0250:魁!!一護白書100%~護る力、暴れる力、虚な力~





~護る力~


 遠く揺れるは戦火の狼煙。
 白く上がるその様は、足元の地獄を示す。
 その戦場を目指し、二人の少年は自ら火中に飛び込む。
 それを愚行と知りながら、胸に秘めたる強い想いが足を動かす。
 少年が一人、黒崎一護は同行者、真中淳平の肩を借りながら、傷つき動かない足を動かしていた。

 撃ち抜かれた膝に力は入らず。
 支えが無ければ立つ事もままならない。
 その足を、無理矢理に前に踏み出す。
 そのたびに激痛が走った。
 それでも、止まってなんかはいられなかった。
 どこかでルキアが、他の誰かが危機に晒されているかも知れない。
 どこかで誰かが助けを待っているかも知れない。
 自分には戦う力がある筈だ。
 自分には誰かを護れる筈だ。
 その想いが足を止める事を許さない。

「あそこに誰か倒れてるぞ……!」
 まだ煙には程遠い森中に倒れる人影が一つ。
 横で自分を支える真中も、それに気付き視線を向ける。
 そして互いに見つめあい。無言のまま頷きを返す。
 すぐさまその元に向かい足を這わせた。

 そして、何とか倒れている誰かの元にたどり着けた。
 死んだように眠る長髪の男。
 いや、実際死んでる可能性もある。
 まず目を引いたのは足元まで届こうかという長髪。
 遠目からは女かと思ったが、近づいて見ればどう見ても男だ。
 そして接近して何より目を引く、全身に刻まれた呪術めいた刺青。
 その模様は、何か悪い予感を連想させる。
 はっきり言って、外見からはあまり良い印象を受けない。

「おい、あんた大丈夫か」
 しかし、倒れている者をほっておく訳にもいかない。
 とりあえず声をかけ、その安否を確認する。

 その言葉に、死んだかのように眠っていた男がピクリと反応した。

 静かに瞳が開かれ、その瞳がこちらを見つめる。
 呆然とこちらを見詰める、その瞳は人ではない、獣の瞳だ。
『グッ……』
 男は突然、両腕で自分の二の腕を握り締めた。
 半端な力ではない、爪が食い込み血が滲み始めている。
「ちょ…おい、アンタ……!」
『グアアアアァァァッ!!』
 そして盛大に、苦しみの雄叫びを上げた。

「ちょっと! 大丈夫ですか!」
 尋常じゃない男の様子に、真中が声を上げる。
 そして、手を男に向け差し出した。
「待っ……」
 言い様の無い不安に駆られ、その手を静止しようとするが。
 その声を上げる前に、渇いた音が辺りに響いた。

「……ッ!」
 差し伸べた手は勢いよく払われた。
 走る痛みに、真中は反射的に手を引いた。

『……ウウッゥゥゥッッッ』
 手を払いのけた男は、何かに耐えるように歯を噛み鳴らし、唸りを上げる。
 目を血走らせ喉を鳴らす、その様は人ではない、獣の様だ。

「ちょっと待て! 俺たちは……」
 説得の声をあげる前に、感じる殺気。
 刺青の獣の体が跳ねた。
 猛スピードでこちらに迫り、拳を突き出す。

「危ない、苺くん!」

 オレを支えていた真中が突然オレを突き飛ばした。
 踏ん張りの利かないこの足は、その程度の事であっさりと崩れ落ちる。
 地面に尻を付く音と同時に、別の鈍い音が聞こえた。
 見上げた空に真中の体が舞い踊る。
 見事に空を飛ぶその様は、映画のワンシーンのようだ。
 そして、受け身も何もなく地に落ちる体。
 意識も無く無様に倒れているが。
 ピクピクと痙攣を繰り返し、まだ確かに生きている事を伝えている。

「テメェ! 何しやがる!」
 身を起こし襲い掛かってきた獣に対峙しようとするが。
 膝が動かず、立ち上がることができずにいた。

 そこに、稲妻の様なボディーブローが突き刺さった。

 腹を突き破る衝撃に内臓が口から飛び出そうになる。
 内臓の代わりに、せり上がった胃液を吐き出す。

 血の混じった反吐を吐きながら、地に伏せる。
 意識は泥がかかったかのように暗く沈む。
 それでも意識を手放さないように、必死に意識にしがみ付いた。

『グアアアアァァァアァアァ!』

 地に伏せ見上げる獣は雄たけびを上げる。
 勝利の歓喜か、はたまた別の苦しみか。
 その感情は推し量る事は出来ない。
 ただ、その声だけが静かな森に響き渡っていた。





