見て、其れでもマァムが目覚めなければ、一度場所を変えましょう」
今後の方針。びッと鋭い眼差し。空気が裂けちゃいそう。
この世界は怖いものに溢れている。徘徊する人殺し。人を殺したくなるほどの殺意。外と内の悪魔。
そんな中でも迷うことのないリサリサの存在は、正直頼もしくある。
流川が死んでから、数時間。悪夢の放送。或いは、希望の放送。西野の友達は、誰一人欠けていなかった。
人の死に直面してから直ぐに立ち直れる程に西野つかさは、強くはないけれど。
俯いた彼女の手の中には、六角の銀色の輝きがある。
流川楓が遺したもの。彼の、支給品。
手鏡のようにキラキラとした銀盤に僅かに映る、少女の面立ち。今は、笑えない自分。
少しずつ、少しずつ、少しずつ。元の自分のペースを取り戻そうと。健気に、微笑もうとする。
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襲撃者を追う事を諦めたのは、第一に負傷したマァムのことがあったからだ。
火炎放射器のような武器による軽度の火傷。楓が身を挺して庇ってくれたとはいえ、ほぼ全身を覆う。
応急処置を施すために、即座に川へと向かった。公園の水道は、蛇口を捻るだけ無駄だったから。
水場はこのゲームにおいて、可能なら立ち寄るべきでない場所であるが、場合が場合だ。止むを得なかった。
迅速な判断が功を奏したのか、或いはもともとの彼女の身体機能の高さのためか、マァムは一命を取り留めた。
流川楓の魂が、彼女の命の灯火が費えるのを、よしとしなかったのかもしれない。
唯、ショックで意識を失ったまま、マァムは目を覚まさなかった――自然、彼女の目覚めを待つことに、なる。
二度目の放送。
死を確認した楓以外に、知った名前は呼ばれなかった。つかさも何処か、安堵した表情。
リサリサにとっては当然だ。
身の回りでこのゲーム呼ばれたのはリサリサ本人だけ。名簿に存在しない名前が呼ばれる筈もない。
――――けれど、名簿。載っていた気になる名前。ないわけではない。
一つだけ、あるにはある。
遥か昔に先祖と共に滅びた筈の、吸血鬼の名。ディオ・ブランドー。人類を超越した男。
名簿に記されたアルファベットの綴りの並びは、偶然なのか、自分の良く知る男の名と一致している。
最初から、考えていた事ではある。
何故、自分はこのゲームに参加させられたのか。何故、自分なのか。
名簿の名が、かの吸血鬼の名と同一のものを示すのならば、理由は自ずと導かれる。
――――即ち、因縁、だ。
戦わせるために人を集めたと主催者は言った。見知らぬもの同士では、戦う理由に乏しい。
彼方此方にばら撒かれた因縁は、『火種』だ。殺戮ゲームの火種。
互いに殺し殺され合わねばならぬ組を混ぜる事で、ゲームを円滑に執り行う。
主催者の目的をそう仮定すれば辻褄が合う。
この『DIO』も恐らくは、本人。リサリサの知るDIO。恐るべき怪物であるDIO。
如何なる魔術、秘儀の類を用いて海底の吸血鬼を呼び起こしたかは想像することさえ難しいが、
『DIO』が凶暴性を備えた吸血鬼であるとしたら、このゲームに於ける最も危険な人物の一人になる。
そしてヤツを殺せるのは――自分だけ。誇り高き波紋使いの一族である、リサリサだけなのだ。
主催者の目論見通りであることは理解している。けれど、見過ごすわけにはいかなかった。
何故ならば、リサリサの、エリザベス・ジョースターの夫を殺害したのは――――
「………ッ」
思わぬ感情の昂ぶりを感じ、小さく溜息を吐く。
名簿に載った自らの名。リサリサ――"エリザベス・ジョースターではなかった"。
如何いう理由かは判らないが、名を隠してる参加者の本名は、隠されるといった
ルールがあるのかもしれなかった。
これならばDIOは自分のことに気付いてはいないだろう。
憎き波紋使いの一族が、常に彼の歴史に牙を剥くジョースターの一族が、参加していることを知らぬままだろう。
放送ではDIOの名は呼ばれなかった。彼は吸血鬼。日の光の差す日中は活動不可能。何処かに篭ってることになる。
夜になる前にDIOを探し出す事ができれば――
「マァムさん、大丈夫でしょうか……」
不安そうな顔をして、つかさが話し掛けてくる。我に返って二言三言、言葉を返した。
――何を考えていたのだろう、私は。
負傷したマァムを、戦闘能力のないつかさを、残して行ける筈がないのに。
対処すべき敵はDIOだけではない。着実に増加する死者の数は、如実にその事を物語っていた。
瞳を伏せるリサリサの長い髪を風が攫っていく。冷静さを失っては、いけない。焦っては、いけない。
元気を取り戻したように見えるとはいえ、つかさは心に深い暗闇を孕んでいる。放っては、行けない。
「……大丈夫」
DIOを探すのは、後回しだ。彼女らを放ってはおけない。
せめてマァムが目覚めるまでは守ってあげなければ、ならない。
膝を抱え込むように座り込んだ西野を背中から抱きしめて。
因縁も宿命をも忘れて。今はただ、腕の中の少女の震えを止めてあげたいと、リサリサは想った。
【愛知県、川辺/日中~午後】
【マァム@ダイの大冒険】
[状態]全身各所に火傷(応急処置した)、気絶
[装備]アバンのしるし@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:気絶中
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(ダイ・ポップを優先)
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]三味線糸
[道具]荷物一式
[思考]1:マァムの回復を待つ
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]ショック状態、 移動による疲労
[装備]天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
[道具]荷物一式、核鉄@武装錬金(ナンバーは不明、流川の支給品)
[思考]1:ショック状態
2:名古屋へ向かう
3:協力者との合流(真中・東城・さつきを優先)
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最終更新:2024年04月04日 22:25