0264: 十   ◆Ksf.g7hkYU




巨躯の男がゆったりとした足取りで、しかし集中力を途切れさすことなく歩いていた。
黒い和服を身に纏うその姿、江田島平八である。

真中淳平黒崎一護から周辺に怪我人などがいないか確認してくれと切に言われ、
その他人を気遣う男意気や良し!と承諾して早数時間。しかし人の気配は一向になかった。

千葉の住宅街、家の中に怪我人が隠れているやもしれぬ。一つ一つ覗き込むが、誰もいない。
縮小された日本であるため家の数は大して多くもなかったが、彼はその全てを虱潰しに覗き込んでいく。
「誰かおらんかー!」
江田島のような男が大声で叫べば、たとえ誰かがいたとしても隠れてしまうに違いない。
しかし彼にその考えがないのも当然といえば当然であった。
江田島平八は男塾塾長、逃げも隠れもしない漢の中の漢である。

そしてこの間二度目の放送が。
「14人の若人の命が奪われたとは実にけしからん!」
読み上げられた死者が全員江田島より年下であるとは限らないが、こういった発言が実によく似合う。
真中、一護の二人のような、未来を負うべき若者の命が消えていったという事実を思うだけで、
彼の教育人としての、否、漢としての感情が大きく揺さぶられた。
「富樫、雷電、わしはお前たちを信じておるぞ」
『仲間』が以前の『仲間』とは違うかもしれない、そんなフリーザの言葉には微塵も動じず、塾生たちの武運を祈る。
第二放送の前後、富樫は徳島にて竜吉公主のための香を探しており、江田島の期待に背かぬ意志のもと行動をしていた。

その後、富樫が江田島に希望を託し死んだことを、このときの彼が知る由もない。

(ふむ、ここには誰もおらんようだな。あの二人のもとへ帰るか)
真中と一護の両氏と別れた場所へ、スピードは変えず堂々と足を戻す。
両腕を袖の下で組みながら、その威厳を辺りに撒き散らすかのように。

しかし。
「何故おらん!」
埼玉から千葉にかけてを細かく調べ、江田島が元の場所に戻ってきた頃、あるべき場所に二人の姿はなかった。
真中たちは『周辺』を調べてくれるよう江田島に言ったのであり、
まさか千葉を一周、しかもあそこまで周到に調べてくるとは思いも寄らなかったのだ。
しかしそこは漢・江田島平八。彼にとっての『周辺』とは千葉まででもまだ狭い。
そして流れる時間も常人より遥かに雄大(悪く言うと緩慢)なのである。
一時埼玉・東京・千葉の県境にいた彼らと会うこともできず、不運にもすれ違ってしまった江田島は、しばし思案に暮れた後再び歩き始めた。




何となくむず痒さを覚えて立ち止まる。

「わしが男塾塾長、江田島平八であーる!!」

何時間も出さずにいた決まり文句を吐けて、すっきり。
周りに敵がいるかもしれぬと危惧することのないその度胸や良し!どこからかそんな声が聞こえた気がした。

実はこの大声でアミバが覚醒したということを、江田島は未だ知らずにいる。
アミバもまた、自分を起こしたのが憎き江田島の大声だとは気付きもしなかったが。





タタタッ、雷電はその軽身を翻しながら駆けてゆく。入り組んだ東京の街を見下ろし、ビルとビルの間を飛び越えて。
常人には不可能なこの行為も、男塾三面拳随一の体術を持つ彼には造作もないことであった。
(シカマル殿・・・!)
風に揺れる、紐のほどけた中華服。
確証のない不安ではあったが、古今東西数々の知識を持つ雷電にとって、その不安は曖昧なものではないように思われた。
このとき、短い時間を共に過ごしたシカマルだけでなく、男塾の仲間・富樫源次までもがその身を呈して戦いに挑み、命を落としている。
彼の不安は紛れもない現実だ。
「むぅ!?」
しかし、ここで彼にも思いも寄らぬ奇跡が起こる。

着地したとあるマンションの屋上、
凹凸のある壁に手を付いた際、擦れて出血した親指が描いた一つの形。

「こ、これは・・・」


 “ 十 ”

中国・秦の時代、始皇帝の迫害を受けた儒学者たちは、元いた場所からの逃亡を余儀なくされる。今まで
交流のあった儒学者仲間とも離れねばならず、彼らは大いに嘆き悲しみ合った。彼らは別れる際、互いに
『─』と『│』を交差させたものを竹板に書き、交換したという。「今は離れても、互いの道は必ず交わる」、
このような思いがそこには込められていた。
このことより、『十』という形は、遠く離れた者たちが再度交わるという意を持ち、現代でも吉兆の形として
家の門などに飾られている。なお、十字路で接触事故が多いのは、互いの道があまりに交わり過ぎた為
と考えられる。

 民明書房刊『中国吉兆紋章辞典』より


自らの血が描いたその形に少し見入ると、雷電はふとマンションの下を覗き込んだ。
そこにあるのはあまりによく知る和服姿。


「塾長!!!」
何事にも動じぬ拳法使いの雷電ではあったが、このときばかりは心臓の高鳴りを抑えきれない。




「わしが男塾塾長、江田島平八である!!その声、雷電か!?」

確かな再会がそこに。
大声に痺れるこの感触が、あまりに懐かしかった。





【東京都(千葉県の県境付近)/夕方】

【江田島平八@魁!!男塾】
状態:健康
装備:無し
道具:荷物一式・支給品不明
思考:1、「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!」
     (雷電と合流する)
   2、「日本男児の生き様は色無し恋無し情けあり」
     (真中淳平と黒崎一護を探す)

【雷電@魁!!男塾】
状態:健康
装備:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂
思考:1、江田島平八塾長と合流する
   2、シカマルを探す
   3、知り合い(シカマルの知り合い含む)との合流


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0260:(無題) 雷電 0288:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険
0186:裁断・祭壇 江田島平八 0288:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険

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最終更新:2024年05月03日 11:04