0265:日伊ゴロツキ対決!!ギャングvsヤンキー





鬱蒼とした林の中に降りた陰。
サラリとさせた髪を襟元で切り揃えた一人の男。ブローノ・ブチャラティ
木の葉擦れの音にさえ気を遣りながら一時の休息を取る。微かに聞こえる鳥の声。獣の息遣い。
シューッ――紛れて消える"ジッパー"を閉じる音。同時に走る痛みには、眉を僅かに顰めただけだった。
男を包み込む独特のファッション。肩口、袖口、身体の彼方此方に備え付けられた数々のジッパー。
然しながら、この瞬間男が閉じたのは服を飾るためのジッパーでは"なかった"。
――"開いた傷口を閉じる為のジッパー"
ブチャラティの精神のヴィジョン、"スティッキー・フィンガーズ"。
異形のペルソナを持つ彼の分身(スタンド)の拳に触れた物には、自由自在にジッパーを取り付けることが出来る。
ブチャラティに与えられた能力。矢でこの身を貫いたときから。目覚めた能力。
スタンドの拳が身体に触れ、傷口を塞ぐごとに、衣装だけでなく、身体にまで目に見えるジッパーが増えていく。
そう、目に見える――傷口の応急処置を終えたブチャラティは、小さく、小さく呟いた。

「ガラには俺のスタンドが"見えていた"。
 ヤツは優れた暗殺者ではあるが、スタンド使いでは"ない"。
 理由は今の段階では分からないが、けれども、俺の知っているものとは"細かな部分で違っている"。
 ――スタンドの"ルール"」

本来ならば、スタンド使いでなければ、スタンドを見る事も不可能だ。けれど、この場所では、其のルールが適用されぬ。
傷口を閉じたジッパーも、"或いは他人からも見えるかもしれない"――見た目の不自然は、怪しまれる原因となる。
万全には万全を期し、傷口は服で隠し、其れでも隠せぬ傷の上には布を巻いた。
全ての準備が整ったのを確認し、立ち上がろうとする。
松島の海辺を抜け、南に向かった先に現れた小さな林は、神秘的な静けさに包まれていた。

――唯、一点、眼前に立ち塞がる少年の姿を除いては。

「ブローノ・ブチャラティだな。ちょっとツラ貸して貰うぜ」

紺の学ランを肩に載せた、長身の少年。開いた腹元には、ぎっちりとさらしが巻き付けられている。
肩口に乱暴に抱えあげただけの、長い長い日本刀――その日本刀に、ブチャラティは、見覚えがあった。
掌を顔の高さに広げて、微かに鼻を鳴らす。腰さえも持ち上げずに座ったまま。
顔の端々に余裕さえ覗かせて、静かに少年を睨み返した。

「ツラ、ね。随分と、遠まわしな言い方をする。ジャパニーズ・ヤクザの"ギリとニンジョー"か?
 何にしろ"オレ達"ならそういう事は言わない。唯、任務を遂行する」

さらしに日本刀。現れた少年に、ブチャラティは遠く噂に聞く日本の"ヤクザ"の印象を得た。
対して自分は、胸に情熱を抱くイタリアン・ギャング。どちらも無頼者であることには、変わりなかった。
視線を交わした二者の間に緊張が走る。
言葉を一方的に投げかけるブチャラティに対して、般若の如き表情を固めた少年――桑原和馬の返答は、無かった。
握り締める刀は斬魄刀。今となっては仲間の、無念を抱いて死んだガラの唯一の形見。掌に力と熱が、篭る。

「アンタ、相当に"怖い顔"をしているぜ?――強い怒りを感じる。何をしに来たとは"聞けない"な。
 まあ、"職業柄"、そういう目をした輩に付け狙われるのは、"仕事の一環"ではあるんだがね」

「一つだけ確認しとくぜ」

沈黙を保っていた桑原が口を開く。依然としてブチャラティの言葉には、答えない。
桑原和馬にとって、ブチャラティは完全なる殺人者。霊視による確証もある。言葉を交わす必要は本来皆無。
けれど、だからこその最終確認だ。
静かに燃える憤怒の引き金を、全てを破壊する復讐の留め金を、相手の言葉で解き放つために。