~暴れる力~


 浦飯幽助は死んだ。

 拳の王の拳に打たれ、力足らず敗れ去り。
 浦飯幽助は死んだ。
 それは確かな事実。
 生命としての活動は停止し。
 心臓の音はもう聞こえない。
 だと言うのに、

 ―――トクン。

 鼓動する。
 その心臓は、確かに止まっていると言うのに。

 ―――トクン、トクン。

 心臓が止まっていると言うのならば、
 鼓動しているのは心臓ではない、別の何かだ。

 ―――トクン、トクン。

 浦飯幽助は蘇った。
 それは確かな事実。

 だが、死んだ人間は蘇らない。
 それも確かな事実。
 ならば、蘇ったそれは人間ではない、別の何かだ。

「…い……んた……夫か」

 声が聞こえた。
 外界からの声。
 自らを呼ぶ声。

 その声に呼応するように、死んでいた意識が目覚めた。
 ―――まだ目覚めるには早いと言うのに。

 ―――トクン、トクン、トクン。

 意識の目覚めと同時に、激しく鼓動が打った。

 霊気のイメージを青とするならば。
 流れる妖気のイメージは赤。
 鼓動と共に、血のように赤い妖気が全身に広がる。
 青が、赤に侵されていく。

 ―――トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン。

 鼓動する鼓動する。
 心臓ではない何かが、人間ではない何かを生かすために。

 ―――トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン。

 鼓動が暴走する。
 この身に収まりきらない程の妖気を生み出しながら。
 それでも止まる気配は無い。

 肉体は破裂寸前の風船のようだ。
 許容量を超えた力が体中を暴れ回り、破壊しようとしている。
 この感覚は、霊光波動拳を継承した時に似ている。
 だが、どこか神々しさのあった霊光玉の力と違い。
 この力はただ凶暴だ。暴れ方がその比ではない。

 全身を耐え難い激痛が襲う。

『グッ……』
 全身を痛みが裂く。
 破裂しないように自らの体を抱きしめる。
 強く握った腕から血が滲む。
 だがその痛みは、より強い痛みに掻き消される。

『グアアアアァァァッ!!』

 耐え切れず。叫びを上げ、痛みに、喘ぐ。

 弾け飛びそうなほどの痛みにジッとしてなんかいられない。
 暴れ、のた打ち回りたい衝動に駆られる。
 目に映る全てを壊したくなる。
 溢れる力をぶつける捌け口が欲しい。

「……っと! 大……ですか!」

 声が響いた。
 だが激痛が聴覚にノイズをかけ、上手くその声は聞き取れない。
 ただ、大声が割れるほど頭に響いた。
 イラついて差し出された手を払った。

『……ウウッゥゥゥッッッ』

 激痛は止まない。

 血管の中を蟻が這う感覚。
 蟻達は血管を伝って全身を内から食い破らんと牙を立てる。
 内から食い破られるオレに成す術は無く。
 この痛みから逃れる事は出来ない。

「ち……と…ッ! お……ちは」

 コチラの痛みに関係なく。目の前でわめく声にイライラした。
 雑音を追い払うため、煙を払うように軽く手を振るった。

「……ない、苺……!」

 振るった腕は、身を突きだした男に当たる。
 軽い接触の感覚。
 それだけで、その男の体は大きく宙を舞った。

 力の加減が出来ていない。
 暴れ馬のような妖気をコントロールできない。
 これ以上コチラを刺激するな。
 このままでは、触れるものを全て壊してしまいそうだ。

 だと言うのに、
「――メェ!」

 だから―――

 大声は止まない。
「何――がる!」

 ―――大声出すんじゃねぇ!

 声を止める。
 ただ、それだけのために一撃を繰り出す。
 手加減など出来ない。
 元よりこの力を制御する事は今の自分には出来ないのだ。
 一撃は見事なまでに腹に決まった。
 打たれた男は血反吐を吐いて地に伏せる。
 それを見つめ、気分はさらに悪くなり。

『グアアアアァァァアァアァ!』

 獣の様な叫びを上げた。
 それは苦しみからか。苛立ちからか。
 それとも別の感情からなのか。
 自分でもよく分からないまま叫んだ。
 ただ、その声だけが静かな森に響き渡っていた。





~虚な力~


 地に伏せた黒崎一護は霞む視界で、魔人の様な男の背を見つめる。
 散々叫び終えた魔人は、クルリと背を向けその場を立ち去ろうとしている。
 こんな危ない男を、見逃すわけにはいかない。
 何とか地面を這いずり追いすがろうとするが、意識の薄れる体は思うように動かない。
 だた暗い意識の幕が、徐々に下りてくるだけだ。
 閉じる意識は混沌の眠りへと向かう。

 チクショウ。
 俺なんて、斬魄刀の―――斬月のオッサンの力を借りなきゃこんなもんなのか?
 俺一人の力じゃ、誰も護れねぇのか?
 暴れまわる男一人止めらんねぇし。
 目の前で襲われた仲間一人助けらんねぇのかよ。

