0285:なぜ藍染惣右介の名前が呼ばれなかったのか?
第三放送、その内容に静かに耳を傾ける男が一人。
「…………」
場所は大阪、たこ焼き屋の倉庫。傍らには安らかに寝息を立てる少女が一人。
「…………」
無言。
その放送の中に、呼ばれるであろうと予想していた名前が出てこなくても、彼は無言だった。
(死んだのはキルア君に……あの旅禍の少年か)
放送から数分経って、頭の中を整理しだす。
新たに死んだ者の中には、彼が知る名前もあった。だが、それによる悲しみを感じることはない。
もとより、誰が死のうと彼には関係ないことなのだから。
しかし、あまり有能な――彼の考える意味では、役立つ能力を持つ――参加者が死なれては困る。
彼がまだこんなゲームに参加している意味がなくなってしまうからだ。
ルーラの使い手はまだ生き残っているだろうか?
キメラの翼やデスノートはまだ健在だろうか?
どれも確実に存在しているとは言い切れないが、ないと決め付けてしまえば、それこそこのゲームの魅力が薄れてしまう。
と、ここまでは今考えるべきことではない。
他の参加者の生死など、今の彼にとってはさして重要ではない。
機関車と残されたデイパックに関する情報も、今はどうでもいい。
今問題なのは、放送で告げられた名前の中に『
藍染惣右介』の名前がなかったこと。
(なぜ……私の名前が呼ばれなかった?)
考察してみる。
なぜ、彼の名前が呼ばれなかったのか。
彼は生きているが、第三放送では彼の名前が呼ばれるはずだった。
『鏡花水月』の完全催眠を発動したはずなのだから。
放送が告げた現実に心を動揺させることなく、冷静に考えうる答えをまとめる。
<問>なぜ『藍染惣右介』の名前は呼ばれなかったのか?
《仮説1》『鏡花水月』の完全催眠が主催者に効かなかった。
《仮説2》主催者による監視はされておらず、『鏡花水月』の効果が及ばなかった。
《仮説3》『鏡花水月』の完全催眠は効いたが、放送の時には既に効果が切れていた。
《仮説1》について。
(これは最もありえない回答だ……東仙君のように盲目であるならともかく、あの部屋で見た主催者たちの眼は皆開いていた。
あの者たちにより監視が行われていたというのなら、確実に私の『鏡花水月』を目にしたはず。
そうなれば完全催眠にかかるのは逃れられない。何者であろうと、決して)
《仮説2》について。
(この回答が正解だというのならそれはそれでいいのだが……この結論に至るには聊かデータ不足だ。
それにまだ盗聴の有無も確かめていない。この回答は保留だな)
《仮説3》について。
(最も厄介なのが、これか。この世界ではちょっとした鬼道を使うだけでも、多量の力を消費する。
『鏡花水月』発動にもかなりの力を使った。だが
太公望に完全催眠が効いたのは確実だ。
そこからわかるのは、『鏡花水月』の完全催眠は参加者に対しては通常の効果を発揮しているということ)
彼が次に考えるのは、この世界に科せられた能力の制限について。
(この世界における制限が、力の消費量の増大の他にもあるというのなら……それは間違いなく能力の劣化だ。
例えば私の『鏡花水月』――これがもし、この世界の制限により、効力が劣化しているとすれば?)
- 『鏡花水月』の効力低下におけるいくつかのパターン。
《A》能力発動における消費する力の増加。
《B》一定以上の力量を持つ参加者、もしくは主催者には完全催眠が効かない。
《C》本来なら半永久的に持続されるはずの完全催眠に、効果持続の時間制限がつけられている。
《D》効果範囲の縮小。
これらについて考えてみよう。
(《A》はほぼ間違いないとして、問題は《B》だ。
仮に主催者が私以上の力を持つ者として、その力関係により完全催眠が効かなくなっているように細工されていたとしたら?
本来の『鏡花水月』ならば、そんなものは関係なしに誰にでも効果は等しく発揮される。
まあ中には卯ノ花君みたいな例外もいるが……彼女とて死体検査のために『鏡花水月』に触れて、初めて違和感を感じた程度だ。
いくらこの世界に制限がかけられているとはいえ、私の『鏡花水月』にそのような制限をかけることが可能だろうか?)