「ブチャラティ。ガラを殺したのは、アンタだな」

ギャングにとっては予測された名前。少年の抱える白刃を見た瞬間に連想された男の名前。
頷く必要はなかった。知らぬ振りを通す道もあったろう。余計な争いを、諍いは避けて走るのが賢者の道。
けれど、ブチャラティは賢者ではなかった――情熱を秘めたイタリアン・ギャング。
自らの罪を否定することは、"誇り高く散って行った男の魂"を侮辱することになる。故に、短く、答えた。

「ああ。俺だ。否定はしない」

肯定の言葉が、戦闘開始の合図。




「スティッキー・フィンガーズ!!!!」
力任せに振るわれた斬魄刀の一撃――ギャングを真一文字に両断する筈だった、必殺の一撃は、
突如虚空から現れた異形の戦士の拳に撃ち払われ、予想だにしなかった軌道を描く。
途端――ドグッ!
僅かに上体を崩し、開いた腹に向けてブチャラティ本体が放った前蹴りを受けて、吹き飛ばされる桑原の身体。
けれど、所詮人間の前蹴り。霊力を腹に纏えば耐えれる程度の攻撃だ。長身を屈めた姿勢のまま、ギャングを睨み付け叫んだ。


「ちッ。御仲間かよ……喧嘩はタイマンが華、ってェのもガイジンにゃあ理解できねェ精神なのかね!
 つくづく貴様みてえな姑息な野郎に殺られたガラが浮かばれねェぜ!!」


ブチャラティを守るように立ち塞がる異形の戦士――
瞳もなく何処か機械的な"スタンド"の立ち姿は、桑原和馬が良く知る妖怪の其れとも、また異なっていた。
感じるのは霊力のようで、霊力とは異なる何か。理解したのはあの戦士の恐るべき怪力と速度。
人間レベルの動体視力しか持たぬ桑原がスティッキー・フィンガーズの拳を回避出来たのは、
類稀なる霊感と、失われたスタンドの腕のためだった。あの高速の拳を連続で撃たれれば、回避しきるのは――不可能。
ブチャラティとスティッキー・フィンガーズは並ぶように立ち、地に伏せ掛けた桑原を見下ろした。


「文句と愚痴を聞くだけで良いのならば、早く済ませろ。オレはとても"忙しい"が、ちょっぴりの"慈悲はある"。
 そのまま立ち上がらなければ、傍を通り抜けさせて貰う。ガラとは違って、"殺す必要のない男"だからな」
「野郎ぉッ!」

挑発の言葉に頭に血を上らせ、ブチャラティに、"スタンド"に向かって突進する。
横から薙ぐように切り払った斬魄刀も然し、直線的過ぎる軌道――的確に打ち出されたスタンドの拳が、先程の光景を再現する。
斬魄刀の軌道を脇に逸らし、直後にブチャラティの脚が、容赦なく腹を蹴り上げる。先程と同じ箇所、桑原は苦痛に顔を歪め――

「ぐぼ……あ……


 ……なんて、なァァ!」

苦しむ素振りを見せたのも束の間、舌を出しながら眼前のブチャラティを睨む。
斬魄刀が逸らされるのは予想された事態。ブチャラティは知るまい。自分の武器が、目に見える日本刀の他に、在る事を!
空手の筈の左掌に、意識を集中させれば生みだされる、霊気の刃――


「油断したな、ブチャラティ!伸びろ、霊剣ッッ!」
「…………!?」

言葉と同時、ブチャラティの身体に向けて金色の刃が伸びる!霊気を練って作り出す桑原の必殺の刃、霊剣!
密接したこの至近距離、如何に高速の"拳"を持っていようとも、避ける事は不可能。
衝き伸ばされた殺意の刃は、コンマ以下の刹那の間に、ギャングの身体に到達し、そのまま――


ざ ぐん!


                             ブチャラティの上半身と下半身を、真っ二つに引き裂いた。


――――ジジジジジジ

「な………んだとぉぉぅ!?」
目前で生じた事態を目にしては、流石の桑原和馬も声を荒げずにはいられなかった。
走る剣閃はギャングの身体を分断し、確実な死を与えた筈だった。
けれど、ならば今目の前で起こっている異様な現実は如何に説明するのが望ましい?