 力が欲しい。
 誰にも負けない、スゲエ力なんかじゃなくていい。
 せめて、自分の目に映る人間を護れるだけの力が欲しい。

 願いも虚しく、昏睡に向かい意識が遠のく。 
 視界は霞み、睨む後姿は虚ろに映る。
 聴覚は遠退き、地を踏み鳴らす足音は遠くに聞こえる。

 ――――………ゃいねぇ…ぁ。

 だが、遠ざかる世界の音に反比例して、近づいてくる一つの声があった。

 ――――なっちゃいねぇなぁ。一護。

 自分の奥底から、自分を嘲笑うかのような声が響く。

 ――――そんなだからオマエはダメなのさ。

 イヤ、実際嘲笑ってやがる。コイツはッ。

 ――――オマエは戦い方ってもんを知らな過ぎるんだよ。

 うるせぇ、俺はオマエなんて呼んじゃいねえ。

 ――――足が使えねぇなら、使えねぇなりの戦い方ってモンがあるだろうが。

 うるせぇ、オマエは引っ込んでろ!

 ――――教えてやるよ一護。この俺が本当の戦い方ってモンをよぉ。

 うるせえッ―――!!

『ハァッハッハハハハッ!』

 地面にひれ伏した男が、突然甲高い笑い声を上げた。
 その笑い声が立ち去る魔人の足を止めた。
 耳障りだと、魔人は不愉快そうに顔を歪めた。

 五月蝿い。甲高い声はやたら頭に染みる。
 ただですら痛む頭の痛みが増幅する。
 ―――この音を、止めてやる。

 魔人の思考は固定された。
 風を超える速さで魔人が駆ける。
 五メートルほどの間合いは一瞬で消え去り。
 顔面目掛け流星の速さで踵が落ちる。

 その攻撃を、死神は倒立の動きでヒラリとかわした。

 顔面の代わりに踏み砕かれた地面が、瓦礫と化し辺りを舞い飛ぶ。
 瓦礫舞う中、死神と魔人の瞳が交錯する。
 いつの間に現れたのか、死神の顔端に小さな髑髏の面。

『ハッハッハッハッハッハァ!』

 何が楽しいのか、死神は声を上げ、白黒反転した瞳を歪ませ笑う。
 不快と痛みに顔を歪ます魔人は、舞い飛ぶ瓦礫を蹴散らしながら死神に迫る。
 倒立した死神はそのまま、両の腕で跳躍し迫撃をかわす。
 そして空中にて天地を反転。
 手を伸ばし頭上の木の枝にぶら下がる。
 飛びついた勢いは振り子の動きに変わり、その勢いを利用し死神が魔人に飛び掛る。
 一連のその動きは、もはや人の動きではない、獣のソレだ。

『ヒャッハァ――――――ッ!!』

 叫びを上げ、標的に向かい一直線に空中を舞う髑髏の死神。
 修正不可能な空中での移動。
 それは戦闘において格好の的となりうる。
 イラ立ちの頂点に達した魔人が撃墜の構えを取る。

『――――プッ!』

 小石が弾丸の勢いで、死神の口から吐き出された。
 眼球を狙って放たれた弾丸は目蓋を裂く。
 その一瞬の隙を突き、空中から重力と共に死神の肘が振り下ろされた。
 魔人の額に衝撃が突き刺さる。
 耐え切れず魔人はたららを踏み、その場に尻を付く。
 そして打たれた額から血が流れ、目を汚す。
 一方、舞い降りた死神は痛んだ足では着地もままならず、ゴロゴロと地面を転がる。
 その勢いを無理やりに両腕で止め、四つん這いに構え舌を舐めずる。やはりその姿は獣の様。

「今のオレに……近づくんじゃねえ…………ッ!」
 血を拭いながら、立ち上がった魔人は吐き出すように言葉を吐いた。

『やなこった。つれねぇ事言うなよ。
 遊ぼうぜ。ヒャハッハハハハッ!』
 遊ぶように、唄うように。
 楽しげに声を上げ、半面髑髏の死神が笑う。

 笑う髑髏の死神と痛みに喘ぐ魔人が対峙する。

 死神が被る髑髏の仮面。
 それは、辺りの霊圧を取り込み、徐々に肥大してゆく。
 その大きさは、もはや顔の半分を覆い隠そうとしていた。





【茨城県中部の森/午後~夕方】

【浦飯幽助@幽遊白書】
 [状態]魔族化、全身激痛、額から流血
 [装備]無し
 [道具]荷物一式
 [思考]目の前の二人に対処する

【黒崎一護@BLEACH】
 [状態]虚化、両膝破壊 (名簿に写真がないため、メガネ藍染かオールバック藍染かは知らない)
 [装備]髑髏の仮面(半面)、シャハルの鏡@ダイの大冒険
 [道具]支給品一式
 [思考]1.目の前の男を殺す。
    2.一護に戦い方を教えてやる。

【いちご100%@真中淳平】
 [状態]気絶、顔にダメージ大、手首捻挫
 [装備]無し
 [道具]無し
 [思考]1.苺を助ける。
    2.知り合いとの合流
    3.東京を目指す


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最終更新:2024年04月05日 10:14