《B》の可能性、限りなく低し。
(《C》も考え難いが……《B》に比べればよっぽど可能性がある。
もし効果が一時的なものに縮小されているのだとしたら、太公望も既に私の生存には気づいているだろう。
これについては余裕があれば検証してみることが可能だが……力が回復するまでは無理だな)
《C》の可能性、考えられなくもなし。
(《D》は……ある条件を考えれば、考えられなくもない。
主催者が監視を行っていると仮定して――どんな形でかはわからないが、たとえカメラ越しであっても、完全催眠の効果は顕在だ。
どこか遠くから監視していたとしても、距離で完全催眠から逃れられるとは思えない。
それに、もし制限をつけるなら《C》のほうがよっぽど効果的だ)
《D》の可能性、限りなく低し。ただし……
(もし主催者がカメラのようなもので監視をしていたとして、そのカメラが特殊なものだとしたら?
例えば、『映した映像から送られてくる完全催眠の効果を遮断するような能力』を持ったレンズが組まれたカメラなら、それも可能だろう。
そんなものが本当にあるかどうかわからないが……この世界の支給品の数々を考えれば、存在していてもおかしくはない。
どこへでも自由に移動できるキメラの翼……名前を書いただけで人を殺せるデスノート……
『鏡花水月』の効果を無効化する代物など、一部の世界ではありふれているのかもしれないな)
- 『藍染惣右介』の名前が呼ばれなかった理由として考えられる答えを、まとめてみよう。
《解1》『鏡花水月』の効力劣化により、強大な力を持つ主催者には効かなかった。
《解2》『鏡花水月』の効力劣化により、一度は効いた完全催眠が、放送の時には効果が切れていた。
《解3》自分の知らない監視方法、または監視道具で、完全催眠の効果を遮断した。
《解4》端から監視などされていなかった。
《解1》…………10パーセント
《解2》…………30パーセント
《解3》…………40パーセント
《解4》…………20パーセント
(見立てではこんなところか……
《解4》が正解ならば一気に問題が片付くのだが、やはり主催者が監視しているという可能性は捨てきれないな)
- 《解3》が一番可能性が高いと考えられることについて。
(彼女…弥君といったか。彼女の持つ『死神の眼』は、『対象の名前』と『対象の寿命』が一見しただけでわかる代物だ。
だが、この世界では『対象の名前』のみが見え、『対象の寿命』は見えなかったという。それはなぜだ?
この世界の制限によるものなのは間違いないとして、なぜ『対象の寿命』を見えなくする必要がある?
寿命はあくまで寿命であって、このいつ死んでもおかしくない殺し合いの舞台では、まるで意味を成さないもの。
そんなものを制限してなんの意味がある?)
制限するならむしろ名前の方……彼の考察は夜と共に深くなっていく。
(これもあくまで仮定だが……主催者は意図して能力制限をかけているわけではないのかもしれない。
単に能力制限がかかる舞台を作っただけで、そこで科せられる制限の内容までは深く決められないのだとしたら?
もしそうでないのだとしたら、自分たちに完全催眠の効力が及ぶことを考え、『鏡花水月』の効力を《解1》や《解2》のように制限したかもしれない。
だが彼女の『死神の眼』のことを考えれば、どうしても満足に制限をかけられているとは思えない。)
そもそも能力に制限をかける理由とはなんなのか。
それには、自分たちに被害が及ぶことを抑える意味と、実力を最低限均衡させ殺し合いをスムーズに進めるという意味が読み取れる。
(ならば、寿命判別など制限にかけるに値しない能力だ。主催者が能力を思うように制限できていないことにも繋がる。
私の『鏡花水月』が主催者の望むように制限されている可能性も薄れる。
だったら、何か私の知らないような別世界の技術で完全催眠を防いでいるという《解3》が一番答えとして妥当だ。
もっとも、それだと『鏡花水月』で主催者に対処できなくなってしまうのだが)
本当は、たとえ別世界の技術であったとしても『鏡花水月』の完全催眠を防ぐなど考えにくい。
しかし『名前を書いただけで人を殺せるノート』のように、別世界には彼が考えもつかないような代物が存在するのもまた事実。
それを踏まえたうえで、慎重に弾き出したのが《解3》の答えだ。
だがそれでも、可能性としては40パーセント。《解2》や《解4》の答えも十分に考えられる。