殺した筈のブチャラティは"生きていて"、何時の間にか自分の両手首から先が、"斬り落とされていた" 。



そもそもが最初からおかしかった。両断したのに鮮血は飛び散らなかった。切断したのに悲鳴は上がらなかった。
――何より、其の切れ目。
不可思議な、銀色めいた、生き物の歯のような、金属の連なりが、切断面に沿うように並んでいる。

「"ジッパー"で身体に切れ目を"入れておいた"
 貴様の武器……"日本刀"は片腕で扱うようには、作られていない。あのガラでさえ"両手で扱っていた"からな。
 逆の手に何かあると"思っていた"」

――――ジジジジジジ

ブチャラティの声、ジッパーの閉じる音。
下半身から切り離した筈のギャングの上半身は、静かに、けれど確実に元の人間の形に繋ぎ合わされていく。
桑原の失われた腕にも、ジッパー。真下に視線を流せば、剣を握ったまま転がる腕にもジッパー。
狐に抓まれたような釈然としない気持ちを払い除けるように、桑原は叫び声を上げた。

「うおおおおおおお……ッ!
 貴様、ブチャラティぃ!俺の身体に、一体全体何をしやがったぁッ!?」
「手癖の悪い腕には少し、"黙って貰った"だけさ。
 素直にオレの質問に答えれば、身体は元に戻してやる」

澄ました顔で要求を突きつけるブチャラティの腹を蹴りつけようと、桑原が乱暴に脚を振り上げる。

ドゴゥ!

然し、桑原の攻撃はギャングに到達することはなかった。
ボディーガードのように傍に控えたスタンドの拳を合わせられれば、桑原の視界はぐらりと歪む――
「な……」

たった"其れだけ"で、桑原の足は身体を支えることは出来なくなった。"ジッパー"が膝から腿にかけて走っていた。
完全に地面に膝を突く姿勢になった桑原を見下ろし、ギャングの声が響く。


「貴様のために言っておくが、これ以上は抵抗するな。"ジッパー"でバラバラになりたくなければな……

 聞きたいのは"仲間"のことだ。
 仲間の能力、構成、ゲームに乗っている人間かどうか、支給武器――全て答えて貰う」


――――ジジジジジジ

武器は奪われ、立つことも叶わない。完全なる敗北、其れでも"仲間"のことを話すわけにはいかなかった。
桑原の心中を知ってか知らずか、ブチャラティは言葉を続けた。
振るわれるスティッキーフィンガーズの拳と共に、桑原に刻まれるジッパーの数が、徐々に増えていく。



「答えろよ。

 "質問"は既に、"拷問"に変わっているんだぜ」





【福島県北/午後】

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:ガラの右腕をジッパーで固定(スタンドの右腕は復旧不能)
     全身に無数の裂傷(とりあえずジッパーで応急処置。致命傷ではないがかなりの重症)
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
 [思考]1:『主催者』は必ず倒す。そのために『仲間』を集め、『首輪』の解除方法も見つける。
    2:死者の分まで『生きる覚悟』『も』決めた。
    3:桑原和馬に『質問』する。可能ならば、殺害する必要はないと考えている。

【桑原和真@幽遊白書】
 [状態]:"ジッパー"により両腕手首から先・右足膝から下が分断
     身体に数々のジッパーをつけられている、怒りと悲しみ
 [装備]:斬魄刀(腕と一緒に転がっている)@BLEACH
 [道具]:荷物一式
 [思考]1:怒りに燃えている。ガラの仇をとる。
    2:ピッコロを倒す仲間を集める。浦飯と飛影を優先。
    3:ゲームを脱出する。
    4:死んでも仲間のことは喋らない。

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172:ブチャラティvsガラ 後編 ブローノ・ブチャラティ 269:眠れる奴隷達
253:Black color stomach ~ encounter ~ 桑原和真 269:眠れる奴隷達

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最終更新:2024年04月19日 11:31