確実な答えに至るには、まだデータが不足しているのだ。
そして、そのデータを入手するため、彼が思い浮かべるのは一人の少年。
(そう……例えばあの少年。ゲームの初めに主催者に飛び掛かっていった様子を見ると、彼と主催者は敵対していると考えられる。
即ち、住む世界が同じということだ。彼のような存在なら、あるいは知っているかもしれない。
《解3》を立証できるような方法や道具が、その世界に存在しているのかを)
また、先に述べたとおり《解2》については簡単に検証する方法がある。
(もし時間制限がついているのだとしたら……試しに誰かに完全催眠をかけ、効果がどれほどまで持続するか観察してみればいい。
簡単なところで、弥君でもいいな。彼女なら簡単に協力してくれそうだ。だが、この実験をするにはまず力を回復させてからだ)
答えが《解1》の場合、彼に対処法はなくなる。
『鏡花水月』の効力の高さ、『死神の眼』に科せられたおかしな制限を考えれば、かなりこの可能性は低くなるので、まず考える必要はないだろう。
答えが《解4》の場合、問題は何一つなくなる。
彼の計画も容易に進められるが、やはりこれも可能性が低い。《解2》と《解3》の可能性が両方とも潰れれば、この可能性も出てくるが。
以上二つは、今は考えなくてもいいだろう。
彼が今やるべきことは二つ。
- 『鏡花水月』の効果持続時間に制限がかかっているかを検証するため、回復に努める。(《解2のため》)
- 完全催眠を無効化できるような監視方法、監視道具があるかを確かめる。(《解3のため》)
「……やるべきことは、決まったな」
今は、休む。
体力回復に努め、満足に『鏡花水月』が使える状態にするため。
主催者を知る少年との接触は、それからだ。
場合によっては、計画を遅らせることも視野に入れるべきかもしれない。
ちょうど夜も更けていく。
徹底休息を取ることに決めた彼は、たこ焼き屋の倉庫の内から、厳重に鍵をかける。
彼女のような迷い猫が入り込まないように。
(放送を聞き逃すわけにもいかないからな……睡眠を取れて四時間程度か)
目覚まし時計などなかったが、深い眠りに落ちなければ寝過ごすようなことはしないだろう。
なんせ、そのときになれば放送は自然と頭に響いてくるのだから。
決して気を緩めず、彼――藍染惣右介は瞼を閉じる。
死神と死神の眼を持つ者。
二人の参加者は、たこ焼き屋の倉庫の中というおおよそ休息を取るには相応しくない場所で、静かに眠りに落ちていった。
【大阪府市街地(たこ焼き屋、食材倉庫)/1日目・夜】
【藍染惣右介@BLEACH】
[状態]:仮眠中、骨のダメージはほぼ完治、中度の疲労、MP5%程度(戦闘ほぼ不能・盤古幡使用不可)
[装備]:雪走@ONE PIECE、斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金
[道具]:荷物一式二個(一つは食料二人分 1/8消費)、盤古幡@封神演技、首輪×2
[思考]:1、しばらく体力回復に努める。
2、主催者と同じ世界に存在する者から、完全催眠を防げるような監視方法または監視道具があるか聞きだす。
(現在確認できている参加者はダイのみ)
3、『鏡花水月』の効果持続時間に制限がかけられているか、他の参加者を使って実験してみる。
(対象候補として弥海砂を考えている)
4、琵琶湖へ向かう。
5、出会った者の支給品を手に入れる。断れば殺害。特にキメラの翼、ルーラの使い手、デスノートを求めている。
6、計画の実行。
備考:大蛇丸が持っていた荷物のうち2つは、
二人が同士討ちになった、と後に来た参加者に思わせるために現場に残してあります。
主催者に能力が通じたかどうかは不明。 ただ藍染はほぼ確信しています。ミサには雪走、斬魄刀以外の道具(特に首輪)は秘密。
脱出方法における人数の限界をミサに騙ったのは、自分の真意を知るものに接触させず確実にモルモットにするためです。
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]中度の疲労、睡眠中
[装備]なし
[道具]荷物一式
[思考]1:藍染と別れた後夜神月と合流し、藍染の事を伝え、共に脱出する。
2:夜神月の望むように行動
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最終更新:2024年06月23日 18:35